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2025年12月4日木曜日

ドラマ 「とし子さん」

 1966年4月〜10月。(全13話)





名優・樹木希林が、最初、『悠木千帆』という芸名だったのを知っている人って、今どれくらい残っているのかしらん?(もちろん、どちらも芸名である。本名は内田啓子(けいこ)。内田裕也と結婚して、最後の最後まで離婚に応じなかったんですもんね)


本人、『内田啓子』の名前には強いこだわりがあっても、『悠木千帆』の名には、ひと欠片の愛情もなかったみたい。


あっさり、テレビ番組で『悠木千帆』の芸名をオークションに出し、高値がつくと、ソレを売ってしまったのだった!(本人いわく「売るモノが何もなかった」からなのだそうで)


周りはあたふた大慌てでも、本人はケロリとした様子。


私の記憶が確かなら『寺内貫太郎一家』の頃までは悠木千帆を名乗っていて、郷ひろみ共演の『ムー』では樹木希林になってたはず。(その間に芸名を変えたってことか)


お化けのロック』や『林檎殺人事件』を大ヒットさせて郷ひろみと歌番組に出たり、『樹木希林』なんて司会者に紹介されても、うちの親なんか「変な芸名をつけやがって …… 」と、最初のうちは全然馴染めない様子だった。(私は途中から慣れたけどね)



そんな樹木希林が、悠木千帆だった頃、初主演をしたというのが伝説のドラマ『とし子さん』である。(YouTubeで配信。最近初めて知った)


このドラマ、1966年(昭和41年)に放送されたそうだが、もちろん1968年生まれの自分は生まれてないので知りませんでした。(この頃のドラマが令和の世に残っているのも驚きだが …… なんでも、この『とし子さん』、当時としては珍しく映画と同じフィルム撮影だったのだ。それで辛うじて残存していたそうな)


ドラマ自体は全13話と短いのにもかかわらず、半年もかけて放送されたのは、《隔週》放送だった為。

つまり一回放送されたら、次の週はお休みというノンビリペースである。(昔の視聴者は随分気長だったみたい)



『野山とし子』(悠木千帆)は、大学の助教授となった夫『野山広一郎』(滝田裕介)、幼い小学生の息子二人、それに加えて広一郎の妹である女子大生『恵子』(嘉手納(かてな)清美)という大所帯で、狭い長屋暮らしをしていた。のだが ……

夫への来客が増えるにつれて狭い長屋での暮らしも段々窮屈になってきた。


ならば、「この際、都心に近い一軒家に引っ越そうじゃないか!(借家)」という事で、一家はそろって引っ越しすることとなったのだ。


新しい引っ越し先には、ちょっと口うるさいが根は優しい大家『大村ソメ』(北林谷栄)が何かと世話をしてくれてる。




こうして、新しい土地で新生活を始めた野山一家だったが、来客たちが訪ねてきても、東北訛りのズーズー弁、田舎まるだしの『とし子』を誰一人として《大学助教授夫人》とは思わない。

いつもいつも《女中》と間違われる日々の始まりでもあったのだった ………




こんなのが、ドラマ『とし子さん』の基本設定。


当日、内田裕也と再婚する前、岸田森さんと結婚していても(1964年〜68年)、まだまだ若い23歳の悠木千帆(樹木希林)。

もちろん現実世界では子供も産んでないのに、このドラマでは26歳の設定で二人の小学生がいる役とは ………


昔から進んで老け役をしていた彼女も、初主演作には歓喜しただろうか?

それとも子持ち役にガッカリした?


なんにせよ、ドラマの中だけでも、優しい夫に溺愛される《とし子さん》に、視聴する側も優しい気持ちになってしまうのである。(後の、破天荒な内田裕也との修羅場生活を知っている者としてはね(笑))




2024年10月14日月曜日

ドラマ 「台所の聖女」

 1988年 3月。





大正時代、高級官僚の娘として何不自由なく育った『杉田久女(ひさじょ)(本名:久子)』(樹木希林)は、画家志望だった『杉田宇内(うだい)』(高橋幸治)と結婚して二人の娘に恵まれた。

それと同時に宇内は画家の夢を諦めて、教師の定職に就く。


慎ましい生活でも、文句も言わずに、宇内を支える為、台所仕事に勤しむ久女。


だが、久女はやっぱり(これでも?)《お嬢様》育ちなのだ。

常に鬱屈した気持ちを抱えては、悶々とした日々を送っている。


そんな久女の元へ、あちこちで放蕩生活を送っている実兄(石橋蓮司)が、やって来た。(ダメ兄貴)

