2020年3月16日月曜日

映画 「水の中のナイフ」

1962年 ポーランド。






綺麗な邦題に惹かれて。

後、あのロマン・ポランスキー監督のデビュー作という事もあって観たんだけど………



ん~ …………この映画が大好きな人には申し訳ないけど、あんまり自分の好みじゃなかったかも。




60年代で、綺麗な陰影のモノクロ映画。

構図やカメラ・ワークも、なかなか凝っていて良い感じなんだけども、なんせ、肝心のストーリーが…………



自分のように、映画にドラマ性を求める人間には、これは、ただ苦痛でした。





始終イライラしている夫と、それに無関心な妻。

二人は定例のヨットでクルージングに行こうと車を走らせているんだけど、一人のヒッチハイクをしている青年を乗せる。


ヨットに乗って、いざ出発という時、何を思ったのか?夫が、「お前もヨットに乗れ!」と青年を誘い、3人は海原へ。



ヨットでは食事をしたり、ゲームをしたり、退屈な会話が流れて、青年は手持ち無沙汰で、大切にしているナイフを取り出しては、ひとり遊びを始める。(指を広げて、指の間をナイフで突く遊び)



それを見ている夫は、やめときゃいいのに、変なイタズラ心で青年のナイフを海へドボン!


「俺の大事なナイフ!」

青年と夫は喧嘩をしはじめ、夫は青年を海に突き落とした。


「ハハッ、ざまぁみろ!」

しかし、しばらくしても上がってくる気配さえない。



夫は、だんだん冷や汗。


(俺が殺してしまったのか………)


「人殺し!野蛮人!」そんな夫に向けて、妻は罵りまくり。


「黙れ!アバズレ!」

妻をヨットに残すと、夫はどこかへ泳いで行ってしまった。



しばらくすると青年がヨットにあがってきた。(海に浮かぶブイにつかまって隠れていたみたい)



上がってきた青年と妻は、夫がいない事を、これ幸いにと情事にいそしむ。(アララ)



やがてヨットが岸に向かう途中で青年は無事降りて、桟橋に来ると夫が海パン一丁で待っていた。


「警察を呼びに行こうも車のキーもないし、この格好じゃ……」


そんな夫に妻は「青年は生きていてヨットで浮気したわ」と言う。


夫は「嘘だ」と信じない。




で、映画は終わるのだ(チャンチャン!)。






こうして文章におこしてみても、さっぱり、この話の要点が掴めないのだ。



ヨットを操る時だけは気が合うのに、それ以外は、ギスギスしている夫婦。


そんな変な夫婦に、ヒッチハイクの青年が巻き込まれただけの、たわいのない話である。





これ、一応、ミステリーのジャンルになってるわけなんだけど、どうなんだろう……これがミステリー?




本当にこの話から何を感じとればいいのか………

最後まで「それがいったいどうしたの?」ってな感じで、ポカ〜ン!なのである。



でも、他の人の評価を見れば、この映画を褒め称えているものがほとんど。



「傑作!」、「最高!」etc…………などなど。


ロマン・ポランスキーが弱冠29歳の若さで撮った映画だから好評価なんだろうか?




分からん。

どうも、この手の映画を楽しむような素養が、元々、自分には欠如しているらしいのだ。




だから、今回、評価はご勘弁を。



これを好きで楽しめる人には、それで良いと思う。




たまに、こんな感想のモノにもぶち当たるが、それも良しとするか。


とにかく見続けて、探していれば、「これは!!」と思うモノにも、きっと出会うはず。


それを期待して、私は映画を見続けるのであ~る。

2020年3月11日水曜日

映画 「プラダを着た悪魔」

2006年 アメリカ。






ニューヨークに、そびえ立つ超高層ビルの最上階。

そこに、女性たちが憧れるファッション雑誌《 ランウェイ 》のオフィスがある。



田舎から出てきた『アンドレア・サックス』(アン・ハサウェイ)は、まるで、おのぼりさんのようにワクワクしながら、1階のホールから、エレベーターに乗り込んで最上階のボタンを押した。



