2019年11月30日土曜日

映画 「消えた拳銃」

1967年 アメリカ。






デヴィッド・ジャンセンが主演をしている映画。



もはやデヴィッド・ジャンセンを現代では覚えている者も少ないか、……1963年にアメリカ本国で始まったテレビシリーズ『逃亡者』で、その名を知らしめたお人である。



有名な外科医『リチャード・キンブル』(デヴィッド・ジャンセン)が見に覚えのない妻殺しの汚名をかけられ、逃亡の旅を続けながら、現場から立ち去った片腕の男を追う物語。


執拗なジェラード警部の追跡を逃れながら、毎回、すんでのところで逃亡に成功する。



このテレビシリーズは、もちろんタイムリーで見ていないが、自分は深夜の再放送でチョクチョク見ていた。(だって1968年生まれですもん)


本国アメリカでは放送当時、一大センセーションを巻き起こし、4シーズンで120話。

最終回の視聴率は、何と!当時、最高の50%を叩き出したそうな。(ざっとアメリカ人全体の二人に一人は見ていた勘定)


日本でも翌年の1964年に始まると大ヒット!



放送が始まる時間帯は、町中から人の姿が消えていたらしい。


この伝説を、既に聞いていて知っていた自分は、(この皆を虜にする異常な熱狂は何なんだろう……)と、再放送当時、興味深く見ていた。



そして、その理由は、やはり、『デヴィッド・ジャンセンの魅力』、これに尽きるのだ。


この人の、善人そうなんだけど、どこか、もの悲しそうな影のある雰囲気はどこからくるのだろう。


それも、ただ暗いだけじゃない、この影のある雰囲気には、観ている人誰もが、「大丈夫か?」、「頑張って!」、「負けないで!」と同情したり応援せずにはいられない。


泣き顔を、何とかこらえながらも、ようやく画面にたっているって感じである。


こんなのをブラウン菅で毎週見せられた日には、そりゃ、当時の女性たちはフラフラ~と一瞬でよろめいて、母性本能をくすぐりまくりだろう。


男の自分でも、ひたすら同情し、ハラハラし、いつしかデヴィッド・ジャンセン演じるリチャード・キンブルの気持ちに同化しながら観ていたものである。



前回《主人公の条件》なるものを、生意気に語っていたが、デヴィッド・ジャンセンは、まさに、主人公の資質を備えているし、そこにだけ別のライトというか、焦点が当たっている感じだ。



そんな『逃亡者』が終わって、間を開けずに公開されたのが、この映画『消えた拳銃』である。




この『消えた拳銃』でも『逃亡者』の雰囲気を漂わせながら、彼は周囲からは孤立無援。


ひたすら孤軍奮闘するのだ。




夜間、ある張り込み中に怪しげな男を見かけた刑事『トム・ヴァレンス』(デヴィッド・ジャンセン)。


追いつめた相手は懐から銃を、突然抜いた。

それより先にトムの銃が早く火を噴く。



胸を押さえた相手は、そばのプールに、バシャッン!と落ちた。(絶命)


相棒が、かけつけて「いったい何があったんだ?」と聞くと、トムは、もちろん「こいつがいきなり発砲しようとしたんで先に撃った」と答えた。


「で、その銃はどこにあるんだ?どこにもないぞ!」

「きっとプールの底にでも落ちたんだろうさ」



だが、その銃がどこからも見つからない。しかも殺された相手は高名なラストン医師。


メディアは警察の失態と騒ぎ立て、とうとう裁判まで。


ラストン医師の評判は上々で、次々とかばいだてをする証言が並ぶ。


「先生は本当にお優しい医者でした」アリスという老婦人も証言台に進んでたった。(あら、誰かと思ったら『狩人の夜』のリリアン・ギッシュ様じゃないか)


だんだん、トムの立場は悪くなる一方。


「お前、本当に拳銃を見たのか?見間違いじゃなかったのか?」


警察の関係者や同僚たちも、トムに不信感を現しはじめた。

「俺は本当に見たんだ!」


トムの必死な訴えも、周囲は疑いはじめてかき消されていく。


トムの孤独な捜査がはじまる………。






この映画、まるで『逃亡者』そのままをなぞったような孤立無援、孤軍奮闘のデヴィッド・ジャンセンである。


警察仲間には誰一人信用されず、元妻にも疑われて、集団の若者たちに取り囲まれて、しまいにはボッコボコに殴られ放題の始末。(ちょっとやりすぎなんじゃないか?と思うくらいに悲壮感タップリ)



いくら、デヴィッド・ジャンセンに孤独な影が似合うといっても、テレビのブラウン菅と映画で観に行くスクリーンとは、だいぶ違ったはずだ。


大画面で観る、この映画の暗さや悲壮感は、あまりにも大きすぎて、観客は少々ゲンナリしたんじゃないだろうか。(それくらい最後までデヴィッド・ジャンセン演じるトムには救いがない)



映画は、まぁまぁ、の出来で決して悪くはないのだが、ちょっと爽快感というか、カタルシスに欠ける感じ。


デヴィッド・ジャンセンも、それを肌で感じたのか、それ以後、またテレビの世界へと戻っていく。



そして、1980年に48歳で死去。(心臓発作でした)


とすると、この映画の時は、1931年生まれだから、まだ35、6歳?!(ふ、老けてる)



もともと、心臓が悪い人だったんだろうか、それゆえの、あの独特な暗い孤独そうな影だったのか……。



何にせよ、何十年も過ぎた今では、それを知る術もないが……。


映画は星☆☆☆かな。

往年のフアンで、カラーのデヴィッド・ジャンセンを観たい方たちには、オススメかもしれない。