2020年7月14日火曜日

映画 「パラダイン夫人の恋」

1947年 アメリカ。






ヒッチコックにとっては珍しい法廷メロドラマ。




前回、『汚名』でも少し語っていたように、ここから暗黒期ともいうべき長~いスランプ状態が続く………のだが、この映画に限っては、失敗の全責任を、ヒッチコックだけに擦り付けては、いけないような気がする。



問題は、そう……あの、プロデューサーの『デヴィッド・O・セルズニック』にあると思われるからだ。


《デヴィッド・O・セルズニック》




デヴィッド・O・セルズニックが製作した映画は、有名なモノばかり。



『キングコング』、『アンナ・カレーニナ』、そして『風と共に去りぬ』、『第三の男』、『終着駅』などなど……有名どころの作品が並ぶ。(あくまでも、これは製作である)



戦前、ヒッチコックをイギリスからアメリカへと導いたセルズニック。



その恩はあるにしても、このセルズニックは大いに問題ありな人物なのだ。



とにかく、何でもかんでも、ことごとく口出ししなければ気がすまない、面倒くさい性分。


「あ~しろ!」、「こ~しろ!」始終、口をはさんでくる。(あ~ウルサイ!プロデューサーは資金だけ出してくれればいいのに(笑))



その性格ゆえに、有名監督たちからは、次々、嫌がられて敬遠されてしまうのだが……




この『パラダイン夫人の恋』では、もはや、それが最高潮だったかもしれぬ。


製作ばかりか、とうとう、

「俺が脚本も書く!」と言い出したのだ。


(やれやれ……)ため息が漏れるヒッチコックの姿が想像してならない。



オマケに映画は125分。(長い)


で、取りあえずは、この映画に関する、こんな知識を横に置いといて、観たのだけど………。




観た感想………ゲゲッ!!おっそろしく!つまらなかった!!




法廷モノとしては、大傑作、ビリー・ワイルダー『情婦』の足元すらにも及ばない。


有名な俳優、女優たちが、これだけ揃っているのに、この映画は、やはり脚本がダメダメだ!






目の不自由なパラダイン大佐が毒殺された。

大佐の妻『パラダイン夫人』(アリダ・ヴァリ)に容疑がかかり、やがて裁判となる。


パラダイン夫人の弁護を引き受けた『アンソニー・キーン』(グレゴリー・ペック)は、妻がいるにもかかわらず、パラダイン夫人の美しさに、どんどん惹かれていき、無罪を証明しようと躍起になるのだが……。






こんな出だしで、始まる『パラダイン夫人の恋』なのだけど……役者たちも、自分たちの役を演じながら、(何だかヘンテコな話……)と思わなかったのかねぇ~。


有名俳優、女優たちが数多く出ているので、順を追って、その《 ヘンテコリンさ 》を語っていこうと思う。




まず、

グレゴリー・ペック(弁護士アンソニー・キーン)



クソ真面目すぎるといえば、このグレゴリー・ペックしかいない。



真面目なので、『パラダイン夫人』(アリダ・ヴァリ)に惚れても、ストレートに愛の言葉を吐くなんて出来やしない。



その代わりに、「ヨッシャ!私が夫人の無罪を証明してやる!!」と、そちらの方に躍起になる。


で、無罪にするには、別の真犯人が必要だ。



『アンソニー』(グレゴリー・ペック)が目をつけたのは、目の不自由なパラダイン大佐の部下だった男で、世話人の『アンドレ』(ルイ・ジュールダン)。



裁判で証人として呼び出すと、

「あなたがパラダイン大佐を殺したんでしょう!!」と執拗に、アンドレに罪をなすりつけはじめる。


「私は殺してなどいない!」

「嘘だ!」


こんな応酬が続き、ひとまず休廷。


(やったー!形勢はこちらに傾いているぞ、ウシシッ………これでパラダイン夫人に誉められるかも……)と悦び勇んで夫人の謁見に行くと、


「この馬鹿!!何でアンドレに罪を擦り付けるようなマネをするのよ!!」と大激怒。



?????、頭の中がクエスチョン・マークだらけのアンソニーなのだった。






ルイ・ジュールダン(パラダイン大佐の世話人・アンドレ)