そして、………


「あの~今日、面接予定のアンドレア・サックスですが………」


受付にいる第1アシスタントの『エミリー・チャールトン』(エミリー・ブラント)は、アンドレアの姿を頭から爪先まで、ジロジロ見ると、

「あなたが?いったい何の冗談かしら?」と無遠慮に言い放った。



そんな時、1本の電話が鳴り響き、エミリーの顔色が変わった。


「大変よ!今すぐ準備して!彼女が来るぅー!!」

エミリーの声にスタッフや周り中が、バタバタ大騒ぎ。


(いったい何が始まったの?………)アンドレアは、まるで分からずにポカ~ン顔。




そんな時に目の前のエレベーターが開き、一人の女性が降り立った。

その場の空気が一瞬で変わる。


まるで人を寄せ付けないようなオーラを纏(まと)った女性、『ミランダ・プリーストリー』(メリル・ストリープ)の登場に。




ミランダはツカツカと進み、オフィスの椅子に腰掛けた。

すると、アシスタントのエミリーは、直ぐ様とんで行き、次々と繰り出す的確なミランダの指示を、「ハイ!ハイ!」と固唾をのんで聞いている。




その光景をぼんやりと見ているアンドレアにミランダも、ようやっと気づいたようだ。


「誰よ?あの娘?」


「第2アシスタントとして、人事部が面接で寄越したんです。でも、あんな娘を連れてくるなんて………何を考えてるのやら。」


「いいわ、私が面接する」ミランダは、そう言うとエミリーを下がらせた。



アンドレアを一目見ると、「ファッションセンスもゼロ。《ランウェイ》も読んだことない。私を知ってる?知らない? それで、何でうちにきたの?」


「あの………ジャーナリスト志望だったんですけど、おたくの人事部に電話したら面接を進められて………でも採用されれば、きっとお役にたてます、私なら!」



「あっそ!じゃ、もういいわ。帰って。」

ミランダは、もう興味なしとばかりに、(あっちへ行け!)と、手で払いのける仕草。


(私、もしかして落ちたの?………)



ガッカリしてエレベーターを降りたアンドレアだったが、先程のエミリーが呼び止める声。



ゲゲッ!!まさかの『採用』!


「ヤッター!!」


喜んだアンドレアだったが、それもつかの間。

明日から始まる地獄の日々を、まだアンドレアは知らない………。






アン・ハサウェイ観たさに選んだ1本である。(すっかりフアンになっちゃいましたので。)


前回、顔がどうとか、こうとか書いていたのに、フアンになると、途端に、それも味のあるような、逆に大好きな顔に思えてくるのだから、自分でも訳がわからない。


どこまで調子の良い男なんでろうと思ってしまう。(エイ!この!自分の馬鹿野郎!!こんなところで許してくださいませ)




前回の『マイ・インターン』とは違い、アン・ハサウェイは、ここでは雇われる立場。


上司には、あのメリル・ストリープである。

似たような設定でも、配役が変われば雰囲気も、何もかもが全く違ってしまう。




前回の『マイ・インターン』のように「あ~、こんな会社で働きたいなぁ~」なんてものは、微塵もない。



ここで、求められるのは、仕事に対する《厳しさ》と《プロフェッショナルさ》だけだ。





雑誌の為に、モデルに着せる洋服選びの為に、ミランダがスタイリスト達を怒鳴っていると、アンドレアが思わず、「クスッ」と笑ってしまう。


すると、即座に反応したミランダが、血相を変える。

「何がおかしいの?」

「だって、そのベルトなんて、どれもこれも同じに見えるんですもの」(アチャー、余計な事を)



「あなたが着ているブルーのセーター、それはセルリアンよ!同じブルーでも違いはあるのよ。そんなセルリアンでも、私達がブームを築きあげて市場に流れ、長い年月をかけて、廃れていき、安っぽいカジュアル服として、一般のあなたたちが今、着ている。」


