2020年5月29日金曜日

映画 「ポセイドン・アドベンチャー」

1972年 アメリカ。






当時、あの『ゴッド・ファーザー』と並んで大ヒットした作品。


破格の製作費を上回って、莫大な興行収入を得るほどの大ヒット。




淀川長治さん(日曜洋画劇場)、水野晴郎さん(金曜ロードショー)、荻昌明さん(月曜ロードショー)など映画評論家たちは、こぞって、この映画を大絶賛。


自分達の番組で、代わりばんこに、常に放送していたくらいだった。(そのくらい、当時は、二時間映画の枠は多かったのです)



特に、淀川先生の溺愛ぶりはスゴくて、

「私は、この映画に出会う為に、産まれてきた!」なんて言っていたくらい。(まぁ、何事にも大ゲサなのが映画評論家なんですけどね)




《パニック映画》なんて呼称は、この映画から、始まったんじゃなかったかな。




で、……………こんな大ヒット作には必ずといっていいほど、付いてくるのが続編、そしてリメイク。


『ポセイドン・アドベンチャー2(1979)』

『ポセイドン(2006)』、

全部、見事にコケました。(他にもテレビドラマで3時間のモノもあるらしいが……)




《パニック映画》というのを、予期せぬ未曾有の災害が襲って、「ワァー!ワァー!」人々が騒ぎながら、逃げまくるだけのモノだと勘違いしているから、こうなるのである。



「大迫力の災害シーンを上手く描けば、ヒットは間違いなし!」

なんて思い込んでいる映画関係者たちは、大勢いるはず。




そんな人々は、少しばかり映画を読み解く力や分析力が甘いんじゃないかな?



でも、それだけじゃないのが、この傑作『ポセイドン・アドベンチャー(1972)』なのです。





豪華客船《ポセイドン号》は、大晦日の明け方、荒れ狂う波の中を何とか、やり過ごしながら突き進んでいた。


『ハリソン船長』(レスリー・ニールセン)は、最初から、この《ポセイドン号》の航海には、一抹の不安を抱いていたのだが、その予見が、見事に当たった感じだ。



船の重心が高すぎるのだ。



船の重心が高ければ、安定させるために、バラスト(底荷)をして、船底を重くしなければならないのに、それもしていない。


大波がくれば、一発で転覆する恐れもある。



スピードを出すことも、もはや危険だったのだが…………


「何をモタモタしているんだ?さっさと全速前進しろ!もう、3日も到着が遅れているんだぞ!!お前をクビにしてもいいんだぞ!!」


船主代理人の男が、船長の横で、ギャン!ギャン!わめき散らしている。



(この……ド素人が………どうなっても知らんぞ)


「全速前進!!」船長は、ヤケクソ気味に船員たちにむかって命令した。






そんな豪華客船《ポセイドン号》には、様々な乗客たちがいる。



過激な説教を持論にしている『スコット牧師』(ジーン・ハックマン)は、アフリカの未開地に左遷されて、そこへ向かう為に乗り込んでいる。


「神に祈るだけで寒さがしのげるか?!寒さをしのぐなら、『燃やせるモノは何でも燃やせ!』それが私の持論だ!!」(いいのか?こんな過激な思想の牧師って?)





幼い弟『ロビン』(エリック・シーア)は、姉の『スーザン』(パメラ・スー・マーティン)と共に、両親の元へ帰省するために乗りこんでいた。


ロビン少年は、もっか、この《ポセイドン号》の構造や機能に夢中になっている。



「この船のエンジン馬力はすごいんだよ!機関室だって凄い設計なんだから!!」




両親からきた電報を読みながら、スーザンは知らぬ顔。


(全く……変わり者の弟なんだから……何がそんなに面白いのかしら?………)






老年のローゼン夫婦は、イスラエルの孫に会うために乗船中。


「もう、どんなに大きくなってるかしら?2歳になってるはずよ。楽しみだわ」

太った妻『ベル・ローゼン』(シェリー・ウィンタース)は、お昼の甲板で編み物をしながら、まだ見ぬ孫に、想像を膨らませてウキウキ。



その横では、夫の『マニー・ローゼン』(ジャック・アルバートソン)は、「わしは、モーセが十戒を受けたという山のツアーに行きたいんだがね……」なんて、ひとり言をブツブツ。



夫妻の目の前を、雑貨屋を営んでいる『マーチン』(レッド・バトンズ)が運動不足にならないよう、ジョギングして通りすぎた。


「あの人、イイ感じよねぇ~独り者なのかしらねぇ~?」(出たー!バァ様のお節介)






