1979年 日本アニメ。
岡ひろみ、15歳 。ごくごく普通の女の子。
テニス王国、西高に入学し、テニス部に気楽にはいり、親友の愛川マキと一緒に、毎日をそれなりに楽しんでいた。
西高テニス部は、全国でも強豪で、男子では、藤堂貴之、尾崎勇が有名なスタープレイヤー。
女子には、憧れの竜崎麗香ことお蝶夫人がいた。(高校生に夫人って……)
金髪にリボン、それに縱ロールの髪形は、インパクト大。
練習に駆けつけるひろみに、「遅くってよ、ひろみ」(この口調、高校生か?)
「みんな集合!!」部長が号令をかける。
「新しいコーチの宗方仁だ。みんな急いでコートに並べ!!」
異常に揉み上げの長い、この男の目は、部員たち一人一人を値踏みするように、鋭く冷たい。
「時間をムダにしてはならん!」
部員たちの実力をみるため、ひとりひとりレシーブさせる宗方コーチ。
練習の帰り道、マキは、ひろみ相手にブツクサ文句が止まらない!
「あのコーチ緊張感がありすぎるのよ!!」
次の日、今度の大会の選手の発表があった。
「………岡ひろみ」
部員たちは唖然、選ばれたひろみも呆然。
お蝶夫人や他の部員たちの怒りは収まらない。
素人同然のひろみが選ばれる理由も分からないので、当たり前だが。
だが宗方仁の決断は変わらない。
案の定、ひろみは、試合中こむらがえりをおこし、惨敗する。
だが、宗方仁は、これであきらめる事もなく、またもや、お蝶夫人のダブルスのパートナーにひろみを指名するのだった。
監督/出崎統 作画監督/杉野昭夫。
いわずとしれたゴールデンコンビである。
1970年代~から数々の傑作をTVアニメで産み出してきた。
「あしたのジョー」、「宝島」、「ガンバの冒険」、「ベルサイユのばら」、「元祖天才バカボン」と……。
そして、この「エースをねらえ!」は、テレピアニメとして2度アニメ化され、新作として満を持して作られた劇場版である。
そして驚くなかれ、この映画の上映時間が、たったの88分(2時間どころか1時間半もないのだ。)
この時間の中で、
1、主人公ひろみと宗方仁の出会いや、
2、お蝶夫人や部員との対立、
3、宗方仁の義妹、緑川蘭子との対決、
4、ひろみの特訓と恋模様、
5、お蝶夫人との対決、
6、そして、最後の宗方仁の死
そこまでを描かなくては、ならないのだから、無理難題もはなはだしい。
だが、映画は、まるでパズルのピースを埋めるようにピッタリと、少しのズレもなく収まっているのだから、観ている方は、もう、参りました、と素直に白旗を上げるしかないのだ。
脚本も素晴らしいが、演出はまるで映画教材のお手本といってもいいくらいだ。
例えば、ダブルスに組まれたひろみをコートに、特訓と称して連れ出すお蝶夫人の場面。
どこにも、もって行き場のない怒りを、テニスコートめがけて、全力で叩きつけるお蝶夫人。
そのボールを一球も返すことができず、ただ振り回されるだけのひろみ。
二人だけのテニスコートに、しだいに雨が容赦なく降り注ぎ、ひろみはコートに倒れこむ。
近づきながら、コートの水溜まりに逆さまに映るお蝶夫人が、ひろみに語りかけはじめる。
(スゴい雨の演出)
「ひろみ、あたくし、あなたが憎くてこんな事をしてるんじゃなくてよ。」
「…はい」
「あたくしがラケットを握ったのは7歳の時、その時から来る日も来る日もテニスに明け暮れたわ。とても苦しかった、いえ、今も苦しい。」
お蝶夫人から微動だにできないひろみ。
「その長い月日の苦しさが、今のあたくしを支えているのです。だから、あなたではなく宗方コーチに教えてあげたい、昨日今日、テニスをはじめた人間が、あたくしと同じコートにたてないということを。」
ひろみは、打ちのめされ、夜半、コーチに電話する。(なつかしい黒電話の時代)
「…………」電話しても無言のひろみに、
「岡だな……」
「……わたし、テニスを辞めます」
「わかった」と一言で電話を切るコーチ。
やっとテニスから解放された!万歳!