プロヘッショナルとして生きてきた、ミランダの言葉は重い。


「ファッションとは関係ないと思って着ている、あなたの服も、今、こうして選んでいる山の中から、私たちが選んだものなのよ!」



そんなミランダの言葉の重みなんて、分からないアンドレアは、家に帰れば、

「キーッ!何よ!あの女!ムカつくー!!」

会社の愚痴を恋人に叫ばずにはいられない。





でも本音は……(ミランダの言ってる事を少しでも理解したい!ミランダに寄り添い、追い付きたい!この世界で成功したい!)なのだ。



同僚の『ナイジェル』(スタンリー・トウッチ)にも叱咤されて、アンドレアは、やっと「自分を変えねば!」と、動きはじめる。



面白かった。



面白かったけど、この『ミランダ』と『アンドレア』の関係、あのドラマを、やっぱり思い出してしまった。





『ダメージ』の『パティ・ヒューズ』(グレン・クローズ)と『エレン・パーソンズ』(ローズ・バーン)に、すっごく似ている。




ミランダもパティも、仕事に厳しく、プライベートで離婚しようが、どうしようが、とにかく仕事第一主義。



仕事で成功する事が、人生の全てなのだ。



この広大なアメリカで成功するためには、女性は皆、ミランダか、パティ・ヒューズのようにならなければ生き残れないのだろうか。



だとすれば、女性がトップで居続ける為の闘いとは、何と殺伐としていて、非情なんだろう。




根が甘ちゃんの自分なんて、身の毛がよだって震え上がってしまう。





そして、グレン・クローズとメリル・ストリープは大の仲良し。

女優としての意識の高さも同じで、乗り越える事も困難なくらいな、刑務所の高い塀くらいなものだろうか。


このアン・ハサウェイは、その塀を乗り越える為に、今、やっとへばりついている感じかな?





でも、こんな風には、あまりなってほしくないなぁ~。



アン・ハサウェイには、いつまでも優雅でエレガントで、そしてにこやかに。

どこまでも、甘ちゃんの自分はそう願わずにはいられないのであ~る。

星☆☆☆☆。

2020年3月7日土曜日

映画 「マイ・インターン」

2015年 アメリカ。
 




70歳を過ぎて、妻を亡くしてからも、それなりに友人知人たちと人生を謳歌していた『ベン・ウィテカー』(ロバート・デ・ニーロ)。



それでも何だか、いまひとつ物足りない日々……。



そんな時、スーパーの帰り道、シニア・インターンの募集を見つける。


「これだ!」


インターネットの会社ゆえ、面接の代わりに、自分で動画を撮影して応募するという。(難しそうだが、9歳の孫に教わればいいさ)


歳をとっても「何事もチャレンジ!!」精神のベンは、見事採用された。




そうして晴れて初出勤日。


ベンを入れたシニア以外にも、オタクで気の良さそうな若者『デイビス』なんてのもいる。

「ヨロシク!」

「こちらこそ」

私服でくだけた格好の連中が多い中で、ひとり背広にネクタイをピシッと決めているベンは、ある意味異質。逆に目立ってみえた。


広いワン・フロアーには、大勢の人々が、パソコンを目の前にして、忙しそうに仕事をしている。



ここは、インターネットで洋服を売るという、ファッション通販サイトの会社だ。



そして、その中心では、周り中にテキパキと指示を出している、ひとりの女性の姿。


若い女社長『ジュールズ・オースティン』(アン・ハサウェイ)がいる。


ジュールズは、「シニアのインターンなんて………」と、はなから馬鹿にして雇うのを反対していたのだが、部下の『キャメロン』に無理矢理、説得されたのだ。


そして、

「ジュールズ、君の下に直属として、誰かシニアの一人を置きたいのだが………」


「嘘でしょ?」(この忙しいのに勘弁してよ……)



そんな渋るジュールズを、これまた説き伏せると、かわりに転属されてきたのが、あのベンだった。


「ヨロシクね、ベン!」なんて言いながら、つくり笑顔で応えるジュールズだが、心の中では、(こんな、お年寄りが……ここで何の役にたつの?)ってのが、ありあり。




でも、ジュールズの当ては、完全に外れる。

ベンはオフィス内で、次々と頭角を表していくのだった……。



ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイのハート・ウォーミング・コメディー。



70歳を越えた『ベン』(ロバート・デ・ニーロ)が、同じ職場で働く若者たちに、謙虚に接しながらも、同僚たちには恋愛指南をしたり、仕事の進め方をアドバイスしたりして大活躍。


そんなベンは職場でも、次第に「頼りになる人」になっていくのが痛快である。



もちろん、女社長『ジュールズ』(アン・ハサウェイ)にとっても……。




それにしてもロバート・デ・ニーロは良い感じになってきたなぁ~。



実は白状すると、ロバート・デ・ニーロは、自分にとって苦手な俳優だった。

若い時のデ・ニーロは、そのお顔にしても、あんまり好きになれなかった。(昔ながらのフアンには失礼なんだけど)



だから、若い時分のデ・ニーロの映画をほぼ観ていない自分。



そんなデ・ニーロを克服したのは、ここ最近のこと。

そのくらい歳をとってからのデ・ニーロは、カッコイイと思えるようになってきたのだ。



白髪になり、角がとれて、柔和な顔をするようになり、時にはお茶目な部分なんてのを垣間見せたりもする。



このblogで、以前取り上げた『キラー・エリート』、『ダーティー・グランパ』、『フローレス』などを観ていても、まるで肩の力が抜けたように、ここ最近のデ・ニーロは、映画に出る事が本当に楽しそうなのだ。


