2022年1月26日水曜日

ドラマ 「花園の迷宮」

 1988年  3月。





「気に入らないねぇ …… そのホクロは《呪いホクロ》さ。今にきっとよくない事がおきるよ」


昭和7年(1932年)、若狭の漁村から、横浜の遊郭『福寿』に売られてきた二人の少女。


『美津』と『ふみ』(斉藤由貴)。


二人は緊張の面持ちで、女主人『多恵』(岡田茉莉子)と、女郎たちを束ねる遣り手(やりて)の『お民』(初井言榮)の前で面通しされている。


そんな二人に、無遠慮なお民はふみを見据えながら、こんな風に言い放ったのだ。


(しょうがないじゃないのよ …… 生まれつきのホクロなんだもの …… )


そこへ、とりなすように多恵が、

「まぁ、まぁ、民さん、二人とも可愛いじゃないのさ」と割って入った。


「フン!」とふてくされるお民の横で、多恵の言葉は続く。


「とにかく美津は18歳で、明日からでも《顔見せ》に出れるね。ふみは、まだ17歳か …… しばらくは下働きしてもらうよ。二人とも下がっておいで」


多恵の言葉に座敷から、そそくさ去る二人。

その奥では、まだお民の愚痴がブツブツ聞こえている。


「全く!昔なら14、5で客をとれたものを …… お役人の決めた法律で18からじゃなきゃダメだなんて。やりにくい世の中になったもんだ」



二人は自分たちの狭い部屋に戻ると、ひとまず「ホッ!」と息をはいた。


いくら覚悟して売られてきたとはいえ、まだ年端もいかない娘たち。

そんな不安をふみが言葉にすると、美津からは意外な言葉が返ってきた。


「あんな寂れた村に帰ってどうするの?私はここで立派に稼いでみせるわ!」


(お美津ちゃんは大人だ。あたしよりもしっかりしている ………なら、あたしもここで頑張って生きていかなきゃ ……… )


こんな美津の叱咤に、決意を新たにする『ふみ』。

次の日から、台所仕事、掃除、遊女の使い走りと懸命に働きはじめる。


だが、ふみは、この時まだ知らない。

この『福寿』で、この後に起こる凄惨な《殺人事件》のことを ………





原作は1985年に発表されて、翌年、江戸川乱歩賞を受賞した山崎洋子の『花園の迷宮』。


その昔、江戸川乱歩賞を受賞した作品に凝っていた時期があって(またもや)、この小説も御多分にもれず読んでみて、面白かった記憶がある。


江戸川乱歩賞を受賞すれば、作家として大々的に売り出されるし、映画化やドラマ化もされるという、なんとも優遇された時代である。(まぁ、昔は本もバカ売れしていたしね)


この小説も即、映画化がされるのだが、江戸川乱歩賞を受賞したとはいえ、まだまだ新進作家。



映像と小説は別物とはいえ、トンデモない改変 をされてしまう。(ゲゲッ)


小説の舞台、昭和7年は→昭和17年に。

主人公は遊郭に売られてきた少女『ふみ』なのに、『ふみ』から→女主人の『多恵』に変更。



その多恵を島田陽子が演じて、内田裕也とのデレデレ・シーンがながれるものだから、もはやタイトルだけは同じでも、完全な《別もの》に映画は仕上がっている。(『ふみ』役の工藤夕貴は、居ても居なくてもいいような脇役扱いである)


それに誰も彼もがドレス姿で、《遊郭》って雰囲気は全くゼロ。(やっぱり《遊郭》といえば着物でしょうよ)


昭和17年の設定すらおかしく思えて、「コレ、いったい何時代の話なの?」と、違和感だらけに思ったほどである。




オマケに、映画はコケて(当たり前だ)、島田陽子と内田裕也が現実でも公然の不倫関係。


特に内田裕也の方がメロメロ♥️♥️で、樹木希林を無視して、勝手に離婚届まで出してしまう始末。


それに、これまた、妻の樹木希林もカンカンに怒って、離婚届を無効にするよう裁判沙汰。


もうドロドロの愛憎劇で連日マスコミは大騒ぎ。(結局、二人の不倫は後に解消されるのだが💔)



当時は、こんな話題ばかりが先行されて、『花園の迷宮』のお話は、完全に置いてけぼりにされた感があったのでした。(ダメだ、こりゃ)



こんなトンデモ映画の公開が1988年1月。

それから2ヶ月遅れて、やっと原作どおりのドラマ化(日本テレビ『火曜サスペンス劇場』枠)が放送される運びとなる。


私なんか、完全に原作フアンだったので「やっとか ……」という想いと、主演が斉藤由貴という事で、放送当日は鎮座して待ち構えておりました。(今思うと、本当に後悔。なぜ?録画しとかなかったんだろう?)


