1944年、 ドイツで捕虜として捕らえられた600人以上の外国人たち。
それらの人々は、いくつも並ぶ、簡素な小屋の兵舎に分けられ、数十人ごとに収容されていた。
そして、ここ第十七捕虜収容所、第4兵舎にも………。
三段ベットが、ギュウギュウに敷き詰められた兵舎。
夜半、皆が一斉に目を開き、パッと起き出した。
窓ガラスには、外に明かりがもれないようカーテンで閉じられている。
外をのぞくと、ドイツ兵たちが、交代で、棟の上から、眩しいサーチライトを照らして、見張りを続けている。
そんな厳重な包囲の中、今夜、二人の捕虜が脱走しようとしていた。
「俺たちはいくぜ!」
二人のアメリカ人の捕虜は、床下の板を開けると、何ヵ月もかけて、地中に掘ったトンネルに入り込んだ。
「頑張れよ!」
「成功を祈るぜ!」
皆の声援をうけて、二人は揚々と脱走していった。
だが、しばらくすると、外で響き渡る銃声の嵐。叫び声。
「脱走は失敗したのか?!」
「何故なんだ?!」
兵舎の中の捕虜たちは、外の鳴りやんだ銃声の静けさで、それを確信し、それぞれの思いを抱えながら、床についたのだった………。
次の日、にこやかな顔で、兵舎を見廻りにやってきたドイツ人、『シュルツ軍曹』(シグ・ルーマン)。
「みんな、昨日はグッスリ眠れたかね?、だいぶ騒がしい夜だったがね」
笑顔で言うシュルツに、皆が仏頂面をしている。
「あいつらも、良い奴らだったのに、本当に残念だよ」
寝ている捕虜たちを点呼の為に起こしてまわりながら、シュルツは、おどけたポーズをしてみせた。
「心にもないことを…」
「くたばっちまえ!」
罵声が飛び交うが、シュルツはどこ吹く風だ。
髭面の呑気者『アニマル』(ロバート・ストラウス)は、まだ、グースカ寝ている。
「起きろよアニマル、点呼だぞ!」ひょうきん者の『ハリー』(ハーヴェイ・レンベック)が起こすが、目を開ける様子もない。
ハリーが耳元で囁く……「アニマル様…朝食はスクランブル・エッグ?、それともベーコン?ホットケーキ?」
「また、俺をからかいやがって!」アニマルが飛び起きた。
点呼の為に、大勢の捕虜たちが庭に並べさせられた。
そこへ、ツカツカとやってくる、ここの最高責任者、『シェルバッハ』(オットー・プレミンジャー)。
「今日はクリスマスだが、第4兵舎はストーブの撤去、そして諸君らには、トンネルの埋め立て作業をして頂く!よろしいかな?!」
返事をする者は誰もいなかった。
「いったい何故、地下トンネルの事までバレているんだ?」
朝食時間、皆が疑心暗鬼になって騒いでいる。
「誰かスパイがいるんじゃないのか?」
気の荒い『デューク』(ネヴィル・ブランド)、保安部の『プライス』(ピーター・グレイヴス)の視線が、自然に、ある男に注がれている。
その視線の先には、ストーブの上に、フライパンを乗せて、悠々自適に目玉焼きを焼いている『セフトン』(ウイリアム・ホールデン)がいた。
それをヨダレを垂らしそうになりながら、物欲しそうに見ているアニマルとハリー。
「匂いだけでも嗅がせてくれ!」
「この卵の殻、もらっていいか?」(哀れなアニマルとハリーよ……)
賭け事で勝った品物を、ドイツ人相手に、物々交換したりして、手広く商売をしているセフトン。
影で色々な物を手に入れているセフトンは、仲間内では異様な存在だった。
「相手は敵なんだぞ!恥はないのか?!」なんて言う輩にもセフトンは、キッパリ言う。
「敵だろうが何だろうが、俺はしっかり儲けさせてもらうぜ。商売は商売! こんな所で生き抜くには《 ここ 》が必要よ!」と、頭を指差した。
影で色々な物を手に入れているセフトンは、仲間内では異様な存在だった。
「相手は敵なんだぞ!恥はないのか?!」なんて言う輩にもセフトンは、キッパリ言う。
「敵だろうが何だろうが、俺はしっかり儲けさせてもらうぜ。商売は商売! こんな所で生き抜くには《 ここ 》が必要よ!」と、頭を指差した。
セフトンがパクつく様子を、皆がイライラしながら見ている。
(もしかして、………こいつがスパイなのか?)
これまた、名匠ビリー・ワイルダー監督の傑作である。(ほんとにワイルダー作品に駄作なし)
この映画では、主人公セフトン(ウイリアム・ホールデン)が疑われるが、
本当の「スパイは誰なのか?」と、
はたして「脱走はうまくいくのか?」の謎とスリルが、並行して描かれていく。
それも、さすがなのだが、この映画に出てくる登場人物たちの魅力的な事よ。
抜け目のない主人公セフトンは、もちろんの事、コメディリリーフのアニマルとハリーの面白さ。
「おい、ロシア女が収容されたぜ!」
「見てみろ、たまんねぇ~!」(『アニマル』っていう名前のとおり性欲と食欲の権化である)
「アニマル、殺されるぞ!」とハリーが止めても、
「おらぁ、死んでもいい!たまんねぇ~!」とアニマル。
この二人の丁々発止のやり取りが、最高におかしくて、面白いのだ。
捕虜収容所の生活を、ただ暗く描かずに、明るく笑いにするなんて、これもビリー・ワイルダーの素晴らしい才能である。
他の出演者も豪華。
『悲しみよこんにちは』、『バニー・レイクは行方不明』などの監督オットー・プレミンジャーが、この作品の為に俳優として出ているなんて、今となっては超貴重。
後年、『スパイ大作戦』のジム・フェルプス役で成功する、若き日の白髪じゃないピーター・グレイヴスも、また珍しい。
そして、ヤッパリ、主役のウイリアム・ホールデンが格好良いねぇ~。
見事、この作品でアカデミー主演男優賞を獲得したのだった。(笑顔でオスカー像を受けとるホールデンの顔ったら、超嬉しそうである)
見事、この作品でアカデミー主演男優賞を獲得したのだった。(笑顔でオスカー像を受けとるホールデンの顔ったら、超嬉しそうである)
出演者、ストーリー、演出、どれをとっても最高!
ビリー・ワイルダーの作品にケチをつけたり、文句などを言えようか。
笑わせて、ハラハラさせて……。