大晦日を祝う為の大広間では、それぞれテーブルが並べられて、ボーイたちが、その支度にバタバタしていた。


その中でボーイの一人、『エイカーズ』(ロディ・マクドウォール)は、手を休めて、ステージ上でリハーサルをしているバンドの女性ボーカルの姿にウットリ。



「おい!何をボーッとしてる?」



仲間のボーイに急かされてもエイカーズは、美人歌手『ノニー』(キャロル・リンレイ)の歌声に聞き惚れている。


「いいねぇ~、良い歌だねぇ~………」


大晦日のパーティーまで、後、数分………。







「おい!早く出てこい!何をそんなに手間取ってるんだ!?パーティーが始まるんだぞ!!」


『マイク』(アーネスト・ボーグナイン)は、自室の化粧室に閉じ籠って、出てこない妻『リンダ』(ステラ・スティーヴンス)を心配して、大声をあげていた。



マイクは元刑事で、リンダは元娼婦。

二人は異色の組み合わせの夫婦だった。



「うるさいわね!いい加減にしてよ!!」

リンダは出てくると、浮かない顔をしている。


「いったいどうしたんだ?」



リンダはポツリと呟いた。

「いるのよ………この船の中に……昔、私の客だった男が………だから、パーティーに出たくないのよ」



「それが何だ!昔の事だろう。気にしなければいいさ!!」



「何よ、それ!あんたったら私を6回も逮捕したくせに!!」



「あんな商売を辞めさせたかったからだ!文句あるか!」


言葉は荒くても、リンダにベタ惚れのマイクである。(この顔で、純粋なオッサンを演じさせたらボーグナインは、さすがに上手いなぁ~)

そんなマイクの一途さに打たれて、リンダも堅気になる決心をしたのだ。




「分かったわよ、パーティーに行きましょう」


何が起きても動じそうもないマイクの愛情が通じたのか、リンダの気持ちも軽くなったようだ。



そうして、大晦日のパーティーがはじまる………。





こんな個性豊かな面々たちが、この後、大方の予想通り、大災害に出合うのである。




《ポセイドン号》は、地震の津波で、大波をくらい、転覆。



船は、まっ逆さまにひっくり返って、船底が持ち上がった状態になる。



「キャーーーー!!」、

「ワァーーーーー!!」


テーブルが、椅子が、ひっくり返って、人間たちが逆さまになった船の中で、なぎ倒されていく。




大勢の人々が亡くなっていくのだが、そんな中で、冒頭に書いた登場人物たちの個性が激しくぶつかり合う、人間ドラマが繰り広げられていくのである。




そう、『パニック映画』とは、『集団人間ドラマ』なのだ。



災害も、迫力ある津波も、その背景の、ほんの一部でしかないのだ。





パニック状態の中、スコット牧師は皆のリーダー格となって叫びだす。

「船が沈む前に、船底に向かって、皆で上がっていくんだ!」



それに反対する者たち。

「馬鹿な!無謀だ!!助けが来るまで、動かないで待った方がいい!!」



反対する者、賛成する者に別れて、意見は真っ二つ。



冒頭に書いた登場人物たちは、スコット牧師に賛成して、船底に上がる為に無我夢中になって、死に物狂いで進んでいく。




そして、後に残った者たちは、案の定、海水にのまれて死んでいく。



選択肢を間違ったばかりに………。




極限状態では、ナビも、全く役に立たない。




人生の選択肢は、「右に行くのか?」、「左に行くのか?」、いつも分かれ道に立たされていて、二つにひとつ。

それを選んで進んでいくのは、自分の考え、ひとつなのである。




失敗するかもしれない……あの時、違う道を進んでいたなら、今の自分の境遇は、ガラリと違うものになっていたんじゃないか………そんな後悔に想いをはせる人もいるはずだ。




この『ポセイドン・アドベンチャー』は、それを、我々にまざまざと観せて、考えさせるのである。




稀代の映画評論家たちが、こぞって褒めたたえるのも、分かる気がする。


個性豊かな人間たちが、上手く描かれているか、どうか………それが重要なキー・ポイントであり、一番大事な事。



そして、『パニック映画』に至っては、それが普通の映画と違って、大人数となるのだから、脚本家や監督たちは、よくよく考えてから、手を出してくださいね。


迂闊に手を出してしまうと、その人の才能や力の差が歴然と分かってしまうので(笑)。




それくらい、敷居の高~い、難しいジャンルだと思って頂きたい。




それらを、全てクリアして、成功している、この『ポセイドン・アドベンチャー』は、まさに金字塔。

星☆☆☆☆☆であ~る。



※全5種の日本語吹き替えが入ったBlu-rayが発売されております。

色々、聴き比べて観てみたいものですね~♪