一回きりの視聴ゆえ、冒頭に書いた序章は「多分、こんな風だったはず ……」と、あまり自信のだが、原作を読んでいるので大体合ってるはずである。



『ふみ』(斉藤由貴)は下働きをしながら、やがて女主人『多恵』の一人息子『陽太郎』(田中隆三)と親しくなっていく。


いつでも、ぶらりと外へ飛び出して、年中遊び歩いている陽太郎は、根っからの風来坊。


(全く働きもしないで …… いったい何考えてるのかしら)


そんな『ふみ』の視線に気づいたのか …… 陽太郎の方も、ふみの姿を見れば話しかけはじめて、自然と茶々を入れてくるようになる。

「変わった奴だ」と。



そんな生活を送る日々で、ある日、美津が客の男と一緒に亡くなってしまう。


《痴情のもつれの無理心中》 …… 誰もがそう思った事件だった。


そんな中で、

「違う!お美津ちゃんが死ぬはずがない!お美津ちゃんは誰かに殺されたんだ!」と、一人『ふみ』だけが声を荒らげて納得しない。


「うるさいね!ガタガタ言うんじゃないよ!!遊女の一人や二人が亡くなったからって遊郭じゃ、よくある話さ。お前の幼なじみが死んで損してるのはウチなんだよ!黙りな!!」



遣り手の『お民』(初井言榮)は、にべもなく、ふみを怒鳴り付ける。(あぁ、合う画像が見つからない。ゴメンなさい )


だが、誰に言われても引き下がらない『ふみ』は、素人探偵よろしく、ドロドロとした情念が渦巻く遊郭『福寿』の中で、事件にドンドン深入りしていく。


時には、陽太郎に憧れる遊女たちの嫌がらせに合ったりしながらも。(女の敵は女)


やがて起る、第2、第3の事件。

果たして《真犯人》は誰なのか?!………




こんなのが本来の『花園の迷宮』のあらましである。(本当に、あの素っ頓狂な映画は何だったんでしょう ( 笑 ) )


このドラマ、『火曜サスペンス劇場』枠の放送なれど、日本テレビ開局35周年作品と銘打たれていたので、とにかくセットが豪華。


忠実に、原作に出てくるような昭和初期の町並みを、大々的にセットを組んで、完全再現していた。(今思うと、相当お金がかかってるし、贅沢なドラマ化である)



主演の斉藤由貴にしても、この時期で久しぶりに活き活きしてるように見えた。


『スケバン刑事』、『はね駒』と立て続けに大ヒットをとばして、古巣のフジテレビに戻ってきても、ろくなドラマの主演ばかり。(『あまえないでよ!』、『遊びにおいでよ!』駄作のホーム・コメディーばかりでした)


ごく普通のホーム・ドラマ、恋愛ドラマじゃ、この人にはダメなのだ。



非現実的なキャラ設定(『スケバン刑事』、『吾輩は主婦である』)、時代モノ(『はね駒』)こそ、彼女の本領を充分に発揮できると、今じゃ確信している。(本人も浮き世離れした性格だしね)



物語のラスト、全ての事件が解決して遊郭『福寿』は店をたたむことになり、皆が散り散りに去っていく。


「お前は自由だ。これから好きな所に言って生きていくんだ」


陽太郎に言われて、町中の雑踏を歩き出す『ふみ』。


原作では、そこで足を止めて、人混みの中、陽太郎の姿を探して、後を追いかけてゆく『ふみ』の描写で終わったはずなのだが、ドラマではどうだっただろうか。(このあたり、記憶があやふやで ……… 変わり身の早い斉藤由貴ゆえ、振り返りもせず、スタコラ去っていったか?( 笑 ) )



なんにせよ、もう一度、記憶補完に見直してみたいドラマである。


DVD化希望。

星☆☆☆☆。


《 昭和初期 横浜遊郭街 》

2022年1月16日日曜日

ドラマ 「岸辺露伴は動かない(2021年)」

 2021年12月27日〜29日。(全3話)






やっぱり、やると思っていたら、やってしまいました第2弾。



そりゃそうでしょうよ。

前回の放送終了後は、あれだけ反響が大きかったし、各メディアでも、ごぞって大絶賛していたしね。



実写化でも、この『岸辺露伴』は、稀に成功した部類なのだから。(ジョジョ4部を映画化した、どっかのアホな制作陣たちは、この成功をどう思っているのか …… 意地悪だが聞いてみたい気がする)





