1971年 アメリカ。
誰もやりたがらない汚れ仕事を押し付けられる……つけられたあだ名、それが、『ダーティハリー』だ。
スミス&ウェッソンM29(でっかくて重い銃)片手に、容赦なく悪を撃つ。
その破壊力は凄まじく、当たれば、一発で、どんな強敵でも仕留められるほど。
こんなインパクトで、もう何十年経っても、クリント・イーストウッドといえば、『ダーティハリー』が代表作だというのは、もはや万人が知るところである。
だが、最初から、事はすんなり決まっていたわけではない。
フランク・シナトラに断られ、ジョン・ウェインだの、スティーヴ・マックイーンだのに嫌がられる。
そして、今度は、巡りめぐってポール・ニューマンに依頼が回ってくる。
当然、ポール・ニューマンも断るのだが、ニューマンは、「クリント・イーストウッドはどうかな?」と逆にワーナーに推薦してきたのだ。(やっとここで)
そして、やっと、やっと、クリント・イーストウッドに話が持ちかけられてくる。(そのくらい俳優の中でも、まだまだイーストウッドのランク付けは下の方だったのだ)
だが、簡単にここで「O.K!」を出さなかったイーストウッド。
「引き受けてもいいが………ひとつ条件がある………」
その条件とは………
「監督をドン・シーゲルにしてくれるなら、引き受けてもいい!」(このあたり、世話になったドン・シーゲルに仁義を通すところなど、イーストウッドも、うん!感心する)
かくして、異例ともいうべき措置がとられ、ドン・シーゲルは監督に抜擢された。
《クリント・イーストウッドとドン・シーゲル監督》
なんせ、ドン・シーゲルは、ユニバーサルと契約していたので、この映画の為だけに、ワーナーに貸し出すという異例な措置なのだ。
こんな条件が通ったのも、ワーナー側としても、
「こんなに誰からも嫌われる役、早く映画にして、とっとと終わらせてしまいたい!」
なんて思惑が、あったからこそだろう。(ここに至るまでに散々断られてるしね)
『ダーティハリー』が人がやりたがらない汚れ仕事を押し付けられるなら、クリント・イーストウッドとドン・シーゲルも同じで、誰もやりたがらない映画を押し付けられた感じ。
このあたり、現実と映画がリンクしてるように思えて、面白い気がする。
こんな感じで、最初から全く期待されていなかった『ダーティハリー』。
だが、そんなものは見事に裏切られる。
公開されるや否や、映画は大、大、大ヒット!したのである。
ワーナー側は、驚いて(ビックリ!)大歓喜!!
イーストウッドは、一夜にして瞬く間にA級俳優に。
そして、ドン・シーゲルも監督としての株は一気に上昇したのだった。
なんせ、監督のドン・シーゲル、どんな風に撮ればイーストウッドが、カッコよく引き立つか、全て知り尽くしているお方なのだから。
冒頭の、本筋にはまるで関係ない、銀行強盗の襲撃シーンから、この映画は、カッコよさ満点である。
銀行強盗をした犯人たちが、待機させていた車に乗ってトンズラしようとする時、そこへ偶然居合わせた、『ハリー・キャラハン刑事』(クリント・イーストウッド)。
颯爽と抜いたスミス&ウェッソンM29からは、何発ものマグナム弾が発射される。
車は横転し、命からがら這い出てきた犯人に銃口を突きつけながら、ハリーが言う台詞が、またカッコいい。
「考えてるな?俺がもう6発撃ったか、まだ5発か………。
実を言うと、こちらもつい夢中になって忘れちまったんだ。
でもコイツは《マグナム44》っていって、世界一強力な拳銃なんだ。
お前さんの ドタマなんて一発で吹っ飛ぶぜ。
楽にあの世まで行けるんだ。運が良ければな。
...さあ、どうする?」
こんな脅し文句を聞いて、犯人がピクリとも動けるわけがない。
案の定、犯人はハリーに屈伏してお縄となるのである。
この本筋に関係ないシーン、必要か?と疑問に思う人もいるだろうが、これはヤッパリ必要なシーン。
これは主人公『ハリー・キャラハン』という男がどんな人物なのかを、我々観客に教えてくれている、親切丁寧な《自己紹介》シーンなのだ。
このシーンで、我々は、《主人公がこの男であり、刑事で、強力な銃を武器に持っている》のを知る事になる。
性格は、やや無鉄砲、そして向こう見ず。
でも、目の前の犯罪は、決して見過ごせない正義感に溢れている。
そして、犯人には屈伏せず威圧的な駆け引きも出来る………そんな情報を、このシーンだけで、全て知る事ができるのだ。
こんなインパクトのある、そしてカッコいい《自己紹介》も、そうそうあるまい。
野暮な監督なら、あっさり主人公に名乗らせて、さっさと本編にいくところを、名匠ドン・シーゲルは、このあたりをじっくりと描いている。
イーストウッドが慕い尊敬するのも分かる気がする。
こんな『ハリー』の紹介が終わったら、もはや掴みはO.K!
観客たちは、ハリーの気持ちになって、本編『スコルピオ(さそり)』との対決に心躍らせていくのだが………。
今回はここまで。
長くなりそうなので、②へ続くとする。(ここまでで充分長いんだけどね(笑))