1955年 イタリア。
『青春群像』、『道』と大ヒットさせて、各賞を総なめにし、その名を全世界に知らしめたフェデリコ・フェリーニ監督。
「次はどんな作品を作るのか…」
当時、ワクワクして、皆が期待に期待をかけて、待ち望んでいたに違いない。
だが、作られた作品は……
全くカッコよくない、中年のオッサンを主人公にした、《詐欺》グループのお話でした。
年長者の『アウグスト(写真右)』(ブロデリック・クロフォード)、
お調子者『カルロ(あだ名はピカソ)(写真左)』(リチャード・ベースハート)、
女好きの『ロベルト(写真中央)』(フランコ・ファブリッツィ)の3人組は、田舎の山道を、ロベルトを運転手に車を走らせていた。
お調子者『カルロ(あだ名はピカソ)(写真左)』(リチャード・ベースハート)、
女好きの『ロベルト(写真中央)』(フランコ・ファブリッツィ)の3人組は、田舎の山道を、ロベルトを運転手に車を走らせていた。
車を走らせていると、サングラスをかけた男が、道の通りに立っている。
男の名は『ヴァルガス』。詐欺師3人組の仕事を手引きする男である。
車はヴァルガスの前で停まると、3人組は表に出てきて着替えを始めた。
アウグストは司祭の姿に、ピカソは神父に、ロベルトは黒い背広姿の運転手にと……。
「ここから先の家だ。犬がいるはずだから気をつけろ。手はずは整えてある」
ヴァルガスの指示をうけると、3人は目的の家を目指して、再び出発した。
しばらくすると見えてくる農家の家。
犬たちが、車を見つけると、ギャン!ギャン!吠えてきた。
その犬の鳴き声に気づいて、戸口からコッソリ外を伺う中年女。
「まぁ、司祭様!」
司祭のアウグストと神父のピカソの姿を見るなり、中年女は態度を変えてかけよってきた。
「犬たちを遠ざけて頂けませんか?実は奥さん、司祭様から大事な話があるのですよ」
勿体ぶったおごそかなピカソの演技と、堂々とした威厳で十字をきるアウグストに感心して、中年女は偽物だとは、まるで疑いもしない。
「こんな田舎に何の用でしょうか?、さぁ、とにかく散らかっておりますが中にお入りください」
「では、失礼致します……」
3人達のとんでもない《 詐欺 》が始まる………。
アメリカが《 詐欺 》や《 ぺてん師 》を主題にして映画を撮れば、騙し騙されの知恵比べ。
コン・ゲームかコメディーになるのが普通だが、そうならないのがフェリーニ印の映画。
でも、この映画『崖』、公開当時は興行的にも、すっかりコケちゃったんだよなぁ~。
次の作品『カビリアの夜』が、また評価が高くて、『道』との間ではさまれてる、この映画は、とにかく不遇の扱い。
でも、その理由も分かる気がする。
なんたって、「貧しい人々を騙して金を巻き上げる」というのがちょっとねぇ~(あんまりイイ気はしない)
ピカソがアウグストを法王庁からつかわされた位の高い僧正だと紹介すると、中年女『ステラ』は、さらにおったまげた。
「戦時中、おたくの庭には死体とともに財宝が埋められました。掘り返せばきっと出てくるはずです。ただ……」
財宝を得るためには、法王庁への献上としてミサの代金を払って頂きたい、とアウグストは嘘の話をペラペラとしはじめた。
果たして、本当に庭には財宝があるのか………そこを掘り返してみると、白骨と一緒に財宝(財宝に見せかけたガラクタ)が現れたのだ。
「まぁ、なんて事でしょう!!」
中年女ステラは、目の前に突然あらわれた財宝にビックリ!!
なんとか、法王庁に献上するためのお金を工面すると、
「払います!払います!」
疑いもせず、財宝(実はガラクタ)を受け取った代わりに、献上金を3人に差し出したのだった。
金を巻き上げた3人組は、(上手くいった!)と喜ぶ心を抑えながら、なんとか厳かな様子を保った。
帰途の車に乗って、やっと「大成功だ!」と叫ぶのだった。
でも、こんな《 詐欺 》を繰り返していると、どうなるのか………。
そうそう毎度上手くいくはずもなく…………。
《 詐欺 》は悪い事!(当たり前だが)
アウグストもピカソも重々、それを分かっている。
良心が痛まないはずがないのだ。(若いロベルトだけは、何の良心の咎めもないが)
繰り返す詐欺師の仕事は、どんどん良心に重くのし掛かってくる……
でも、自分たちには、「これしか出来ないのだ!」と納得させて、そんな良心をねじ伏せながら詐欺を続けている。
でも、その報いは必ずやってくるのである。(とても悲惨な形で)
けっこうフェリーニにしては、道徳的な映画。
今の目で観ると、そんなに失敗作でもないような気がするのだが………でも、後味の悪いラストの印象は強すぎて、延々、尾をひくかもしれない。
自分も観ながら、あんまりいい気持ちはしなかった。
それで、今回だけは、ちょっと別の事に着眼してみた次第である。
話は変わるが、『道』、『青春群像』と観てきて気がついた事もある。
フェリーニは気に入った俳優たちは、何度も使うらしい。
それらの俳優たちは《 フェリーニ組 》と呼んでいいくらいだ。
実の奥さんで、女優のジュリエッタ・マシーナはともかく、この映画には『道』で、『ザンパノ』(アンソニー・クイン)をからかい、殴り殺された、あの『イル・マット』役のリチャード・ベースハートが出ている。
で、『ピカソ』(リチャード・ベースハート)が仕事(詐欺)を終えて、ルンルン気分で帰宅すると、可愛い娘と妻『イリス』(ジュリエッタ・マシーナ)が出迎えてくれるのだ。
エッ?(;゜∇゜)
あんたら、『道』で、二人とも死んだんじゃなかったの?
本当は助かって生きていた?
その後、また、出会って、名前を変えて夫婦になった?
後、色々なショックが重なって、二人ともマトモになった?
『道』の後に、この『崖』を観れば、変な繋がりで、アレヤコレヤ勝手な妄想が膨らんでしてしまう(笑)。
この二人が夫婦として生きていたのなら、あの『道』のラスト、夜の海辺で嗚咽の涙を流したザンパノは何だったのか。
「俺の涙を返せぇー!」とでも叫びたいザンパノだろうか?(笑)
馬鹿話はこれくらいにしといて………(スイマセン、バカ野郎で)、この映画には、他にも『青春群像』で女ったらしの『ファウスト』を演じたフランコ・ファブリッツィも出演している。(やっぱり女ったらし役)
こんな勝手な想像に、今回だけは逃がれながら、なんとか観れたような感じです。
それでも、『青春群像』、『道』には及ばないかな。
及第点でギリ星☆☆☆。(甘いか?)
《 後記 》後、豆知識として。
本当は、アウグスト役は、あのハンフリー・ボガード(『マルタの鷹』、『カサブランカ』)を想定して、フェリーニは脚本を書いていたらしい。
でも、プロデューサーが連れてきたのが、ボガードとは似ても似つかないような、おっさん『ブロデリック・クロフォード』。
当然、クロフォードに合わせて脚本は微妙に書き直された。
ハンフリー・ボガードなら、どう演じていただろう?
これも想像してみるのも楽しいかもしれない。