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2022年6月27日月曜日

映画 「あのアーミン毛皮の貴婦人」

 1948年  アメリカ。





その昔、ビリー・ワイルダー監督の映画に夢中になって、数々の作品を追いかけていくうちに、なにかにつけて、この名前を目にしたり、耳にしたりするようになってきた。


エルンスト・ルビッチ》……


エルンスト・ルビッチ監督》


まぁ〜、ワルそうな顔(笑)。(一見、『チキチキマシン猛レース』のケンケンにも見えてしまうルビッチ)


1918年にサイレント映画で監督デビューしてから、1947年に亡くなるまで、幾多のミュージカル映画やコメディー映画を撮ってヒットさせては、その道の《巨匠》とまで言われた、伝説のお方である。


この人の影響力はとにかく大きくて、後進で活躍した名だたる有名監督たちが、それを賛美し支持したのだという。(日本では、あの小津安二郎監督にも影響を与えたとか)


そんな、エルンスト・ルビッチ監督の家に住み込みで見習い弟子になっていたのが、まだまだ、当時無名だった『ビリー・ワイルダー監督』なのである。



こんな評判を知ってしまうと、ルビッチ映画を「俄然、観てみたい!」と思うのは当然の欲求で、私、晩年の監督作である『天国は待ってくれる(1943)』を、とうとうある日観たのだけど ……… コレがおっそろしく (ゴメンなさい)

ダメダメでした!


映画『天国は待ってくれる』》


主演が『ローラ殺人事件』や『幽霊と未亡人』で、私が御贔屓にしている有名女優、ジーン・ティアニーだし、珍しくカラー映画なので、コレを選んだのだけど、もう一人の主演男優であるドン・アメチーの役柄に最初から最後まで感情移入どころか、虫酸が走りっぱなし。(この話に共感する人がいるのか?)



(コレが《巨匠》とまで言われた人の作品 …… ?)

これまでの世間の評価を全て疑ったくらいだった。



でも、私のこんな勝手な感想でも、ルビッチの評価はあいも変わらず。


「おっかしいなぁ~」と思っていると、ルビッチ監督を、あのヒッチコック監督と同列にして書いている記事に、たまたま出くわしたのだった。


なるほど!それで合点がいった!


ヒッチコック映画も傑作もあれば、駄作、凡作も数多い。


ルビッチ映画も、

「出来が良いモノもあれば、悪いモノもあるはずだ!」

と、良心的にそう解釈したのだった。



で、今回取り上げるルビッチ監督の遺作が、『あのアーミン毛皮の貴婦人』なのだけど、コレもまたまた、曰(いわ)く付きの映画。



クレジットには、《監督 …… エルンスト・ルビッチ》の名前はあっても、ほぼ  監督していないのだった。


なぜなら、制作段階で エルンスト・ルビッチはとっくに《亡くなってしまった》からなのである。(あらら…)



どの写真でも、大きな葉巻きをプカプカ吸ってるルビッチ。(身体に悪そう)


それもあってか、ある夜、シャワーを浴びている時、あっけなく心臓発作で亡くなってしまう。(享年55歳没である)



もう、ほとんど準備万端で、後は撮影に入るだけだった映画『あのアーミン毛皮の貴婦人』。



さぁ、誰がそれを引き継ぐのか?


本来なら、一番弟子のビリー・ワイルダーが受け継いで完成させてもよさそうだが、1945年に『失われた週末』が話題になったとはいえ、まだまだ新人。



白羽の矢が立ったのは、既に『ローラ殺人事件(1944)』や『堕ちた天使(1945)』などを成功させていたオットー・プレミンジャー監督なのでありました。(後年、『悲しみよこんにちは』や『バニーレイクは行方不明』でも超有名)


オットー・プレミンジャー監督》


映画のクレジットには、プレミンジャーが遠慮したのか、その名前すら伺えないが、私はコレを《ルビッチの遺作》とは認めず。

オットー・プレミンジャー監督の作品だと認識している。


で、プレミンジャーが監督したとすれば、面白くならないはずがないじゃ〜ございませんか?


