2019年12月15日日曜日

映画 「昼下りの情事」

1957年 アメリカ。






『アリアーヌ』(オードリー・ヘプバーン)は、フランスの国立音楽院でチェロを学ぶ音楽院生。



父親『クロード・シャヴァス』は、パリで探偵事務所を構えている。

父と娘の二人暮らしで、アリアーヌの楽しみは、父親の事件ファイルをこっそり覗く事。


父親のシャヴァスには、「私の事件を見てはいかん!」ときつく言われているが、アリアーヌには、それがたまらなく刺激的。

(だって、ロマンティックなんですもん)ってな具合。




父親の依頼人『X氏』が、妻の不倫相手の調査結果を知るためにやってくると、アリアーヌは隣の部屋で興味津々、聞き耳をたてていた。



「奥さまは、スイーツの14号室で、不倫してますな。お相手はアメリカ人の大富豪フラナガン氏」

X氏はカンカンになって、ポケットから取り出したピストルに、弾をつめこみはじめた。



「アイツをぶっ殺してやる!」


鼻息荒く出ていくX氏。


それを聞いていたアリアーヌは、「大変!何とかしなくちゃ!」とホテルに急いで先回り。




フラナガン氏とX夫人に出会うと、

「急いで逃げて!旦那さんがピストルを持ってやってくるわ!」と夫人を逃がした。


代わりに、アリアーヌは黒いヴェールを被ってフラナガンの相手を演じていると、そこへX氏。


自分の妻じゃない女性、アリアーヌの姿に、「こりゃ、失礼しました」と、慌てて退散していった。




「フゥ~、君のおかげで助かったよ」


お礼を言う『フラナガン』(ゲーリー・クーパー)に、アリアーヌはうっとり。

(この人、父の隠し撮りした写真よりも、実物はもっとハンサムだわ……)


たちまち、メロメロになるアリアーヌ。(中年の色気ってやつですか)


「こうなったら、プレイボーイのフラナガンを自分に惚れさせたい!」、と願うアリアーヌは、父親の事件ファイルの色恋沙汰の知識をフル活用して、フラナガンの前で、プレイガールを演じるのだが………。






オードリー・ヘプバーンゲーリー・クーパーのロマンティック・コメディー。


監督は、もちろん、ビリー・ワイルダー



この『フラナガン』役、最初はケーリー・グラントやユル・ブリンナーに打診があったらしいが、自分としては、このゲーリー・クーパーで良かった気がする。


ケーリー・グラントが、プレイボーイの役なら、それなりに、そつなくこなしそうであるが、そこまで小娘のオードリーにのめり込む感じがしない。(まぁ、後年、『シャレード』で共演してますがね)


ユル・ブリンナー?何だか気難しそうで、全然プレイボーイってイメージじゃないのだが………ユル・ブリンナーなら、オードリーもビクビクして気後れしそう。



やっぱり、この映画には、ゲーリー・クーパーで、ちょうどいいのだ。


ゲーリー・クーパーなら、プレイボーイを演じていても、1度好きになったら、一途にまっしぐら、って感じがする。(映画『モロッコ』でも、そんな感じをうけたので)



初めは、プレイボーイ然として、恋のさや当てゲームの感覚だったフラナガンは、まんまとアリアーヌの策略にハマって、どんどん、この小娘アリアーヌにのめり込んでいく。



「その脚にはめているのは何だ?」


昼下がり、アリアーヌとピクニックをしているフラナガンは、アリアーヌの脚にキラリ!と光るアンクレットを目にしてたまげる。


「あ~、これ?スペインの闘牛士からのプレゼントかしら?」


こんな物を目にしたフラナガン氏、中年男の嫉妬がメラメラ。



全てを語らずに、秘密の香りを匂わせるアリアーヌにいつしか夢中になっていた。


(これじゃ、身がもたん!彼女はいったい、どこの誰なんだ?彼女の全てが知りたい!)



フラナガン氏が身元調査を頼んだのは、なんと、父親のシャヴァス氏。


シャヴァスは、娘の行動に唖然として、フラナガンに全てを打ち明けた。

そして、

「ここを立ち去ってください。彼女はプレイガールでも何でもない。それは私が事件で扱った知識をあなたに対して利用しただけだ。そして、彼女は本気であなたに恋している。それは生まれてはじめての『恋』なのだ。娘を傷つけないで、黙ってここを立ち去ってください。」



フラナガンは無言で同意した。


そして、別れの時。

「駅まで見送るわ」と言うアリアーヌ。


列車が動きだしても、ここを立ち去れないアリアーヌは、走りながらも、まだ懸命に嘘のプレイガールの話をする。


「私は平気よ、また忙しくなるわ。別な彼が、また誘ってくれるから」


涙目で、嘘を言いながら列車を追いかけてくるアリアーヌ。


そんなアリアーヌから、フラナガンは、片時も目が離せない。


まるで心臓をキュッ!と掴まれた感じ。


無意識に手を伸ばすと、アリアーヌを引き上げて、列車に乗せてしまったフラナガン。


「どうするつもり?」

「もう、黙ってくれ。アリアーヌ……」


列車は、幸せな二人を乗せて去っていく………。



まるで、恋愛指南の教科書のような映画である。



初めは、相手に対して、どう興味を持ってもらえるか。

それに成功したら、どれだけ興味を繋ぎ止められるように、押したり引いたりの恋愛の駆け引き。


最後は、決して押し付けでない「好き」という気持ちの表現の仕方。



これさえ、出来ればあなたも明日から、『恋愛マスター』である。(でも現実は、こんな風にオードリーのように上手くいくか分からないが……)


オードリーが、今でも愛されるのは、全ての女性の夢、「こんな風になりたい!」という夢を映画の中で叶えているから。


そして、それは何十年、時代が移り変わっても決して色褪せない事はないのである。

星☆☆☆☆である。