この兄、才能も無いのに、どうやら東京で《俳句》に凝ってるらしいのだ。


こんな兄の自慢話を聞かされてるうちに、沈んでいた久女の目は段々と生気を取り戻していく。


いつしか口からは、

「私もやってみようかしら … 」の言葉がポロリと飛び出していた。


こうして、上流階級のサロンに出入りしたり、名だたる俳人を紹介された久女は、元来の頭の良さや鋭い感性から、メキメキと俳句の才能を伸ばしては頭角を現していく。


だが、《俳句》にのめり込めば、のめり込むほど、家の事は段々とお留守がち。

いつしか放ったらかしになり、寛容だった夫の宇内もイライラを募らせていくのだ。


そうして、《俳句》の道を極めようと決断した久女は、夫や二人の娘たちを捨てて、一人、東京の実家に身を寄せながら、鎌倉にいる俳人:高浜虚子の元へ、足しげく通うようになるのだが ……




激しい情熱で激動の時代を生きた俳人『杉田久女』の半生を、名優:樹木希林が《鬼気》として演じた名作ドラマである。(ダジャレかよ(笑))


この単発ドラマがNHKで放送されたのが、斉藤由貴と共演した朝ドラ『はね駒』の翌年くらいの頃。


それまで『寺内貫太郎一家』や『ムー』などで可笑しみのある役柄ばかりを演じてきた樹木希林(旧芸名:悠木千帆)だったが、ここにきて、やっと《演技派》としての再評価が決まった気がする。(この人も若い頃から婆さん役やブスキャラばかりしてきた苦労人。よく我慢してたよ)


でも、このドラマでは念願叶って、単発とはいえ、堂々の 主演 なのだ。(意気込みも違うというもの)



その後、実家にまで連れ戻しにやってきた夫の宇内が「帰ってこなければ死んでやるぅー!」と、久女の目の前で砂浜の砂を口に頬張るという暴挙にでたので(ゲゲッ!)、久女も泣く泣く家出を断念する。(この夫は夫なりに久女を愛しているのである)


それでも、家に帰ってからも、俳句の情熱は増すばかり。(度を過ぎるほどに)

毎日のように高浜虚子宛に俳句を送りつけ続けては、(まるでストーカー!)嫌がられて(そりゃ、そうだ)とうとう破門されてしまう。



そうして時は流れて …… 

久女の娘たちも嫁いでいき、しばらくすると昭和の、あの《戦争》の時代がやってくる。


もちろん、久女の娘たちにも《暗い戦争の影》は降りかかり、次女夫婦たちは一家で満州へ。

長女:『晶子(まさこ)』(檀ふみ)は、夫が出征していった後、幼い娘と二人で暮らしている。



そこへ、今では年老いた久女が、重い食料を担いで、えっちら、一人やってきた。


久しぶりの母親との再会に嬉しいはずの晶子だったが、会話は全く噛み合わない。


それどころか母親:久女の様子はどうにもおかしいのだ。


急に、

久女は日本一です!!なんて雄叫びを上げたりするのだから、晶子の方は驚いて ビクッ!としたりする。(大丈夫かよ、オイ)


話すことといえば、俳句でチヤホヤされていた昔の栄光のことばかりで、さすがの晶子も「あんまり思いつめないで …… 」なんていう風に、声をかけずにいられない。


その言葉に反応したのか、久女の目つきは途端に厳しくなり、

何を言うのよ!思いつめるからこそ、良い句が生まれるんじゃないの!!と逆ギレする。(ヒーッ!)


「言葉がどんどん満ち溢れてくるのよ …… その中から、斬っては捨て!、斬っては捨て!…… 」まるで手刀でなぎ払うような仕草をみせる久女。


表情は夢見がちに変わると、両手を合わせて、それを蓮の花のように指を徐々に広げてゆく。

「そうして、やっと残った、ほんのひと欠片の言葉だけが、特別な輝きをみせるのよ✨」


正気なのか狂気なのか …… 娘の晶子(檀ふみ)は、そんな母親に圧倒されて、それ以上何も言えないのだった。



何十年経っても、この久女(樹木希林)の独白シーンはよ〜く覚えている。

そのくらい強烈だった。


これが《創作》という、まるで得体のしれないモノに取り憑かれた者の姿である。

そうして一生背負ってゆく《豪(ごう)》なのかもしれない。



そんなものを、まざまざと見せられた気がして、私はブラウン管ごしに身震いした。

そのぐらい樹木希林の演技力もずば抜けていたのだ。(怪演とは、まさにこの人のこと)



