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2021年7月4日日曜日

映画 「妖婆の家」

1965年 イギリス。




日本じゃ公開当時から、ちと残念な扱いをされている、不遇な映画なのかもしれない。


1962年に『何がジェーンに起こったか?』が、公開されると、たちまち、それまでのベティ・デイヴィスのイメージは一変した。


恐ろしい顔の婆さん!


妖怪のような婆さん!


気持ちの悪い婆さん!


になったのだ。(まぁ、本人が望んで、そんなイメージ・チェンジを図ったんだから、誰のせいにも出来ないのだけど)


『何がジェーンに起こったか?』のベティ・デイヴィス


美人女優として名をはせていた『痴人の愛』や『イヴの総て』のイメージは、すっかり霞んでしまい、もはや《化け物》のようなイメージのベティ・デイヴィス。


こんなイメージは、観た人々に刻印のごとく、深く焼き付いてしまったのである。



一方、この監督であるセス・ホルトはというと……


俳優として出てきたはいいけど、まるで売れない日々に悶々として、いつしか裏方にまわって、脚本やアシスタント・ディレクターなどの下積み時代を経験してきた人。


セス・ホルト監督


やっと映画監督として、映画が撮れるようになっても、その会社は《怪奇モノ》や《ホラー》の老舗である『ハマー・プロ』だったのだ。


『ハマー・プロ』といえば、ドラキュラやフランケンシュタインなどの《怪奇モノ》映画を次々と乱発していた会社。


そんな『ハマー・プロ』で、セス・ホルトは、映画『恐怖(1961)』を、やっとのおもいで撮りあげる。


『恐怖』のスーザン・ストラスバーグ


恐怖(1961)』は、練り上げた脚本、素晴らしいどんでん返しがきいているという良質なサスペンス映画である。


怪奇モノだらけの『ハマー・プロ』では、いかに異質な作品なのか、お分かりになるはずだろう。


後年、ハマー・プロの専属俳優だったクリストファー・リー(ドラキュラ役で超有名)が、この『恐怖(1961)』について、「《ハマー・プロ》で唯一の傑作!」と誉め称えている。(クリストファー・リーも出演しております)



そんな《ハマー・プロ》の監督セス・ホルトと、化け物イメージのベティ・デイヴィスがタッグを組むとなると、どんな映画になるのか。



日本では、最初から怪奇・化け物ホラー映画と、勝手に決めつけてしまっていた!



そうして、原題の『THE NANNY(乳母、ばあや)』は、『妖婆の家』なんていう、ひどいタイトルに変えられたのだった。


当時の日本の宣伝マンが誰かは知らないが、

「《ベティ・デイヴィス》=《妖怪のようなお婆さん》なんだから、《妖婆》ならインパクトがあるだろう!」

なんていう、安直な邦題のつけ方だったんじゃないのかな?



お次は、ベティ・デイヴィスの顔を恐ろしく、どぎつく描いた映画ポスターや、他の《ハマー・プロ》作品とのコラボのチラシ作り。



こんな宣伝をされたんじゃ、観る前から、


どんだけ不気味で恐ろしい映画なの?!

って、誰でも思いこんでしまうはず。



だが、………この映画は、そんな宣伝とは全くと言っていいほど、違う種類の映画。


『ばあや』(ベティ・デイヴィス)の見た目の不気味さは多少はあれど、日常に起こった悲しい悲劇と、それぞれの人々の猜疑心などを描いたサスペンス・ドラマなのである。(もう、全然違うやんけー! (笑) )




外交官をしている『ビル・フェイン』は出張が多くて留守がち。


その妻である『ヴァージー』は、二人の幼い息子『ジョーイ』と小さな娘『スージー』がいるのに、まるで何も出来ないお嬢様育ちである。(すぐに泣き出すし)


そんな『ヴァージー』をサポートするように、子供の頃から面倒をみてくれてた『ばあや』(ベティ・デイヴィス)が、今も住み込みで、家事から子供たちの世話までを、一切合切引き受けてくれている。



そんな《家》で、ある日、事件は起きたのだ!


幼いスージーが、浴槽の中で溺れて死んだのである。


真相は分からずじまいだったが、ビルもヴァージーも、息子のジョーイに疑惑を向けた。


「ボクは知らない!」

と言うジョーイだったが、普段の素行が悪くて、毎度タチの悪いイタズラを繰り返していたジョーイは、両親にも信用ゼロ。


施設へと預けられて、一家は不幸な出来事を忘れよう、忘れよう……と努力してきたのだった。



そんなジョーイが、2年ぶりに10歳になって帰ってくるという。(施設でも、タチの悪いイタズラを繰り返して放校になった)



