2021年8月1日日曜日

映画 「上海特急」

1932年 アメリカ。




内戦が続く混乱の時代……


中国は北京から~上海までの長い距離を走る《上海特急》が今、出発しようとしている。



そんな《上海特急》の一等車両には、それぞれの事情を抱えた乗客たちが乗り込んできた。


上海で下宿屋を営んでいる年老いた『ハガティ夫人』は、一緒に連れて来た愛犬がバレやしないかとヒヤヒヤしている。(結局バレて愛犬は貨物車に連れていかれるが…)



杖をついているドイツ人『エリック・バウム』は、座席にいても、とにかくイライラしていて落ち着かない様子だ。

他の者が客車の窓を開けようものなら、「風を入れて、私を殺す気か?!」と大騒ぎする。



「この列車は、多分予定通りには上海に着かないね。なぁ、賭けるか?」なんて言う、なんでも賭け事にしてしまう呑気なオッサンは『サム・ソールト』。



フランス語しか話せない『レナール少佐』は周りの言葉が分からないので、ただ戸惑うばかり。(歳をとって除隊したのに、見栄で軍服を着てる)



白人と中国人の混血である『ヘンリー・チャン』氏は、その見た目から、一見何を考えているのか分からない。



イギリス軍の軍医であり、外科手術の名医でもある『ハーヴェイ』(クライヴ・ブルック)は、中々の色男。

目的は、上海で依頼されている政府高官の脳外科手術を行う為である。



そんな列車に、いかにも目立つ、二人の女性客の姿もある。

中国人の高級娼婦『フイ・フェイ』、もう一人は、《上海リリー》と渾名されている美女である。



「あんな女たちがいるなんて、なんて客車だ!」

お堅い牧師の『カーマイケル』は、二人を見ながら侮蔑の言葉をはく。



特に《上海リリー》(マレーネ・デートリッヒ)は、その美貌で男たちを手玉にしてきた悪名高き女性なのだ。


だが、そのリリーを見て、ハーヴェイ医師の顔色が一瞬で変わった。


「マデリン……マデリンだ」

5年前、付き合っていた愛しいマデリンだったのだ。



二人は愛し合う仲だったが、ほんの行き違いから別れてしまい、それ以来音信不通。

ハーヴェイは仕事に打ち込んで、マデリンを忘れよう、忘れようと努力してきたのだ。


そのマデリンが《上海リリー》として、今、目の前にいる。


「お久し振りね、先生…」

落ちついた表情で、煙草の煙りを燻(くゆ)らせながら、マデリンの瞳がハーヴェイを見つめる。


もはや、過ぎ去った日々……だが、目ざといマデリンは、ハーヴェイの時計に気がついた。


「私がプレゼントした時計……まだ持っていてくれたのね」


そう、私は、まだマデリンの顔写真が入った、この時計を捨てられないでいる。


マデリンの自信たっぷりの顔に、ハーヴェイは少しイラついて、怒った表情になった。


《上海特急》の列車は、そんな様々な人々を乗せて、ゆっくり、ゆっくりと、長く続いて行く線路を走り出す……



映画でも、《列車もの》って呼ばれるジャンルが、大、大、大好きである。


古くは、ヒッチコックの『バルカン超特急』から、クリスティーの『オリエント急行殺人事件』、最近blogでも書いた『カサンドラ・クロス』などなど……


《列車》の旅は、それだけで自分をワクワクさせてくれて、妙に物語の世界に引き込んでしまう。


この、大昔の『上海特急』は、主演がマレーネ・デートリッヒだし、《列車もの》だし、やっぱり1度は観たかった映画だ。



………で、観たのだけど、やっぱり少々古すぎたかな?



映画は80分足らずの長さなのだが、どうにも少し間延びしすぎているように感じてしまった。(しゃ~ないか、1932年だし)



この後、列車は止まり、一人の男が逮捕されて連れていかれる。


どうも反政府の者らしいのだが。(「なぁ、俺の言ったとおり列車が遅れただろう?」なんて言う、賭け事好きのオッサンは少々ウザい)



それから、しばらくすると、またまた列車はストップさせられて、列車の周りを妙な団体が取り囲む。


「一等車にいる者たちは、全員表に出ろ!!」


みんなブツブツ言いながら、駅のそばの建物の前まで連れて来られると、一人一人が順番に呼ばれて中へ通された。



そこには、仲間に囲まれて中央に鎮座している、あの白人と中国人の混血である『チャン氏』がいたのだ。


『チャン』の正体は、なんと!反政府軍のリーダー、大ボスだったのである。


「先程、中国政府に連行されていった男は、我々の大事な同志だ。是非、返してもらわなければならない。その為、この一等車の乗客の中に、人質交換に値する者がいるかどうか、一人ずつ尋問する!」


もう、大変な事になったぞ!