アン・ハサウェイも、この映画では感心してしまった。



この人のお顔も、あんまり私の好みではなかったのだけど。(小さな顔一杯に、デカイ目や大きな口が、ようやく収まっているというのか……スミマセン(笑))


でも、この人が弱気をみせたり、泣き顔になると、途端にそれまでの印象が180度変わってしまった。


「か、可愛い~!………♥」


アン・ハサウェイ、いっぺんでフアンになってしまいました。(上げたり下げたり、自分でも何て単純な男なんだろう(笑))



それにしても、この映画を観ながら、ずっと思っていたのは、二人が働く会社が「何て素晴らしい会社なんだろう!」って事。



変な陰口もなければ、陰険な奴もいないし、オフィスは広々として綺麗だし、まるで天国みたいな会社である。



おまけに、疲れを癒す為のマッサージ師なんてのも置いている。(ひさしぶりに見たレネ・ルッソだぁ~!)



日本政府が『働き方改革』なんてのを推奨しているが、この映画を観ると、これに追い付くまでには、何年かかるのかねぇ~。

決して、他の国と比べたくはないのだが……。



特に自分がいる会社と比べると、まるで《 天国 》と《 地獄 》、《 極楽スパ 》と《 ナチの強制収容所 》くらいの違いである。(ここは声を大にして言いきってしまおう!(笑))




辛い日々、涙をのんで働く人には、この映画はまるで、ひとときのオアシス。




疲れた心を、しばし骨休めさせてくれて、明日もまた、働こうという気持ちにさせてくれる。


そんな気力を与えてくれる、稀な映画なのである。(雇用する立場の方々は、是非、是非!参考にしてほしい)

星☆☆☆☆。

2020年3月4日水曜日

ドラマ 「はね駒」②

《①の続き》







樹木希林』という女優を、幼い頃からブラウン官を通じて観てきた自分は、それに対して、特になんとも思う事もなく………。



出ていれば、それだけで妙なおかしみを発揮していて、『寺内貫太郎一家』や『ムー』などは、面白、可笑しく素直に楽しんでいた。




出ていれば、「面白い人だなぁ~」くらいの感想。



後年、その当たり前だった事が、実は『どえらい人』だったと知る事になるのだが……。





もちろん、この『はね駒』でも、そのコメディエンヌぶりは健在で、斉藤由貴との母娘の掛け合いは超面白く、観る者を惹き付けた。



「母ちゃん~!」

「何だい?母ちゃん、母ちゃんって、いつまでも『やや子』(赤ん坊)のように言ってきて!」

なんていう、日常の何でもないやり取りでも、斉藤由貴と樹木希林が演じると、何だか、ホンワカ、ほのぼのとしていて、それでいて妙なおかしみがあった。




でも、この『はね駒』に限っては、それだけでないのが樹木希林の凄いところ。





やがて、東京で材木問屋を営む『小野寺源三』(渡辺謙)と結婚した『りん』は、祖父母、弘次郎、八重と暮らし始めるのだが(妻の家族全員を引き取る源三も寛大というか、太っ腹)、それだけでは、あきたらず、女性として初めての新聞記者となる。


子供が生まれてからも、家事と仕事を両立しながら、やっていく『りん』。(でも、それも難しく、結局は母親の八重に頼りっぱなしになってしまうのだが)



とうとう、3人目の子供が産まれるという時、『りん』も『源三』も考え出す。


「どうしようか?」

「どうしましょう?」

いつまでも子供の世話を母親の八重に頼むのも心苦しくなってきた『源三』と『りん』。



だが、根っから楽天家の『りん』は、

「大丈夫よ!」と、どこから来るのか、あくまでも楽観的な発言。


(仕事と家事、何とかなるわよ!)って感じなのだ。




翌日、朝の食事の支度をしながら、母娘は、何気に話し出した。


「どうするんだい?おりん、3人目が産まれるっていうのに……」

釜戸に火をくべながら、八重が聞くと、

「大丈夫よ!何でもかんでも母ちゃんに頼ろうとはしないわ! そうだ!!女中を雇いましょうよ!」


「女中?」

『りん』の突然の提案に火をくべながら、八重の目が、パッと開く。


「そうよ、女中ひとりを雇うくらい何でもないわ。一人でダメなら二人でもいいのよ。母ちゃん、私も女中くらい雇えるぐらいの給金をちゃんと貰っているのよ!そのくらい新聞社でも認められているんだから!安心して。」


