映画界には昔から、この俳優には、この女優的な組み合わせがある。
例えば最近、書いたのでいえば、
『リー・マーヴィン』の映画には、大体、『アンジー・ディキンソン』が出ている。(『殺人者たち』、『殺しの分け前/ポイント・ブランク』、『デス・ハント』など)
リー・マーヴィンは当時、結婚していたし、アンジーと付き合っていたなんて事も噂に聞かなかったから、まったくの仕事だけの関係だったのだろうと思う。(まぁ、本当のところは分かりませんけどね)
有名なところでは、『チャールズ・ブロンソン』と『ジル・アイアランド』。
こちらは結婚して、オシドリ夫婦として、数多い共演をしている。
1968年に結婚した後、1990年にジルが乳ガンで亡くなるまで二人の共演は続いたのだった。(享年54歳、合掌)
そして、
このコンビも有名である。
『クリント・イーストウッド』と『ソンドラ・ロック』。
ただ、こちらは前の二組と違って、事情は複雑。
1976年に映画『アウトロー』で知り合うと二人は、すぐに交際を始めた。
だが、クリント・イーストウッドはその時、すでに既婚中。
いわゆる二人は不倫の関係である。
イーストウッドの女ぐせは、とにかく有名で1953年~1985年まで最初の結婚していた間にも、数多くの浮き名を流している。(一時は『悲しみよこんにちは』のジーン・セバーグとも関係があったとか)
その後に1996年に2度目の結婚をしているが、婚外子も含めると、それまでに8人の子をもうけたくらい。
ソンドラ・ロックとの関係は、1976年から~13年も続いたらしい。
この間に、ソンドラ・ロックもイーストウッドの映画にほとんど出演していて、不倫とはいえど、二人はあからさまなパートナーとして、同じスクリーンを共に飾っていた。
でも………
ソンドラ・ロックにとって、この出会いが幸せだったのか、どうか………
デビューしたばかりで、いきなりアカデミー賞にノミネートまでされた彼女。
その演技力は確かなものだったのに、イーストウッドと出会ったばかりに、人生の歯車が狂いだした。
日本と同じく、当時のアメリカでも《不倫》に寛容だったとは、決して思えない。
ましてや、男よりも、女である彼女の方が、世間の風当たりは強かったんじゃないだろうか。
クリント・イーストウッドと関係のあるソンドラに、他の映画関係者のオファーも二の足をふんだはずだ。
アンジー・ディキンソンのように、他の映画でも活躍する事もできず、ジル・アイアランドのように結婚して、オシドリ夫婦になる事も許されない。
監督、俳優としてのクリント・イーストウッドを、ただ、引き立てる為だけに、彼の映画に出続ける彼女。
イーストウッドの映画は、自身をアンチヒーロー然として輝かせるために描く映画。
決して女優を、《可愛く》とか、《美しく》などと描くためのものじゃない。
女優にスポットが当たった《恋愛もの》や《ロマンティック・コメディー》なんてのにも、全く食指は動かない。
あくまでもイーストウッド映画の女優たちは、アンチヒーローである主役の自分を動かす為の、キッカケや原動力にすぎないのである。
この映画、『ガントレット』も、まさにそんな映画に仕上がっている。
アリゾナ州フェニックス市警察に勤務する『ショックリー』(クリント・イーストウッド)は、ある事件で検察側の証人となる売春婦『マリー』(ソンドラ・ロック)をロサンゼルスから護送してくるように、警察委員長『ブレークロック』から、突然、依頼される。
(何で俺が……)
の気持ちのショックリー。
朝から酒の匂いをプンプンさせて、決して勤勉じゃないショックリーに、そんな重大な任務がまわってくるとは……
しかも、たった一人での護送。
まぁ、とにかく命令とあれば仕方ない。
迎えに行ったマリーは、留置所の中にいた。
「あたしを出せば、きっと殺されるわ!あんただって巻き添えをくって殺されるわよ!」
鉄格子の中で叫ぶマリーに、ショックリーは、(変な女だ)としか思わず、強引に連れ出した。
護送の車に乗せても、キャンキャン騒いでいるマリーに、
「黙ってろ!俺は俺の任務をするだけなんだから!」と言い聞かせる。
だが、マリーの予感は当たり、次から次へと、二人は、わけの分からないまま襲撃にあうのだった……。
こんな感じの『ガントレット』で、イーストウッドとソンドラの危険な逃避行が始まるのだが……。
逃避行中、なんと!ソンドラ演じるマリーは、悪漢どもに捕まり強姦されそうになるのだ!
このシーンを黙って堪えるソンドラに当時ビックリしたものである。
いくら映画の為、監督と主演のイーストウッドの為とはいえ、ここまでするか?普通?
それに、そんなシーンをあてがうイーストウッドにも寒気がした。(好きな女に映画とはいえ、ここまでさせる事に)
どんな気持ちで、ソンドラはこのシーンに望んだんだろう。
(好きなイーストウッドの為なら……この映画が成功するなら……)
の、半分、犠牲的な気持ちだったのだろうか?
売春婦って役柄も、相当にヒドイもんだが……
その後に、当然のように、悪漢どもを蹴散らして殴り助け出すイーストウッド。(まるで自分がカッコイイとばかりである)
こんな『ガントレット』だが、映画はヒットし、イーストウッドは監督としても認められていく。
でも、それからもソンドラ・ロックに与えられる役はいつもこんな感じ。
『ブロンコビリー』では、またもや強姦されそうになるし、
イーストウッドが監督した『ダーティハリー4』では、強姦された過去の為に復讐にもえる役。
そして、必ずいいところは全てイーストウッドが持っていくのである。
主役ゆえ当たり前だろうが、でも、この時くらいから分かってきたイーストウッドの本質。
彼は典型的なナルシストなのだ。
自分大好き人間。
だから、自分で監督して主演する作品には、それがモロに出てしまう。
イーストウッド自体は嫌いじゃないのだが、ドン・シーゲルが監督しているイーストウッドには共感できても、イーストウッド自身が監督している映画には、いつもこんな思いがつきまとう。
(あ~また、ナルシストっぽいのやってるなぁ~)と……
こんな風に自分が思う事を、ソンドラも段々と感じてきたのではないだろうか……13年という長い時を得て、二人は破局する。
そして、ソンドラはイーストウッド相手に訴訟を起こした。
「女優としての大事な時期を彼に捧げて、その後の女優人生も台無しにされた」と訴えたのだ。
この気持ち、なんとなく分かる気がする。
女としても、女優としても、本当に大事な時期を、全てイーストウッドの為だけに捧げたのだから。
その後、訴訟は、なんとか和解に終っている。(まぁ、イーストウッドがちゃんと慰謝料として払ったんでしょうけど)
こんなソンドラ・ロックだが、彼女も2018年に亡くなった。(享年74歳)
乳ガンと骨肉腫に苦しみぬいた最期だった。(なんだかつくづく可哀想な人で、しんみりしてしまう)
同じように男臭さを売りにした、チャールズ・ブロンソンやリー・マーヴィンと比べても、このあたりの情けなさが、クリント・イーストウッドが、男としても、二人より何段か、格が低い原因のように思えてならない。
それでも、ソンドラが体当たりで挑んだ『ガントレット』ゆえ、星☆☆☆☆をつけずにはいられない自分なのである。
長文、失礼しました。