いつもとは違って、心底恐ろしい樹木希林😱である。



この、あまり知られていないドラマを当時観れたことは、とてもラッキーだったし、観た者は今でも再放送を望む声もあると聞く。


尚、このドラマに感化されて、あの木村多江が女優を志したというのは有名な話だ。(今じゃ、日本一《不幸せな役》が似合うという女優さん)


NHKさんも、このくらいの見ごたえあるドラマを観せてくれるなら、受信料にしてもド〜タラ、コ〜タラ文句も言われないだろうにね。


思い出のドラマとして記しておく。

星☆☆☆☆☆。


《↑ドラマ原作は、この田辺聖子さんの小説であ〜る》


2023年1月27日金曜日

ドラマ 「美空ひばり物語」

 1989年  12月30日。





1989年6月に美空ひばりが亡くなると、半年後の大晦日前には、このドラマが長時間枠をとって突然放映決定。(なんでも、生前にひばりサイドから許可をとっていたのだとか)


国民的歌手《美空ひばり》…… その波瀾に満ちた人生のドラマ化なんてのは特にタイムリーじゃなかった我々世代でも興味津々なところ。


当時、観た感想は、

(ここまでやっても大丈夫なのか?)って心配してしまうくらい、超エグい 内容でございました。


特にそう思ったのが、一卵性親子とまで言われていた、ひばりの母親『加藤喜美枝』の描き方。


この実在した人物を、あの樹木希林が演じるのだからエグくならないはずがない!



口元は実際の加藤喜美枝が少々出っ歯だったように、樹木希林もそれに合わせて常に歯が出ているように、何かしら詰め物でも入れてるような凝りよう。(よ~やるよ)


そうして、ひばりの父親で喜美枝の旦那さん『加藤増吉』役が森田健作



この増吉がひと言でいうなら トンデモない性格 なのだ。

後に数々起こるひばり一家の悲劇は、この《増吉》が元凶だと言っていいくらいである。



「オマエはどうしてそんなに色黒なんだ!」

「このブサイク女が!」

貴美枝と夫婦で、慎ましく魚屋をやっているものの、増吉は言いたい放題で常に罵っている。

オマケに身重で今にも赤ん坊が産まれそうな貴美枝に、手をあげる!足をあげる!


もう、観ていて虫酸が走るくらい最低の男である。(かつての青春スター・森田健作がよくこんな役を引き受けたよ)


さらに 酒癖も悪くて、呑んで帰ってきては、またもや『貴美枝』(樹木希林)に手をあげる増吉。


「母ちゃん逃げてー!」

娘の『和枝(後のひばり)』が父親を押さえつけている間、貴美枝は逃げ出し、降り積もる雪の中、ガタガタ震えながら増吉が泥酔して寝静まるのを外で待っている。


「ブス」だの「色黒」だの散々言われたり、多少の暴力があっても、貴美枝には和枝を含めて4人の子供たちがいる。(?)


(多少気が荒くても、子供たちの為にも我慢しなくちゃ …… あの人が帰ってくるのはこの家だけなんだから …… )

こんな貴美枝の心の声が観ているこっち側には聞こえてきそうだ。(ああ哀れ)



やがて召集令状が増吉の元へ届くと、増吉は町の皆んなの声援と、娘・和枝が歌う♪《九段の母》に見送られて戦争へと行ってしまう。


貴美枝は4人の子供と空襲に怯えながら、増吉の生還を悶々と待つ日々。


そうして戦争が終り、増吉が帰還する報せが入ると、粗末ながらご馳走を作って待っている健気な貴美枝。



だが、待てど暮らせど増吉は帰ってはこない。


(まさか …… )

貴美枝の足は《ある場所》を目指して、迷いもなく一目散に走り出していた。


そこは水商売をしているような、ある女の家。

勝手知ったるように2階への階段を駆け上がっていく。


そこに増吉はいた!


傍らには女が寄り添い、そうして側には産まれたばかりの 赤ん坊 まで寝かされていて!!


