1998年 アメリカ。
『スティーヴン・テイラー』(マイケル・ダグラス)は、若くて美しい資産家の妻『エミリー』(グウィネス・パルトロウ)と、マンハッタンで豪華な暮らしを満喫していた。
スティーヴンも実業家だったが、もっか経営は厳しい状態。
エミリーは資産家ながらも、国連で働いているバリバリのキャリア・ウーマンである。
そんなエミリー、仕事の合間に画家の『デイヴィッド』(ヴィゴ・モーテンセン)と知り合い、不倫関係に。
デイヴィッドのアトリエのロフトで、暇をみつけては密会を繰り返すエミリー。
高圧的なスティーヴンの性格に嫌気がさしていたエミリーは、デイヴィッドに会えば会うほど惹かれていく。
でも、そんなものをおくびにも出さず、冷静にふるまおうとするエミリー。
だが、夫スティーヴンは、どこまでも抜け目のない性格。
エミリーの不倫など、全てを知っていたのだ!
そして、エミリーの留守中に、スティーヴンは自宅に、ある男を呼ぶ。
「入りたまえ!」
何と!入って来たのは、エミリーの浮気相手のデイヴィッドじゃないか!!
いったい何の用で呼び出されてきたのか、訝(いぶか)しそうにしているデイヴィッドに、スティーヴンはいきなり核心をついてきて、
「君が妻のエミリーと《デキてる》事を知っている!」と言い放った。
そして、「君には妻のエミリーを殺してもらおうか!」と、とんでもない提案をしてきたのだ。
「はぁ、何で俺がエミリーを殺さなければならないんだ?それもあんたの為に?!気は確かか?」
そう言われても、全く動じないスティーヴンは、不適な笑みをたたえると、デイヴィッドのこれまでの過去を話しはじめた。
興信所で調べさせたデイヴィッドの過去。
ペテンや詐欺は当たり前、そして投獄までされていた写真……
「新進の画家だって?笑わせる。君は根っからの犯罪者じゃないか!」
図星なのか……もう、ぐうの音も出ないスティーヴン。
「そ、それでも、もし俺が、この話をエミリーに言ったらどうなる?」
「エミリーには、君の過去をじっくりみてもらって判断してもらうさ。それに、警察に私が行けば、君にはまだまだ捕まるような余罪があるんじゃないか?」
もう、八方塞がり。まさに出口なしのデイヴィッド。
デイヴィッドが次に発した言葉は、「どうすればいいんだ……」だった。
その言葉を聞いたスティーヴンは、ニヤリと笑うと、「なぁに、悪いようにはしないさ。計画とは……」と言って話し始めるのだった…………。
今回、この『ダイヤル M』を観たのは初めて。(当時、「また、ヒッチコックの下らないリメイクか…」とスルーしていたのだ)
観てみてビックリ!
良くできてるじゃないですか!!
なんなら、こっちの『ダイヤルM』の方が、完全にヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』を上回っている出来栄えと言ってもいいくらいだ。
前回にも書いたように、あれほど、妻マーゴ殺しの為に、夫トニーが、悪党『スワン』を説得するためにダラダラした会話は、この映画ではコンパクトにまとめられている。
おかげで、サクサク進むし、何よりも『スワン』の存在を省略して、妻の愛人に殺しの依頼をさせるとは……もう、ビックリな改変である。
この後もビックリは続く。
アリバイ作りの為に、スティーヴンは仲間の集まる場所に出かけていき、深夜、妻エミリーは、侵入してきた黒いマスクの暴漢に襲われる。
そうして、エミリーは、やっと掴んだ先の尖った鋭利な温度計(多分、油の温度を計る温度計じゃないかな?)を犯人の首元に突き立てるのだ。
ピクリともせず、大量の血を流して倒れる犯人。
そこへ、タイミングをはかったように夫スティーヴンが電話をしてきた。
「スティーヴン、助けて!早く!早く帰ってきてちょうだい!!」
てっきり、暴漢役のデイヴィッドが出ると思っていた電話に、エミリーが出た事でスティーヴンもビックリ。
一目散にかけつけると、台所では黒いマスクの死体と、側で泣きじゃくっているエミリーの姿が……。
やがて、警察がかけつけて、現場は騒然としてくる。
そして、現場を捜査する『カラマン警部』(名探偵ポワロのデヴィッド・スーシェ)の登場。
カラマン警部と警察官が、死んでいる男の黒マスクをはぎとると、そこに現れた顔は………
誰だ?コイツは?!