相変わらずの安定した出来栄えで、とっても面白かったです。(なんせ職人気質の監督さんですから)




舞台は、1861年、ヨーロッパは南東にある小さな国《ベルガモ公国》。


広い城内には、代々の君主たちの巨大な肖像画が幾つも壁を飾り、子孫たちを見守っている。


その中で、ひときわ目を惹かれるのが、300年前に国を統治していた《アーミン毛皮の貴婦人》、女伯爵『フランチェスカ』(ベティ・グレイブル)の肖像画だ。


白く大きな毛皮を纒ったフランチェスカの肖像画は、現在の女伯爵で、自分の姿に瓜二つな遠い子孫である『アンジェリーナ』(ベティ・グレイブル二役)に優しく微笑みかける。


(これからも《ベルガモ公国》に繁栄を …… )と ……


そんなフランチェスカの願いがアンジェリーナにも届いたのか …… 入り婿である『マリオ』(シーザー・ロメロ)を迎え入れると、屋敷では盛大な結婚式が執り行われた。


結婚式も無事に済んで、やっと二人きりのアンジェリーナとマリオ。

さて、いざ!初夜に挑もうという時、事件は起こる。


「大変です!ハンガリー軍が攻め入って来ました!」

執事『ルイージ』が血相を変えて、二人に報告しにやってきたのだ。



あたふた、オロオロする入り婿マリオは「ど、どうしよう…… 」と言いながら、アンジェリーナを置いてけぼりにして、とっとと一人だけ逃げ出していった。(あ〜情けなや)


それでもアンジェリーナ、毅然とした様子を崩さず。


(夫は、きっと兵を従えて戻ってくるはずだわ …… )と、どっからそんな自信が湧いてくるのか、慌てる様子もない。


そこへ、大勢の兵を従えたハンガリー軍がとうとう到着して、屋敷へとズカズカ乗り込んできた。



「この城は我々が制圧する!」

憮然とした表情で、ギロリと睨みをきかせているのは、軍の指揮官である『テグラッシュ大佐』(ダグラス・フェアバンクス・Jr.)である。


そんな大佐だが、壁に飾られているフランチェスカの肖像画を見た途端、一瞬で目がトロ〜ン。

心なしか、肖像画のフランチェスカはテグラッシュ大佐にウインクしているようである。


(あ〜、どうしたというんだ?オレは …… いかん!いかん!しっかりしなければ!!)


「ここの城主の元へ案内しろ!」

執事のルイージに伴われて、アンジェリーナの部屋へやってきた大佐。

そのアンジェリーナの姿を見て、大佐は、またもやビックリ。


(こ、これは!まるで絵から抜け出たように瓜二つじゃないか!!)


完全にアンジェリーナに一目惚れしてしまったテグラッシュ大佐。


もはや、アンジェリーナに対して、つとめて慇懃無礼に振る舞おうとしても、言葉の端々には好意的なモノがチラホラ見え隠れして、どうしようもない有り様である。


一方、アンジェリーナの方も結婚したばかりなのに、紳士的な大佐に心はユラユラ揺らいでいく。(乙女心は複雑なの)


その夜、皆が寝静まった頃、暗闇に包まれた屋敷では奇妙な話し声が ……


沢山の壁にかけられた肖像画の人物たちが、絵から抜け出てきて皆で会議をはじめたのだ!


もちろん、アーミン毛皮の貴婦人であるフランチェスカの姿も。


「あのハンガリー人の大佐をどうしてくれようか …… 」


歌い、騒ぎながら、ベルガモ公国の先祖たちの会議は深夜まで続いていく ………




こんな冒頭で始まる『あのアーミン毛皮の貴婦人』は、お察しどおり終始かる〜いノリ。

肩の力を抜いてご覧になれます。



『フランチェスカ / アンジェリーナ』役のベティ・グレイブルがチャーミングで良いねえ~♥


大佐の夢の中に現れて、とっちめてやろうとする『フランチェスカ』だけど、『テグラッシュ大佐』(ダグラス・フェアバンクス・Jr.)の魅力に負けて、逆にミイラ取りがミイラになってしまう。


しまいには、こんな風に大佐を自ら抱き寄せて「ブチュ〜♥」って激しく迫ってみたり。(アララ …… 珍しい女性優位のラブ・シーン)



大佐をお姫様抱っこしたまま、空中までフワフワ飛んだりしてしまうフランチェスカ。(スゲ~)


まぁ、あくまでも夢の中なんで、何でもありって事で(笑)。



一方、現実世界では、逃げ去ったはずの夫マリオが、ひょっこりと帰ってくる。


それも、仲間とはぐれた《ロマ(ジプシー)》の変装までしてきて。


本来なら、夫の帰還を喜ぶはずなのに、どこか一気に熱が冷めてしまうアンジェリーナ。(だろうな、こんなヘラヘラした男、ムリだっつーの!)