貴美枝の姿を見ても、増吉は悪びれている風でもなく、全く言い訳すらしない。

それどころか、傍らの赤ん坊を抱くとあやしはじめたりした。


その瞬間、貴美枝の中の何かが、ガラガラと音をたてて崩れさっていく。


夫への情も何もかも …………



(こんな惨めな想いをするのは、もう嫌だ! 和枝をスターして、私はこんな想いからとっとと抜け出してやる!)


そう決心したのかどうか分からないが、次の日から貴美枝の虎視眈々とした壮大な計画が始まってゆく ……





このドラマ、タイトルこそは《美空ひばり物語》と、うたっていても、もうお分かりだろう。


これは、ほぼ、ひばりの母《加藤喜美枝》の物語なのだ。



この後はご存知のように、幼少の和枝を引き連れて、貴美枝はあちこちの慰問公演へと出向いていく。


それにともない、利発な和枝の才能はメキメキと頭角を表していくのだ。


こんな和枝の才能に惚れ込んだ敏腕マネージャー『福島通人(つうじん)』(夏八木勲)は、貴美枝に頼みこんで「是非、私にマネージメントさせてくれ!」と申し込んだりする。


その見返りとして、「最近じゃ、うちの人(森田健作)、私に触ろうともしないんだから …… 」とブツブツ言いながら、福島にヨヨヨっと迫ったりする貴美枝。




その後、貴美枝と福島が男女関係になったかどうかは、さすがに描いていないが、それでも、そんなモノを匂わすようなドギツいシーンである。(コンプライアンス的には「大丈夫なのか?」と観てるこっちがハラハラしてしまう)


やがて、当時のスター『川田晴久』(五木ひろし)から《美空ひばり》の名称を頂いた和枝は、そのままスター街道まっしぐら。


幼少期から少女『美空ひばり』(岸本加世子)へと成長していく。




岸本加世子がひばりを演じるのはドラマも1時間以上を過ぎてから。


その間、折に触れては、ひばりを演じるのに対しての抵抗や葛藤をノンフィクション形式ではさんでいる。



そりゃ、天下の《美空ひばり》を演じるなんて誰もが出来るわけじゃないし、本音は嫌だったろうよ。



それでも一生懸命演じている岸本加世子。


ただ難を言うなら、歌っているシーンで、ひばりの声の吹き替えはしょうがないにしても、この人《所作》がダメなのだ。


全神経を張りつめて、

「このフレーズでは目線の配り方を変えてみよう」とか、

「首をかしげながら微笑んでみようか」とか、一曲のうちに様々な表情をみせてくれるのが、実際の《美空ひばり》なのだ。


ただ「口パクで、フリを真似しとけばいいい」ってモノじゃない。


手を伸ばした指先にまでも、全神経を注いでいる、それが天下の《美空ひばり》の歌い方なのだから。(まぁ、フォローするなら岸本加世子もドラマ部分は良くやってるとは思うが)



岸本加世子の《ひばり》はギリギリ平均点か。

それよりも樹木希林の演じた《加藤喜美枝》にこそ感嘆したドラマである。



この後、ひばりがスターダムにのし上がると、あれだけ親身にマネージメントしてくれた『福島』(夏八木勲)を簡単にバッサリ切り捨てる非情な『貴美枝』(樹木希林)。


今や魚屋をやめて(スターの父親が魚屋なんて無理)豪邸暮らしの『増吉』(森田健作)は、ちっとも幸せそうじゃない。


成長した他の子供たちは、ひばりの稼ぎで充分すぎる小遣いを与えられて家にはいないし、ひばりと貴美枝は年中仕事で家にも帰ってこない。


豪邸で常に一人ぼっちの増吉。


そんな増吉が結核で倒れて亡くなっても、全く顔色さえ変えない貴美枝。


今まで増吉がやってきた事の自業自得とはいえ、貴美枝の非情さは一貫している。


「男なんかに頼らないし、媚(こび)もしない。期待もしない!」

「男は常に裏切る生き物なのだから!」

長年の苦労や経験がこんな貴美枝を形成したのだから、もはや達観の域なのだ。


こんな貴美枝は、ひばりが『小林ア●ラ』(陣内孝則)と結婚したいと言い出すと、もちろん大反対する。(そんな貴美枝の反対を押し切って結婚に踏み切っても、やっぱり即離婚)


母・貴美枝との《共依存》は断ち切れない。


案の定、貴美枝は「それ見たことか!」と腹で思いながらも本音は口にせず、

「アンタは芸事をするために生まれてきたのだから!」と、ひばりを叱咤激励していく。



恐ろしいねぇ~、怖いねぇ~


自分のエゴを押し通す為なら、どんな事でもしてしまいそうで。(ホラー映画の上をいくような怖さである)