全く知らない顔だ!!死んだのはデイヴィッドじゃないのか?!
「どうかなさいましたか?」驚愕しているスティーヴンの横で、カラマン警部が目を光らせながら訊ねると、
「いえ……何でもありません……」と、なんとか平静を装ってスティーヴンは応える。
後日、デイヴィッドと会ったスティーヴン。
「どういう事なんだ?あれは?!いったいあの男は誰なんだ!」
激昂するスティーヴンに、デイヴィッドは、この間の態度とは、うってかわって落ちついた様子。
「俺も汚れ仕事はやりたくないんでね。代わりにやってもらったのさ。昔、ちょっと知り合ったくらいの関係ない男さ」
スティーヴンは、このデイヴィッドを甘くみていた。しかも、この間の会話をデイヴィッドは、ちゃんとポケットの中で、テープに録音していたのだ。
(この男は………)
「なぁ、これからどうすればいい?」
屈託なく聞いてくるデイヴィッドに、スティーヴンは「しばらくは動けない……警察も目を光らせているだろうし……」と言って去ろうとする。
後ろからは聞こえるのは、とんでもないデイヴィッドの言葉。
「じゃ、俺、しばらくはあんたのカミサンと寝ていてもいいんだな?」だった。
夫スティーヴンもクズなら、愛人デイヴィッドも最低のクズ男……
二人のクズ男に、はさまれたエミリーの運命は……。
ここまで書き出してみても、まだ映画の中盤である。
この後も、二転三転の展開が待ち受けている。
時代を現代にアレンジして、ストーリーも大胆に改変しながらも、細部まで手をぬかず、無理なく辻褄があっている。
しかも、ちゃんと面白い作品になっているんだから、これはリメイクでも立派な成功例だろう。
この監督さんは、サスペンスの舞台劇を《映画にするにはどうすればいいか?》って事を、充分にわかってらっしゃるお方だ。
一旦、バラバラに分解して、考えながら、じっくりと積み上げていく、その作業は、まるで何層にも重なる積み木のようなモノだ。
少しの隙間もないように……。
こんな作品を作り上げた監督は誰だろう……気になった。
監督はアンドリュー・デイヴィス。
聞いた事もなかったが、作品を聞けば、どれもこれも、「あ~この作品観てるし、面白かった」というのがあって、またもや納得してしまう。
『刑事ニコ/法の死角』、『沈黙の戦艦』(スティーヴン・セガール)
『逃亡者』(テレビ逃亡者のリメイクね。主演はハリソン・フォード)
『守護神』(ケビン・コストナー)などなど………。
なぜか、どれもこれも観ている私。
こりゃ、いずれ、この監督の作品を、ここへ挙げていくのもいいかもしれない。
なぜか、どれもこれも観ている私。
こりゃ、いずれ、この監督の作品を、ここへ挙げていくのもいいかもしれない。
映画は星☆☆☆☆である。
冷酷なマイケル・ダグラスの演技はいいし、不倫をしていても下品にならないグウィネス・パルトロウの存在は貴重。
色男を気取っていても、どこか変態チックなヴィゴ・モーテンセンは、充分にマイケル・ダグラスに敵対している。(顔がなんせインパクト大。おしりのような割れたケツ顎をお持ちだもん(笑) )
ただ、ひとつだけ不満があるなら、もうちょっとだけ『カラマン警部』(デヴィッド・スーシェ)に活躍してほしかったかも。
スーシェ贔屓の自分は、このあたりが物足りなかった。よって星は4つにとどめておきたいと思う。