2021年7月1日木曜日

映画 「魅せられて四月」

1991年 イギリス。





1920年代のロンドン……


毎日降り注ぐ雨に、平凡な主婦『ロッティ・ウィルキンズ』は、イライラしていた。


最近じゃ、夫の『メラーシュ』ともギスギスして上手くいってないし……全て、この陰鬱な雨のせい?


そんな時、ある新聞に掲載されている広告がロッティの心を、たちまち捉えた。


「地中海に臨むイタリアの小さな城を四月いっぱい貸し出します。家具、使用人付きで……詳細につきましては、下記の住所へとご連絡くださいませ」


これ、これだー!!


これで暗いロンドンともオサラバできる!


ロッティは、早速、顔見知りの主婦友達『ローズ・アーバスノット』に話を持ちかけた。


ローズも、夫の『フレデリック』と最近上手くいっていない様子で、主婦二人は、すぐに意気投合する。


そんな二人は、城の持ち主である『ブリッグス』を訪ねた。


左がローズ、右がロッティである》


貸出し料は、1か月で60ポンド。


(高い!高いわ!……)

現実的な問題は、ロッティとローズに重くのし掛かり、もはや二人は諦め顔である。


だが、二人を気に入ったブリッグスは助け船をだして、


「どうでしょうか?他にも貸出し料を分担してくれるような、お仲間を探してみれば……」と逆に提案してくれた。


そうね!ナイス・アイデアだわ!



諦めかけていた夢に、ひとすじの光が見えた二人は、早速行動に移して、自分たち以外の二人を見つけ出した。



一人目は、社交界で輝く、美しい令嬢『ミス・キャロライン』(ポリー・ウォーカー


「面白そうね。いいわ、行ってさしあげても」(令嬢なんで、やっぱ上から目線)


男たちにチヤホヤされているのも、ちょうど飽きてきたところ……退屈しのぎになるかもしれないわ


美人のキャロラインが参加するのは、こんな動機である。



もう一人は、貴族の未亡人である『ミセス・フィッシャー』(ジョーン・プロウライト)。

杖をついていて、厳めしい顔つきのフィッシャー夫人は、なんだか気位が高そうで、ロッティとローズも尻込みしそうな雰囲気を醸し出しているのだが……


「いいでしょう、私も参加しますよ」と、なんとか快諾してくれた。


こうして、集まった4人の女性たちは、イタリアへとやって来たのだった。


目の前に広がるのは、まるで楽園のような別世界。


青い空には、おだやかな陽光が射している。


色とりどりに咲き誇っている美しい花たち。


そんな花たちに囲まれて、荘厳にそびえ建つサルバトーレ城。


ロッティもローズも、今までの陰鬱な気持ちは、一瞬で吹き飛んでしまった。


「来てよかったー!」


晴れ晴れした気持ちで、少女の気分になって、二人は庭を、湖を、森の中を散策しはじめる。



そんな二人とは対称的に、キャロライン嬢は、あくまでもマイペース。


「少し退屈だけど、まぁいいわ。ゆっくりできるし…」とデッキ・チェアーで、まずはお昼寝。



ミセス・フィッシャーの場合は、来てはみたものの、この状況に簡単には馴染めてない感じである。


「この城で、一番良い部屋を!」と、頑固に要求して、それが簡単にとおると、その後には「自分は、どうしたらよいのやら……」不安な様子なのだ。


杖を片手に、ずっと部屋にとどまり続けている。



いきなり、こんな生活がはじまった4人。


毎日が、こんな風に、優雅で穏やかに過ぎていくのだが、やがて4人の女性たちの心は微妙に変化していき…………



事件らしい事件も起きないし、センセーショナルな出来事も一切起こらない。


この映画は、こんな感じで、終始、女性4人が、のんびり過ごしているだけの映画なのである。



で、こんな映画は、《ツマラナイ》と思う人も中にはいるだろうが、そうでもない。



美しい景色や城を映し出しながら、ゆっくりと流れていく時間。

そんな時を過ごしながらも、変化していく彼女らの気持ち。


それが、とても興味深いので、なぜか?退屈もしなければ、強く印象に残ってしまうのである。




最初に気持ちが変わったのは、ロッティ。


「自分だけが、こんな素晴らしいお城で過ごすなんて……私馬鹿だったわ!夫のメラーシュをこの城に呼びたいの!どうかしら?!」


フィッシャー夫人は、一瞬ドギマギするが、特に反対はしなかった。


キャロライン嬢は、「フフン…」って感じで、あくまでも余裕な表情である。


ロッティの旦那さんが私を見て、私の魅力に抗えるかしら?……

なんて考え中なのだ。(もう、どんだけ自分の美貌に自信があるのやら (笑) )


ロッティは、ローズにも「あなたも旦那さんを呼びなさいよ」と言うのだけど、ローズの顔は曇りがち。


(手紙なんか書いてもくるはずがないわ……絶対……)



やがて、数日が過ぎて、ロッティの夫メラーシュがやって来た。


これがロッティの旦那さんか…また私にメロメロになってしまうかもね……男なんて、皆、そうなんだから……

と、一人余裕の笑みをぶちかますキャロライン嬢。(ヤレヤレ (笑) )


だが、当てが外れて、夫のメラーシュは、妻ロッティの晴れやかな顔つきにビックリする。


「俺の奥さんはこんなに綺麗だったのかー!」

ってな具合で、ロッティの魅力を再確認する結果になったのだった。(「アレレ…」と気落ちしかけるキャロライン嬢だけど、「まぁ、中にはこんな変わり者の男もいるわよね」と直ぐに気持ちを立て直す)



次にやって来たのは、この城の持ち主であるブリッグス。


この人が城の持ち主か……この男なんて、私の微笑みをみれば、一発でイチコロね

なんて風に、やっぱり考えてしまうキャロライン嬢。


だが、またもやキャロライン嬢の当ては外れてしまい、ブリッグスは、夫がいるローズの方へ惹かれてしまう。


こんな馬鹿な……なぜ?私が無視されるのよ?!


