2019年10月1日火曜日

ドラマ 「赤い嵐」

1979~1980年。






真冬の凍りつくような寒さの東京・上野は不忍池(しのばずのいけ)。


その池の真ん中に、ボートの上で長い間佇む不審な女性。





上野北警察署で交番勤務をしている巡査、『大野真(まこと)』(柴田恭兵)は、通行人からの通報を受けると、直ぐ様、不忍池に向かって自転車をこいでいった。(『関係ないね』とはさすがに言わない(笑))




ボートを漕いで、その女性のそばまで来た真は、


「君、何があったか知らないけど落ち着いて……」

と声をかけた。(池に飛び込んで自殺すると、てっきり思い込んでいる真)





放心状態のその女性(能瀬慶子)は、ゆっくり振り向く。


真が女性のボートに跳び移ろうとした時、バランスを崩して、二人はそのまま冷たい池にドボン!した。






そして派出所で、ストーブにあたりながら、毛布にくるまり、ガタガタ震える体を暖める真と、その女性。



「君さ、いったいあんな所で何していたの?」



真が訊ねると、女性は、

「……分からないの」

「君、名前は?」


「分からない……何も思い出せない……」


女性は自分が何者かも分からない、『記憶喪失』となっていたのだった……。







でも普通なら、こんな記憶喪失の人間を、いくら警察官とはいえ、引き取って世話をしたり、実家に預けたりはしないものだが、そこはドラマである。





人の良い真は、実家の両親が営む豆腐屋に、いそいそと、その娘を連れてきた。



「どうしたんだい?その子は……」

店の奥から出てきた真の母親『大野千代』(淡島千景)が訊ねる。




そばには、父親の『大野兵吉』(松村達雄)の姿もある。





「父さん、母さん、悪いんだけど、この子を住み込みで、この店においてやってくれないかな?」


真の頼みに、父の兵吉は、



「てやんでぇい!何をいきなり言い出すんだ!藪から棒に!」

と生粋の江戸っ子弁。(べらんめえ調の松村達雄ここにあり)




「父さんのいう通りだよ、それにこの子何て名前なんだい?」

千代が真に訊ねると、真の頭の中で、(名前……名前……どうしよう? 記憶喪失の子に名前なんて……)とグルグル考えが駆け巡る。





真は思いつきで咄嗟に、



「こ、小池しのぶしのぶちゃんさ!」

と言ってしまった。(不忍池で見つかったので。その連想で。)





「しのぶちゃんねぇ~……」

息子の真と同じように、根っから人の良い両親は、『小池しのぶ』(能瀬慶子)と名付られた娘を、不自然に思いながらも、住み込みで働かせる事に決めた。






次の日から、朝も早い豆腐屋で一生懸命働くしのぶ。



辛いとか、キツイとか、愚痴ひとつこぼさずに働くしのぶの姿に、兵吉も千代も感心しはじめ次第に気に入るようになってくる。





夫妻には、三男の真を合わせて3人の息子がいたが、上の息子たちは、それぞれ結婚して家を出ていき、嫁の尻に敷かれている状態で、実家にも寄り付きもしなかったのだ。


真も警察の寮に入っていて、老夫婦は淋しい毎日を送っていた。




そこへ、『しのぶ』と名乗る娘が現れる。




男しか育てた事のない千代は実の娘ができたように喜び、兵吉もしのぶを愛おしく思い始めるのは当たり前だったのだ。





でも、それまで寄り付きもしなかった長男夫婦、次男夫婦は面白くない。




しのぶの噂を聞き付けると、怒鳴りこんできた。



「おい!真!いったいどういうつもりなんだ?!あんな素性も分からないような女を、この家に連れて来るなんて!」

大手サラリーマンの次男、『英二』(石立鉄男)はカンカンだ。




「そうよ、そうよ!お義父さんも、お義母さんも騙されているのよ!」嫁の『宏美』(岡まゆみ)も加勢する。




大学教授の長男、『正一』(大石吾朗)は、
「まさか、この家の土地や財産が目的なんじゃあるまいな?」とまで言い放った。




「きっと魂胆はそれよ!」正一の嫁、『令子』(榊原るみ)も同調した。





こんな飛び交う罵声に、業を煮やした兵吉は、とうとう立ち上がって、


「いい加減にしやがれ!どいつもこいつも勝手な事ばかり抜かしやがって!帰れ!帰れ!」と怒鳴り付けた。





渋々、ブツブツ言いながら、引き上げていく息子夫婦たち。




誰もいなくなった暗い家で、兵吉と千代は座り込んで、


「情けない……」とため息をついた。




そして、周りが反対すればするほど、しのぶへの愛情が日に日に増していく兵吉と千代だった。



一方、怒鳴りつけられて帰ってきた息子夫婦たちが、このままおとなしく引き下がるはずもなく……。




長男正一の妻、令子はすぐに実母に相談。



すると実母の『戸川貴子』(近松麗江)は、



「あたしに任せておきなさい!その女の化けの皮をはいでやる!」

と鼻息荒く胸を叩いた。(嫁の実家の事なんて、この人に関係あるのかねぇ~)






