初見である。
もちろん昔から内容も知っていたし、評判も聞いていた。
これ以降のダリオ・アルジェントの変化も知っていたし、間違いなくこの『サスペリア』がターニング・ポイントになったのだと思う。
だが、近年リメイクもあり、それならば(1度観てもいいか)ぐらいの気持ちにもなってきたのである。
そうして観たのだけど………
ん〜 ……… あまり大騒ぎするほどじゃないような。(ゴメンナサイ)
前作の『サスペリア2(紅い深淵)』が面白過ぎて、あれがピークだったんじゃなかろうか。(前作なのに 《2》とは、ややこしい。全ては映画配給会社の下手な邦題のせい)
ドイツのバレエ学校に転入してきた主人公『スージー・バニヨン』(ジェシカ・ハーパー)の周りでおこる陰惨な事件は、全て学校を根城にしている《魔女》の仕業でした。
チャン、チャン!
簡単に要約すれば、これで終わる話なのだ。
それに《魔女》が、なぜに?自分の学校の女生徒たちを次から次に殺してしまうのか …… (この部分が特に理解不能だ)
生徒が次々と死んだり、行方不明になれば、当然父兄たちが大騒ぎするはずだし、マスコミも黙っちゃいないはず。
警察だって駆けつけてくるだろうに。(普通なら学校は閉鎖でしょうよ)
こんな疑問で悶々としている時に、映画で流れるゴブリンの音楽は、まぁ、うるさい事よ。
怖い効果を得るどころか興ざめしてしまう。
赤や青のド派手な色彩演出も、なんだかねぇ〜。(コレがイタリアン・ホラーの持ち味なんだろうけど)
それまでのアルジェント映画のドギツイ場面だけを並べたてたような映画。
まだ、恋人たちの変なイチャイチャするシーンや、くだらないアホなシーンがあった方がよっぽどいい。
前作の映画で知り合い、公私共にパートナーとなったダリア・ニコロディの助言により、魔女を題材にして、この映画を完成させたらしいが、ホラーのジャンルは、この人にそもそも合っているのかな?
真面目に演出すればするほど、溢れ漏れてくるおかしさ。
それがアルジェント映画の持ち味だと思うのに。(怖さは一切期待してない)
と、グチグチ言うのはここまで。
この映画でも、多少良かったところを、ここからは書いておきたいと思う。
良かったのは、それぞれの出演者たち。
●スージー・バニヨン(ジェシカ・ハーパー)…華奢な体つきがバレリーナにピッタリ。
ほんとうに踊れるのなら、一応バレエの発表会なんてシーンもあってもよかったかも。
それまでのアルジェントのヒロインに比べて、いかにも少女で可愛かった。
●ブランク夫人(ジョーン・ベネット)… 副校長。
校長(魔女)がいない学校をこの人が仕切るのだから、事実上、この学校の絶対的権力者。
堂々とした威厳のある恰幅のいいオバサンである。
若い時のベネットは格別綺麗で、代表作『飾り窓の女』は、1度観てみたい作品だ。
ただ、最後、何かもう少しアクションがあれば、とホトホト残念。
この映画では、この人が一番よかったかもしれない。
高圧的で威張っていて、本当に嫌な役がピッタリなのだ。(変な褒め方だが実際そうなのだ)
バレエのレッスン中のスージーに副校長のブランク夫人が近づいてくる。
「スージー、さっき部屋が空いたので学校の寮に移りなさい」
それまで、女性徒のオルガと別のアパートでシェアをしていたスージーは、ブランク夫人の言葉に逆らう。
「それは規則ですか!」
「一応、寮生の登録をしているので。でも、あなたの好きにしていいのよ」と、理解のある風を装おうブランク夫人。
その後に、恐ろしい顔の『ミス・タナー』(アリダ・ヴァリ)がツカツカやって来るのだが、
「人一倍意志が強いのね、1度決めた事は決して変えようとしない。立派ですよ」とチクリと嫌味を言うのを忘れない。
そして、またツカツカと去っていく。
その後に始まったバレエのレッスン。
「なんだかおかしいわ……」スージーに突然異変がおこる。
躍りながら、フラフラとめまいが。(こりゃ、何か一服盛られたか?)
ホールに倒れこんで、スージーは 鼻血ブー!
そして、さっきブランク夫人が言っていた空き部屋へとっとと担ぎ込まれてしまう。
「さぁ、これを全部飲んで!!」
むせこむスージーには一切お構い無し。(さっきのスージーの生意気な態度に対するお返しとばかりに見える)
「さぁ、飲んで!鼻血で失った血を早く補給しないとね。そうですよね?先生?!」(どんなヤブ医者の処方だ。かえって具合が悪くなるようにも見えるが)
ヤブ医者も「そのとおりです」なんてアホな返事。
と、まぁ、万事こんな具合のミス・タナーなのである。
このミス・タナーを見て、映画『レベッカ』のダンヴァース夫人を思い出してしまった。
ブランク夫人を尊敬していて、それに逆らう者には、徹底して高圧的でイビリまくるとこなんざ、ダンヴァース夫人にソックリ。
思えば以前、『第三の男』でアリダ・ヴァリの事をケチョン、ケチョンに書いたものだった。
二人の男たちが、このアリダ・ヴァリを好きで、葛藤や苦悩をするのに、何故か、違和感を感じずにはいられなかったのだ。
アリダ・ヴァリの顔は骨格がしっかりしていて、ホームベース型で、むしろ男顔なのだ。
そして意志が強そうな、一見恐ろしい顔をしている。
二人の男がとりあうような美人にはとても見えない。
でも、この『サスペリア』では逆にそれがハマリ役となり、生き生きしているのである。
後年になって、やっとアリダ・ヴァリも自分の資質に合う役に出会えたと思うのだ。
だからこそ、この『サスペリア』の出来には少々ガッカリしたのかも。
ドギつさよりは、心理的な駆け引きや、謎となる《魔女》の正体、真の目的などに重点をおかれていたなら、良質なゴシック・ホラーになっていただろうに。
私の評価は星☆☆☆。
アリダ・ヴァリの頑張り+主人公スージーの可愛らしさ+そしてオマケ点である。