段々とイライラしてくるキャロライン嬢。



最後に現れた男は、ローズの夫フレデリックだった。


来るはずがないと思っていた夫の出現にローズはビックリして、途端に嬉しそう。


夫フレデリックは、妻がキャロライン嬢と一緒に旅行していると手紙で知って、「自分の利益になる!」算段で駆けつけたのだが、目の前にいる妻を見て、一瞬で惚れ直した様子である。


キャロライン嬢への気持ちなんて、どこかへ吹き飛んでしまったフレデリック。



そうして、哀れキャロライン嬢。


トボトボと庭を一人散歩しながらも、すっかり女としての自信を失ったようである。


私って、こんなに魅力がなかったの?……


それまで男たちにチヤホヤされてきたキャロライン嬢は、トリプル・パンチにすっかり打ちのめされて、完全にノック・ダウンした様子である。(尖っていた鼻はへし折られたのだ。まぁ、良い薬だ)


そんな場所へ、夫のいるローズに横恋慕していたブリッグスも、ガックリして現れた。


何だかお互いにガックリしている二人は、自然に近づいて、どちらからともなく話し出した。


「ぼくは生まれつき弱視でね…ほとんど見えないんですよ。だから、最初に会った、ローズのように美しい気持ちの人に惹かれてしまった」



そうだったのか……人は人の気持ちにこそ惹かれるのだ。


ロッティやローズに比べて、自分は何て愚かでダメな人間なのか!


やっと、それに気づいたキャロライン嬢は涙する。


「私なんて、本当にダメだわ……」と自然に出てくる言葉。


「いや、そんな事はないさ」と慌てて慰めるブリッグス。


いつしか、二人の気持ちは寄り添っていき……



こんな感じで3組のカップルたちは、良い感じになると、フィッシャー夫人だけが、一人さみしそう。


そんなフィッシャー夫人を見かねたロッティは、皆の輪に入れてあげた。(フィッシャー夫人にも笑顔が戻ってきた。自分が幸せだと自然に人にも優しくなれるのだ)



こうして、幸せな時を過ごした一行は城を去っていく。



去り際に、フィッシャー夫人は要らなくなった杖を、城の庭に突き刺していった。(もう、杖無しでも元気に歩ける様子だ)


やがて、また時が経つと、その突き刺した杖は、地中に根をはりはじめ、芽がふきだし、綺麗な花を咲かせてゆく。


映画は、こんな風にして《THE END》をむかえるのである。




なんで、この映画を、今頃になって思い出したんだろう?(やっぱり自分自身が《癒し》を求めているのかな?疲れているのかな?)


観ている側も、心穏やかになれる、そんな摩訶不思議な映画なのである。



今回は、珍しく最後まで書いてしまいました。


それというのも、この映画、遠い昔にVHSとレーザー・ディスクになったのに、現在でもDVDやBlu-rayになっておりませんし、これから先、観れる機会もあるかどうかも分かりませんので。(これも我が記憶だけで書いております。多分、こんな話だったはず?と思います)



女優ポリー・ウォーカージョーン・プロウライト以外は、ほとんど知らない俳優さんたちばかりである。


デヴィッド・スーシェの『名探偵ポワロ』の一編、『エンドハウスの怪事件』に出演していたポリー・ウォーカーさん。


この映画は、ほぼ同時期のモノじゃなかったかな?

1920年代の髪形や服装が、妙にマッチしていて、本当に綺麗でした。(落ち込む彼女も、また素敵)


後年、ドラマ『ローマ Rome』では、大胆なシーンにドギマギさせられましたけどね。



フィッシャー夫人役のジョーン・プロウライトは、この作品以外は、あんまり見かけたことがないのだけど、この方は、あの!《ローレンス・オリヴィエの奥さま》だったお方である。


ローレンス・オリヴィエが最初に、『風と共に去りぬ』のヴィヴィアン・リーと結婚して、20年間に渡って、地獄のような結婚生活を送った事は有名な話だ。(以前も、このblogでも書きましたが、ヴィヴィアンの神経症はメチャクチャな行動を、次から次に引き起こしたのである)


1960年に、ようやっとヴィヴィアンと離婚できて(もうオリヴィエも精神的にボロボロ)、その後にオリヴィエが再婚したのが、このジョーン・プロウライトなのでした。


オリヴィエが亡くなるまで、ずっと添い遂げた彼女。


ヴィヴィアンと同じ女優でも、その性格は真逆であり、控えめだった彼女は、オリヴィエをたてて、陰ながら尽くしたという。


その甲斐あって、オリヴィエは《サー》の称号を、ジョーンは《デイム》の称号をイギリス政府から授かる。


オリヴィエも、晩年は、この良妻ジョーンと結婚できて、やっと心安らげる日々を送れたんじゃないのかな?(良かったね、オリヴィエ)



この映画が、いずれDVDか、Blu-rayになれば、この記事は書き直してしまうかもしれないが、まぁ、それまでは、「こんな癒される映画もあるんだよ」ってので、残しておきたいと思う。(メーカー様、頑張って!)



それにしても、こんなに長い文章を読んでくれる人いるのかな~


時期外れな『魅せられて四月』に、星☆☆☆☆。