『りん』は、そう言うと笑顔で、(この問題は、これで解決)とばかりに、キビキビと支度をはじめた。





だが………



「何、語ってるんだ?!オメェは!!」


振り向き様、顔色を変えた八重の怒声が台所中に響き渡る。



これまで見た事もないような母親、八重の顔に、ビックリして飛び上がらんばかりに驚く『りん』。



「誰が、今、金の話なんかした?アァ~?!」



『りん』を台所の板間に正座させると、般若のように恐ろしい顔の八重が真正面に鎮座する。


「何でもかんでも金で解決すればいいなんて、いつからオメェは、そだな薄汚ねぇオナゴになっちまったんだ!おりん!!」


八重の、あまりの迫力に微動だにできない『りん』。


「いいかい?女中ってのはあくまでも、おっ母さんの手助けをするもんなんだよ。それ分かって言ってるのか?!オメェは!!」


八重の言葉は、淀みなく続く。


「女中に母親の代わりは出来ねぇ。子供ひとりを育てはぐねたら、それは一生後悔しても取り返しのつかない事なんだぞ!それくらい子供を育てるって事は、大事な大切な仕事なんだ!それ分かってるのか?オメェは!!」


もう、『りん』は、さっきの笑顔はどこへやら、顔面蒼白になっている。


「母ちゃんも、お前が立派な仕事をしている事は知っている。でも母親としてしなければならない事、そしてお金では決して買えないものもある事。これだけは分かってくだっしょ(くれ)、『おりん』……… 」


八重が頭を下げると、『りん』は茫然自失としながらも、更に深々と頭を下げるのだった………







このシーン、ビデオテープをなくした今でも、ほとんどを覚えている。



この緊張感、この樹木希林の台詞の説得力。


朝のドラマを観ながら、この樹木希林の台詞が流れてきた時、当時、どれだけの人たちが頭(こうべ)を垂れただろうか。


このシーンの斉藤由貴なんて、まるで演技を通り越して、本当の母親に雷を落とされたように、見るも無惨な様子だ。



演技と現実の境界線が無くなる………、斉藤由貴にとっては、こんな事は初めての体験だったろうと思う。

ブラウン官で観ている自分にも、それは充分伝わってきた。




もちろん、芝居ゆえ、ちゃんとセリフがあり話の展開も分かっているはずなのだが、いざ撮影になった時の樹木希林の演技の振り幅や言葉の説得力が、その想像をはるかに上回り圧倒しているのだ。




後年、斉藤由貴自身も語ってるのを見た事がある。


「希林さんと演っていると、どんどん気持ちが役に入っていって、現実と芝居の境がなくなっていく………それが、ある意味、恐ろしくもある」と。



それくらい相手役を、ぐいぐい芝居の世界に引き込んでいく事ができるという特殊な仕事。


「それが女優という仕事なら、私もそんな女優になりたい!」

この『はね駒』の出会いは、斉藤由貴にこんな風に思わせたんじゃないか?と勝手に想像してしまう。




ドラマの後半、八重の言葉が身に染みた『りん』は、子育ての為に新聞社を退職する。


それに安堵した両親と祖父は故郷に帰る決意をし、ついに別れの日。


「台所はおなごの城だ!誰にも明け渡しちゃなんねぇぞ!分かったか?」と言う八重に、

「はい!」と直立不動の『りん』。



「ハイ、ハイ!って本当に分かってるのか?こら!」と言いながら、しゃもじで『りん』のお尻をペチン!


「痛ったぁ~い!何するのよ?、母ちゃん!」


笑顔の八重が、「しっかりやって、おくんなましね、小野寺の奥様!」なんて言葉をかけると、『りん』の顔が、途端に涙でグシャグシャ。


「母ちゃぁ~ん!!」


泣きながら抱きつく『りん』を笑顔で抱きしめる八重に、


(女優として教える事は、しっかり教えた。頑張るんだよ)とも言っているようにも見えた。


そして、それを斉藤由貴も感じたようにも見えた。




それから数10年が経った今…………斉藤由貴が女優として、いまだに必要とされているのも、この『はね駒』での樹木希林との出会いがあったからかもしれない。



星☆☆☆☆☆。

偉大な女優、樹木希林に合掌。