第2弾ともなれば、主演の高橋一生飯豊まりえにも固定フアンがついているし、堂々としたもの。

安心して観れました。




他人には心開かずに、とことん無愛想で、ともすればイヤ〜な性格に映りそうな《岸辺露伴》を、高橋一生は、ギリギリのところで好演していて、本当に感心する。





あちこちの場面では、「これは《ジョジョ立ち》じゃないか?」なんてポーズまで、自然な形で取り入れているし。(心底ジョジョのフアンなんだろう)


※《ジョジョ立ち》とは、現実世界ではとらないようなジョジョ・シリーズ独特のポージング。妙な形に関節を折り曲げていたりして、その見た目は、とても苦しそうである。





それに、この高橋一生、一見ガリガリ君で痩せ細って見えるが、ちゃんと鍛えておりまする。(4話『ザ・ラン』のトレーニングや走りっぷりも板についてるし、普段から相当に鍛錬してるんだろう。俳優さんも大変である)





今回も、原作のエピソードを借りてきながら、脚本にまとめているのは、ベテラン小林靖子さん。



原作の『ザ・ラン』、ジョジョ4部からのエピソードを改変した『背中の正面』ときて、

それらの話が、最終の6話『六壁坂』に集束されるよう構成されております。




『ザ・ラン』で、走る事に取り憑かれて理性のタガが外れた『橋本陽馬』(笠松将)も、

『背中の正面』で、得体の知れない何かに背中を乗っ取られた『乙雅三』(市川猿之助)も、


全ては、神聖な場所である『六壁坂』を、汚したり、禁忌を破った為である?と、まとめられている。(何だか今回ばかりは、だいぶ無理がある設定にも思えるが ………《露伴》のフアンには、特に気にならないのかな?)




まぁ、そんなウヤムヤな感じも『岸辺露伴』の持ち味なんだけどね。





それにしても、原作者の荒木飛呂彦も、やっぱりロアルド・ダールの小説が好きなのかなぁ~。



前回、このblogでも取り上げた『南から来た男』のように、ロアルド・ダールの短編には、恐ろしさの中に、奇妙な味わいのある話が多いのだ。


漫画の中で、狂言回しに『岸辺露伴』をしても、描こうとして目指しているモノは、《ロアルド・ダールのような物語》にも思えるのだが。





そんな『岸辺露伴』の原作も、残りわずか。

今年も描き継がれるのか …… そして第3弾もあるのか?



なんにせよ、こんなに成功したコンテンツをNHKも簡単には手放すまい。(紅白も調子悪いし)



第3弾もあることを期待して。

平均点、星☆☆☆。



※それにしても、『ザ・ラン』の笠松将さんの髪形、ちと、やり過ぎなんじゃ (笑)  


いくら漫画の登場人物がヘンテコな髪形をしてるからといっても、さすがにコレは ………



鍛え上げられた肉体よりも、葉っぱが突き刺さったような🌱特殊な髪形ばかりに目がいってしまいました。(どうやってセットしてんだコレ? 今年、流行るのか?! (爆笑) )




2022年1月11日火曜日

ドラマ 「南から来た男」

 1985年 アメリカ。(新・ヒッチコック劇場より)





前回の百恵ちゃんのドラマ『北国から来た女』を書きながら、「あ〜、そういえば、コレと相反するようなタイトルのドラマもあったっけ …… 」と、急に思い出した。



それが、この『南から来た男』。



奇妙な味わいの短編を得意とする作家ロアルド・ダールの名作中の名作であり、これまでに何度か映像化されております。


特に『ヒッチコック劇場』では、1959年の最初に映像化がされて話題になったという。


テレビドラマなのに出演者が豪華で、あの、スティーヴ・マックィーンピーター・ローレが出てるそうな。(マックィーンの当時の奥さま、ニール・アダムスも御出演)


いつか観てみたいものだが、残念ながら未見である。



私が観たのは、80年代にリメイクされた、『新・ヒッチコック劇場』の方。(コチラは当時ビデオ化されていた)


コチラも出演者は、中々の面子が揃っていて、なんなら1959年版よりも上かもしれない。


なんせ、『マルタの鷹』などの映画で有名な、ジョン・ヒューストン監督が、じきじき俳優として演じているのだ。(上記、写真)


他にも、


☆スティーヴン・バウアー(メラニー・グリフィスの当時の旦那さん)


☆メラニー・グリフィス


☆ティッピ・へドレン(メラニーの母親でいて、ヒッチコックの『鳥』『マーニー』に主演)