でも、こんな女に誰がしてしまったのか?(増吉、お前のせいだろーがよ!(笑))



それを演じる樹木希林は、これまた恐ろしすぎる怪演。


なんにせよ、昭和が終わる前、こんなドラマがあった事は、貴重な歴史として記憶にとどめておくべきなのかもしれない。


星☆☆☆。


※尚、このドラマは、その後、上下巻VHSビデオとして発売された。(さすがにDVD化はされていない)

興味ある方はどうぞ!

2020年3月4日水曜日

ドラマ 「はね駒」②

《①の続き》







樹木希林』という女優を、幼い頃からブラウン官を通じて観てきた自分は、それに対して、特になんとも思う事もなく………。



出ていれば、それだけで妙なおかしみを発揮していて、『寺内貫太郎一家』や『ムー』などは、面白、可笑しく素直に楽しんでいた。




出ていれば、「面白い人だなぁ~」くらいの感想。



後年、その当たり前だった事が、実は『どえらい人』だったと知る事になるのだが……。





もちろん、この『はね駒』でも、そのコメディエンヌぶりは健在で、斉藤由貴との母娘の掛け合いは超面白く、観る者を惹き付けた。



「母ちゃん~!」

「何だい?母ちゃん、母ちゃんって、いつまでも『やや子』(赤ん坊)のように言ってきて!」

なんていう、日常の何でもないやり取りでも、斉藤由貴と樹木希林が演じると、何だか、ホンワカ、ほのぼのとしていて、それでいて妙なおかしみがあった。




でも、この『はね駒』に限っては、それだけでないのが樹木希林の凄いところ。





やがて、東京で材木問屋を営む『小野寺源三』(渡辺謙)と結婚した『りん』は、祖父母、弘次郎、八重と暮らし始めるのだが(妻の家族全員を引き取る源三も寛大というか、太っ腹)、それだけでは、あきたらず、女性として初めての新聞記者となる。


子供が生まれてからも、家事と仕事を両立しながら、やっていく『りん』。(でも、それも難しく、結局は母親の八重に頼りっぱなしになってしまうのだが)



とうとう、3人目の子供が産まれるという時、『りん』も『源三』も考え出す。


「どうしようか?」

「どうしましょう?」

いつまでも子供の世話を母親の八重に頼むのも心苦しくなってきた『源三』と『りん』。



だが、根っから楽天家の『りん』は、

「大丈夫よ!」と、どこから来るのか、あくまでも楽観的な発言。


(仕事と家事、何とかなるわよ!)って感じなのだ。




翌日、朝の食事の支度をしながら、母娘は、何気に話し出した。


「どうするんだい?おりん、3人目が産まれるっていうのに……」

釜戸に火をくべながら、八重が聞くと、

「大丈夫よ!何でもかんでも母ちゃんに頼ろうとはしないわ! そうだ!!女中を雇いましょうよ!」


「女中?」

『りん』の突然の提案に火をくべながら、八重の目が、パッと開く。


「そうよ、女中ひとりを雇うくらい何でもないわ。一人でダメなら二人でもいいのよ。母ちゃん、私も女中くらい雇えるぐらいの給金をちゃんと貰っているのよ!そのくらい新聞社でも認められているんだから!安心して。」


『りん』は、そう言うと笑顔で、(この問題は、これで解決)とばかりに、キビキビと支度をはじめた。





だが………



「何、語ってるんだ?!オメェは!!」


振り向き様、顔色を変えた八重の怒声が台所中に響き渡る。



これまで見た事もないような母親、八重の顔に、ビックリして飛び上がらんばかりに驚く『りん』。



「誰が、今、金の話なんかした?アァ~?!」



『りん』を台所の板間に正座させると、般若のように恐ろしい顔の八重が真正面に鎮座する。


「何でもかんでも金で解決すればいいなんて、いつからオメェは、そだな薄汚ねぇオナゴになっちまったんだ!おりん!!」


八重の、あまりの迫力に微動だにできない『りん』。


「いいかい?女中ってのはあくまでも、おっ母さんの手助けをするもんなんだよ。それ分かって言ってるのか?!オメェは!!」


八重の言葉は、淀みなく続く。


「女中に母親の代わりは出来ねぇ。子供ひとりを育てはぐねたら、それは一生後悔しても取り返しのつかない事なんだぞ!それくらい子供を育てるって事は、大事な大切な仕事なんだ!それ分かってるのか?オメェは!!」


