2021年5月23日日曜日

映画 「動く標的」

1966年 アメリカ。




今回、自分にとっては《苦手》と言われるジャンルや俳優の映画に挑戦したつもりである。



まず、第1に、《ハード・ボイルド》の小説や映画があんまり得意ではないのだ。


私立探偵が地道に、自分の足で、あっちの現場、こっちの現場とコツコツ歩き回って、手がかりを探していく……この魅力があんまり分からないのだ。(このジャンルが、特に好きな人には、「ハァ? アホか!」と怒鳴られそうだが)



それというのも、ハード・ボイルド小説や映画の全てが、主人公である私立探偵の《一人称》で成り立っているからである。


三人称》のハード・ボイルド小説など、今までお目にかかった事がない。



普通の小説や映画は、それなりに、ある程度の距離をおいて、客観的に読み進む事や観る事が出来るのだが、ハード・ボイルドのジャンルになると、いきなり勝手が違ってしまう。


《一人称》ゆえ、まずは、主人公の私立探偵に同化しなければならないのだ。


情報として、目に入るモノも、耳にするモノも主人公の私立探偵の主観だけ。


初めて会う人物の印象なども、その主人公の感じ方や性格に左右されて、読み手は片寄った情報量しか、一切与えられないのだ。


この主人公の気持ちに、すんなり同化出来なければ、小説でも映画でも観ていくのは、ことさら《苦痛だろう》と思ってしまうのである。



元来、忍耐力がない自分なんか、主人公の私立探偵が聞き込みで、あっちこっちに出かけていって、いちいち話を聞いて回る場面が続いていくと、(疲れるなぁ~、早よ終わらんかなぁ~)と、ばかり思ってしまう。


こんな理由で、これまでは、ハード・ボイルド小説や映画を、あまり寄せ付けずにきたのだ。(まぁ、これは、自分に忍耐力や辛抱が足りない、って証明でもあるんだけど)



中にはハード・ボイルドでも、「面白かった!」って思えるような映画はあるんだけど、よっぽど、自分が気に入った俳優じゃなきゃ、滅多に手を出さないジャンルである。




そして、第2の苦手なのは、《ポール・ニューマン》。


「あの《ポール・ニューマン》が苦手って、どういう事?!」

って疑問を持たれる方もいらっしゃるだろうが、これは自分の趣向の問題が、たぶんに大きくて上手く説明できないかも。



ポール・ニューマンは、昔から、スタイルも良くて、顔も良くてカッコイイと思いながらも、何だか自分にとっては、少々、敷居の高い俳優さんなのだ。


ポール・ニューマンは、あのジェームス・ディーンマーロン・ブランドと、ほぼ近い同期じゃなかったかな。


アメリカのアクターズ・スタジオ出身で同じように演技を学んで、映画界に入っていったと思う。



だが、ジェームス・ディーンやマーロン・ブランドが早くから売れっ子になっていっていったのに比べて、ポール・ニューマンは、なかなかブレイクしなかった。


ジェームス・ディーンやマーロン・ブランドの二人が持つような《破天荒さ》や《強い毒っ気》みたいなモノが欠如していた為である。


それらは、生来の性格みたいなモノが大きいのだと思うが、そんな二人に押されてしまうくらい、ポール・ニューマンの個性は、アッサリしすぎて少々物足りなさを感じたのかもしれない。



はては、《第2のマーロン・ブランド》とまで呼ばれてしまい(若い時のマーロン・ブランドと顔立ちは似ている)、


「マーロン・ブランドは映画界には二人も要らない!」

とまで言われる始末。(まぁ、ちょっと可哀想なんだけど)



ポール・ニューマンの悶々と耐える日々が続く……。



そのうち、ジェームス・ディーンは、その《破天荒さ》ゆえ若くして亡くなり、

マーロン・ブランドは、その《毒っ気》の強さから緩慢、横暴さに拍車をかけて自らの容姿も崩れていくと、やっとポール・ニューマンにも光が当たりはじめる。



容姿も完璧だし、スタイルも均整がとれていてイケメンのまんまを、ずっとキープしていたポール・ニューマン。


徐々にヒット作にも恵まれてブレイクしていく。


歳をとっても、死ぬまでスタイルも崩れずに、カッコ良さをキープし続けたポール・ニューマン。



こんなポール・ニューマンの悪い噂を聞いた事がないくらい、亡くなるまで完璧な人であった。



だからこそ、私はポール・ニューマンが少々苦手なのかも。



完璧に見えても、どこかヘタレの部分がありさえすれば、それが弱点でも、それは好きになれる部分でもあるのに。


この人には、そんな部分さえ見いだせないくらい完璧なのだ。


顔はイケメンで、スタイルも良くて、女遊びもせずに、共演者とも揉めることもない。(本当に根が真面目な人だったのだろう)



でも、あえて取りあげるなら、品行方正なポール・ニューマンの芝居は、どこか固さが見えて、技巧的にも見えるかも。


それを、映画『引き裂かれたカーテン』で起用したヒッチコックは嫌ったらしいが。(半分は嫉妬もあるのかな?)



この映画『動く標的』は、ハード・ボイルド作家ロス・マクドナルドの私立探偵リュー・アーチャー・シリーズの一編。(映画では、ルー・ハーパーに名前を変えられている)


ルー・ハーパーを演じるポール・ニューマンが、富豪の妻ローレン・バコールの依頼で、例によって、失踪して行方不明になった夫を、あちこち探してまわる。(『サイコ』のジャネット・リーアーサー・ヒルなんて有名人たちが、脇をかためております。)



どの場面でも絵になるポール・ニューマンのイケメンぶり。


あちこち、こんなニューマンが手がかりを求めて歩き回る姿が映し出される。



苦手なジャンルや俳優の映画を観てみよう!、と思うほど、自分も、だいぶ柔軟に変わったものだ。


1度観てみた『動く標的』は、まぁ続編も作られたくらいなんで、中々面白かったと思う。(カメラ・ワークが上手いんだろうか。ワンカット、ワンカットが絵になるくらいに綺麗だ。)



さて、2度目の視聴でどう変わるのか。


どれ!ポール・ニューマンの今まで見いだせなかった魅力(弱点)でも、じっくり探してみようとするか。


それが見つけだせれば、ニューマンの残した映画に、今後ハマるかもしれないし………