下宿屋を営んでいるハガティ夫人はヒステリー気味。


ドイツの商人バウムは、裏で阿片の密輸をしている事をチャンに見破られると、焼きゴテをされてしまう。

「ギャアアァーーーッ!」(なんて残酷な)



こんなチャンが、結局、人質交換に選んだのは、ハーヴェイ医師だった。(軍の外科医なら、政府も要求をのむはずと踏んだのだ)


「あぁ~、どうすればいいの……」


《上海リリー(マデリン)》は、もう取り澄ました表情なんてできやしない。


ハーヴェイを今でも愛しているのだ!それも熱烈に。


「神様、どうかハーヴェイの命をお助けください……」と、震えながら手を合わすマデリン。


その様子を牧師のカーマイケルは、偶然見てしまう。


(わしが間違っていたかもしれん……彼女は彼をとことん愛しているのだ……)



やがて男が無事に開放されるのだが、卑怯者のチャンは、ハーヴェイを開放する気はサラサラなかったらしい。


「奴の目玉を、この焼きゴテで潰してから返してやる!」なんて言ってのける。


もう、黙ってられないマデリンは、チャンのところへ乗り込んでいって、自ら直談判。


「私があなたのモノになるから、彼を開放して!!お願いだから!!」


マデリンの懸命の叫びに、(美人の《上海リリー》が俺のモノになるなら…ウシシ……)と好色そうな笑みをたたえて、やっとハーヴェイは無事に開放された。


だが、事情を知らないハーヴェイの気持ちは……


(あんな男に寝返るなんて……なんて女なんだ!)

マデリンに失望し、軽蔑までしてしまう始末。



やれやれ、どこまでいってもスレ違いの二人……果たして二人の運命は………



こんな感じが、《上海特急》のあらすじである。


もちろん、この後、マデリンは無事に救いだされて、二人の誤解も溶けて、ハッピーエンドになるんだけどね。(あっ、言っちゃった! まぁ、いいか………古い映画だし。この後は、中国人娼婦『フイ・フェイ』と、『カーマイケル牧師』が活躍するとだけ言っておく)



それにしても、『モロッコ(1930)』、『上海特急(1932)』と観てきて思ったことだが、この両方を監督したジョセフ・フォン・スタンバーグ、「だいぶマレーネ・デートリッヒに助けられているなぁ~」ってのが率直な感想である。


二人はゴールデン・コンビと呼ばれていたらしい。


他にも『嘆きの天使』、『間諜X27』なんて映画もコンビで撮っている。


だが、とうとうスタンバーグの奧さまの嫉妬(キィーッ!)で、このコンビが離別してしまうと、たちまちスタンバーグの映画は精彩を欠いて、まっ逆さまに転落していったそうな。



………でも、分かるような気がする。


綺麗な絵面は撮れても、初めに書いたように、あまりテンポがよろしくないので。(現代の我々から見れば、展開が余りにもノンビリに見える)


この人の映画自体、どれもこれも、だいぶマレーネ・デートリッヒの演技や個性に寄り掛かかりすぎてるような気がするのだ。(そこへいくと、同じような30年代の映画でも、ヒッチコックの映画は、今観てもテンポが良くて飽きさせないのだから凄い!)



それでも、マレーネ・デートリッヒの《クールさ》から一転、《激しい情愛》は見応えあり。


この映画も、そんな振り幅の広い演技力に支えられている。


それに個性的な出演者たちをプラスして、ギリギリ星☆☆☆☆。


この映画から、そろそろ1世紀近く。

映画の作り手も、観る側も少しは進歩してるのかな?


※それにしても、ハガティ夫人以外は、皆、ちと煙草の吸いすぎじゃないか? 


列車の煙といい、煙草の煙といい、実に煙い映画である。( 笑 )