もう、『りん』は、さっきの笑顔はどこへやら、顔面蒼白になっている。


「母ちゃんも、お前が立派な仕事をしている事は知っている。でも母親としてしなければならない事、そしてお金では決して買えないものもある事。これだけは分かってくだっしょ(くれ)、『おりん』……… 」


八重が頭を下げると、『りん』は茫然自失としながらも、更に深々と頭を下げるのだった………







このシーン、ビデオテープをなくした今でも、ほとんどを覚えている。



この緊張感、この樹木希林の台詞の説得力。


朝のドラマを観ながら、この樹木希林の台詞が流れてきた時、当時、どれだけの人たちが頭(こうべ)を垂れただろうか。


このシーンの斉藤由貴なんて、まるで演技を通り越して、本当の母親に雷を落とされたように、見るも無惨な様子だ。



演技と現実の境界線が無くなる………、斉藤由貴にとっては、こんな事は初めての体験だったろうと思う。

ブラウン官で観ている自分にも、それは充分伝わってきた。




もちろん、芝居ゆえ、ちゃんとセリフがあり話の展開も分かっているはずなのだが、いざ撮影になった時の樹木希林の演技の振り幅や言葉の説得力が、その想像をはるかに上回り圧倒しているのだ。




後年、斉藤由貴自身も語ってるのを見た事がある。


「希林さんと演っていると、どんどん気持ちが役に入っていって、現実と芝居の境がなくなっていく………それが、ある意味、恐ろしくもある」と。



それくらい相手役を、ぐいぐい芝居の世界に引き込んでいく事ができるという特殊な仕事。


「それが女優という仕事なら、私もそんな女優になりたい!」

この『はね駒』の出会いは、斉藤由貴にこんな風に思わせたんじゃないか?と勝手に想像してしまう。




ドラマの後半、八重の言葉が身に染みた『りん』は、子育ての為に新聞社を退職する。


それに安堵した両親と祖父は故郷に帰る決意をし、ついに別れの日。


「台所はおなごの城だ!誰にも明け渡しちゃなんねぇぞ!分かったか?」と言う八重に、

「はい!」と直立不動の『りん』。



「ハイ、ハイ!って本当に分かってるのか?こら!」と言いながら、しゃもじで『りん』のお尻をペチン!


「痛ったぁ~い!何するのよ?、母ちゃん!」


笑顔の八重が、「しっかりやって、おくんなましね、小野寺の奥様!」なんて言葉をかけると、『りん』の顔が、途端に涙でグシャグシャ。


「母ちゃぁ~ん!!」


泣きながら抱きつく『りん』を笑顔で抱きしめる八重に、


(女優として教える事は、しっかり教えた。頑張るんだよ)とも言っているようにも見えた。


そして、それを斉藤由貴も感じたようにも見えた。




それから数10年が経った今…………斉藤由貴が女優として、いまだに必要とされているのも、この『はね駒』での樹木希林との出会いがあったからかもしれない。



星☆☆☆☆☆。

偉大な女優、樹木希林に合掌。


ドラマ 「はね駒」①

1986年 4月~10月。







「あ~あ、鳥になりてぇ~なぁ~ ………」



『橘りん』(斉藤由貴)は、福島県、相馬の空を見上げながら、ふと言葉を発した。



時は、明治23年。


『りん』は、厳格な父『弘次郎』(小林稔侍)と呑気で気立ての良い母『八重』(樹木希林)や妹の『みつ』。

父方の祖父母と暮らしていた。(兄の『嘉助』(柳沢慎吾)もいるのだが、家を飛び出していて、たまに帰ってくるような放蕩暮らし)



年が明ければ、『りん』には許嫁との結婚が待っている。


(このまま、私、本当にお嫁に行ってしまってもいいの……?)


父親同士が決めた結婚話は、トントン拍子に進んでいく中、漠然とした不安を抱える『りん』。



そんな折、女学校で教師をしている『松浪毅(たけし)』(沢田研二)と偶然知り合ってしまう。

「女性だって、これからの時代は勉強したり、学問を学ぶ自由がある!女性だって、色んな可能性があり、仕事だって、なんだって出来る!」



ガーン!



