2019年10月1日火曜日

映画 「菩提樹」

1988年 日本。






「似合ってますぞ、中原麻美選手!」


医大に合格して、晴れて新しいスーツに身を包んだ『中原麻美』(南野陽子)を、『葛城柊子』(松原千明)は、半分茶化しながらも、感慨深く腕組みしながらジロジロ見ていた。


「ありがとう、これも葛城さんや『オジサマ』のお蔭です」

麻美は素直な気持ちで、そう感謝した。





子供の頃、両親を事故で亡くし、身寄りのない自分の後見人となって、生活費から学費から、全てを援助してくれた『オジサマ』。


葛城柊子は、後見人の『オジサマ』の代理人として、麻美の面倒をこれまでみてきたのだ。



「でも、葛城さん、ここまでしてくださる『オジサマ』っていったい………」


麻美が疑問を投げかけると、柊子の表情が途端に厳しいものに変わった。



「それを聞けば、麻美、あなたの援助は全て打ち切られるのよ。それでもいいの? あなたの夢は、亡くなったご両親のように医者になる事でしょう? 今はその事だけを考えて大学を無事に卒業しなさい!」


柊子の有無を言わせぬ言葉に、麻美は黙りこんだ。





そう……『オジサマ』の事は、決して聞かないと約束するのが、援助してくれる条件。


麻美も無理矢理、この問題を頭の隅に追いやった。

(今日から医大生、絶対に父のような立派な医者になってみせるんだから……)






柊子の車で送られてきて、意気揚々と大学の入学式にやってきた麻美。

だが、入り口の所で、ある男とぶつかってしまう。


男の荷物が散らばり、

「スイマセン、ごめんなさい」と拾い上げる麻美は、足下に散らばった口紅?を見つけた。


「あの~これ……」

男はムスッとした顔で、「俺んじゃねぇよ」と言うとさっさと行ってしまった。


(何あれ?感じ悪い)


だが、その男『森次駿』(竹本孝之)は、麻美と同じ医大の1年生で同級生。

サラリーマンをしていた森次は、一念発起して、医大を受験して合格したという変わり者だった。(なぜか無償で援助してくれるパトロンの女性がいる。口紅もその人の物)




しかも麻美が選んだ早坂教授のゼミで、一緒になってしまう。




他にも、

お調子者の『島田二郎』(ザ・お調子者といえば柳沢慎吾)、

家が代々医者の家系で、医師免許だけをとるために医大に来たお嬢様の『杉本せりあ』(藤代美奈子)、

メガネっ子の勉学少女『瀬川富子』(比企理恵)

なんていう個性的なメンバーたち。




そんなメンバーが揃う教室に、ひとりの男が現れて自己紹介した。


「このゼミを担当する早坂です。これから皆さんを指導していきます。しっかりした医学の知識や技術を身に付けて、立派な医者を目指してください。私のゼミはハードです。根を上げずについてくるように!」


言葉の厳しさとは裏腹に、壇上の『早坂翼』(神田正輝)の毅然さに、目がトロ~ンの麻美。



(この素敵な先生の元で、これから勉強していくのね………)

まさに恋しちゃった様子の麻美である。


そんな麻美の様子が気になる森次なのだが……






同じタイトルで西ドイツの映画、『菩提樹』があるが、これは南野陽子の方。


原作は、『はいからさんが通る』の漫画家、大和和紀。




この頃、南野陽子にハマっていたミーハーな自分は、『スケバン刑事』を観に行って、もちろん『はいからさんが通る』も劇場まで観に行きましたよ。

主題歌の『はいからさんが通る』もノリの良い曲でヒットしていたし。





ただ、映画の出来は…………

ガックリ。





ひいき目に見ても、「何じゃこりゃ?!」の仕上がり具合でした。

デビューしたばかりの阿部寛が、まるで学芸会レベルの芝居。(台詞棒読み)

脚本も演出もダメダメで、そもそも、この漫画自体を90分にまとめる事が、まず無理な話。



原作では、ロシア女性ラリサと、記憶を失って日本に帰ってきた伊集院忍が、ヒロイン花村紅緒に再会して、それぞれ葛藤がありながらも、関東大震災の出来事の中で、再び結ばれるのだけど………。



映画は結婚式の教会で地震があって、紅緒(南野陽子)が花嫁衣装のまま、森の野っ原に出てみれば、忍(阿部寛)が待っていて、二人抱き合って、ジ・エンド。





エンド・クレジットとともに、あの主題歌が流れる。


いくら、アイドル映画でも「これはないでしょう?!」って感じだった。






こんな前作にガッカリしているところへ、またもや同じ大和和紀原作で、3作目の映画『菩提樹』である。


『はいからさんが通る』よりもマイナーな原作だが、なぜか大和和紀の漫画をそれまでに殆ど読んでいた自分。

もちろん映画になる前から内容は知っていた。



(これを今度はやるの?……)


一抹の不安もあったが、とりあえずは劇場に観に行く高校生の自分。


やはり、前作の出来がこたえたのか……映画館はチラホラ観客がいるだけだった。






そして、観た感想なのだが、…………


「あれれ?なかなか映画として、まとまっているじゃないか」だった。


南野陽子も、ちゃんと等身大の女性を演じているし、相手役の竹本孝之がちゃんと演技してるし。(前作の阿部寛とは格段の違い)



物語は、

『あしながおじさん』とは誰なのか?と、

事故で死んだ両親の謎が、縦糸になって進んでいく。(勘のいい人なら直ぐ様分かるだろうが)

そのうち、残酷な真実を知ってしまった麻美は、自暴自棄になりながらも、苦しみもがきながら、周りに支えられて、もう1度、医学を目指すのである。

そんな成長を映画は淡々と描いている。





でも、この映画が公開された時、南野陽子は、まだまだ絶頂期のアイドル。

アイドルらしからぬ、この映画にフアンは、「?」だったんじゃないだろうか。




南野陽子が、アイドルから脱皮しようとして、この映画で懸命に演技しようとすればするほど、なぜかフアンとの間に距離感が広がっていった感じがしたものである。




この頃から分かりはじめた事……

南野陽子って、根が真面目すぎるくらい真面目で、とことん無器用な人なんだなぁ~、って事。



ノホホ~ンとしていて、どこか笑われるような、おかしみを醸し出す斉藤由貴は、のらりくらりと芸能界を渡っていったが、南野陽子が、ここまで芸能界に残る事は、本当に大変だったと思う。





この映画「菩提樹」もたまに観たいなぁ~と思うのだが、残念!DVD化されておりません。


観れないと思うと、記憶のどこかで美化されてしまうが、映画は南野陽子のターニング・ポイントになったエポック的な作品として、星☆☆☆をつけておきたいと思う。


でも、今でもフアンでありまする。