2019年10月26日土曜日

映画 「素直な悪女」

1956年 フランス、イタリア合作。








南フランスはサン・トロぺの港町。



燦々とした太陽を浴びて、今日も『ジュリエット』(ブリジット・バルドー)は洗濯したシーツの蔭で全裸で日光浴だ。



町の有力者で金持ち、酒場やカジノと手広くやっている『エリック・カラディンヌ』(クルト・ユルゲンス)は、そんな奔放な娘ジュリエットにメロメロ。(オッサンのくせにね)




日光浴中のジュリエットに近づくと、

「君にプレゼントだ」


おもちゃのミニカーを手渡した。(娘におもちゃ?)



ジュリエットは「フフッ」と笑いながら受け取る。


「その可愛い唇が、私のものになるなら、本物を買ってやろう」(ヤレヤレ、まわりくどい口説き方)


「私はお金のかかる女よ」

中年紳士相手に18歳のジュリエットは、まるで怯む様子もない。




その態度は、まるで数多くの恋愛経験を積み重ねてきて、その都度つねに勝利者だった者の言い草だ。






そこへ、ジュリエットを孤児院から引き取ったモラン夫人が、もの凄い剣幕でやって来た。


「男の前で、素っ裸で平気なんて……、なんて、ふしだらな娘なんだ!!」


痛風のモラン氏とモラン夫人に子供はなく、仕方なく孤児院から、この娘ジュリエットを引き取ったのだが、今ではすっかり後悔していたモラン夫人。



何てハレンチな小娘!


「本屋の勤めもいい加減で、男の前でもふしだら。そんな態度じゃ孤児院に返してしまうよ!」

モラン夫人の言葉に、ジュリエットは慌てて洋服を着ると、自転車に乗って職場に向かった。



横で癇癪をおこしながら、まだプンプン怒っているモラン夫人の横で、エリックは笑って見送っている。


「魅力的な娘だ……」(ダメだ、コリャ)




ボリュームのある金髪の長い髪、それにポテッとした分厚い唇。


こんなジュリエットに町の男たちが、ほおっておくはずもない。



内気で気弱な『ミシェル』(ジャン・ルイ・トランティニャン)は、遠くからジュリエットを眺めながら悶々する日々。



でも、目下、ジュリエットが関心があるのは、ミシェルの兄で美青年の『アントワーヌ』(クリスチャン・マルカン)なのだ。(よくあるパターンだ)




ダンス・パーティーで精悍なアントワーヌと踊りながら、ジュリエットはうっとり。


キスしてきたアントワーヌは、「君を『ツーロン』の町に連れていきたいよ」と切り出す。



来週、仕事でツーロンに行くのだ。


突然の誘いに、驚いたジュリエットだったが、嬉しさを隠すと笑いながら化粧室に入った。



(私もアントワーヌが好き、アントワーヌも……)


そこへ隣の男子トイレから、アントワーヌが男友達と話す声が、まる聞こえ。(何て迂闊な)