松浪の言葉は、時代錯誤の父親に育てられてきた『りん』にとっては、目から鱗。

まるで、天地がひっくり返るほどの大ショックだった。



オマケに、この松浪先生が超イケメン(この時のジュリーが、壮絶カッコイイのだ)


「松浪先生~♥」なんて言いながら、『りん』も明らかにホの字。





こうなりゃ、決めた!あたし女学校に行く!と決心した『りん』。


「母ちゃん、あたし女学校に行きたいの!」

「女学校さ、行って何するの?」と飄々とした『八重』に、

「もちろん勉強したいのよ!」(本当は好きな松浪先生の側にいたいんだけどね)



じい様もばあ様も、「おりんがここまで言うのなら、………」と、りんの味方ムード。(このお姑さんたち、二人は本当に人間が出来てる人たちだった)



だが、案の定、厳格な父親、『弘次郎』は大反対!


「おなごは、親の言う事をきいて嫁にいけばいいんだ!」の一点張り。



でも、『りん』も負けてはいない。


土壇場の土壇場で、

「あたし、やっぱり嫁っ子さ、行きたくない!女学校に行きたいんだ!」と先方がいる前で啖呵をきってしまう。



自分の面子を潰されて、ワナワナ、怒りに震える『弘次郎』は、とうとう日本刀まで抜き、『りん』に突きつけるも、

「おとっちぁん!!」と叫び、庇いだてする八重に、なんとか正気を取り戻し、とうとう根負け。


先方に頭を下げて、「勘当!」を宣言した。


そうして、『りん』は晴れて、憧れの松浪先生のいる女学校で奨学生となり、新生活を迎えるのだが………。




斉藤由貴が出演した伝説の朝ドラ『はね駒』である。


当時、『スケバン刑事』の流れと、アイドルとして歌もヒットしていた斉藤由貴は絶好調。


そのまま朝ドラのヒロインの座を勝ち取った。(もう、まるで、全てがお膳立てされているかのように、スターダムの階段を、瞬く間に駆け上がる斉藤由貴)



向かうところ敵なしの完全無双状態である。



そして、驚くなかれ、この『はね駒』、なんと平均視聴率が 40 %以上!



最高視聴率は、49 %なんてのを叩き出しているのだ!!(紅白歌合戦以上の驚異的視聴率)


多分、自分の記憶が確かなら、朝ドラで40%を叩き出したのは、これが最後の作品だったと思う。




この時期になると、一般家庭にもビデオテープが完全に普及していて、録画して観る事が可能になっていた。

高校生だった自分は、学校から帰ってきては録画していたものを必ず観ていたっけ。(あの録画していたVHSどこにいったのだろう、引っ越しの時に紛失してしまったが……トホホ)




ただ、単に斉藤由貴見たさに、見始めた朝ドラだったのだが、他の共演者たちも魅力的で、ドンドン引きずり込まれるように観ていた。




父親役の小林稔侍なんて、この『はね駒』で、やっと認知されて演技派と認められたんじゃなかろうか。



それまで、コツコツと映画やドラマの端役ばかりをこなしていて、今、ひとつ芽が出なかった小林稔侍。

厳格な父親、弘次郎役は、冒頭こそ、怖い印象だが(なんせ、娘相手に日本刀抜くくらいですもん)、徐々に角がとれて温和になっていく。



後に、『りん』の勘当をとき、先方に頭を下げて「許してほしい」と頼み込む弘次郎。(やっぱ娘は可愛いのだ)



次女みつが農家に嫁いで、身体を悪くして亡くなった時は、自分が決めた縁談ゆえ、自分を責めて、自分の古い考えを改めようと悔恨する。



徐々に柔和になっていく弘次郎。



その心の変化を巧みに演じた小林稔侍にとって、この『はね駒』は、まさに役者としてのターニング・ポイントだったはずである。





それは他の共演者たちもしかりだ。



後に、『りん』と結婚する事になる『小野寺源三』を演じた渡辺謙も。


この役が好評で、翌年には、大河ドラマの『独眼竜政宗』の主役に大抜擢。


いまや、世界の『渡辺謙』として呼ばれているのも、この『はね駒』があればこそである。





そして、この『はね駒』で、一番の功労者だったのが元々、演技派だった樹木希林。



樹木希林に関しては、語ると長~くなりそうなので、取り合えず、今回はここまで。

ドラマ・レビューとしては、異例なのだが②へ続くとする。


2020年2月5日水曜日

ドラマ 「男と女のあいだには」

1982年。




《写真は中原理恵さん》




役名すら覚えていない。


ドラマのあらすじさえ覚えていない。


Wikipediaにすらないドラマなのだが、なぜか?これも忘れられない幻のドラマ。




唯一、資料としてあるデータベースを今更、調べてみると主演が中村敦夫さんだったのか?(全く覚えてない)