そして、豆腐屋でしのぶが、一人きりなのを見計らって近づく貴子。



開口一番、


「ちょっとあんた、この家に入り込んでいったい何を企んでいるのさ! あんた、本当は『しのぶ』って名前も嘘なんだろ? 本当はどこのどいつなんだい!何とか言ったらどうなんだい?!」



貴子の執拗な攻めに、しのぶは黙って耳をふさいでいたが、振り向き様、突然、何かのスイッチが入ったのか?異様な目付きになり早変わりしていた。




そして、


「しつこいんだよ、ババァ!!くたばりたいのかい?!」

と、口汚く罵ってきたのだ。




しのぶの、あまりの変わり様に、貴子は驚いて後ずさり、おもわず「ヒィイーッ!!」と悲鳴を上げた。





つぎの瞬間、またもや、しのぶのスイッチが切り替わると元の顔つきに戻って、



「あの……わたし、何か……?」

なんて、スットボケた答えが。



貴子は、あまりの恐ろしさに逃げるように飛び出していった。





そこへ、通りがかった真が、


「どうしたんだい?しのぶちゃん」

「分からない!分からないの!!私いったいどうしちゃったの?!」

「しのぶちゃん!」

「真さん!」(ヤレヤレ……)




しのぶの過去に何があったのか……きっと普通の出来事じゃないはずだ。


こんなしのぶの動向を、謎の男(緒形拳)が始終見張っているのだから………。







長文、ごめんなさい。


記憶を巻き戻して、出来る限り(多少違ってるかもしれないけど)書いてみた『赤い嵐』である。



このドラマも当時の流れで、よく観ていたので。




一応、読みやすく書いてみたが、



柴田恭兵のセリフまわしは、「しのぶちゃん!」なんて安易にサラッとした言い方ではなく、動きと同じように一字一句きって、とび跳ねる感じ。


「し、の、ぶ、ちゃ、ぁん!」なのだ。




能瀬慶子なんてのは、大映ドラマの王道を地でいくような、いちいち喘ぐようなセリフまわし。


「ゥオッ、ま、まこォッと、ォッさァん、ゥオッ!」なのだ。(喘いでいるのか、それとも吐きそうなのか………(笑))





「バカをいっちゃいけねぇよ!」なんて、生粋の江戸っ子、松村達雄や、クルクルパーマの石立鉄男なんていう個性豊かな共演陣たちもいるが、この二人だけが特別浮いていて、周りが普通に見えるようだった。




こんなインパクト大だった『赤い嵐』を夢中で観ていたのに、最終回をてんで忘れている自分。




どんなだったっけ?

しのぶの謎も少しは、覚えていても、まるでうら覚え。






今回、書くにあたって、ちゃんと調べてみた。



『しのぶ』の本当の名は『田上雪子』で、すでに結婚していた。(なんですと?でも、本人の意志じゃなくて無理やりらしいが)




相手は有名画家の父親、田上洋平の内弟子で、『田上武史』(伊東達広………う~ん、どんな人か、まるで思い出せない)。



そんな画家の父親、洋平が、突然殺されてしまい、容疑が後妻の美千子(松原智恵子)にふりかかり、逮捕されてしまう。



現場から、忽然といなくなった雪子を怪しむ『山根刑事』(緒形拳)は、雪子こそ、真犯人だと思い、執拗につけまわしていたのだ。(記憶喪失相手に、なんて気の長い捜査方法なんだろう)






で、真犯人が誰だったのか?


これも、さっぱり思い出せない!



(ここはどこ?私は誰?っていう、まるで能瀬慶子みたいな感じだ)





真犯人は、画家の父親の内弟子だった『田上武史』。(ヤッパリといえば納得だが、この人自体、どんな人だったか、本当に印象すら残っていないのだ)



父親の絵を勝手に画商に売りつけて、裏で大儲けしていたらしい。



それがバレてしまい、「こんな男に娘はやれん!」と言われて、逆上して殺してしまったのだったとか。






無事に犯人の武史が、山根刑事に逮捕されると、真としのぶは喜びあって抱き合った。


そして、犯人の武史との離婚も正式に認められた頃、…………真としのぶは、家族に見守られながら、無事に祝言をあげるのだった。



これまで通り、しのぶは豆腐屋でせっせと働き、真は駐在署勤務……やっと平穏な日常がかえってくる。


めでたし、めでたし。(終)







こんな終わり方だったのか……当時、9~10歳だった自分の記憶なんてのも、所詮こんなものである。






でも、柴田恭兵と能瀬慶子の印象だけは、40年近くたった今でも強烈。


これも忘れられない思いで深い昭和のドラマなのである。


もう一度観てみたいなぁ~。

星☆☆☆☆。


「し、の、ぶ、ちゃん!」


「ゥオッ、ま、真さん!」(しつこい(笑))