2022年6月6日月曜日

ドラマ 「香港迷宮行」

 1992年  7月。




『工藤麻砂美(まさみ)』(南野陽子)は、退屈な日々を過ごすだけの地味なOL。(最近、上司の金田明夫と酔った勢いで、一夜だけの不倫もあったが)




そんな麻砂美の元へ、香港から、手紙と一緒に《ハイネの詩集本》が送られてきた。


宛名は、昔別れた恋人『岩館(いわだて)』(山下真司)からである。


『昔、君に借りていた詩集本をお返しします。近く日本に帰ってきたら、また連絡します』


「やだ …… 」

《嫌だ》と言っても、麻砂美の心は弾んだ。

会社のお昼休み、屋上で、これまた地味〜にハイネ本を読んでいるような麻砂美に、優しく声をかけてくれたのが岩館だったのだ。(本当に地味だ(笑))


岩館の転勤で別れた二人だったが、今頃になって、どうして ……?


(とにかく、こうなりゃ香港へ、直接会いに行ってみよう!)


たまたま、香港へのパックツアーに空きを見つけた麻砂美は、めいいっぱいオシャレして、それに参加した。


香港ツアーは、現地の香港人『陳(ちん)』(平田満)がガイド役である。



他の参加者は、貫禄充分なマダム『小野田たま子』(二ノ宮さよ子)や派手な身なりの『柳田邦子』(村上麗奈)。



そして、会社の出張で安いパックツアーを利用してやってきたという『小原友成』(長谷川初範)など、見知らぬ面々が揃う。


ただ …… 調子の良さそうな男『小原』にだけは、どこかで見覚えがあるような気がする麻砂美なのだが ……


そして、ホテルにチェックインすると、即座に岩館に電話する麻砂美。(心はルンルン気分)


だが、電話を受けた岩館の方は、予期せぬ麻砂美の旅行に驚く。


「とにかく、今夜、そっちのホテルに行くよ」と約束するも、どうも様子がおかしいぞ。



妙なサングラスをかけた男たちに追われながら、香港中を逃げ回る岩館には、何か秘密がありそうだ。


それに加えて、ツアーの参加者たちも様子が、かなり変である。



その夜、参加者でテーブルを囲みながら食事をしていると、回転テーブルの上に酒のグラス🥃が載せられた。


小野田たま子の瞳がキラリと光る。


そのグラスの一つをとって、飲んだ小原が慌てて、ペッ!と吐き出した。


「何だ?!コリャ!変な味がする」

途端に気分が悪くなった小原は、ホテルへ駆け込んだ。


幸い助かった小原だが、なにやらグラスには《毒物☠️》みたいなモノが入れられたのか?



その夜、今度は、ガイドの陳(ちん)が、柳田邦子の部屋へと訪れた。

重厚な《ピストル》を邦子に押し付けてくる陳(ちん)。

「これで上手くやるんだ!」



そう、このツアーは、借金で首がまわらない者たちを集めて、人殺しをさせるという、殺人ツアーだったのだ。(ゲゲッ!)



報酬は、それぞれにかけられた保険金《三千万円》。


そんな陳(ちん)の計画につられて、小野田たま子も、柳田邦子もやってきたのである。(ドジな二人はことごとく失敗するが)




一方、麻砂美はなんとか岩館と会う事ができるのだが、後日トンデモない事を、ある女性から聞かされる。


『ジョイ』と名乗る香港女性が、いきなり来て、

「ワタシ、イワダテのオクサン。ハヤク、そのホン、ワタシにワタスね!そうしないとイワダテ、命がアブナイ!」


こんな事をいきなり聞かされて、麻砂美はビックリ仰天!目が点になる。(´⊙ω⊙`)!



なんと!岩館は、会社の裏金 10億円 を横領して貸金庫に隠していたのだ。


その金庫の鍵を《ハイネの詩集》本の背表紙に隠し、ほとぼりが冷めるまで日本にいる麻砂美に預ってもらおうと、送りつけてきたのだ。



誤算だったのは、そんな麻砂美が《ハイネの詩集》片手に、わざわざ香港までやってきてしまった事だ。



目の前にいる、妻と名乗るジョイの存在や、こんな事実を聞かされて、麻砂美はパニック。


いたたまれず、その場から逃げ出した。



だが、こんな大金の匂いに、金の亡者である悪党『陳(ちん)』(平田満)が気がつかないわけがない。



人里離れた廃屋に岩館とジョイを監禁すると、ホテルに戻った麻砂美に、陳が直接電話をしてきた。


「その《詩集》を、すぐに持ってくるんだ!!」


複雑な思いを抱えて麻砂美は指定の場所である廃屋へと、急いで駆け付けるのだが ………






一気にクライマックス近くまで書いてみた『香港迷宮行』。


原作は『花園の迷宮』で有名な山崎洋子さんであるのだが ……… (原作を読んだ事がある私は、この内容に「???」)


原作では、登場人物は他にも出てくるし、主人公である麻砂美も《殺人ツアー》のゲームに参加してるのだ。(でも、これはこれでスッキリ改変されているし、まぁ良しとするかな)



