アメリカ人作家『サム・ダルマス』(トニー・ムサンテ)は、親友のカルロを頼り、イタリアに来て2年。
作家としてのスランプを乗り越えて、鳥類学の本も出版され、その評判も上々で浮かれていた。(とてもそんな小難しい本を書くような作家さんに見えないのだが…)
私生活も美人モデルの『ジュリア』(スージー・ケンドール)と付き合っているし、まさに絶好調。(鳥類学の作家とモデル?どこで知り合ったのだろうか?)
もうすぐジュリアを連れて、NYに帰国する予定である。
最近、この街では、若い女性ばかりが襲われる『通り魔殺人』が横行しているが、サムにはどこ吹く風。
本の小切手を無事受け取ると、カルロと別れて、スキップでもするように自宅に向けて歩きだした。
日が沈み、街は暗くなり始めている。
自宅へ向かう通りを歩くサムの目に、反対道路に、暗闇の中で、煌々と明るい、広い全面ガラス張りの画廊が映った。
道路に面したガラスは2重になっていて、玄関と、玄関ホールに、それぞれ自動ドアが設置されている。
その奥は、白い大理石の大ホールになっていて、幾つかのオブジェも飾られている。
ホールの横には2階に上がる階段がある。
それは道路にいるサムからも、ハッキリ見えていた。
その2階に、黒ずくめのコートを着た人物と女が揉み合いになっているのが見えている。
(何をしているんだろう…?)
サムが通りを渡って画廊に近付くと、コートの人物は階段をかけ下りて、1階の階段横の非常口から逃げるように出ていった。
その後、2階から女が腹をおさえながら、階段をゆっくりフラフラと下りてくる。
サムは、おもわず、自動ドアを抜けて画廊に入っていった。
女は腹を刺されたのか、おさえている腹からは血が滲みだしている。
「助け…て…」
だが、施錠されて、ホールにも入れないし、外の通りに出ることもできない。
(どうすりゃいいんだ…)
その時、道路を歩く通行人の姿が、あった。
必死のジェスチャーでサムが呼び止めると、通行人の男も近づいてきた。
「警察を呼んでくれ!」
外の男にも、サムの必死の様子や倒れている女の姿が見えたのか、男は慌てて警察を呼びに一目散に走っていった。
(後は待つだけか……)
サムはガラス張りの閉じ込められたホールにしゃがみこんだ。
しばらくして警察がやってきて現場は騒然としている。
サムもやっと解放された。
「モニカ!モニカ、大丈夫か!?」
夫のラニエリが、血だらけで担架に載せられている女の側に駆け寄る。
女は救急車で運ばれたが、なんとか命はとりとめたようだ。
「全部話してくれ」警部の『モロシーニ』が目撃者のサムに質問する。
「何か…変だった…でもそれが何か思い出せない…」
次の日からサムの目撃証言の事情聴取が行われる。NY行きは事件解決まで取り止めだ。
否応なしにサムも事件に巻き込まれていくのだが……。
ダリオ・アルジェント初監督作品。
いろいろなアルジェント作品を観た後に、この最初の第1作目を観ると驚く。
破綻も少なく(多少は変なところもあるが)、まだまだ、まともな犯人探しミステリーなのだ。
モロシーニ警部や警察の捜査もスゴクまともだ。(当たり前の事なのだが、これ以降、どんどん変になっていくアルジェント映画では珍しい)
サムが、犯人が出ていったドアを迂闊に触ろうとすれば、「指紋があるかもしれない!」とモロシーニが厳しく制止する。
犯人とおぼしき人物を何人か並べては、サムに目撃者として面通しさせたりもする。
オカマの女装した男が並べば、モロシーニ警部が「下がれ!」と、いの一番に、はねのけるのだが。(「もお~失礼しちゃうわね」プンプンしながら出ていくオカマちゃんには笑える)
ちゃんと科捜研なんてモノまであるのには、ビックリしてしまう。(この時代にですよ)
「犯人が落としていった手袋からは、夫人の血痕の他に葉巻の灰が付着していました。調べたところ、バハマ産の高級葉巻です。、後、手袋の中からイギリス産のカシミヤの繊維も出ました」
当時としては、ちゃんとした捜査のやり方に「へぇ~」なんて言いながら、素直に感心してしまった。
もちろん、サムと恋人のジュリアのベッドシーンもある。(アルジェント作品にはお色気シーンはお約束)
だが、それよりも、主人公サムが鳥類学の本を書いているという設定が事件を紐解く鍵として、ちゃんと活かされている事に驚いてしまう。
多少の遊びもあり、ハラハラ、ドキドキもあり………これは、二時間サスペンスドラマのお手本みたいじゃないだろうか。
アルジェント作品とは思えないくらい、ホントに、まともな映画。(変な褒め方だ)
こんなに、まともなアルジェント映画なんて……。
これが後に、恐怖を超えた爆笑映画作りに変遷していくとは、この時は誰も予想していないはずだ。(決して馬鹿にしてませんよ!アルジェント大好きなんですから(笑))
初々しいデビュー作、星☆☆☆☆でございます。