2020年10月3日土曜日

映画 「アイガー・サンクション」

1975年 アメリカ。






「ドン、『アイガー・サンクション』の監督をしてくれないか?」


ある日、旧友で、監督ドン・シーゲルに、いつものように映画の企画を持ちかけたクリント・イーストウッド。



ドン・シーゲル、しばらく「う~ん……」と考えるふりをして、「悪いが……」と丁重に断った。



ドン・シーゲルには、原作をパラパラ読んで見て、一目で分かっていたのだ。

この(『アイガー・サンクション』の撮影はひどく過酷になるぞ……)って事が。




でも、ドン・シーゲルに断られて諦めるようなイーストウッドではない。


既に『恐怖のメロディ』で監督デビューして自信満々のイーストウッド……「それならば!」と、自ら監督に名乗り出たのだった(もちろん、いつものように主演も兼任で)



だが、この映画がはじまってイーストウッドはすぐに後悔する。


(こんなに過酷だったとは……でも、今さら引き返せない!)


意地とプライド、そして自らの命をかけて………イーストウッド、一世一代の挑戦がはじまる。






『ヘムロック』(クリント・イーストウッド)は、かつて従軍し、戦後には諜報機関で名うての殺し屋として活躍していた。


「絶対に失敗しない!」ヘムロックの仕事ぶりは完璧で(どこかで聞いたセリフ)、諜報機関のトップである『ドラゴン』は、その腕を高く評価していたが、ヘムロック自身は段々殺し屋稼業に嫌気がさして、あっさり引退。


その後は大学教授に転身する。




趣味の登山をしたり、何点もの高価な絵画を買い集める事が唯一の楽しみのヘムロック。


まだ、30半ばを過ぎたばかりのヘムロックは、まさに男盛り。人生を謳歌していた。



そんなヘムロックが大学で講義をすれば女生徒たちは、ウットリと聞き惚れている。


「知ってる?彼の趣味は山登りですって? あ~ん、早く私に登ってくれないかしら」(これ、またもやイーストウッドが監督してて、主演の自分を持ち上げる為に女生徒に言わせているセリフなんだけど……観ているこっちが、こそばゆいというか、恥ずかしくなってくる(笑))



講義中もこんな卑猥な言葉が飛び交うが、(青臭い小娘たちなんて相手にできるか!)のヘムロック。



そんなヘムロックに、かつての諜報機関のボス『ドラゴン』から、お呼びがかかった。


「ドラゴン様がお呼びだ!さっさと来い!」


(下っぱで、どうしようもない部下『ポープ』なんてクズを寄越して、今更何の用だ?………ドラゴン……)



ドラゴンのアジトに行くと、少しの光さえも入らないような暗い部屋へと通されるヘムロック。(ドラゴンは色素欠損症という難病。光が当たるとダメらしい。ナメクジか?お前は(笑))



「諜報員が殺され極秘情報が盗まれた。殺した相手は二人いる。ヘムロック、君に《サンクション》(殺害)してほしい」


んな事、何で引退した俺が、せなあかんのかい!と、ブツブツ言うヘムロックに、ドラゴンはやり込めるネタをちゃんと用意していた。


「薄給の大学教授のサラリーで、高価な絵画を21点も収集している事や、君の預金口座にある多額の金の存在を知れば、政府はどう思うかねぇ~?」


やれやれ、ドラゴンには敵わない。


「分かったよ、一人だけなら……そのかわり報酬は2万ドルだ」


「あんまり、がめつすぎるぞ!ヘムロック」


「いいや!この条件のんでもらうぜ」



こんなやり取りの応酬が終わると、ドラゴンは封筒に束で入っている現金をヘムロックに渡した。


現金を数えるとちゃんと2万ドル入っている。


ヘムロックがいくら要求するかを、ドラゴンは、ヘムロックの性格から詠んでいたのだ。やられた!