「それに比べてテグラッシュ大佐の男らしい事よ ……」(もう、この辺りで恋のシーソーは、テグラッシュ大佐の方にググ〜ンと傾きかけている)


はてさて、アンジェリーナとテグラッシュ大佐の恋の行方は ……




なんか、久しぶりに日常のゴタゴタを一時でも忘れさせてくれて、楽しんだ一本でした。


もちろん恋の終幕は、皆が納得のハッピー・エンド。


結局、私の解釈は、テグラッシュ大佐に惚れてしまったフランチェスカの気持ちが、DNAとして深く刷り込まれてしまい、長い時をかけながら(ほぼ一瞬だけど)、アンジェリーナに受け継がれてしまった?のかな?(『時をかける少女』みたいな話だ)


芸達者なベティ・グレイブルとダグラス・フェアバンクス・Jr.。

それにオットー・プレミンジャー監督の職人技に感動して、星☆☆☆☆でございまする。



※そうそう、それと、エルンスト・ルビッチ監督については、今回もその真価をはかる事が出来ず。


いつかルビッチの映画で「面白い〜!」と言える日が来るのだろうか。


まぁ、それも慌てず騒がず …… 気長に観ていくとしましょうかね。


久しぶりの投稿で長くなりました。

オヤスミなさいませ~

2021年3月22日月曜日

映画 「生きていた男」

1958年 イギリス。




スペインはバルセロナ。

海を見渡せる豪勢な別荘に、美しい女性が一人、通いの召し使いを従えて住んでいる。


女性の名前は『キム・プレスコット』(アン・バクスター)。


ダイヤモンド王の社長である父親が、突然自殺して、その父親が所有する別荘へとやってきたのだ。


キムにはウォードという兄もいたのだが、その兄もまた、運転する車が崖から落ちるという悲劇で、すでに亡くなっていた。


もはや、近縁者といえば、近くに住んでいる叔父だけ。



そんなある夜、訪ねてきた叔父を見送った後、庭先に、ひょっこり現れた一人の男の影。


「誰?誰なの?!」


見知らぬ若い男(リチャード・トッド)は、キムの目の前に来ると、

「キム、久しぶりだな。ウォードだよ」と、兄の名を名乗った。


「何の冗談なの?!兄は死んだのよ!!あなたなんて知らないわ!!さっさと出ていかないと警察を呼ぶわよ!!」


そんなキムの言葉にも、この見知らぬ男はどこ吹く風。

悠長な姿勢を崩す様子でもない。


苛立つキムは、警察に電話すると、署長である『バルガス』(ハーバート・ロム)が、直々に別荘へとかけつけた。


「見知らぬ男がやってきて、兄の名を語っているのよ!さっさと逮捕してちょうだい!!」


激昂するキムに、バルガスはあくまでも冷静沈着。


「失礼ですが、運転免許証やパスポートを見せて頂けますか?」


若い男は、やれやれ!とばかりに懐から、それを取り出して署長に見せた。


隅から隅まで、それに目を通すバルガス。


「何も不自然なところはございませんな」

「そんな……」青ざめるキム。


それでもキムは気を取り直して訴え続けた。


「兄は事故で死んだのよ!遺体の確認だって私が、ちゃんとしたんだから!!」


それでも男はそんなキムの言葉を待っていたように、

「自分の財布と車を奪ったヒッチハイカーが崖から転落して、今まで自分と勘違いされていたんだ」と、淡々と答えた。


署長のバルガスの目も、どんどんキムを訝(いぶか)しげに見つけはじめる。



その時、キムは兄の写真のことを思い出した。


「そうよ!兄の写真があるわ!私の部屋に!!それを見ればこの男がニセモノだって、ひと目で分かるはずよ!!」


だが、持ってきた写真は、今ここにいる、見知らぬ男の顔写真に変わっていた。


「どうして……? こんな…あり得ない!………いつすり替えたのよ?!」


そして、とどめは兄と同じように、その男の腕に彫られていた《錨》の入れ墨。


もはや、目の前の見知らぬ男を『ウォード・プレスコット』じゃないと疑うような証拠は何一つない有り様である。


バルガス署長は、狂人を見るような目でキムを見ると、「これまで!」とばかりに、そそくさと帰っていった。


そうして、別荘に残されたキムと、得たいのしれない《見知らぬ男》。


「いったい何が目的なの?!」

キムは恐怖して、階段を駆けあがると、自分の部屋へと逃げ込み、鍵をかけた。


叔父に電話するも、ずっと不通。


(まだ帰っていないの?それとも受話器がハズレているの?!)