親友のマキとゲームセンターに、行ったり、映画館に行ったり……でも、何かが抜け落ちたようで物足りない毎日。
「バカ!バカ!ひろみのバカ!なんでテニス辞めるのよ!ひろみこそ、テニス続けるべきよ!」
親友のマキが、泣きながら説得する。(いい親友だなぁ~)
次の日、強引にコーチの前にひろみを引っ張っていくマキ。
「岡、何日練習を休んだ?明日から厳しいぞ!」
「はいっ!」もうひろみに、迷いはない!
戻ってきたひろみの真摯な気持ちに、部員やお蝶夫人たちも、態度を変えた。
『どうせ、テニスを続けるなら、あたし、お蝶夫人のようになりたい!!』
止め絵は、光のあたった水彩画で、髪の毛から、目の下、鼻の下、あごの下と影がつけられ、たくさんの斜線がつけられる。
その一瞬、一瞬の止め絵の芸術的に美しいこと。
緑川蘭子に、見事ダブルスの試合で勝ったひろみは、強化合宿のメンバーとなる。
そうして、宗方の指導はどんどんエスカレートしていく。
早朝のタイヤをひいてのランニングから、鉛入りラケットの素振りを何千回…ひろみは、胃液を吐きながら耐えていく。
だが、そんなひろみを、陰ながら、気にして見つめる藤堂貴之の目があった。
全員とのランニング途中、ひろみは、足を痙攣させ、こむらがえりをおこす。
「みんなは、先に行ってくれ!」
ひろみに、肩を貸して寄り添う藤堂。
そして、雨、どしゃ降りの雨(ここでも雨の演出がきいている。)
雨宿りで、ガタガタ震えている、ひろみに、
「君は疲れているんだ……」
そっと抱き寄せる。(華奢なひろみが、ホント可哀想で、男なら、皆、ひろみが愛おしくみえてくるはずだ)
だが、藤堂がそっとひろみの首にかけたメダルを宗方に取り上げられてしまう(鬼だ)
厳しい夏合宿は終わり、代表メンバーの選考会が始まった。
ここでも宗方は岡ひろみを推薦するが条件をつけられる。
放課後、ひろみは宗方に呼び出される。
「明日、おまえは試合をする、相手は竜崎麗香だ、必ず勝て!」
「勝てません、絶対!勝てっこない、絶対!!」
帰り道、ひろみはあれこれ悩み続ける。
夕日の射す、線路の踏み切り前を電車が、無情に通りすぎる。
長い石畳の階段をのぼる足も重い。
家についてベランダ越しに星をみながら、
「テニスを辞めるのは今しかない!」と思う。
宗方の家に電話をするひろみ。
「………………」電話をかけてもやはり何も言えないひろみに、宗方が、
「岡だな…」という。
「そういえば、前もそうでした。何も言わないのにどうして私だと?」
「俺の考えてる事は、いつだってお前の事だけだからだ」
宗方の言葉に電話の向こう側で、嗚咽の涙を流すひろみ。
そして、口をついた言葉は、
「明日の試合、一本でもいいからお蝶夫人からエースをとります!」だった。
どうです?傑作でしょう?!
宮崎駿の亜流は次から次に出てきた。
だが、出崎統が鬼籍に入り、数年たったが、まだ彼の亜流といえる作品がでないのは、彼が他の人がマネできない天才だから。
金曜ロードショーでやってくれないかなぁ~。
ジプリとハリーポッターには、ウンザリしているので。
星は文句なし☆☆☆☆☆です。
アニメではない、これは映画である。