脚本を担当するのはベテラン、土屋 斗紀雄さん。

『スケバン刑事』シリーズの脚本も書いている土屋 斗紀雄さんは、何かとナンノと縁があるようだ。



こんなナンノ目当てに観た『香港迷宮行』だったけれど …… 前述のあらすじを読んでも分かるとおり、登場人物たちのほとんどが、清々しいほどの クズっぷり!(笑)



マトモな人間なんて、主人公の『麻砂美』(南野陽子)と『小原友成』(長谷川初範)しかいやしません。




あ〜、そうそう、長谷川初範さんは、本社から横領の件で調査にやってきた調査員なのでした。(だから、なんとなく麻砂美も見覚えがあったのね)


でも、毒物を飲まされて殺されそうになったり、邦子の撃った銃が暴発して足をかすめたりと、もう散々な目に会う。(それでも死なないので、ある意味強運なのかも(笑))



私が、このドラマで一番注目したのは、(ナンノの可愛さは元よりだが)やっぱり 平田満(みつる)さん。


完全に現地の人にしか見えないほど、成り切っております。(元は日本人で中国残留孤児らしいが)


クライマックス、銃口を突きつけながら淡々と話す『陳(ちん)』の独白は、このドラマの最大の見せ場である。




中国人に育てられた『陳』と弟は、陳が16歳になった時、海を渡って香港に行く事にしたのだった。


だが、途中で弟は溺れ死に、残された『陳』だけが、命からがら香港へと辿り着いたのである。


でも、何のツテもない『陳』は、香港でもスラム街と呼ばれる『九龍城(クーロンじょう)』で暮らすしかなかったのだ。(薄汚れた廃屋のような狭小住宅地)


それでも10年かけて、必死にお金を貯めて、日本に戻ってきた『陳』もとい、本名『岡本康明(やすあき)』。


そんな日本では、既に実の両親は亡くなっており、親戚たちにも邪険にされてしまう始末。



「ワタシ、逃げるように《香港》に帰ってきたよ。でも《香港》、後5年で中国に返還されるね。ワタシ、また中国人にされてしまうのか?ワタシ真っ平よ!!」


自分が《何人》なのか …… 長年、流浪の旅を続けてきた『陳』。

そして、そんな『陳』が、もはや信用できるモノは、たった一つ。

莫大な《金》だけなのだ。




『陳』(平田満)の、こんな独白は、妙に鬼気迫るような説得力がある。



この迫力に、『麻砂美』(ナンノ)は、本気で震えあがっているようだ。(そりゃ、そうだ。これぞ名演技というものだろう)




渋々、麻砂美が鍵を渡すと、『陳』はそれを持って、喜び勇んで廃屋から出ていった。


残された岩館は「なぜ?鍵を渡したんだぁーー!」と絶叫する。(オマエが言うか?(笑))



その時、麻砂美が取り出したる 別の《》🗝️


《鍵》の存在に気づいていた麻砂美は、ココに来る前に、こっそりとすり替えていたのだ。


『陳』に渡したのは、只のコインロッカーの《鍵》なのでした。(機転がきくナンノ)



そんな『陳』は、香港マフィアに捕まり、嘘の鍵だとバレてしまうと ……… ああ、哀れ。


次の日、香港のゴミがプカプカ浮かんでいるようなドブ川に、遺体として流されていたのでした。(これをスタントじゃなく、本人、平田満さんが演じているとしたら、凄い役者根性である。)



散々、騙されてきた麻砂美は、岩館に怒りの平手打ちをすると、奥さんのジョイに鍵を渡して去っていった。



そうして、麻砂美が日本に帰国して数日後 ……



あのジョイから、麻砂美宛てに手紙と、例の《鍵》が同封されて送られてきたのだ。


手紙には、「その後、岩館が交通事故で呆気なく死んでしまった」ことが書かれていた。(ザマ〜みろ)



まさに《悪銭、身につかず!


小原に鍵を返した麻砂美は晴れやかな笑顔。

こんな教訓を残して、ドラマはエンド・マークを迎えるのである ………



こんな『香港迷宮行』、面白かったー!



それに興味深く、色々と考えさせられてしまった。


と、いうのも、あれから数十年経った現在、《香港》の凋落ぶりを、何かにつけて我々は目にしてきたからなのだ。



《香港返還前》、富裕層の人々は、中国支配を怖れ、とっととアメリカや他の国へと逃げ出した。

あれだけ賑わした『香港映画』は廃れてゆき、ジャッキー・チェンや数々の著名人たちも、ハリウッドへ活路を見いだそうとして、去っていく。



そうして案の定、返還後は、映画を作ろうにも中国政府の厳しい検閲が始まる。


自由に映画なんて作られなくなってしまった現在の《香港》。(今でも細々と作られているらしいが、まるで話題にもなりゃしない)



日本からも《香港ツアー》なんて企画で、ジャンジャン旅行客が押し寄せていたけど、そんなモノさえ、最近じゃ聞かなくなってきた。




この『香港迷宮行』は、あのタイミングだからこそ、ギリギリ作る事が出来た奇跡の作品なのだ。(今じゃ、絶対無理だ)


そう考えると、2時間ドラマとはいえ、歴史的な希少価値。(凄い持ち上げよう)



星☆☆☆☆である。


あの頃の《香港》の風景も、一緒に楽しんで欲しいと思う。


長々、お粗末さまでした。