言い知れぬ恐怖でガタガタ震えながら、キムの精神は限界だった。


考えて、考えて、そして疲れきって、いつの間にか眠ってしまったキム。


だが、キムの悪夢のような日々は、まだ、はじまったばかりなのだった……。



《埋もれていた、お宝のような映画を、きっと掘り起こす……》



このblogを始めてから3年以上経つが、自分が、こんなblogを始めた理由はそれだった。


そして自分は大のミステリー好き。



このblog、1940年代~50年代が多いと思われるだろうが、この時期がミステリー映画やサスペンス映画の傑作が集中しているためである。


その後にも、もちろん傑作と言われるミステリー映画は現れるのだが、《基本型》といわれるモノは、この時期で、ほぼ完成されているような気がするのだ。


これ以降は、現代の今に至るまで、それらの《変形型》や《亜流》、《バリエーション》みたいなモノだと、自分なんかは、そう考えている。



推理小説の世界でも、傑作が産まれているのは、同じように40年代~50年代のこの時期。


しかも、そのジャンルの本家と言われるイギリスでは、今現在に語り継がれるほどの傑作が、軒並み現れている。(アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』や『オリエント急行殺人事件』なども、ちょうどこの時期である。)



意外なトリック、


意外な犯人、


「アッ!」と驚くような大どんでん返し。


こんな本格推理小説の傑作が量産されていた当時のイギリスなのだから、そんなのが映画界にも影響しないはずがない。


隠れた名作と言われるミステリー映画は、まだまだ掘り起こせば、枚挙にあるはずなのである。


そんな数多く作られたイギリス産ミステリー映画の中でも、この一編も長い間、埋もれていた良品なのだ。



『生きていた男』……


この映画の存在を知ってから、数十年、念願叶って、この度やっと観る事ができた。


もう、観る前にあまりにも時間が経ちすぎていたので、この映画に関する内容も知りすぎていた感もあったのだが、それでも実際に観てみると、やはり、「オオッー!」なんてため息が漏れてしまう。


『イヴの総て』でベティ・デイヴィスと火花を散らしたアン・バクスターが、この映画でも大熱演。


リチャード・トッドなんか、ヒッチコックの『舞台恐怖症』でしか知らなかった俳優だが、この《見知らぬ男》の不気味さを、大袈裟にならずに淡々と演じていて、この映画でグ~ン!と株が急上昇。


この後も、

「これでもか!これでもか!」と次から次に追い詰められていく『キム』(アン・バクスター)にハラハラする。(アン・バクスターに感情移入しすぎて、もう、胃がキリキリするほどである)

通いの召し使いは辞めさせられて、代わりに現れたのは、見知らぬ男が勝手に雇った『ホイットマン女史』(フェイス・ブルック)と執事の『カルロス』。


あの信用している叔父すらも、「オオー!ウォードじゃないか?!生きていたのか!!」と見知らぬ男を兄だと断定してしまう始末。


(どういうこと? いったいどうなっているの?!)

もう、どんどん孤立無援に追い込まれていくキム。



緊張感は最後まで続いていき……そして、ラスト5分!


「アッ!」と驚く大どんでん返しが待ち受けている。



映画の終わりには、この映画のプロデューサーであり、『絶壁の彼方に』などで有名な俳優ダグラス・フェアバンクス・jr.が、コッソリ現れて一言。


「この映画の結末は誰にも言わないで下さいね」



こんなの言われたんじゃ、絶対に言えないでしょうよ。


でも、言いたい!!

う~ん、やっぱり言えない!!