☆キム・ノバァク(ヒッチコックの『めまい』に主演)

などなど …… そうそうたるメンバーが出ている。


でも、そんな中でも、やっぱり、ジョン・ヒューストン監督の演技。

鬼気迫る迫力に圧倒されて、ビビってしまう。


そのくらい、怖い、怖〜いお話であ〜る。





眠らない街 ……… 夜のラスベガス。


カジノで負けて、スッカラカンの若い男(スティーヴン・バウアー)。


同じようにスッカランなった若い女(メラニー・グリフィス)が、オバサンのウェイトレス(ティッピ・へドレン)に嫌味を言われているのが、偶然、男の耳に入ってきた。


「あんた、あんなにボロ負けして …… ちゃんと金はあるんだろうね?  無銭飲食しようとしてるんじゃないのかい?」


若い男はなけなしの金で、若い女の食事代を払ってやると、うるさいウェイトレスを追い払ってやった。


「ありがとう」

「いや、…… 吸うかい?」

若い男は、女に煙草をさしだすと、ライターで火をつけてやった。


「立派なライターね」

「残ったのは、煙草とこのライターだけさ。」

同じようにボロ負けの境遇が二人を近づけるのか …… 同病相憐れむの感情で、二人の会話は弾みだした。



そんな二人を、さっきから遠目で伺っていた一人の老人(ジョン・ヒューストン)。


老人は近づいてくると、二人の会話に強引に割り込んできた。



「ほぉ~、こりゃ立派なライターだ。でも、ちゃんと点くのかね?」


「当たり前さ。オイルはちゃんと入ってるし消えた事もない」


「ふむ …… 大したライターだな。どうだい?私と、ひとつ《賭け》をしないか?」


「オッサン、あんたがいったい何を賭けるっていうんだ?!」


老人は表に停めてある車を見せに、二人を連れていった。


「こりゃ、立派な高級車だ!」


「乗ってみるといい」

若い男も女も座席に座って、すっかり、はしゃいで興奮している。



「君が《賭け》に勝てば、この車をあげようじゃないか。な~に、賭けは簡単だ。君の持っているライターが、10回連続で点火すれば君の勝ち。1回でも消えれば君の負けだ」


「へ〜え、そりゃイイや。で、俺の方は何を賭けるっていうんだい?」

浮かれてる若い男に、老人は思わぬ要求をしてきた。


「負ければ、君の《小指》を貰う …… 」


「えっ?貰うって?」


もちろん、ぶった斬って貰うのさ


トンデモない《賭け》に、若い男も女も、たちまち青ざめてくる。


「正気じゃないわ!」若い女の叫び声を無視して、老人は更に詰め寄ってくる。



どうだ?やるか、やらないか?!


若い男はしばらく黙っていたが、「 …… 分かった!やってやろうじゃないか!!」と、とうとう賭けに応じた。



老人は喜々として、

「そうか!やるか!なら、私の部屋に来てくれ。風が入ってこないような場所がいいからな。ついでに君は、この《賭け》の立ち会い人になってくれ」と、側にいた見知らぬ男にお願いした。




若い女は男を止めようと必死だ。

「バカよ!あなた!こんな《賭け》にのるなんて …… 無茶もいいとこだわ!!」


「なぁ~に失くしても小指の一本だけだ。それに上手くいけば、あの車が手に入るんだぜ」


男はあくまでも楽観的に考えようとする構え。





だが、いざ、老人の部屋に来ると、異様な緊張感が迫ってくる。


立ち会い人の男も、若い女も、そして賭けに応じた男もピリピリしている中、老人だけが一人浮かれて楽しそうだ。



老人はテーブルに釘を二本打つと、その釘と釘と間に男の左手を押し当てて、入念に紐で縛りあげた。




「途中で手を引き抜かれたんじゃ、困るんでね」

老人はニコヤカに話しながらも、右手には、すでに肉切り包丁を握りしめながら待ち構えている。




その光景に、またもやゾゾ〜ッとする、立ち会い人と若い女。


賭けに応じた男の顔からも、冷や汗が滴り落ちる。





「さぁ、はじめてくれ!」



1回目の点火は、カチリ!の音をして無事に点いた。

高い炎が燃えあがる。



蓋をして、そして2回目も見事に成功。


3回目、4回目、5回目 ………



もう誰も喋る者などいない。

静けさの中で、ライターのカチリ!と鳴る点火の音だけが響いている。




そうして、いよいよ、ラストの10回目!




皆が、その一点を見つめながら、カチリ!の音と、ともにライターは ……………





無事に点火したと思ったら、一瞬で、火がスーッと消えたのだ!




