1944年 アメリカ。
『ローラ・ハント』が死んだ。
美貌のコピー・ライターとして業界では、有名人だった彼女が………。
顔を至近距離からショット・ガンで撃たれて、メチャクチャにされて。(もちろん、この時代に、そんなショッキングなシーンなんて見せません。語りだけです)
『マーク・マクファーソン警部』(ダナ・アンドリュース)は、捜査担当として、早速、関係者たちの元を訪ねることにする。
一人目は、『ウォルド・ライデッカー』。
著名なエッセイストで、無名のローラを引き立て、ここまでのしあげてきた影の人物だ。
マクファーソンが、家に入ってくると、部屋には豪華な調度品が並び、立派な掛け時計がある。
マクファーソンが調度品に触ろうとすると、
「それに触るな!」と奥のドアの向こうで声がした。
ライデッカーは痩せた貧相な体の、神経質そうな顔をした男で、若くて逞しい、そしてハンサムなマクファーソン警部を、値踏みするように見渡した。
「ローラの件かね?その事なら昨日、別の刑事に話したがね」
金曜にレストランでローラと会う約束をしたが断られたと、もう一度マクファーソンに繰り返す。
バスルームから出て、着替えをするライデッカーは、自分がいかにローラに頼りにされていたかを自慢げに語りだした。
マクファーソンは聞いてない。
懐から取り出した、コンパクトなサイズのベースボール・ゲームを、勝手にやりだした。(これが昔の娯楽か)
そんな、とぼけたマクファーソンに、イライラするライデッカー。
マクファーソンが退散しようとすると、
「待て!君はこれから他の容疑者たちにも会いに行くんだろう?私もついていく!」と言い出した。
マクファーソンはイヤな顔もせず、ライデッカーを車に乗せた。
二人目は、『アン・トリードウェル』。
ライデッカーを伴ったマクファーソンは、『アン』(ジュディス・アンダーソン)が、遺体の確認をした事をもう一度確かめた。
「本当に恐ろしかったわ、あんな無惨な姿……」
アンは、その光景を思い描いているようだったが、マクファーソンは間髪いれず別の質問をした。
「ローラの恋人のカーペンターさんを知ってますね? 」
「ええ、知ってますわ」アンは急な質問にドギマギしている。
「あなたとも親しかった?」
「ええ、そんな特に親しいというわけでは……」
マクファーソンは手帳を開くと、
「おかしいですね……あなた、カーペンターさんに多額のお金を渡していますね?それも何度も。あなたが口座から引き落とした額と近い金額が、すぐにカーペンターさんの口座に入金されてますよ。」
アンの顔が真っ赤になった。
カーペンターは恋人ローラがいるのに、叔母のアンを虜にして二股をかけていたのだ。
アンは、若いカーペンターに夢中になり多額の小遣いをやって、「少しでも振り向いてもらおう……」と必死に繋ぎ止める、そんな特別な関係なのである。
「私のお金を誰に渡そうと、そんなの関係ないじゃないの!!」(逆ギレ)
そんな時に、アンの部屋にブラリと、当のカーペンターが入ってきた。
三人目、『シェルビー・カーペンター』の登場である。
「やぁ、どうしたんだい?」色男でジゴロ気取りの『カーペンター』(ヴィンセント・プライス)は、三人を見ても緊張もせず、どこ吹く風。
根っから遊び人風のマイペースで近づいてきた。
こんな軽薄そうなカーペンターが、叔母のアンやローラを、たらしこんで虜にしたのかと思うと、ライデッカーの怒りは頂点。
取り合えず、アンとカーペンターの謁見が終わると、マクファーソンはライデッカーと夕食のためにレストランに入った。
ライデッカーが語りだす………。
「………そう、私がローラと初めて会ったのも、こんな風に、ここで食事をとっている時だった………テーブルについて食事をしている私に、あの子は近づいてきたんだ………」
時間は巻き戻されて、ライデッカーは、あの日の事に思いをはせていた……ローラと初めて会った日の事を。
「あの、お食事中ごめんなさい、ちょっとよろしいかしら?」
ライデッカーが、見上げると見知らぬ女が、目の前に立っていた。
オットー・プレミンジャー(『悲しみよこんにちは』、『バニー・レークは行方不明』)の初監督作品。
そして、その後、デヴィド・リンチの『ツイン・ピークス』(ローラ・パーマーは、もちろんローラ・ハントをモデルにしている)や、『ブラック・ダリア』にも影響を与えたと言われている。
サスペンス映画の古典であり、名作と言われているのが、この『ローラ殺人事件』なのだ。
出演者たちも魅力的。
●ジーン・ティアニー ……40年代に活躍した女優。キリリとした眉、整った顔のクール・ビューティーの先駆け。
この美貌で、『ローラ殺人事件』だけでなく、コーネル・ワイルドと出演した『哀愁の湖』や、ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督の『幽霊と未亡人』なんて傑作を次々と残している。(本当に綺麗、正統派美人!)