この歯がゆさを当時の人たちは、どう伝えたのだろうか。



とにかく、この『生きていた男』も《どんでん返し》のジャンルでは、確実にマイ・ベスト・テンに入るような傑作だと言っておこうか。



『生きていた男』を観るまで、『生きていて』よかった~ (笑)。

星☆☆☆☆☆。




2019年10月10日木曜日

映画 「船乗りシンドバッドの冒険」

1946年 アメリカ。






※タイトルが『シンドバッド』だが、正確には『シンバッド』と発音する。(劇中でも主人公はシンバッドと呼ばれているし)




『シンバッド』(ダグラス・フェアバンクス・jr.)は、ある町中で、集まった人々相手に、それまでの7つの航海の冒険譚を気持ちよく演説していた。


中には、(もう、その話何度も聞いたよ……)なんて、ウンザリした顔の者もいたが、構うものか!


喉元に剣を突きつけて、無理矢理、自慢話を聞かせるシンバッド。



それでも、聞いている聴衆たちのテンションは、段々と下がってきていた。



(何とかせねば……)

状況に気づいたシンバッドは、自らの首に掛けている大きなメダルを見て、ふと思い出した。



「お前らに『デリアバー』の話を聞かせてやろう!」

「『デリアバー』?何だそりゃ?聞いた事ねぇぞ!」聴衆たちも興味をもったようだ。




それを見てホクホク顔のシンバッドは、語りだした。



「これから話す事は8つ目の航海の話だ………それは………」





こんな風に始まるシンバッドの冒険。


『アレキサンダー大王の秘宝』を求めて、いざ!航海に出るシンバッド。


この主人公、シンバッドを演じているのが、以前、このblogで紹介した、『絶壁の彼方に』に主演していた『ダグラス・フェアバンクス・jr.』なのである。




『絶壁の彼方に』しか観た事のない自分だったが、この『船乗りシンドバッドの冒険』では、180度、ガラリと違う印象にビックリ。



頭に金のターバンを巻いて、耳には金のイヤリング。

口髭、アゴ髭をたくわえて、胸もあらわな海賊の衣装に身を包んでいる。



瞳は、空の青さを思わせるようなブルー・アイズ。




そんなダグラス・フェアバンクス・jr.に、


「男なのに何なんだ?この色気は!?」


と思ってしまった。





まるで、往年の沢田研二のような、全身から醸し出すような色気なのである。






しかも、船上をピョンピョンと飛び回り、跳ね回る身軽さにも驚嘆してしまう。



船から降りる時も、クルンと1回転して着地。

そこからピョン!と跳ねたかと思ったら、窓辺にストン!と腰かける。




まるで体操選手並の身体能力なのだ。(本当に何者なのだ?この人!)






ヒロイン役のモーリン・オハラも綺麗。



その昔、映画『わが谷は緑なりき』を観ていて、久しぶりに観た気がした。


秘宝の手がかりを知る『シューリン姫』を演じているが、テクニカラーで撮られた、この映画ではオハラの赤毛が鮮やかに際立つ。


薄い透けるようなヴェールを羽織り、色とりどりの豪華な衣装に身を包んでいて、それだけでも観ている者を楽しませてくれる。





そして、そして、驚いたのは敵の王子役に、あの!映画『道』で有名なアンソニー・クインが出ている事なのだ。



若いアンソニー・クインは、シワがなくてツルンとした顔。(1915年生まれで、この時30を少し越えたばかりだしね。)



でも、野太い弓なりのマユゲは健在で、「若い時は悪役も仕方ないか~」って感じである。

歳とともに熟した『男の渋み』を身に付けるまでは、まだまだ道のりは遠い。




映画の最期、シンバッドの船から何発も撃ち込まれる火の玉で、哀れ絶命してしまうのだが。(いかにも悪漢らしい最期である)






映画の出来は、現代の我々から見ればお世辞にも素晴らしいとはいえない。


お話も少々陳腐だし、テクニカラーも、ややボヤけてくすんでいる。





でも、当時は画期的だったんだろう。


長い戦争が終わって、人々はきらびやかな物、華やかな物に飢えていた時代。

ダグラス・フェアバンクス・jr.のシンバッドが、大袈裟に身ぶり手振りで演じているのを、当時の人々はおもいっきり楽しんだはずだ。




「さぁ、戦争は終った!観客は我と一緒にこの冒険に身を委ねようじゃないか!」



フェアバンクスが、画面いっぱいに跳び跳ねる姿を観ながら、こんな風に呼びかけているように見えてしまう。





こんな映画なれど、人々を元気つけて映画は公開当時ヒットした。


ダグラス・フェアバンクス・jr.もアメリカ人として、後に、初めて『サー』の称号をイギリスから与えられる。




決して簡単にバカバカしいと切り捨てられない映画。


ん~、星☆☆☆なのであ~る。

2019年6月16日日曜日

映画 「絶壁の彼方に」

1950年 イギリス。







ボスニア・ヘルツェゴヴィナ』という国をご存じかな?


