2019年2月27日水曜日

映画 「この子の七つのお祝いに」

1982年 日本。






戦後、数年たった真冬の寂れたアパート。

その2階の窓から、幼いオカッパ頭の少女が、一人、通りを眺めている。(怖っ)





そこへ母親と思われる着物姿の女性が、慌てて帰宅した。



「遅くなってごめんね、麻矢。食べ物買ってきたわよ。」

母親の『真弓』(岸田今日子)が紙袋を抱えている。



「お腹空いたでしょ?、お父さんさんがいれば、麻矢にお腹一杯食べされてあげられるのにね。うちが貧乏なのもお父さんがいないからなのよ。……だってお父さん、麻矢とお母さんを捨てて、よその女の人の所へ行っちゃったんだもの……」

寂しそうにポツリと真弓が話す。(いちいち話す事かね)


それを、黙って聞く麻矢。





― 夜。

1枚の薄い布団にくるまりながら母娘は、暗がりの中で、アルバムを見ていた。


アルバムには、父親や産まれたばかりの麻矢の手形、それに3人が並んだ写真が飾られている。


「可愛いでしょ?、これが産まれたばかりの麻矢よ」


真弓は、にこやかに話すが、写真に写る父親に目線がいくと、どんどん暗い表情になっていった。


「お父さんもこの時は優しかったのに……」



次の瞬間、真弓は寝床の横に置いてあった針を取り出すと、写真の父親の顔を、これでもか!というくらい何度も突きはじめた。(ヒーッ!)



今までも何度も、そうした夜があったのだろう。

写真は既に顔の判別もできない状態だ。



「お母さんと麻矢が、こんなに辛い目にあっているのも、みんな、みんなお父さんが悪いの!、麻矢が大人になったら必ず、お父さんに復讐してね!、約束よ!」


真弓の鬼気迫る言葉に、幼い麻矢は、黙って、こくりと頷いた。





真弓はそれに安堵したのか、麻矢を寝かしつけながら子守唄を歌い出した。


「………とおりゃんせ、とおりゃんせ、ここはどこの細道じゃ………」


狭い静かな四畳半に、真弓の歌が響き渡る。いつしか麻矢は眠りについた……。







監督 増村保造。

「犬神家の一族」から流れをくむ角川映画の一つとして、この映画も、当時、オドロオドロしい雰囲気をまとい、公開されたものだった。


冒頭のような岸田今日子も怖いが、次々にインパクトのあるシーンが続き、なぜか今でも印象に強く残っている。



この後なんて、急に場面が変わったかと思ったら、畑中葉子(カナダからの手紙♪・後ろから前からどうぞ♪)が、水芸のような血が噴き出して、オッパイ丸出しで、いきなり殺されるんだもの。



捜査に駆けつけた刑事(小林稔侍)たちが大勢いる中でも、ずっと死体でオッパイ丸出しの畑中葉子。(哀れ畑中葉子)


フリーのルポライター『母田《おもだ》』(杉浦直樹)は、世間を賑わしている有名な占い師『青蛾《せいが》』(辺見マリ)と、その夫で次期総裁候補といわれる『秦一毅《はたいっき》』(村井国夫)の動向を取材していた。



そして、その豪邸で働いている家政婦の『池端良子』(畑中葉子)に近づき、二人の情報を得ようとしていたのだ。


まさに、これからという時の矢先の事件だったのである。



事件に関心を持った母田は、後輩の新聞記者・『須藤』(根津甚八)と待ち合わせる。


『倉田ゆき子』(岩下志麻)の経営するbarで……。(ん?)


barで酒がはいり、二人は事件の事を、あれやこれや話し出す。ゆき子の側ではばかりもなく。(んんん??)







※多少ネタバレになるが、思いきって書いてしまう。


岩下志麻が登場した時点で、勘の良い方たちは、犯人なんじゃなかろうか?と思うので。



お察しのとおり、ゆき子(岩下志麻)が《犯人》で、冒頭に書いた麻矢の成長した姿なのである。



死んだ母親・真弓(岸田今日子)の怨念を背負い、怨みをはらす為に、麻矢は父親捜しをしていたのだ。


だが、父親の写真は冒頭でも書いたとおり、母親が針を突きさしまくって、もはや判別不可能。



父親を探す手掛かりは、残した手形だけなのである。



麻矢は成長すると手相占いの研究に明け暮れた。そして、いつしかその道のエキスパートになっていたのである。



東京に出てきた麻矢は、名前を『倉田ゆき子』に変え、表向きはbarのママ。

裏では『青蛾』の影武者として占いをして、父親の情報を得ようとしていたのだ。




そのカラクリを家政婦の『池端良子』(畑中葉子)に喋られると思い、口封じの為に殺してしまったのである。


そうとは知らない母田と須藤は、ゆき子の前でペラペラ喋りまくっているのだから、これまた迂闊。


そんなこんなで、麻矢=ゆき子=岩下志麻姐さんが、この後どうなっていくのか……





一人殺した事によって精神のストッパーが、完全に外れたゆき子は、殺人を次々と繰り返していく。


野菜の芯をくりぬく細い鋭利な『かんな棒』という特殊な武器を片手に、



「おかあーさぁーん!、おかあーさぁーん!」


と叫びながら、切りつけていくのだ。(このシーンの恐ろしい事。トラウマ確定)






何より恐ろしいのは、根津甚八が見つけ出した女学生時代の麻矢の写真だが……(ヒーッ!とても女学生に見えない岩下志麻姐さんのセーラー服姿)


これもある意味、戦慄、トラウマものなのである。(笑)





やがて事件が進むなかで、父親(芦田伸介)を捜しあてるのだが、そこには、ゆき子さえ知らなかった驚愕の事実が隠されていたのだった……。





岩下志麻姐さんや岸田今日子の破壊力溢れる演技、それに他の濃すぎるキャストたち。


近年のDVD化は素直にうれしい。


アッサリした近年の映画に飽きたら、こんなコッテリ味の映画もたまにはいいかも…。(観る方々はくれぐれもお覚悟を!)

星☆☆☆☆です。