「私は迎えにいかないわ!」

泣きじゃくるヴァージーをなだめながら、夫のビルと『ばあや』は、二人でジョーイを迎えに行った。


そんな『ばあや』に、ジョーイは敵意をむき出しにして反抗するのだが……



こんなジョーイのあからさまな敵意で、


《『ばあや』が『スージー』を殺したのか?》


なんて、観ている人は、すぐに考えるはずだが、事はそう単純ではない。


『ばあや』の振る舞いも、異常なところは全くないし、完璧に家事をこなすし、ジョーイにも嫌な顔もせずに振る舞うのだ。




むしろ、ジョーイの方が帰って来てからも、やりたい放題。(本当にクソガキ)


『ばあや』の用意した部屋は気に入らず、勝手に部屋を移ったり、『ばあや』の用意した食べ物は一切口に入れない。(ここまでは、《『ばあや』が妹を殺して、自分も殺される!》と思いこんでいるジョーイの自然な行動だと思えるのだが)


それでも、それを差し引いても、牛乳配達人に家の真上から鉢を落として驚かせたりするのは悪質。


浴槽にお湯を張って、人形をうつ伏せに浮かべるのは、相当ひどい残酷なイタズラである。


「キャアアーー!!」

死んだスージーのトラウマが甦って、それを見た『ばあや』は卒倒する。(だんだん、ベティ・デイヴィスが気の毒に思えてくるわ)



そして、映画のラストも、真相が分かってしまうと、これまた一気に『ばあや』に同情してしまう。


不幸な偶然が重なった事故だったのだ……


誰が悪いわけでもなかったのである。(くわしく書きたいけど………………ん~ここは我慢して、こらえたい (-_-;) )


『ばあや』の涙、ジョーイの改心で映画は幕となる……



この映画を「つまらなかった!」って言う声もあるが、自分は良くできてると思った。


でも、「つまらなかった!」って言う人の気持ちも、よく分かる。


なんせ、邦題が『妖婆の家』で、怪奇ホラーのごとく、宣伝部が「怖いぞ~、怖いぞ~、恐ろしいぞ~」と、煽(あお)るだけ煽ったんですもの。


『何がジェーンに起こったか?』と同じくらいか、それ以上の《ドギツイ恐怖》を、いやがおうもなく期待するというものである。(中身は全然違うのにね)


《ベティ・デイヴィス=怖い》、のイメージを一旦忘れて、白紙の気持ちで観ることをオススメしておきます。


星☆☆☆。



※後、私が特に気になったのは、『ばあや』(ベティ・デイヴィス)の極太眉毛である


まるで、太いマジックのようなモノで、大胆に描かれた極太眉毛は、どうしても目がそちらにいってしまう。(こんなに太く描く必要あったの?)



ジョーイのパパ『ビル』(ジェームズ・ビリアーズ)の眉毛も気になる、気になる。


「この眉毛つながってるのか? つながってない? やっぱり、つながってる?!」



とにかく、眉毛に目がいく映画である。


ある意味、こんなところが、ホラーって言われればホラーなのかもしれないけどもね (笑)。

2019年12月8日日曜日

映画 「恐怖」

1961年 イギリス。






この顔………何かを見て恐怖して叫んでいるような『顔』



ふと、何かの検索をしていた時、偶然、このインパクトのある『顔』に遭遇したのだ。


調べてみると、『恐怖』という、いかにもなタイトルの映画らしいのだが、こんな映画がある事さえ自分は知らなかった。



叫んでいるのは『スーザン・ストラスバーグ』という女優さん。(この人の存在も全く知らなかった)

この叫び顔、まるで往年の楳図かずお先生が漫画の扉絵にでも描きそうな『顔』である。


ホラーなんだろうか?



何かが自分のアンテナに、ビビッ!と引っかかった。


そして、観ることができた。(知人N氏のおかげで。いつもいつもありがとう。この場を借りて)



そうして、観た感想………

こりゃ、傑作だ!!






冒頭、船頭と警察が広大な湖の真ん中まで舟を漕いでいて、何やら水の中を散策している。


そして………


「あったぞ!」

警察官は、水の中から女性の遺体を引き揚げた。




場面は変わって空港。


『ペニー』(スーザン・ストラスバーグ)は10年ぶりにフランスはリビエラに帰国した。



10年前に両親が離婚すると、ペニーの人生は、もう踏んだり蹴ったり。


母親は亡くなり、自身も9年前に落馬による事故で下半身麻痺。

ずっとイタリアで、仲の良い世話係の看護師マギーと暮らしていたが、その看護師も亡くなってしまったという。



そんなペニーに、1通の手紙が届く。



「フランスで一緒に暮らさないか?」と。

差出人は父親からで、既に再婚していた。




車椅子のペニーは、こうしてフランスに帰ってきたのだ。



空港に着いたペニーを出迎えてくれたのは、運転手の『ロバート』(ロナルド・ルイス)だった。


「父は来ないの?」

「あいにく出張中です」

力のあるロバートは、ペニーを軽々と抱き抱えると、車に乗せて、自宅の屋敷を目指した。



しばらくすると、車は、海が見える断崖のクネクネした道路を走りぬけ、その上には広大な屋敷が見えてきた。


資産家らしく、広い庭には、近くに海があるにも関わらず、プールまで備え付けられている。




ペニーを玄関で出迎えてくれたのは、初めて見る義母の『ジェーン』(アン・トッド)だった。



「ようこそ、ペニー。歓迎するわ」

ジェーンは明るくペニーを部屋に招き入れた。


「父はいないの?」

「あいにく、仕事でね。止めたんだけど」

「10年ぶりなんですもの、父の顔もうら覚えなのよ」

「安心して」ジェーンは、そう言うとペニーのベッドサイドに立て掛けてある写真を差し出した。



(これが、父……)