火野正平や西村晃、山城新伍なんて人たちも出ていたようだ。



だが、男性陣の印象は全くもって覚えていない。



こんな覚えていない尽くしのドラマの事を、これを読んでいる人は「何を書くつもりなんだ!」と思うだろうが、このドラマのインパクトは別にあるのだ。






仲の良い3人組、中原理恵和田アキ子、樹木希林がいるのだが、和田アキ子が売れない女優役だった気がする。


だが、中原理恵と樹木希林の助力で(全く芸能界には精通していない素人なのに)、和田アキ子をバックアップして再起、歌手デビューさせようと計画するのだ。





「ん~何か、そうね……まずはインパクトのある芸名に変える事がいいんじゃないかしら?」

樹木希林が言い出すと、中原理恵も「そうね、いいわね」と賛同。





どんな芸名になるのか、気の弱い(?)和田アキ子は気が気じゃない。




「水虫……そうね!『水虫かわゆ子』なんてどうかしら?インパクトあるんじゃないの?!」(ゲゲー!いきなりの樹木希林のとんでる発想である)




「水虫って何よ?!嫌よ!そんな変な芸名」


こんな恥ずかしい芸名にされる本人の和田アキ子は、もちろん反対するのだが、



「大丈夫よ!こんな一見、訳の分からないような芸名の方が、いろんな人に覚えてもらいやすいのよ」と樹木希林が、やんわり説得する。


「いいかもね、これなら断然覚えてもらえるわよ」と、中原理恵も人の事だと思って安易に賛成する。





こんな二人の押せ押せムードに負けて、当人の和田アキ子も、段々その気になってくると、

「そうね、私、『水虫かわゆ子』として頑張るわ!」と固く決意した。(こんなのいかんだろう!(笑))




こんな風に、安直に決まった芸名の『水虫かわゆ子』。



芸名が決まったら、今度はデビュー曲を考えなくてはならない。





樹木希林は、毎夜、「ん~」と頭をひねりながら懸命に考えて、詞を完成させた。






曲は『水虫ララバイ』である。(これ、今考えると中原理恵が出ているので『東京ララバイ』に対抗してるのかな?)



『水虫ララバイ』の詞にメロディーがついて、それからは、あれよ、あれよ、という間にトントン拍子でプロデュースは進んでいき(信じられない)、そして『水虫ララバイ』のレコードは完成した。





レコードは発売されると、結果は大ヒット!




『水虫ララバイ』は売れに売れて、テレビで、とうとう歌唱する日がやってくる。





「それでは『水虫かわゆ子』さんに歌って頂きましょう。曲はデビュー曲の『水虫ララバイ』!」



ステージの中央に立って、マイクを持ち、『水虫かわゆ子』(和田アキ子)は心をこめて歌いだした。



♪水虫ラーラバイ、カイ、カイ、カーイ


♪水虫ラーラバイ、カイ、カイ、カーイ


♪水虫が、かゆいのは、あなたが生きてるしるし


♪その水虫を私に移してくれませんかぁ~?


♪そうすれば、あなたの愛が~足の指から、伝わってぇ~くるでしょ~う~♪




真剣にステージで歌う『水虫かわゆ子』(和田アキ子)には大喝采の拍手が待っていたのだった。





ヒェーッ!


この歌、このインパクト、忘れようったって忘れられません。


この歌がブラウン官から流れてきた時、当時、腹を抱えて笑い転げたような記憶があるのだ。






こんなのが、デビュー出来て、ヒットするなんて、まるで夢物語。


異次元の世界のようなドラマである。


DVD化してくれないかなぁ~。

してくれないだろうなぁ~。

スッゴイ面白いんだけどなぁ~。






もはや、芸能界の大御所となった和田アキ子は、自身の人生の汚点として、DVD化には反対するかもな~


この歌をどっかの番組で歌ってくれないかなぁ~(まぁ、それも無理か)


今や芸能界を去った中原理恵や、飄々とした樹木希林の印象も強くて、これは語り継ぐべき伝説のドラマなのである。


星☆☆☆☆。