「《サンクション》しろ!」






そうして、異国チューリッヒで殺しの仕事を無事におえたヘムロック。



ドラゴンにもらった報酬2万ドルで、お目当ての絵画を早速買っちゃったヘムロックはホクホク顔。


帰りの飛行機の中では、これまたスチュワーデスの『ジェマイマ』にも逆ナンパされるし。



そのまま、ジェマイマと熱い一夜を過ごしたヘムロック……。



全てが上手く行きすぎてはいないか?とも疑う事もせず、ヘムロックは完全に浮かれていたのだった。





だが、次の朝、目覚めるとジェマイマの姿はなく、昨日買ったばかりの絵画も、一緒に消えていた。


(やられた……)



後悔と自己嫌悪におちいっているヘムロックに、またもやドラゴンから呼び出しの電話がかかってくる。


ジェマイマは、ドラゴンの命令で動いていた女エージェントだったのだ。



「やり方が汚いぞ!」抗議するヘムロックに、ドラゴンは何くわぬ顔で次の仕事を依頼してきた。


ヘムロックは、無論断ろうとするのだが、殺された諜報員が『アンリー・パック』だと知ると、途端に眼の色が変わる。



「なぜ、それを先に言わなかったんだ!?ドラゴン!」


かつて戦時中、アンリー・パックに命を救われたヘムロック。


ヘムロックにとって、彼は命の恩人なのだ。


そして戦場で自分を裏切った卑怯者『マイルズ』が殺害に関与していることを知ると、なおさら、この依頼は引き受けざるおえない。



ドラゴンからは、「もう一人の犯人は片足が不自由な山男で、国際親善の一環としてアイガーに登山するらしい……」と、わずかな情報を聞かされたヘムロック。



アイガー ……山登りが趣味のヘムロックが何度か挑戦しても、ことごとく失敗してきた因縁の山。




でも、やるしかない!


もう1度アイガーにトライしながら、犯人を探しだす!





絵画の返却と、合法的な絵画の証明書、それに退職金がわりの10万ドルを条件にヘムロックは、この依頼をうけた。(けっこうがめつい、ヘムロック)



そして、いざ、友人の登山家『ベン』(ジョージ・ケネディ)の元へ。


登山に向けて、ヘムロックの過酷なトレーニング・メニューをこなす日々がはじまる………。








相変わらずの自分賛美や持ち上げ方には、苦笑を隠せないが、それでも良くやったよ、イーストウッドも。



一歩間違えば死んでもおかしくないくらい、この後は物凄い絵面が、次々登場する。





切り立った断崖絶壁の恐怖……雪原が広がる未知の『アイガー』への挑戦。



一歩、足を踏み外せば……もう、観ながら、「ヒィーッ!」とか「ワァーッ!」とかの声が自然にもれてしまう。




もちろん、この時代にCGなんて無いし、スタントマンさえ断って、自らトライするイーストウッド。(たぶん保険は充分かけていたと思うけど、それでも命がけだ)



こんな撮影で死人は出なかったのか?と思ったら、案の定、撮影クルーの一人は落石で死んでいる。(この話を聞くと、またもや「ソゾーッ!」となる)



自分は高所恐怖症でもないのだけど……さすがに、この高さになると震えがくる。


並の神経じゃ、到底つとまらないはずだ。





この映画が公開された時、きっとドン・シーゲルも、この映画を観たはずである。


そして、こう思ったはずだ。


「自分なら、生死に関わるような、こんな過酷な撮影を、俳優たちやスタッフたちに無理強い出来ない……」と。




監督と主演を兼任したイーストウッドだからこそ成し遂げられた産物なのだ。


この映画に限っては、イーストウッドも充分にうぬぼれてもいいかも。(私が許す)


公開時、007の二番煎じだの酷評もあったらしいが、もっとこの映画は、高く評価されてもいいよう気がする。




星☆☆☆☆☆。

CGに見なれた現代人たちよ、目をこらして観るがいい!

これが、正真正銘、本物の迫力である。