2018年10月20日土曜日

映画 「狩人の夜」

1955年 アメリカ。





舞台は1930年、世界恐慌のウェストバージニア州。


やむなく、貧困のために銀行強盗をして、1万ドルを盗んだベン・ハーパー。




幼い息子のジョン(7~8才ぐらいだろうか?)に金の隠し場所を教えると、ジョンの目の前で、ベンは警察に連行されていった。

「母さんと妹のパール(3才くらい)を守るんだぞ!」

と言い残して。





刑務所では、同じ房にハリー・パウエルという男がいて、ベンの隠した1万ドルを狙っている。



ケチな車の窃盗でつかまっていたが、


右手の指にL・O・V・E(愛)、

左手の指にH・A・T・E(憎悪)

のタトゥーをした自称、伝道師『ハリー・パウエル』(ロバート・ミッチャム)は、邪悪な信仰心と女性嫌悪をあわせ持つ、恐ろしい殺人者なのだ。



やがて、ベンは、死刑になり、出所したハリーは、ベンの家にやってくる。




未亡人となったベンの妻ウィラを、騙して虜させると、アッ!という間に再婚までしてしまった。

妹のパールもなついてしまう。



だが、息子のジョンだけは、ハリーに心を開くことはなかった。






しばらくすると、母親ウィラが突然行方不明になった。(ハリーに殺されて川の奥に車ごと沈められているのだが)



ハリーはぬけぬけと、

「別に男ができて、子供たちを捨てて出ていったのです。なんて可哀想な子供たちなんだ。でも、この子たちは責任を持って私が育てます!」

と町の人々に吹聴する。



そんなハリーの嘘を疑いもせず、町の人々は、「まぁ、偉いわ!ハリー!」と褒め称えるのだが………。




だが、ハリーの目的は、最初から《金》。



刑務所で死ぬ間際に、ベンが寝言で言っていた《金》が、この家のどこかに隠してあるはずなのだ。

その隠し場所を子供たちなら、必ず知っているはず!




その夜から、家の地下室では、

「1万ドルの隠し場所はどこだ!」

ハリーの怒号が響き、幼いジョンとパールを責め立てていたのだった。



それを見ていた妹のパールは、怯えて泣き出してしまう。(まだ3才だもの。この子、本気でミッチャムの演技に怯えていそう)


「お人形の中よ!!」(アッ!という間に自白。アララ……)


いつもパールが抱えて離さない人形の中に1万ドルはあったのだ。






「ハハハーッ、1万ドルは目の前にあったのか!」

地獄の底から聞こえるような高笑いをするハリー。


そんなハリーが、悦に入り、笑い転げている時、ジョンは咄嗟の機転で、ハリーの頭にある棚の突っ張り棒を外した。

棚の上の瓶は、見事にハリーの頭上に落下して命中。



まともに落ちてきた瓶で、ハリーは、しばしクラクラしている。


(今だ!)

ジョンは、パールの手を引いて、地下室の階段をかけあがった。(もう、この辺のハラハラ、ドキドキ感は半端じゃない、早く逃げて!逃げて!)





そして、地下室の蓋を閉めて鍵をすると、家を飛び出す二人。



外は真夜中。

それでも必死に、手を繋いで逃げる幼い二人。



近所のおじさんに助けをもとめるも、完全に泥酔している。(ダメだ、こりゃ~)


その時、地下室から脱出したハリーが恐ろしい唸り声をあげながら二人を追いかけてきた!




いつの間にか川岸まで逃げてきた二人。





目の前に、川に浮かぶ一隻のボートがあった。
(このボートで逃げるんだ!)



ジョンはパールを乗せると、重いオールを操って、ボートは岸から離れはじめた。

でもハリーは、そんな二人の姿を見つけて川にまで飛び込んでくる。(このシーンの寒気がするくらい恐ろしい事~)


でも、あと少しで手が届かず。



ボートは下流にうまく流れだし、ハリーの叫び声もどんどん遠くなっていった。



やっと安心したジョンとパール。


真夜中、ユラユラ進み続けるボートの上には、まばゆい月明かりが優しく二人を照らしている。



疲れと安心感に包まれて、ジョンとパールは、しばし、安息の眠りにつくのだった …………




監督は名優チャールズ・ロートン。


この作品は当時、興行的には失敗して、監督はこれ一本だけ。



だが、何十年後か経つと、だんだんと口コミで火がつき人気になり、フランソワ・トリュフォーや映画評論家などに絶賛されて、再評価されたという珍しい経歴の映画である。



映画にも、こんな現象が、たまにあるのだ。




とにかく、この映画、ハリー・パウエル役のロバート・ミッチャムが怖いこと、怖いこと。


「ウウウウウーッッー!!」なんていう、独特な唸り声で、幼いジョンとパールを追いかけ回すのだから、もし子供の時に、この映画を観ていたとしたら、確実にトラウマ物だろう。(大人になってた自分でも、充分怖かったが)


こんな独特な役作りが、当時、真面目な評論家や、堅物の観客に嫌がられ、煙たがられた原因だったかもしれない。



だが、一方では、興行的には失敗しても、この《ハリー・パウエル》のキャラクターは、世間的には強い印象を残す。


《ロバート・ミッチャム》=《ハリー・パウエル》=《怖い人》の図式は、後の傑作『恐怖の岬』につながっていくのである。(未見。いつか観てみたい)





後半、ジョンとパールは気立ての良い老婦人『レイチェル』(リリアン・ギッシュ)に、運よく拾われる。


孤児や片親ばかりの子どもたちを、無償の愛情で世話するレイチェル。


ジョンもパールも、やっと安心した生活を手に入れる事ができた。(ここで、やっと、ホッ!とする。ジョンとパールも良かったね)




だが、そこにも邪悪なハリーが現れて、猫なで声でレイチェルを丸め込もうと、ウソ話を始める。


「あ~、やっと見つけた!憐れな子供たち。ずっと探していたのですよ。ウウウッ………」

レイチェルの前で、白々しく泣き真似までしてみせるハリー。




でも、レイチェルは騙されない。



ハリーの本性を一目で見抜き、猟銃を向けて追い払うのだ。


「とっとと出ておいき!!この悪党!!」(やっと子供たちを信用して、守ってくれる大人が現れたのだ!)





この映画を観ていると、いつしか7~8才の頃にタイムスリップしてしまう自分。


ジョンの気持ちに同化しながら、恐怖したり、ハラハラしたり、安堵したり………。




そんな体験をさせてくれる、これは特別な映画なのである。

星☆☆☆☆☆。(隠れた傑作ですぞ)