1970年 アメリカ。
シカゴのリンカーン国際空港は、10年に一度の豪雪に見舞われていた。
そんな中、旅客機が雪に埋まって立ち往生する事故が起きた。
帰り支度をしていた空港長の『メル・ベイカースフェルド』(バート・ランカスター)は、急遽呼び戻される。
メルは妻に「こういう事情で今夜は帰れないかも……」と電話するも、毎度毎度の空港トラブルで帰宅しない夫に、電話の向こう側では憤慨のキィーキィー声。もうカンカンだ!!
そんなメルを地上勤務員の『タニヤ』(ジーン・セバーグ)は優しく気遣う。
空港の激務を理由に、メルの気持ちは、とっくにヒステリックな妻から離れていたのだ。
目の前の優しいターニャ、そう、こんな人が側にいてくれたなら……
いかん!いかん!今はこの状況をなんとかせねば!!
頭を切り替えて、メルはベテラン整備士の『パトローニ』(ジョージ・ケネディ)に電話した。
「すぐにこちらに来てくれ!大至急だ!」
そんなメルがバタバタと駆けずりまわる中、今夜ローマ行きの旅客機を操縦するパイロット『ヴァーノン』(ディーン・マーティン)がやって来た。
「だから、除雪の為に設備投資するべきなんだ!ちゃんとローマに飛べるんだろうな?!」
「たまに降る雪の為に馬鹿な投資ができるか! 我々は今の設備でやっていくしかないんだ! それに君のとこのパイロットが近道しようとしたせいなんだぞ!」
「フン!」
イヤな奴、ヴァーノン……こんな奴が妹の旦那なんて……オマケに女ぐせも悪いときてる……(メルの妹と結婚してるヴァーノン。いわば義弟なのだ)
ヴァーノンは、嫌悪するメルに目もくれず、空港の中へさっさと入っていった。
メルの察したとおり、ヴァーノンは同じ旅客機に搭乗するスチュワーデスの『グエン』(ジャクリーン・ビセット)と、もっかお熱い中だった。
だが、ヴァーノンは浮気相手のグエンから思いもよらない話を聞かされる。
「子供が出来たの……私……産むかもしれない」
搭乗する前に、こんな話で(ガーン(゚Д゚;))一気に青ざめるヴァーノン。
同じ頃、メルをオフィスで待っていたタニヤの元へ、係りの者が老婦人を引っ張ってきた。
「えっ?!こんな人が飛行機のタダ乗り?!」
にこやかに笑う『クォンセット婦人』(ヘレン・ヘイズ)はタニヤの前のソファーに品良く腰かけた。
「初めてのタダ乗りじゃないのね?」
「もちろんですよ。娘が結婚してニューヨークに住んでるのよ。往復で利用しているわ。オタクの飛行機が一番いいわね」
全然、反省もなく悪びれてもないクォンセット婦人は、無賃でタダ乗りするカラクリをペラペラと喋りだした。
呆気に取られるタニヤ。
そこへ、メルが帰ってくると、「あなたからも、この御婦人に説明してちょうだい!タダ乗りは《犯罪》だって言うことを!」とお願いする。
「あ~、ダメですよ、タダ乗りは! それにしても腹が減ったな~」と、メルは説教をそこそこに、目の前のサンドイッチを手に取りパクついた。
それを物欲しげにジーッ!と見つめるクォンセット婦人。
そんな目線に気づいたのか、メルは「どうですか?一口でも…」と薦める。
「まぁ、ありがとう。機内食にガーリックが入っていて食べれなくてねぇ~。年寄りにガーリックはダメですよ。」
婦人はメルにお礼を言いながら、にこやかにサンドイッチにかじりついた。
その光景を見ていたタニヤの呆れ顔。(ダメだ、コリャ!)
婦人は次の便で送り返される事になると、それまで厳重に見張りをたてて監視される事になった。
こんな、次から次へとスッタモンダが続くリンカーン国際空港。
空港のカウンター口では、次のローマ行きの受け付け手続きがはじまり、乗客たちが列をつくっている。
ベテラン税関職員の『ハリー』(ロイド・ノーラン)は、その中の乗客の一人に、明らかに不審そうな目を向けていた。
その人物は手続きを済ますと、アタッシュ・ケースを大事そうに抱えて、機内のゲートへと歩いていった。
「どうしたの?」近くを通りかかったタニヤが、そんなハリーに声をかける。
「今、入っていった男…何だか様子が変なんだ。あの定まらない目付き……」
「カウンターで調べてみましょうか」ベテランのハリーの勘を信用しているタニヤは、受け付けで男の身元を調べさせた。
「名前は《ゲレロ》。搭乗前に保険をかけています」
「そう……」タニヤも気にはなったが、それ以上は何も言えない状況で、他のお客の搭乗手続きの邪魔になると思い、その場をはなれていった。
そんな隙に、先程の、あのクォンセット婦人が、ひょっこりと現れたのだ。
見張りの監視人を巻いたクォンセット婦人は、ローマ行きの受け付けカウンターをすり抜けると、そのままゲートへ向けて、スタコラと歩いていく。
そうして、旅客機はローマに向けて、雪降る大空へと飛び立っていったのだった。
パイロットのヴァーノン、スチュワーデスのグエン、不審な男ゲレロ、タダ乗りのクォンセット婦人を乗せて……。
それから、しばらくして無人になったターミナルに、一人の中年の女性がフラフラと現れた。
タニヤは、その青ざめた女性のただならぬ様子に、すぐさま駆け寄った。
「どうかなさったんですか?」
女性は、先程不審そうな素振りを見せていた乗客ゲレロの妻、『ゲレロ夫人』だった。
「夫の様子が、どこかおかしくて……」
聞けば、ゲレロは元土木技術者で失業中。作業現場からはダイナマイトが紛失していたのだ。
(搭乗する前にかけていた保険金……まさか、あのアタッシュ・ケースには 爆弾 が…? 機内で爆発騒ぎを起こして、ゲレロは保険金をせしめるつもりなのか?!)