深い皺の刻まれた顔……太い眉には威厳と厳しさが伺われる。




その夜、ジェーンと二人で寂しい夕食を済ませると、ペニーは自分の部屋で床についた。


だが、初めて寝る部屋は居心地が悪く、外のコオロギが鳴く声もうるさく響き、中々眠りに引き込まれない。


しょうがなく起き上がって、自力で何とか車椅子に座ったペニー。



ふと、窓の外を見ると、真向かいの納屋に明かりが灯っている。


(何かしら …… 誰かいるの?)


外に出て、車椅子を滑らせながら、ペニーはプールのそばを通って、納屋まで近づいた。


納屋のドアは開いていて、中には骨董品やガラクタが散乱している。


そこには、中央に蝋燭の明かりが灯されていて、暗闇の影を不安定に揺らしている。


その真ん中に椅子があり、誰かが腰掛けているようだ。


「誰?誰かいるの?」


たまらず、ペニーが呼び掛けると、明かりは、その人物をとらえた。



そこには、

既に死んでいる父親の蒼白な顔が映し出された。




「キャアアアーーーッ!!」


ペニーは屋敷中に響くような絶叫をあげた。(この『顔』のスチール写真だったのね)




ペニーは車椅子を反転させると、急いで納屋を後にして、自分の部屋に戻ろうと、必死に車輪を漕いだ。


だが、車椅子はバランスを崩して、そのまま近くのプールにドボン!


「た、助けて ……… 」


水の中で、もがき苦しみながら、ペニーの意識はなくなっていった ………





しばらくすると、ペニーは自分のベッドの上で意識を取り戻した。


そばには、ジェーンと、すぐさま駆けつけてくれた医者の『ジェラード』(クリストファー・リー)の姿がある。



「お父様が、……… お父様が納屋で死んでいたのよ!!」


「そんな馬鹿な!出張中なのよ」唖然とするジェーンに、ペニーはなおも叫び続ける。


「君はきっと幻覚を見たんだろう、納屋には何もないし、ロバートが君をプールから引き揚げてくれたんだよ」

ジェラード医師は、いさめるようにペニーに言い聞かせるが、ペニーはまるで納得しない。



仕方なく、ペニーを納屋に連れていくと、中にはガラクタや骨董品が転がっているだけで、さっき見た父親の遺体は無くなっていた。



(ウソよ ……… 確かにこの目で見たのに …… )



「これで納得したかね?君は疲れているんだ」


スゴスゴ、自分の部屋に帰ってくると、ペニーはジェラードの処方した薬を飲んで深い眠りに落ちていった。




明くる日になると、昨日の出来事は、益々自信がなくなってくる。



(本当に幻覚を見たのかしら ……… )



不安そうなペニーの様子 ……… だが、これは、まだまだ『恐怖』への入り口に他ならないのだった …………







良くできた脚本に独特なカメラ・アングル。


主演のスーザン・ストラスバーグの可憐さ。


不気味な屋敷の雰囲気と、そこに登場する一癖も二癖もあるような人物たち。




二転三転するどんでん返し。(これが本当に凄い)



やっぱり自分の予感は当たった!

超、面白かった!!



面白かったし、久々に観た良質なサスペンス映画の傑作じゃないか、これ!



何で、この映画が、今の今まで評価されなかったのか不思議だし、謎である。



どんでん返しモノでは、あのビリー・ワイルダーの『情婦』もあるが、それにも、全くひけをとらないほど。



そのくらい見終わって感心してしまった。(ここでネタバレできないのが、ウ~ン、悔しい。とにかく初めて観る人は、超ラッキーな映画である!)




監督の『セス・ホルト』は、他にも、べティ・ディヴィス主演で『妖婆の家』(スゲェ~、タイトル)の映画も撮っているらしいが、そちらも是非観てみたいと思ったほどである。



何だか、金鉱でも堀り当てたような気分にさせられる ……… 近年観ることができた映画でも、稀な傑作である。




さぁ、本当に父親の遺体はあるのか、それとも、ただの幻覚なのか………



《誰かが嘘をついている? 》

《いったい誰を信用すればいいのか?!》



どこに行くにも車椅子のペニー。

思うようにいかない身体のペニーの気持ちになって、終始ハラハラドキドキ。




これは死ぬまでに、必ず観てほしいほどの超オススメ映画である。



文句無しの星☆☆☆☆☆。

観終わった後、あなたは、もう1度、きっと観返したくなるはずである。フッフフ……