2025年4月29日火曜日

アニメ 「るんは風の中」

 1989年 ビデオ発売。





1979年に、『月刊少年ジャンプ』に掲載された手塚治虫の読み切り短編漫画である。

この作品、手塚治虫自身も中々のお気に入りで、後年アニメ化では監督も兼任していた。

私自身も初めて観たが、けっこう気に入っている作品。

やっぱり大人になったら《手塚作品》なのかもね。



中学生の『豊田明』(とよだ アキラ)は、仕事で忙しい父親との二人暮らし。(母親は、とうに亡くなっている)

学校では教師やクラスメートにも馴染めず、孤立気味。


そんな砂を噛むような毎日の中、ある日、アキラはガード下のコンクリート壁に貼られているポスターに強く惹きつけられてしまう。


ポスターのモデルになっている写真の彼女に一瞬で 恋してしまった!♥️のだ。


オマケに、アキラにはポスターの彼女が話しかけてくる声が自然に《聴こえてくる》のである。

隙をみて、ポスターを剥がすと、とうとう自宅に持ち帰ってしまうアキラ。


勝手に名前も分からない彼女に『るん』と名付けて、『るん』との生活を楽しむアキラなのだが ……




《聴こえもしない声が勝手に頭の中に入ってくる》…… 

コレと似たような経験をした事がある自分には、この主人公『アキラ』の事を「気がおかしくなった?」とか「ノイローゼ?」なんて、安易に馬鹿に出来ない理由がある。


昨年、奮起して【《小説》なるモノを一度書いてみよう!】と思いたち、書き出したものの、途中から物語の登場人物たちが、自分の頭の中で勝手に喋りだしたり、動き始めたり ……


終いには横になっても、それらの声が反芻するように頭の中で鳴り響いてしまい、全然眠らせてくれない日々が続いたのだった。


とにかく頭の中から、これらの声を上手く制御して外に出さなければ(小説として完成させなければ)、消え去ってくれないのである。


こんな状況で、最初考えていた結末とはだいぶ変わってしまい、それでも、なんとか完成させると、終わった後は、性も根も尽きたような燃え殻状態になってしまったのでした。


凡人の私でさえ、こんな風になってしまったのだから、いくつも連載などを抱えて多忙だった手塚治虫の頭の中なんて、いったいどうなっていたのだろうか。(あちこちで沢山のキャラクターの声が「ワー!ワー!」言ってたに違いない)


強い意志で制御(コントロール)できなければ、小説でも漫画でも、作品なんて綺麗に完結する事なんて、どだい無理な話なのだ。(膨大な数の手塚作品でも未完に終わった話もあるし、創作に関わる人は絶対にこんな経験をしているはずだ)



後半、アキラは自分の部屋で、とうとう《自殺》しようとする。


クラスメートに『るん』の事でからかわれたり(片時も離れたくなくて学校にポスターを持っていくアキラ。そんなアキラをからかいポスターは盗まれて、トイレに貼られていたりする。そうして殴る蹴るの大喧嘩)、教師から連絡をうけた父親にさえ、奇怪な行動を怒鳴られる始末。


(もう、生きていたくない …… )


自分の部屋でロープを引っ掛けて、首吊り自殺をしようとするアキラを、ポスターの中の『るん』が懸命に引き留める。


やめてーー!アキラさん、私が好きじゃなかったの?探すのよ!私の写真のモデルになった本当の人物を!!


この『るん』の一言で、すんでのところで自殺を思い留まったアキラ。(この『るん』の呼びかけも、アキラ自身が「本当は生きたい!」という、もう一方の心の声なので、ちょっと複雑である)


こうして、気持ちを切り替えて、あのポスターを作った出版社を必死で探しだし、写真を撮った『三輪南平』の自宅までを突き止めるアキラ。


そうして、アキラは無事に『るん』のモデルとなった実在の女の子と出会えることができるのか ……


ラストは、ちょいとしたドンデン返しがあり、ハッピーエンドなのだけど、やや寂しさが残る終わり方。


『るん』のポスターは、「これにてお役御免!」とばかりに、風に飛ばされてユ〜ラユラと、どこか遠くへといってしまう🌪️。(な〜るほど、これでタイトルが《るんは風の中》なのね)


これも隠れた手塚治虫の名編じゃないのかな。

星☆☆☆☆。



それにしても、全然『少年ジャンプ』らしくない良い話だなぁ~(笑)


2025年4月3日木曜日

ライブ 「岩崎宏美の《PYRAMID》」

 1986年、10月。




この岩崎宏美さんのバックに映っているのは、正真正銘、本物のエジプトにあるという《ピラミッド》&《スフィンクス》。


1986年といえば日本はバブル絶頂期。

岩崎宏美さんは当時、外務省からの特命で親善大使となり、エジプトを訪れた。

そうして、日本人としては初のエジプト野外コンサートを行っている。


こんな砂漠に、ステージを組み立て、大勢の人が座れるような会場を作り、音楽機材を運び入れてライブを行ったんだから、いかに当時、日本の経済力が凄かったのか、今更ながらに驚嘆してしまう。(機材の電気や照明でも巨大なバッテリーが必要だったはずだ)




DVD収録曲は、こんな感じ。(30周年の記念boxに、このエジプト・ツアーが収められている)


1∶オープニング
2∶OVERTURE
3∶ロマンス
4∶カサノバL
5∶姫ごころ
6∶INSTRUMENTAL
7∶夢狩人
8∶夜のてのひら
9∶好きにならずにいられない
10∶MAIS EL RIM
11∶決心
12∶星に願いを
13∶未来
14∶聖母たちのララバイ


これで約1時間弱のライブである。(これが完全版かどうかは分からないけど …… )

このライブに至っては、『ロマンス』、『好きにならずにいられない』、『聖母たちのララバイ』しか、私は知らない。(すみません、不勉強で)


だけども、どの曲も抜群の安定感で聴かせてくれている。




そうして、やっぱり、圧巻なのがラストを飾る名曲『聖母たちのララバイ』。


日本語が分からないエジプト人たちも、《なにか》を感じ取ってくれてるのか …… ステージ上の岩崎宏美に釘付け。誰も騒ぎたてる者はいやしない。(本当に歌の力って凄い!)






……… でも、こんなライブが出来たのも岩崎宏美が最初で最後なのかもしれない。


エジプトといえば昼間は灼熱の暑さでも、夜は凍えるような寒さとなる。そのくらい寒暖差が激しい土地なのだ。


何かの記事で読んだのだが、岩崎宏美さんも、このライブの前日までは体調を崩されて大変だったとか。(なのに当日は奇跡の出来ばえ



オマケに治安の問題も大いにある。


それから11年後の1997年、エジプトではルクソールにおいて無差別テロ事件が発生しているのだ。


イスラム原理主義の過激派テロリストたちが、約200人の観光客たちに向けて 銃を乱射!

62人がお亡くなりになり、その中の10人が日本人観光客だったという …… (恐ろしい〜)


その後も2010年、2019年と度々ある爆弾テロ事件。


聖母たちのララバイ』の中で、「♪こ〜のまちは戦場だから〜、男はみんな傷を負った戦士 … 」なんて歌詞があるが、まさか本当の《戦場》になるとはね。(もちろん、この《まち》とは《都会》のこと。懸命に働くサラリーマンなどを総称して歌っている)


決して戦争をしている戦士を慰める歌ではないのだ。(当たり前だっつーの)



日本人にとっては憧れの国、エジプト。


でも、やっぱりエジプトって国は《遠くにありて、想うモノ》で、ちょうどよいのかもしれませんね。(お粗末さま)