2020年9月20日日曜日

映画 「殺意の香り」

1982年 アメリカ。






月あかりだけが照らす夜の暗闇。


車上あらしの男は、通りに停めてある車を、一台一台物色していた。そして……


(しめた!開いてるぞ!)


車のドアを開けると、ドサッ!と、なだれ込んでくる男の死体。

『ジョージ・バイナム』は滅多刺しにされて殺されていたのだった。





精神カウンセラーの『サム・ライス』(ロイ・シャイダー)は気が滅入っていた。


マンションの一室で、定期的に訪ねてくる患者のカウンセリングを、一人で細々と診療しているサム。


今も患者を悩みを聞きながらも、心は、まるで別の事に囚われていた。



(あのジョージ・バイナムがなぜ?殺されたんだ ……… ?!)



ジョージは高価な美術品を扱うオークション・ギャラリーで働いていた。

ジョージは週に2回、カウンセリングにやって来る《サムの患者》だったのだ。







患者が帰っていくと、ジョージのカウンセリング・ファイルを広げながら、またもや物思いにふけるサム………そこへ、


「すいません、ライス先生……少しよろしいでしょうか?」


一人の女が、おずおずとドアを開けて入ってきた。


金髪の若い女性だ。




女は『ブルック・レイノルズ』(メリル・ストリープ)と名乗ると、サムの真向かいの椅子に腰かけて、テーブルの上に腕時計を置いた。


「何ですか?これは?」


「先生に頼みたいんです……これを亡くなったジョージの奥さんに返してほしいの」


ブルックはジョージ・バイナムと【不倫関係】だったのだ。

もちろん、ジョージとのカウンセリングで、ブルックの事は何度も話題に出て知っていたサム。(守秘義務があるので他言はしないが)



ジョージの仕事を手伝う助手のブルック。


神秘的なブルックと不倫関係になりながらも、どこか後ろめたさもあり、その悩みをジョージはカウンセリングに来る度に、サムだけに打ち明けて語っていたのだ。



そんな情報をすでに知っていても、目の前に突然現れたブルックの姿に、しばしサムは心奪われた。


「今更、私がノコノコ出ていくのもなんでしょうから……先生ならカウンセリングの時に置き忘れたとでも言えば怪しまれずにすむし ……… 」


「分かりました」



その時、隣のドアをノックする音が。

「すいません、ライス先生!警察ですが亡くなったジョージ・バイナムさんの事でお訊きしたい事があるのですが …… 」



警察の声にブルックはとびあがった。そしてビックリすると、おもわず手に当たったテーブルの置物が、倒れて壊れてしまった。


「ごめんなさい、すみません!あたし、どうしましょう …… こ、これで失礼します」


ただならぬ様子のブルックに、サムは別の戸口から、そっとブルックを返した。



そうして、しばらくして警察が帰っていくと、またもやサムはジョージ・バイナムのファイルを広げた。


ジョージは、カウンセリングに来ては奇妙な夢の話をしてくれた。



『夢診断』……… この夢に何か事件のヒントがあるかもしれぬ。



一人、考えを巡らすサム。


でも、一方では、先ほど訪ねてきたミステリアスな女性『ブルック』にも、ボンヤリと想いをはせるサムだったのである ……… (←あ、惚れたな(笑))







こんな感じでムード一杯に始まる『殺意の香り』。


この、ミステリアスな雰囲気を少しでも伝えたくて、少しだけ丁寧に書いてみた冒頭である。





前回、若い頃のグレン・クローズを書いたんだから、「やっぱりここは公平に若いメリル・ストリープを書かなくちゃ!」と思い、この映画を選んで、初めて観たんだけど ………



何だか、懐かしいような、この雰囲気 ………



そう!


どなたかも語っているが、まるで《ヒッチコックの映画》のような色合いやムード、雰囲気に満ち溢れているのだ、この映画は!



これまで、あんまり何とも思っていなかったロイ・シャイダーを初めて良いと思ってしまった。


ホッソリとしていてノッポで、どこか神経質そうなロイ・シャイダーは充分、精神カウンセラーに見えるし、これは充分にハマリ役だ。


それに、何だか、ロイ・シャイダーが演じるサムの性格も、いやがおうにも誰かさんを想像させてしまう。




頑固なほどの正義感や探求心……

そう、まるで、ヒッチコックの『裏窓』に出てくるようなジェームズ・スチュワートの性格にソックリではないか。




真相を知るためなら、母親『グレース』(ジェシカ・タンディ)が、いくらとめても、自ら突き進んでいく。



ここでのジェシカ・タンディ ……… この人の役割も、やはり、ヒッチコックの『裏窓』に出てくる、口うるさく助言する看護師のセルマ・リッターを想像してならない。






一方、メリル・ストリープ演じるブルックも、ヒッチコック映画に出てくるような数々のブロンド美女たちを思い出させる。


エレガントな佇まいで、着ている洋服もセンス抜群。


青いドレス姿なんて特に似合っている。(本当に光るブロンド・ヘアーには青いドレスが一番似合うと思ってる私。グレース・ケリーもそうだった)






監督は『クレイマー・クレイマー』で、メリル・ストリープとタッグを組んだロバート・ベントン。



このベントン氏、こりゃ絶対!計画的にヒッチコックを意識して、この映画を撮っているわ。





【夢診断】から、サムが導きだして、たどり着く真相や、真犯人には大して驚きはしなかった。(真犯人を知っても、「あぁ、ヤッパリ、この人しかいないだろうなぁ~」って感じ)




それでも、ヒッチコック映画のような雰囲気を思い出させてくれる、この映画は、充分に私を満足させてくれたと思う。



星☆☆☆☆であ~る。



※この映画でも、ラストは、すぐ真下に海が見渡せる断崖絶壁に建つ別荘である。

『恐怖のメロディー』にしろ、前回の『白と黒のナイフ』にしろ、海の別荘が出てくれば、やはり、いやがおうにもサスペンス映画は盛り上がるのだ。