老人が喜々として笑いながら、高く振り上げる肉切り包丁!


その時、部屋の戸口から入ってきた女の声が、それを引き止めた。



おやめなさい!カルロス!!


その声に、老人の振り上げた右手は、ピタッと止まり、包丁を握る手は、力なく降ろされた。

老人は背中を向けて、しおれた首を垂れている。



若い男は紐で縛られた左手を引き抜くと、青ざめながら、右手で、左手をかばうように擦(さす)っていた。



老婦人(キム・ノヴァク)は、そんな若い男や女たちのテーブルに近づくと話しだした。





「なんて馬鹿なことを……若いからって、あなた方、無茶もいいとこだわ。この男は、今までに47人から指を奪ってきた男なのよ」



その話を聞いて、またもや青ざめはじめる面々。



「でも、そんな事は二度とさせないように、この男の財産は私が全て取り上げたわ。表に停めてある車だって私のモノよ。この男は無一文なの」



老婦人の話は淡々と続く。


「でも、おかげで、その代償は高くついたわ」


老婦人は手袋を外して、その手を静かに、テーブルに置いた。



その左手には、人差し指がポツンと、一本だけ残されていたのだった ………








ゾワワワァ~!っと、一変で身の毛のよだつような話でしょう?



コレ、けっこうインパクトのある話で、ロアルド・ダールの短編としては、かなり有名な作品。



いつもはネタバレしないけど、今回は特別に最後まで書いてみました。(何度も映像化されてるし。でも、コレも、いまだにDVD化されていないんだよなぁ~)



ロアルド・ダールの小説は、こんな捻りの効いたオチがある短編の宝庫である。(興味がある人は、是非読んでね。)



このドラマにしても、確か30分くらいだったはず。


ただ、ドラマの方は『小指切断ゲーム』なんていう、まんま内容を語るような味も素っ気もないタイトルに変えられていたのが、少々残念。(『南から来た男』の方がずっと良いので、このblogにおいては、こっちを採用しとく)



最近のダラダラ長いだけで、伏線も回収しないまま終わるようなドラマには、少々ウンザリ。




短くても、スパイスのピリリと効いたドラマ、いつまで経っても印象深いドラマ …… こんなドラマに、令和の時代もお会いしたいものである。


星☆☆☆☆。(※無謀な《賭け事》には、どうぞ、ご注意なさいませ!)

2022年1月9日日曜日

ドラマ 「北国から来た女」

 1979年 4月25日。





これは『日本の女シリーズ』と銘打った平岩弓枝の名作ドラマの一本で、今回運良く視聴できました。


主演はもちろん、山口百恵ちゃん。




幼い頃に父を亡くし、病床の母も亡くなってしまった『宮川あずさ』(山口百恵)は、天涯孤独の身の上。


東北は青森から、はるばる上京してきた『あずさ』は、しばらく住み込みの店で働くことになった。


そこは、気の良い夫婦(小鹿番、野村昭子)が経営していて、従業員はあづさの他に『照子』という若い女性がいるだけの、下町の小さなラーメン店🍜


そんなラーメン店でも、愚痴一つこぼさずに、クルクルと働く『あずさ』(百恵ちゃん)である。(こんな可愛い店員が世の中にいる?(笑) )



今日も店はテンヤワンヤの忙しさ。(百恵ちゃん効果なのか)


外は大雨で、出前から帰ってきた照子が全身びしょ濡れで帰ってきた。


「ちょっと、あずさ!この集金してきたお金、レジに入れておいてちょうだいね!」


カウンターに封筒をポン!と置き、それだけ言うと照子は、そそくさと奥の座敷に着替えに行ってしまった。


「あ、ハイ!」と生返事するも、お客の接客でてんてこ舞いの『あずさ』は、いつしかそれも忘れてしまい …… しばらくすると、


無い!無いわ!集金してきた3万5千円が!」


着替えを済ませて、店に戻ってきた照子が大騒ぎしだしたのだ。


「なんで、あんたそんな所に置いたのよ?」カウンター奥から店主夫婦もやって来て、大金が消えた事に、店内は騒然としだした。


「あんたのせいよ!どうしてくれるのよ?!」

執拗に責める照子に、あずさが下を向きはじめると ……


若い男性客の一人が、スックと立ち上がって、胸元から3万5千円を取り出したのだ。


「あの、コレ、よかったら使って!」


あずさの手の平に、それを押し付けて持たせる。


突然の出来事にあずさはビックリ!