●ダナ・アンドリュース ……この人も40年代に活躍した、端正な顔立ちと低い声が印象的な俳優さん。
ウイリアム・ワイラーの『我等の生涯の最良の年』や、エリア・カザンの『影なき殺人』が有名か。
●ヴィンセント・プライス ……以前、このblogでも紹介したように、『肉の蝋人形』やらホラー・スターとして頭角を現していきます。(この時は、まだ普通の人間役)
それにしても、ヴィンセント・プライスの軽いノリのプレイボーイ姿は貴重である。
●ジュディス・アンダーソン ………こちらも、以前blogで紹介したように、ヒッチコックの『レベッカ』の、恐ろしい召し使い頭、ダンヴァース夫人役で超有名。
●クリフトン・ウェッブ ……実はこの人、あまり知らなかったのだが、アカデミーに何度かノミネートされていて、この人も有名らしい。
ジーン・ティアニーと再共演した『剃刀の刃』が有名らしいのだが。(未見)
この『ローラ殺人事件』でも、嫌味でねちっこい、歪んだ性格の男を演じているので、演技派なのだろう。
これだけ有名な俳優たちが揃って、監督がオットー・プレミンジャー。
この映画も、面白くないはずがない。
※多少、ネタバレになるが、実は、死んだと思っていた『ローラ』が生きていたのは、勘がいい人の想像どおり。
殺されたのは、たまたまローラの屋敷にいたモデルの女性だったのだ。(犯人も、そうとうウッカリ者である)
数日ぶりに、田舎から帰宅してみれば、暗闇のソファーでウトウトまどろむ刑事マクファーソンの姿が……。
(誰?この人?!)ビックリするローラに、これまた驚き、飛び上がるマクファーソン警部。
(絵の人物が生き返った?!………)
こんな、お互い、驚くような突然の出会いは、いつしか別の感情へと変わっていく。(格好いい刑事と、目の眩むような美人さんですもんね。そりゃ、お互い恋に堕ちるわ (笑) )
こんな、お互い、驚くような突然の出会いは、いつしか別の感情へと変わっていく。(格好いい刑事と、目の眩むような美人さんですもんね。そりゃ、お互い恋に堕ちるわ (笑) )
でも、殺したと思っていたローラが生きていてビックリするのは真犯人も一緒。
再び、命を狙われるローラを、いまや恋人になったマクファーソン警部は、無事に守れるのか?!
この後も、最後まで、ハラハラ、ドキドキの展開が待ち受ける…………。
ここまで、さかのぼって、たまに古典といわれるものを観るのも楽しい。
後に形を変えて作られる映画の原点を発見したような特別な気分になってしまう。
モノクロ映画も、今に比べて画質が悪いとか、退屈なんて言わないでほしい。
興味をもってもらえたら、これ幸いである。