東ヨーロッパはバルカン半島の北に位置する国で、1992年にユーゴスラビアから独立。


三角形の形の国土が特徴的な小国である。




なぜ、冒頭に、いきなり、こんな話を始めたかというと、この映画に『ボスニア国』なる国が出てくる為である。




この『ボスニア・ヘルツェゴビナ』と『ボスニア国』、この2つは 一切関係ない



この映画が作られた時(1950年)には、もちろん、『ボスニア・ヘルツェゴビナ』という国も、まだ存在していない。



この映画の、

ボスニア国』、まったくの架空の国なのである。



その『ボスニア国』で、大勢のボスニア人たちが、喋り倒すボスニア語も、一から全て作り出した創作の言語というのだから、もう驚くしかない。


シドニー・ギリアット監督……恐ろしいほど、凝り性なのである。






『ボスニア国』では、大勢の群衆たちが大広場に集まり沸き立っていた。


海外からもリポーターが来ていて実況中継している。


独裁者として、今まで思うように権力を振るってきた『ニバ将軍』が、選挙演説しようとしているのだ。




バルコニーに、颯爽と姿を現したニバ将軍。

それを囲うように集まった群衆たちからは、大歓声が沸き上がった。(イヤな国だ)




一方同じ頃、イギリスでは、アメリカ人外科医『ジョン・マルロー』(ダグラス・フェアバンクス・Jr)が、1通の手紙を受け取っていた。




(いったい誰からだろう……)

心当たりのない手紙には、あのボスニア国『ニバ将軍』の切手が貼られている。




開封してみた手紙には、マルローの、これまでの業績を称えて、ボスニア国にて金杯授与を行いたいという申し出だった。



そして、マルローの手術法『内脈膨張症治療』を「大変素晴らしい!」と絶賛し、誉めちぎっていた。(「まぁ、悪い気はしないなぁ~」と少し照れ気味のマルロー)




しばらくすると、今度は、マルローの元に、ボスニア国の公使が、直々訪ねてきた。


「お願いします、マルロー博士。是非に我が国ボスニアで公開手術を行っていただきませんか?」


いきなりの提案に驚くマルローだったが、公使は「できたら1週間後にでも……」と、さらに熱心に急かしてくる。


とうとう根負けしたマルローは、『ボスニア国』を訪れる事にした。





そして、遠い異国の地ボスニアにて、手術の日。


マルローが手術をするのは、老人の患者だった。


政府関係者や大勢の人々に見守られ、メスを握るマルロー。

手術は無事に成功した。




でも何かがおかしい。


「おい!その患者の顔をめくってくれ!」

マルローの指示により、気が進まない看護師は患者の顔にかけられていた布をめくった。


そこに現れた顔は、老人とはまったく別の人間、あのニュースで騒がれている『ニバ将軍』の顔だったのだ。



「どういう事なんだ?!まるで話が違うじゃないか!!」

大声で叫ぶマルロー。




その時、誰かがマルローの頭をぶん殴った。

マルローは気絶して意識を失った……。





次に目を覚ましたマルローは部屋の一室で椅子に座らされていた。


後頭部を押さえながら、うっすら目を開くと、目の前には、この国で大臣も兼任している『ガルコン大佐』(ジャック・ホーキンス)が目の前にいた。


「お許しください。先生には将軍が完治するまで、この国にいていただきます」




メディアや大衆の前で演説をしていたのは、そっくりな《影武者》だったのだ!


本物ニバ将軍の容態はドンドンと悪化していき、まさに死の間際。


ニバ将軍に心酔していたガルコン大佐は(なんとかせねば …… )と考えだした。



国民には事実を隠しておいて、陰でこっそりと手術を行う。




この為に、マルローは呼び寄せられたのである。





ガルコンの口調は穏やかだったが、それは有無を言わせぬ命令のようにも聞こえた。



「冗談じゃない!すぐに帰らせてもらう!」

だが、マルローが部屋のドアを開くと、ドアの外では軍服を着た兵士たちが待ち構えている。



「お分かりでしょう、先生には当分ここに居ていただきます」


ガルコン大佐は、落ちついた口調で言うと部屋から出ていった。




万事休す!八方塞がり!