店主夫婦も照子も呆然としている。


そうして、男は飛び出すように、雨の外へ走り去っていった。


「ちょっと何なのよ~、アレ …… 」(『家政婦は見た』の大家さん役、野村昭子の声で再生ください  (笑) )


こんな見ず知らずの人からのお金なんて、到底手をつけられるはずもない。(まぁ、不気味だしね)


生真面目なあずさは、「私のお給金で必ず、お支払いしますから!」と店主に約束する。



そうして、それからも、いつにもまして懸命に働くあずさ。

店には、そんなあずさに感心して、目をとめる年配の夫人(乙羽信子)の姿があった。



夫人は店主夫婦の所へ行くと、「あの〜今、出前に行かれたお嬢さん、アルバイトか、なにか?」と話しかけてくる。


「いえね、ウチの若いモンに1週間ばかり休みをやっちまったもんで、その間だけね。ウチの照子っていう従業員の幼なじみなもんで置いてやってるんですよ」


「あら、じゃあ~、ウチに来ていただけないかしら?」

店主夫婦は突然の申し出にビックリ。


「ウチもお手伝いの子が結婚して辞めてしまったものでしてね …… 主人と二人で寂しい想いをしていたんですよ。是非お願いしたいわ!」



こうして棚からぼた餅。


夫人の住む『宗方家』に《住み込みお手伝いさん》として働く事になったあずさ。


ただ、気がかりなのは、あの《3万5千円》の男のこと ……




「もし、あの人が、また、この店に来たら私が宗方家の屋敷で働いていること伝えてもらえませんか?どうしても、あのお金をお返ししたくて …… 」


「あぁ、安心しな!伝えとくよ!」


立派なお屋敷『宗方家』へ向けて。


あずさの新生活がはじまる!





やっぱり、ラーメン屋の店員は、百恵ちゃんには合わない!(泉ピン子にさせとけばよい (笑) )



それにしても、お手伝いさん姿の、この百恵ちゃん、『めぞん一刻』の音無響子にそっくりだ。(髪を結んだ百恵、エプロン姿の百恵ちゃんも珍しい)


こっちの方が断然可愛らしいです、ハイ。




以前、このblogでも取り上げた東芝日曜劇場美しい橋』にしても、このフジテレビの平岩弓枝ドラマシリーズ『北国から来た女』にしてもだけど、わずか1時間で完結するようなドラマ枠に、百恵ちゃんが出演できたのは、今思うと幸運だったかもしれない。



そのくらい、こういった単発、短時間ドラマには、名作が揃い踏みなのだ。



とにかく1時間で完結するドラマなので、物語の起・承・転・結を見せる為には、練りに練られた高度な脚本作りが求められる。



たった1時間の間で、主人公や登場人物たちの性格や背景を描いてみせて、山場、着地点まで持っていかなくてはならないのだから、脚本家にしても相当の筆力を要されて、鍛え上げられただろうなぁ~、と思うのだ。(ある意味、精鋭たちの実力が試される場所だったかもしれない)



演出家にしても、その見せ方で大いに悩んで試行錯誤があったはず。

良作が揃うはずである。




もちろん、俳優陣たちも同じで、飛び抜けた個性や演技が求められる。




ラーメン屋の店主夫婦はさすがの安定感だ。


ごく最近、荒木由美子さん主演の『燃えろ!アタック』を観ていて、主人公『小鹿ジュン』(荒木由美子)が居候する酒屋の主人を演じていた小鹿番さん。


小鹿番さんは、ここでも好演。




チャキチャキのラーメン店主を演じている。(こんな俳優さん、最近見かけなくなったなぁ~)



野村昭子さんは、昔も今も、まるで時が止まっているかのように全然変わらない容姿と演技。(ある意味凄い!「化け物か!」と思うくらい)







あずさが世話になる宗方家の夫婦も重鎮が揃う。




宗方家の旦那様を中村翫右衛門(なかむら かんえもん)

この方、歌舞伎役者でいて、昔から数々のドラマに出ております。(今じゃ、もう知る人も少ないだろうな。けっこう時代劇にも出ておりました)


飄々とした演技で、乙羽信子演じる奥さまの尻に敷かれる、人の良い旦那様を演じております。(「あっ、そう …… 」が口癖)




そうして、乙羽信子さん。



それなりに苦労をしてきて、人の痛みも分かるし、『あずさ』(百恵)を可愛がりながらも、旦那様(中村翫右衛門)を気遣う優しさを持つ、品の良い夫人役である。




でも、こんなのはセリフのどこにも書いてない事なのだが、ソレを、その《雰囲気》だけで、一瞬で視聴者に感じさせなければならないのだ。


特に1時間の完結ドラマでは、そのハードルは、ものすごく高くなる。


名優じゃなければ、とても務まらない仕事ぶりである。




そんな面々に最後に加わるのが、夫人の甥っ子で、ヘラヘラした男『山本伊勢(いせ)』(中島久之)。(『あずさ』に「痴漢よぉーー!」と間違われる始末)



