2022年7月8日金曜日

映画 「ハリケーン」

 1937年  アメリカ。





南太平洋諸島にポツンと浮かぶ小さな島《マヌクラ島》 …… 

そこで結婚式を挙げたばかりの男女がいる。



男の方は、船乗りをしている精悍な青年『テランギ』(ジョン・ホール)。

女の方は、島の酋長の娘で、気立てがよい美女『マラマ』(ドロシー・ラムーア)だ。


「お願い!今度の船には乗らないで!!不吉な夢をみたのよ」


結婚式の翌朝、懸命な頼みをするマラマ。

それを「何を馬鹿な事を!」と、鼻で笑っているテランギ。



それでも心配なマラマは、ズタ袋に潜り込んで密航しようとするも、運悪く船長に見つかってしまう。


「今すぐ島へ戻るんだ!君が戻らなければテランギを船乗りから降格させるぞ!」


こんな言葉に渋々従い、大海原にダイブしていくマラマ。(Oh!)


島へと泳いで戻っていくマラマは、愛するテランギを泣く泣く見送ったのだった。



だが、そんなマラマの予感は、やはり的中してしまう。


寄港したタヒチの酒場で差別的な白人に絡まれてしまったテランギは、その白人をおもわず ぶん殴ってしまったのだ



こんな喧嘩でも、決して両成敗とはならないのが、この時代である。

この頃、南太平洋の島々は欧州列強国の植民地として支配下に置かれていたのだ。


もちろん《白人様々》の、不平等な法律が平気でまかり通ってしまう時代でもある。


「テランギには 6か月の懲役刑 を!」

フランスから派遣されてやって来た総督である『デ・ラージュ』(レイモンド・マッセイ)からは厳しすぎる判決がくだった。


この島の風土や人々を愛する『ケルサン医師』(トーマス・ミッチェル)やデ・ラージュの妻で心優しい『ジャーメイン』(メアリー・アスター)までもが情状酌量を求めてるも、意固地なデ・ラージュは、まるでそれに耳を貸そうともしない。





「彼らのような未開人には、ちゃんとしたルールを学ばせる必要があるんだ!」

変に偏った信念を持つデ・ラージュは、それを無理矢理にでも押し通してしまう。


こうして、テランギは、こんな大したことのない罪だけで投獄することになってしまうのだった。(んな、アホな!)



だが、監獄でテランギを待ち構えていたのは、サディスティックで鬼のような看守たち。


まさに毎日が生き地獄の日々なのである。




耐え兼ねたテランギは何度も脱走を試みるのだが、すんでのところで捕らえられては、さらなる拷問が繰り返されてしまう。


そうこうしている間に、たった6か月だった懲役は、ドンドン加算されて、なんと!16年の刑期 にまで延びてしまうのだった。(ゲゲッ!冗談じゃない!)


(こんな所にいつまでもいられるものか!あ〜、愛しいマラマに今すぐ会いたい!!…… )


ようやく、決死の覚悟で8年後に脱獄に成功したテランギ。


だが、脱獄の際、看守をあやまって殴り殺してしまったテランギは、今度は 殺人犯 として追われる始末。(こうやって書きながらも、とことんツイてない男だ)


なんとか故郷に戻れたテランギは、愛するマラマと不在中に産まれていた一人娘に、やっと再会する。


だが、それを知った、あのデ・ラージュ総督が追手を差し向けて迫ってきた。


「アイツを逃がすんじゃない!捕まえるんだーー!!」


島の住民たちの助けを借りて逃げようとするテランギ一家。

そして、それを追いかける役人たち。


そんな時、マナクラ島には今まで見たこともないような、前代未聞の巨大な ハリケーン が襲いかかってくるのだった ………



前半、南の島でテランギとマラマがラブラブ♥な様子は『青い珊瑚礁』を思い出させる。


そうして、テランギが投獄される理由なんかは、あの名作『レ・ミゼラブル』と妙に重なってしまう。


何度も何度も脱獄を試みて失敗する場面なんかは、マックイーンの『パピヨン』にも見えてくるし、後半のハリケーンの猛威などは、あらゆるパニック映画を想起させてしまう。


もう、どんだけの材料を詰め込む限り、詰め込んでいるのか ……(コレのどれか1つだけでも、充分に映画として成り立つのに)


こんな贅沢な映画を、とっくの大昔にジョン・フォード監督は撮りあげていたのだから、やはり巨匠の看板は伊達じゃないのだ!



それにしても、この荒れ狂うハリケーンの場面は、やっぱり圧巻の一言で、コレを、この1930年代にどうやって撮ったのかしらん?(この迫力!モノクロとはいえ、今の時代に観てもド肝を抜かれてしまう)



ヒッチコックが外ロケを嫌がり、スタジオ撮影を好んでいたのに対して、ジョン・フォード監督は、完全に真逆のアウトドア派だ。


ドンドン外に飛び出していっては、高さ(船の上の高いマストの、さらに上空からの撮影)や奥行き(遠ざかっていく海原や島の人々)を自由自在に撮りあげて、我々に観せてくれる。

それらは今の時代では簡単に出来ても(ドローン撮影で)、そんなモノが無かった時代には、かなり珍しい絵面として、ひと目で観客たちを沸かし、魅了したはずである。



そんな撮影に、これまたスクリーンに映えるような美男美女のカップルが登場。




このテランギ役のジョン・ホールにしろ、マラマ役のドロシー・ラムーアにしろ、見た目の良さは元より、かなりの身体能力を持つ二人でございます。(荒海を泳いだり、高い所からダイビングをしてみたり、もう凄いのなんの!)




こんな二人ですもん。

無事にハリケーンを乗り切って、生き残ってほしいなぁ~、と思っていたら ……





オーーー!ちゃんと生き延びておりました。(娘ちゃんも)




双眼鏡で一家を発見したデ・ラージュだったが、ハリケーンではぐれていた愛する妻ジャーメインとの再会や、その妻に諭(さと)されてやっと改心したのだろうか ……

「ただの流木だった …… 」とつぶやき、最後には一家を見逃す決心をする。




テランギ一家に幸あれ!

次に一家がたどり着く場所が《楽園》であることを祈って。


こんな想いをのこして、映画は、やっとエンド・マークとなる ………(ホッ)





30年ぶりに観た映画『ハリケーン』も、やっぱり面白かった。



星は ……… もう、野暮な事は書くまい。


ジョン・フォードの映画にハズレなんてのはないのだから。



最近のハリウッド映画が忘れてしまったモノが、フォード映画にはビッシリと凝縮されて詰まっている。



(ジョン・フォードの映画を少しずつ追いかけてみようかなぁ~ ……… )


そんな気持ちにもさせてくれた、至極の一本でございました。