タニヤは、ゲレロ夫人を係りに引き渡すと、一目散にメルの元へ走っていった。
(大変なことになったわ……!!)
爆弾魔の情報は直ちに、空港のメルから、上空を飛んでいる旅客機のパイロット、ヴァーノンに連絡される。
パイロットや、スチュワーデスのグエンたちにも緊張感がはしる。
機内を見てみれば、窓際にゲレロがアタッシュ・ケースを膝に置いて鎮座している。
その真横のシートでは、あの!クォンセット婦人が何食わぬ顔をして編み物を始めているのだった………。
こんなに長い文章、はたして読んでくれる人がいるのか……相変わらず、長くなってごめんなさい (笑)。
個人個人の役の事情を語るのに、この映画では、こんな風に、全編137分の中、90分以上を、自分が書いてみたようなモノに費やしているのだ。(これでもメルの妻が空港に怒鳴りこんでくる場面や、ゲレロとゲレロ夫人の会話など、無駄だと思うシーンはだいぶ割愛している。それでも文章にすればこんな長さですもんね)
ゆえに、スピーディーな展開になれきった現代人たちには、少しだけイライラするかもしれない。
それでも、当時、この映画は爆発的な大ヒットを叩き出した。(なんたって興行収益は制作費の10倍以上の利益ですもん)
原題名『airport』。
そう、『エアポート 』シリーズの第1作目なのである。
とにかく、この後にもジャン!ジャン!作られていく『エアポート・シリーズ』。
『エアポート´75』、
『エアポート´77』、
『エアポート´80』……(ここまではユニバーサル映画)
で、これで終わりにはならず、アルバトロス映画に変わって、同じような航空パニック映画が作られていくと、日本では勝手に《エアポート》の冠がつけられて、全然無関係なエアポート・シリーズとなっていく。
コンスタントに、「これでもか!これでもか!」と、近年まで作られていくエアポート・シリーズ。(ここまでくるとさすがにへき易。もう、「オエーッ」って感じもするのだが)
そのくらい続くエアポート・シリーズなので、当然、この第1作目の『大空港』は傑作であるはずなのだと思い、今回、初めて観ることにしたのだ。
そうしたら、またもや主演は、あの『バート・ランカスター』。(この人の強運は70年代になっても、全く衰え知らず。それどころか、どんどん勢いを増していく)
1913年生まれのランカスターも、もはやこの時、57歳。
若い時のような《魅せる》アクロバットを売りにも出来ない年齢。
だが、この人は着実に、年齢を重ねながらも重厚な演技力を磨いてきたのだ。(『空中ぶらんこ』でも、その《悲哀》みたいなモノを見せてくれる)
全く、写真や画像だけを見れば本当に厳めしい顔のランカスターなのだけど、映画の中で、動いて喋るランカスターを観てしまえば、その印象は180度、ガラリと変わってしまうから不思議だ。
だが、この『大空港』は、幾多の大スターたちが、軒並み出演する集団群像劇。
いくらバート・ランカスターとはいえ、平均的に描かれる群像劇ではいつもの映画とは勝手が違う。
なんせ、他の俳優女優たちがスゴい面子ばかり。
☆ディーン・マーティン……『底抜けシリーズ』で有名。後、歌手としても超有名な方。(何でこんなに日焼けしてるんだろ?ゴルフ焼け?)
☆ジーン・セバーグ……『悲しみよこんにちは』のセシルが、すっかり大人の女性に。(この髪形がスゴいけど)
☆ジョージ・ケネディ……言わずと知れた名バイブレイヤー。
☆ジャクリーン・ビセット……『ブリット』、『料理長殿、ご用心』、『オリエント急行殺人事件』などの美人女優さん。
その他にも何人かの有名なスターたちが出演している。(ごめんなさい、後は勉強不足で知らないけど)
ただ、その幾多のスターたちの中で、今回、抜きん出て活躍したのは……ひとりのお婆ちゃん女優だったのだ。
☆ヘレン・ヘイズ……サイレント映画の時代から(古い~)活躍している女優さんで、その時代をさすがの私も、ほぼ知らないが、この人には見覚えがあった。
昔、日曜洋画劇場で放送されていた、アガサ・クリスティー原作の『カリブ海殺人事件』(DVDでは『カリブ海の秘密』に改名)で、名探偵ミス・マープルを演じていた人なのだ。
ドラマはだいぶ改変させられていたが、品の良い、穏やかで親しみやすそうなマープル役でございました。
最初から、お婆ちゃんのヘレン・ヘイズしか知らない私なのだけど、なんだか、この醸し出す雰囲気に終始、好印象を抱いていたと思う。
この映画でも、他の人たちが深刻な顔をしている中で、ヘレン・ヘイズだけが素っ頓狂な笑いを振り撒く。
それゆえに、とても《目立つ》のだ。
そして、結果は他のスターたちを押し退けて、アカデミー賞助演女優賞を受賞してしまう。(御年70歳で)
パニック映画としてのハラハラ、ドキドキ感を、この映画に、あまり求めてはいけないかも。(危険な場面もあるにはあるのだけど…今の目で見ると、あんまり大した事ない)
ヘレン・ヘイズ婆ちゃまのホンワカした雰囲気を楽しむことをオススメしておく。
星☆☆☆。