土曜になれば、子供のいない寂しい宗方夫婦の元へ訪ねてくる心優しい男なのだけど……



(でも、なんでこんなにヘラヘラしてるのかしら? …… いつもニヤニヤしていて、イヤな感じ)

と、全くあずさにはウケが悪い。




「あんたが変な金縁メガネなんてかけてるから、痴漢に間違われるんだよ!」と夫人に言われても、

「酷いなぁ~、似合うと思ったんだけどなぁ~」と、やっぱりヘラヘラ笑ってる。



こんな感じで、あまり印象が良くない『伊勢』なのだけど、段々と好印象に …… (『赤いシリーズ』じゃ損な役回りだったけど、このドラマでは役得の中島久之さん)




夫人に、あずさの事を紹介したのは、そもそも『伊勢』だったのだ。(ラーメン店の常連だったらしい)



それに《3万5千円の男》と偶然再会して、知ってしまう男の正体。(そもそも盗んだ金を、ただ返しただけだったのである。ゲゲッ!なんじゃ、そりゃ!)




「俺は見ていたんだからな!正直に白状しろ!」

あずさの目の前で、いつもはヘラヘラしている『伊勢』は、その男をとっちめるのだ。(もう、株は一気に急上昇する!)



(この人、見かけによらず、ちゃんとした人なのかも …… )と思いはじめた『あずさ』(百恵ちゃん)。



そうして、宗方家に帰ってきて、皆で一家団欒を楽しんでいると、突然、地震が!



「みんな、テーブルの下に隠れるんだー!」





テーブル下で、いつしか伊勢の腕につかまり、ガタガタ震えているあずさに、伊勢がドサクサにまぎれて、一世一代の告白をする。


「なぁ、俺のとこに嫁さんに来いよ …… 」と。



戸惑う顔のあずさの表情で《終わり》。

ドラマは幕となるのである。





この後、あずさが承知したのか、どうかは視聴者に想像をゆだねるのだが ……




このドラマの中島久之さんも、例に及ばず、《百恵フアン》からは、クソミソだったそうな。(このラスト、ヘラヘラしながら百恵ちゃんを口説いて、肩を抱くシーンが、いけませんわな  (笑) )



「こんな男は百恵ちゃんにふさわしくないぃぃーーー!」


ドラマと現実の境界線も分からなくなったフアンが大激怒。


このドラマはドラマで、こうして時が過ぎれば良作だと思うのだが ……… それにしても、国民的なスター『山口百恵』の相手役を務めるのも、本当に当時は難儀なハードルである。



《国民の誰もが納得する百恵ちゃんの相手役》……… そんな超高いようなハードルをとび越えて、共演を重ねることができた三浦友和さんは、もっと称賛されても良いのかも。



「その火を飛び越えてこい!」


なんだか、映画『潮騒』の百恵ちゃんのセリフを、ふと思い出しちゃった (笑)

星☆☆☆☆。

2022年1月2日日曜日

映画 「サンダウナーズ」

 1960年  アメリカ。





『バディ・カーモディ』(ロバート・ミッチャム)と『アイダ』(デボラ・カー)の夫婦、一人息子の『ショーン』は、家族3人で幌馬車に揺られながら、ずっとオーストラリアの平原で旅を続けている。


羊追いの仕事で食いつなぎながら、町から町へ。(広大なオーストラリアでは、数千匹の羊たちの群れを運ぶのも大変で、こんな仕事を生業してる者たちもいるのだ)



夫バディの方は、この生活に至って満足しているが、妻のアイダの方は……

(このままでいいのかしら……どこか、ちゃんとした所に定住したいわ)と、最近思い始めている。




全財産の瓶に貯めている貯金も底をつきそうなので、家を持つなんて夢の現状なのだが……(トホホ)。


とにかく一家は、遠く離れた町《カウンドウェル》まで、400マイルの距離を、1200頭の羊を追いながら運ぶ仕事にありついた。(※1マイルが1.609キロなので、ざっと計算すると639キロの距離である)


当然、こんな距離を家族だけで、大量の羊の群れを運ぶのは無理!


