1978~1986年。
昔は、アメリカでも日本でも子供を主人公にしたドラマがたくさんあった。
わずか30分くらいのホーム・コメディー・ドラマだったが、子供の自分はそれを食い入るように観ていた。
テレビドラマの主人公である、同じ歳頃の子供たちの生活を、自分と比べてみたり羨んだりもしていた。
だが、そんな番組は、今やほぼ消滅してしまった。
何故か?!
それはアメリカでも日本でも、子役たちが辿る、その後の境遇の悲惨さが、大きく世間に知れ渡ったためである。
大人が書いた台詞を、まだ物の道理が分からない子供に覚えさせて、それを演じさせる事が、どんなに危険をはらんでいる事なのか……それが大人たちにも、やっと分かってきたのだ。
《演じる》事は、小さな子供にとっては、ただ《嘘を言わせる》事なのだ。
始終、その《嘘を言わせる》事が続けば、《演技が上手くなる》=《嘘が上手くなる》という事なのである。
それは結果、子供らしさを奪ってしまい同世代の子供たちとは、かけ離れた価値感を持ってしまうのだ。
ましてや、それが、主役ともなれば小さな子供にとってはハンパない重圧。
これは極論かもしれないが、自分はそう思っている。
そして、番組が大ヒットすれば懐に入ってくる大量の大金は、さらに、その子の環境を大きく変えてしまい、その後の人生さえも狂わされてしまう。
こんな落とし穴に落ちない子役は、ほぼ稀で、ほとんどの子役たちが辿るのが、こんな悲惨な道筋なのだ。
今なら、こんな裏背景も知っているのだが、当時は、このドラマ『アーノルド坊やは人気者』を何も考えずに面白おかしく観ていた自分。
黒人の兄『ウィリス』(トッド・ブリッジス)と幼い弟『アーノルド』(ゲーリー・コールマン)は家政婦の母親と一緒に貧民街で暮らしていたが、ある日、母親が亡くなってしまう。
母親が働いていた家の白人資産家である『ドラモンド』(コンラッド・ベイン)は、そんな二人に同情して養子にすることに決めた。
ドラモンドの妻は既に亡くなり、一人娘の『キンバリー』(ダナ・プラトー)がいるだけ。
そこに通いのお手伝いさん(2シーズンくらいでコロコロ変わってた気がする)を加えて、人種や年齢も違う、特別な一家が誕生するのであった。
こんなのが『アーノルド坊やは人気者』の大まかな設定。
この主人公『アーノルド』が小柄な丸々した黒人の子供で、周り中にシニカルなジョークをとばすのが、おおいに受けた。
「冗談、顔だけにしろよ!」
は、アーノルドの決め台詞。
日本では堀駒子さん(忍者ハットリくんで有名)の絶妙な吹き替えが、さらに評判になり大ヒットした。(英語では何て言ってるんだろう? まぁ、同じようなニュアンスの言葉なんだろうけど)
こんなアーノルドを演じたゲーリー・コールマンは、自分と同じで1968年生まれ。
番組開始時が1978年だから、当時は10歳くらいだったはずだ。
(同じ歳にしては、子供子供してて小さいなぁ~ ……)
なんて思っていたけど、アーノルドの面白さに、あまり気にもとめなかった。(なんせ養父役のコンラッド・ベインの膝に座れて、抱かれるくらいの小ささですもん。規格外に小さい)
こんな『アーノルド坊や…』を観る度に笑っていた自分だが、段々と違和感を感じはじめる。
「なぜ?主人公ゲーリー・コールマンは成長しないのか???」と。
何年経っても小さいままで、子供のまんまのゲーリー・コールマンの姿に妙な違和感を感じはじめたのだ。
他の出演者たちは、それなりに身長も伸びて顔つきも大人に近づいていくのに、ゲーリー・コールマンだけが時が止まったように、全く成長しない。
観ている同じ歳の自分だって成長期でグングン身長は伸びてるのに、ブラウン官の向こうでは、相変わらず小さいままの『アーノルド坊や』。
私は、変わらぬ同じような姿で、同じようなジョークを言っているコールマンに、ただならぬモノを感じて、次第に笑えなくなり、いつの間にか視聴を止めてしまった。
それでも本国では1986年までの8年間も続いたそうだが、最後まで身長142cmの『アーノルド坊や』だったゲーリー・コールマン。(この時点でも、すでに18歳にはなってるはず)
彼は《小人症》になっていたのだった。
もともとの、生まれつきあった腎臓障害が成長をとめてしまったらしいのだが、はたして原因はそれだけなのか。
番組の主人公であり、『アーノルド』のキャラクターの世界的人気が、精神的にもプレッシャーやストレスになったんじゃないだろうか?
後、成長期に多忙だったため、充分な睡眠や休息がとれなかったからではないのか?
日本でも子役のほとんどが身長が伸びないのは、過度な激務で、成長期に充分な睡眠をとれない為と最近では言われている。(男性は、ほぼ160cm代で止まってしまう)
とにかく、番組の終了はゲーリー・コールマンにとっては、他の子役たちと同じように、人生の《下り坂》が待っていたのである。
それも壮絶な《下り坂》が……
子供の頃から稼いだ莫大なギャラを巡って家族と断絶してまでの裁判。(本当にマコーレー・カルキンと一緒だ)
昔のフアンにからかわれての暴力沙汰や訴訟問題。
やっと結婚できても、妻(コールマンより身長も30cm高い)との言い争いや不和は警察沙汰にまで発展する始末。
そうして、とうとう2010年に転倒して脳内出血をおこし亡くなってしまったのである。(享年42歳)
ゲーリー・コールマンだけでなく、兄のウィリス役だったトッド・ブリッジスもコカイン中毒で苦しんだし、キンバリー役のダナ・プラトーなんて薬物中毒により、34歳の若さで亡くなっている。
こんな風に挙げれてしまえば、悲惨な『アーノルド坊や…』の出演者たち。
番組は、今観ても、そんな暗い影なんて微塵もありゃしないのだが、私は昔のようには、とても笑えないかも。
あまりにも当時からをタイムリーに観てきた同世代としては、こんな悲惨さを知ってしまうと、簡単には払拭出来ないと思うのだ。
むしろ、私たちよりは、はるかに若い世代には、そんな雑念も気にせずに楽しめるかもしれない。
ドラマ『アーノルド坊や…』は笑い溢れるホーム・コメディーなのだから ………
星☆☆☆。