「お前、あの女と本当にツーロンに行くのか?」


「冗談!あの手の女は一晩寝たら、サヨナラさ!」


ジュリエットは怒りながら、ワナワナと震えている。




すっかり女のプライドをズタズタにされたジュリエット。


たまらず化粧室を抜け出し、夜の町をさ迷うと、いつしかジュリエットの足は、エリックが所有するヨットのパーティー開場へと向かっていたのだった………。







『お熱いのがお好き』のマリリン・モンローが『M・M』。


『SOS北極…赤いテント』のクラウディア・カルディナーレが『C・C』。


ご存じ、名前と名字の頭文字が同じという、イニシャル3人娘の大トリは、ブリジット・バルドー『B・B』である。





ブリジット・バルドーの映画を何十年ぶりに観たのだが、こりゃ本当に可愛いわ。



可愛いんだけど、騙す男も、騙される方のブリジットも、どっちもどっちって感じで、全然同情する気にもなれないんだけどさ。





監督は、ブリジット・バルドーと当時、公私ともにパートナーだったロジェ・ヴァディム


監督や脚本など多才なヴァディムは、性の開発者であり解放者。


独特なエロティックな考えを持っていて、それを実践するような変わり者の男だった。





こんな男とブリジットが知り合ったのが、ブリジットが16歳の時。


ヴァディムの第1印象を見て、ブリジットの両親は「この男は危険だ…」と危惧し、交際には猛反対だった。


「イギリスに行って勉強するんだ!」

「嫌よ!」

だが、時、既に遅し。

内面まで、すっかりヴァディムに感化されたブリジットは激しく抵抗した。


そうして、ガスをひねって自殺未遂まで行ったのだ。



これには、さすがの両親もホトホトこたえて、「18歳になるまでは結婚しない事!」を条件に渋々承諾した。 



そして、18歳になると、二人はすぐに籍を入れた。



この映画の冒頭、ブリジットが全裸でうつぶせになりながら、脚をふっている映像があるが、1956年の当時は、これにフランスは大騒ぎ。


フランスでは、検閲に引っかかったが、アメリカが、逆に「画期的」だと後押ししたのだ。


そして、たちまち大ヒット!(ヒットすると、うるさ方の連中たちも、とたんにシュンと黙りこむから不思議だ)



今観ると、たいしたヌードでもなさそうだが、当時としては、度肝を抜かれるようなセンセーションを巻き起こしたのたのだろう。





でも、こんなのはブリジットにとっては、何でもない事なのだ。



だって、日常が、ほぼ全裸で過ごしているんですもん(笑)。



ロジェ・ヴァディムと暮らし始めたブリジットに、ヴァディムは下着を着けさせる事を禁じた。

「下着を着けると、女性本来のセクシーさを解放できなくなる」というのがヴァディムの一風変わった考え方だった。


洋服を着ても下着をつけない。


しまいには、家の中をブリジットは、喜んで全裸でうろつきまわって過ごすようになった。




でも、こんな生活をしていくと、いったいどうなるのか……。


人間というよりは、動物のメスに近づいていくのだ。




そして本能のままに生きて、本能のままにセックスまでしちゃう。




案の定、この映画で知り合ったミシェル役のジャン・ルイ・トランティニャンとデキちゃったブリジット。(兄役の方じゃないのか?)



恥じらいもなく、堂々とした、不倫関係 の始まりである。


そして、ブリジッドとヴァディムはあっさり離婚する。(自殺未遂までして結婚したのに)





その後……


ヴァディムはヴァディムで、離婚してからも、次々、カトリーヌ・ドヌーヴやらジェーン・フォンダなどと浮き名を流しながら映画を作っていく。




ブリジッド・バルドーも負けてない。


離婚の原因になったジャン・ルイ・トランティニャンなんか、簡単にポイ捨て。



次から次へと、男を取っ替えては捨て去る生活。



動物として目覚めたメスの本能は、『ビ、ビ、ビ!』と来たら、猪突猛進。


ただ突き進むだけなのだ。






映画の後半、アントワーヌにフラれて、ヤケクソで結婚したミシェルとの結婚生活に閉塞感を感じて、狂ったようにマンボのリズムにノッて踊りまくる『ジュリエット』(ブリジット・バルドー)。





裸足で、髪を振り乱し腰をフリフリ!


全身をつかって踊るジュリエットは、まるで何かに憑依されたようである。




そんなジュリエットを男たちは、微動だにせず、唖然とした表情で遠目に見ているだけ。




狂い踊るジュリエットは、まるで動物的なメスの本能を、すべて解放しているよう。




そして、それを見るエリック(クルト・ユルゲンス)の目には、


「無理だ!オッサンには、とてもじゃないが、ついていけない……」


と、いうように尻込みしてしまう。




こういう女性は、ガラス越しに、いや、スクリーン越しに観るに限ると思う。



げに、恐ろしや~、ブリジット・バルドー(笑)


バルドーの可愛らしさと同居する怖さを、1度はご覧あれ。

星☆☆☆。