ルイ・ジュールダンがこんな映画に出てたのか。

ジュールダンといえば、我々世代には、『007 オクトパシー』の悪役カマル・カーンが印象深い。(※これblogで書いてるので暇な人は参照してね)




裁判で執拗に責められた『アンドレ』(ルイ・ジュールダン)は、ある秘密を抱えていた。


目の不自由なパラダイン大佐を尊敬しながらも、何と!夫人と《 不倫 》してしまっていたのだ。



良心の呵責で苦しんでいたアンドレ。


オマケに裁判に出れば、アンソニーにコテンパンにやられてしまう。

「もう限界だ……」

そして、とうとう自殺してしまう。





そして、そして、

アリダ・ヴァリ(パラダイン夫人)である。



「アンドレが自殺ですって?!」

裁判中、急にとびこんできた、この知らせに、パラダイン夫人は一時、放心状態だったが、少しずつ皆の前で語りだす。


「もう、おしまいよ。もう、どうでもいいわ………私が主人を殺しました……」とペラペラ白状しはじめたのだ。




(?????????)

(えっ?何これ?)

(こんなアッサリ?)

(この人が真犯人って、結局、何のヒネリもなし?!)

(だったら、何で最初から白状しないの?!)


今まで長い間、我慢して観ていて、この告白には、さすがに胸がムカついてきた。


自分で殺しておいて、アンソニーに弁護まで頼んでおいて、あわよくば、無罪を勝ち取れるとでも思っていたのか?


この馬鹿女は!!





でも、この後が、また最悪なセリフを吐く『パラダイン夫人』(アリダ・ヴァリ)である。



法廷で、目の前のアンソニーをキッ!と見据えると、


「あなたがアンドレを殺したのよ!あなたのせいでアンドレは死んだのよ!!」と、なじりだしたのだ。(オイオイ)


「私の残りの生涯はね、………あなたをずっと憎み、うらみ続ける事だわ……」


うなだれる『アンソニー』(グレゴリー・ペック)………そんな風にして映画は終わるのである。





勝手なクソ女!!


自分勝手な理屈で、逆ギレして、他人をなじり、しまいには、八つ当たりまでしてしまうとは………もう、どこまで性根が腐っているのやら。



同情の余地なし!


こんな最悪な女には、お目にかかった事がない。




でも、アリダ・ヴァリは、いつも、こんな役ばっかりだ。(※後年、『第三の男』でも同じ感じ。今度の八つ当たりの相手はジョセフ・コットンである。これも詳しく書いているので参照下さいませ)



アリダ・ヴァリが、いくら美人でも、こんな性格の役ばかりしていては、とても観客に好かれるとは思えない。

案の定、後年、彼女はハリウッドを去っていく。




そして、映画は大失敗する。



他にも、『チャールズ・ロートン』(情婦)や、『アン・トッド』(第七のヴェール)、『エセル・バリモア』(らせん階段)など、名優たちを揃えているのにだ。(他の人たちも、まるでアホみたいなセリフしか言わないので、どいつも、こいつも、本当にアホに見えてくる)





こんなクソ脚本を書いてしまったセルズニックも、少しは反省したのだろうか……



いや!この手のタイプがしおれて反省などするはずもない。


「お前のせいで映画は失敗したんだ!!」と、逆にヒッチコックをなじったんじゃなかろうか。(この映画、パラダイン夫人のように)



とにも、かくにも、これで1940年の『レベッカ』から続いていた、長いセルズニックとの関係は終了する。(お疲れ様でした~)



「人にあれこれ言う前に、まずは己を知れ!」



セルズニックを通して、この言葉は、周りだけじゃなく、自分にも投げかけたい言葉だと思うのであ~る。

星☆。