1989年 ビデオ発売。
1979年に、『月刊少年ジャンプ』に掲載された手塚治虫の読み切り短編漫画である。
この作品、手塚治虫自身も中々のお気に入りで、後年アニメ化では監督も兼任していた。
私自身も初めて観たが、けっこう気に入っている作品。
やっぱり大人になったら《手塚作品》なのかもね。
中学生の『豊田明』(とよだ アキラ)は、仕事で忙しい父親との二人暮らし。(母親は、とうに亡くなっている)
学校では教師やクラスメートにも馴染めず、孤立気味。
そんな砂を噛むような毎日の中、ある日、アキラはガード下のコンクリート壁に貼られているポスターに強く惹きつけられてしまう。
ポスターのモデルになっている写真の彼女に一瞬で 恋してしまった!♥️のだ。
オマケに、アキラにはポスターの彼女が話しかけてくる声が自然に《聴こえてくる》のである。
隙をみて、ポスターを剥がすと、とうとう自宅に持ち帰ってしまうアキラ。
勝手に名前も分からない彼女に『るん』と名付けて、『るん』との生活を楽しむアキラなのだが ……
《聴こえもしない声が勝手に頭の中に入ってくる》……
コレと似たような経験をした事がある自分には、この主人公『アキラ』の事を「気がおかしくなった?」とか「ノイローゼ?」なんて、安易に馬鹿に出来ない理由がある。
昨年、奮起して【《小説》なるモノを一度書いてみよう!】と思いたち、書き出したものの、途中から物語の登場人物たちが、自分の頭の中で勝手に喋りだしたり、動き始めたり ……
終いには横になっても、それらの声が反芻するように頭の中で鳴り響いてしまい、全然眠らせてくれない日々が続いたのだった。
とにかく頭の中から、これらの声を上手く制御して外に出さなければ(小説として完成させなければ)、消え去ってくれないのである。
こんな状況で、最初考えていた結末とはだいぶ変わってしまい、それでも、なんとか完成させると、終わった後は、性も根も尽きたような燃え殻状態になってしまったのでした。
凡人の私でさえ、こんな風になってしまったのだから、いくつも連載などを抱えて多忙だった手塚治虫の頭の中なんて、いったいどうなっていたのだろうか。(あちこちで沢山のキャラクターの声が「ワー!ワー!」言ってたに違いない)
強い意志で制御(コントロール)できなければ、小説でも漫画でも、作品なんて綺麗に完結する事なんて、どだい無理な話なのだ。(膨大な数の手塚作品でも未完に終わった話もあるし、創作に関わる人は絶対にこんな経験をしているはずだ)
後半、アキラは自分の部屋で、とうとう《自殺》しようとする。
クラスメートに『るん』の事でからかわれたり(片時も離れたくなくて学校にポスターを持っていくアキラ。そんなアキラをからかいポスターは盗まれて、トイレに貼られていたりする。そうして殴る蹴るの大喧嘩)、教師から連絡をうけた父親にさえ、奇怪な行動を怒鳴られる始末。
(もう、生きていたくない …… )
自分の部屋でロープを引っ掛けて、首吊り自殺をしようとするアキラを、ポスターの中の『るん』が懸命に引き留める。
『やめてーー!アキラさん、私が好きじゃなかったの?探すのよ!私の写真のモデルになった本当の人物を!!』
この『るん』の一言で、すんでのところで自殺を思い留まったアキラ。(この『るん』の呼びかけも、アキラ自身が「本当は生きたい!」という、もう一方の心の声なので、ちょっと複雑である)
こうして、気持ちを切り替えて、あのポスターを作った出版社を必死で探しだし、写真を撮った『三輪南平』の自宅までを突き止めるアキラ。
そうして、アキラは無事に『るん』のモデルとなった実在の女の子と出会えることができるのか ……
ラストは、ちょいとしたドンデン返しがあり、ハッピーエンドなのだけど、やや寂しさが残る終わり方。
『るん』のポスターは、「これにてお役御免!」とばかりに、風に飛ばされてユ〜ラユラと、どこか遠くへといってしまう🌪️。(な〜るほど、これでタイトルが《るんは風の中》なのね)
これも隠れた手塚治虫の名編じゃないのかな。
星☆☆☆☆。
それにしても、全然『少年ジャンプ』らしくない良い話だなぁ~(笑)