自分は独裁者の罠にハマり、監禁させられたのだ。



逃げ出す術すらもない。


マルローは諦めて、ニバ将軍の術後を見守る事にした。





数日が過ぎ、ニバ将軍の状態も安定している。


だが突然、ニバ将軍の状態が急変した。



「酸素マスクを早く!」

現場は騒然として、出来うる限りの処置にあたった。



だが、その甲斐もなく、ニバ将軍は、あっさりと亡くなってしまった。



別の合併症をおこしていたのである。



「こんな……この後、いったいどうすれば……」茫然としているガルコン大佐。

ニバ将軍に、身も心も心酔していたガルコンは、しばし脱け殻のように死体を見ていた。




そして、ハタッ、と気づいた。

マルローの姿がない!


マルローは皆が気をとられているうちに、

「この隙に……」とばかりに、とっくに逃げ出していたのだ。(スタコラ)



そして世話係のアンドレが運転する車に、一目散に乗り込むマルロー。


「すぐに車を出してくれ!!」

マルローを乗せた車は、屋敷の庭を全速力で出ていった。




それを、急いで追いかけるガルコン大佐。



車は、海の見える岸壁の急カーブを猛スピードで走り抜けていく。


「もっと早く!もっと急いで!!」

叫ぶマルロー。


(捕まったら自分は、まちがいなく処刑される……何としてもこの国を出なくては………)




こうして異国の地『ボスニア』で右往左往。


たった一人、孤立無援なマルローの逃亡劇が始まったのである…………






この映画も、シドニー・ギリアット監督の名作として、名前だけは知っていました。


今回、こうして観ることが可能になったわけだが………




ヤッパリ期待を裏切らないくらい面白かったです。(脚本から始めたギリアット監督だからこそ、筋立てがうまいのだ。)



マルローの逃亡も、車からバスに乗り換えて、床屋→劇場とあらゆる場面に移っていく。



やがて、味方として劇場のミュージック・ホールの歌い手『リザ』(グリニス・ジョンズ)を、自分の逃亡の道づれに巻き込んでしまうマルロー。



「お願いだ!同じ米国人として助けてくれ!!」

と、リザの控え室にひょっこり現れて、必死に頼みこむ。



「私は関係ないのよ、出ていってちょうだい!」とリザが言うのだが(当たり前だ)、それを、「まぁ、まぁ……」と強引に逃亡に引っ張っていく『マルロー』(ダグラス・フェアバンクス・jr.)の伊達男っぷりよ。



リザも、ハンサムなマルローにブツブツ言いながらも、ついつい、ほだされて付いていってしまう。



この二人の珍道中は、やがて、ロープウェイで山に登っていき、そこから国境越えの為の険しい断崖絶壁の山越えとなっていくのである。


二人は無事に脱出できるのか!





ダグラス・フェアバンクス・jr.』……父親のダグラス・フェアバンクスも俳優で、同じ名前。


今まで、どっちがどっちか、混同していたが、今回やっと判別できるようになりました。



中々、シャープな顔つきをしていて、jr.の方が、父親よりも超二枚目でハンサムさんである。



戦前から、活躍していたダグラス・フェアバンクス・jr.だったが、実質、この『絶壁の彼方に』が、どうも俳優としては最後の作品だったらしい。(この後は裏方として映画製作に関わっていく)



リザ役の女優グリニス・ジョンズは、どこか、映画『道』に出ていたジュリエッタ・マシーナに顔立ちが似ていて、美人というより可愛い系。(ちょっと声がアニメ声なのが残念)




映画は、まるで、数年後にヒッチコックが撮った『北北西に進路をとれ』を先取りしているようなくらい、全編にハラハラドキドキ感が満ち溢れている。




まだ、こんな映画が残っていたとは……



星は☆☆☆☆☆である。(面白いよ)


※そして、架空の国の設定も、この映画が先駆けだろう。



安易に、悪役として、ナチスやヒトラーを出せばいいと考えている、どこかの映画人たちは、このギリアット監督の創作力、見習ってもらいたいものである。