助っ人として、気の良い太っちょのイギリス人『ベネカー』(ピーター・ユスチノフ)を雇うことした。


さぁ、カーモディ一家とベネカーの長い旅が始まる……





殺人犯や嫌われ者の役ばかりで《バッド・ボーイ》の異名を持つ、ロバート・ミッチャム(『恐怖の岬』、『狩人の夜』、『肉体の遺産』)


綺麗だけど、神経質でお堅いイメージのデボラ・カー(『悲しみよこんにちは』、『回転』)


いつもユーモラスなピーター・ユスチノフ(『ナイル殺人事件』、『トプカピ』)



そんな個性的な面々を巨匠フレッド・ジンネマン監督(『真昼の決闘』)がまとめると、どんな作品が出来上がるのか?


こんな興味だけで選んでみた『サンダウナーズ』なのだけど……



映画はオーストラリアの大自然を見せながら、悠々とした雰囲気が漂う《アットホームなドラマ》なのでございました。



この映画、観る前からあちこちの評価を見ていたのだけど……まぁ、とにかく現代では評判が悪い (笑)。


そのほとんどが、「つまらない!」とか「長過ぎる!」なんだけど、おっしゃる事も分かる気がする。


130分超えは確かに長いし、何より物語の中に《事件》らしい《事件》が全く起きないのだ。(これが「つまらない」っていう人の大半の意見なのかも)


悪人も全く出てこないし、一家が出会う人々は、皆が気の良い人ばかり。



物語の展開の早さや起伏に、すっかり馴れ親しんでいる現代人たちには、殊更スローで退屈に見えてしまうのだろう。



でも、私は興味深く観た。(正月で時間も充分あったし。年末年始の映画としては、ちょうど良いかも)



「こんなに多い羊を追いながら連れていくのも大変だなぁ~」とか、


「あ〜、本当に羊って、ピョンピョン!跳ねながら走るんだ🐑🐑🐑」とかに、変なところでいちいち感心。(「羊が一匹、羊が二匹……」そんなレベルじゃない大量の羊を見るのも初めてかもしれない)





こんな一家は何とか無事に目的地まで羊を届けるのだが………

仕事が終わって、さっさとこの土地を離れたい『バディ』(ミッチャム)を『アイダ』(デボラ・カー)が引き止める。



「《羊の毛刈り》の仕事にありつくのよ!私も料理人になって働くわ!とにかくお金を貯めるのよ!」(なんせ家を買う資金を貯めたいし)


「えぇ〜!なんで俺が……?!」

ブツクサ言う夫バディの尻を叩きながら、奮起する肝っ玉母さんのアイダ。


息子のショーンも手伝い、すっかり一家に溶け込んだ『ベネカー』(ユスチノフ)も一緒に、集められた《羊の毛刈り》バイトに駆り出される。



そうして、今度は大量の《羊の毛刈り》を淡々とこなしていくシーンが続く🐑🐑🐑




地味〜なシーンなんだけど、コレも私なんか感心しながら観ておりました。



ロバート・ミッチャム凄いわ!


馬は乗りこなすし、羊は追うし、羊を捕まえて毛刈りだってサクサクやってしまうなんて。(こんな事が出来る俳優が現代にいる?)


デボラ・カーにしても幌馬車を操ったり、軽々と馬を乗りこなしたり……



ピーター・ユスチノフにしても酒場で酔っ払ったミッチャム(80キロくらい)を肩に担いで、軽々と運んで歩くのだから、もうぶったまげてしまう。



地味に見えても、この映画は、現代の俳優たちと、当時の俳優たちのレベルの差を、まざまざと、我々に見せつけてくれるのだ。(本当に昔の人は凄いよ)




やがて、賭けのコイン・ゲームで良質な馬《サンダウナーズ》を手に入れたバディ。


息子のショーンが、それを乗りこなし、いざ!レースへ!


アイダの夢の家は手に入るのか……それとも、またもや貧乏暮らしの幌馬車生活に逆戻りなのか。(ここはネタバレしないでおこう)


どっちに転がっても、一家は仲良くハッピー・エンドを迎えるので、そこはご安心を。


星☆☆☆。



※羊の毛について多少調べてみた🐑


羊の毛って《ラノリン》っていう特殊なワックスみたいな油が、けっこうベタベタ付いていて、押さえつけながら刈るのも一苦労らしい。(滑りやすい?)


もちろん、刈った毛をそのまま使えるわけでもなく、きちんと洗浄して油を落とし、加工される。


色々な人の手を借りて服飾店に並んでいるかと思うと、感慨深いものがございます。


そうして、この《ラノリン》の油さえも、化粧品に使われているそうな。


羊に無駄といえるモノは全くない!?(勉強になるなぁ~)