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2021年7月9日金曜日

映画 「断崖」

1941年 アメリカ。




久しぶりのヒッチコック映画である。


この映画の事をどう書いたらいいのか、考えあぐねていて、ずっと後回しにしておりました。


ハッキリ言って、映画としては、あんまり良い出来ではないんだけど、バッサリと切り捨てて、単に「面白くない!」とも断言しにくい。


それというのも、この映画には、語るべき逸話が多すぎするのだ。


ちょっと順を追って、慎重に歩を進めるように書いていこうと思う。(また、長くなるかなぁ~、ご容赦あれ)



この映画の原作は、フランシス・アイルズ(別名アントニー・バークリー)によって書かれた小説『レディーに捧げる殺人物語』である。


簡単に説明するなら、

『世間知らずのお嬢様が、親の反対を押しきってまで結婚した男は、どうしようもない札付きのクズ男でした』ってお話である。


生粋のプレイボーイでいて、おまけに『働かない』、『博打打ち』、『金銭トラブル』などなど……(現代にも、こんな男はわんさと存在する)


そんな男でも、ベタ惚れで世間知らずのお嬢様は、

「私の愛の力で真面目に変えてみせる!」

と意気込むのだが、世間の誰もが思うように、こんなクズ男を改心させるのは到底無理な話なのである。(こんな女性も大勢いる)


しばらくすると、多額に膨らんだ借金の事を知って、男の態度に不信感を募らせていくお嬢様。


しまいには、

(もしかして、財産目的で私の命を狙っている……?)とまで、思い始めて恐怖していくのだ。(それ見ろ!)


そう、男は、クズはクズでも根っからのクズ、《殺人者》なのだった………



こんなのが、『レディーに捧げる殺人物語』の筋書き。


こういう救いのない話をヒッチコックが撮りたかったとは、とても思えない。



大方、ヒッチコックをアメリカに呼んで、「あ~だ、こ~だ」口出しするプロデューサー、セルズニックの差し金だっただろうと推測する。


「前年の『レベッカ』でアカデミー作品賞を取ったんだ!次はこれでいく!!」

有無を言わせない、セルズニックのこんな声が聴こえてきそうである。



主演女優は、前年の『レベッカ』からの続投でジョーン・フォンティン


世間知らずの富豪のお嬢様『リナ』役は、清楚な彼女のイメージに似合ってるっちゃ、似合ってるんだけれども……(「ジョーン・フォンティンを売り出すぞー!」ってセルズニックの鶴の一声だったんじゃないのかな?)


そして、最低のプレイボーイ『ジョニー』役には、ケーリー・グラントが抜擢される。


「ケーリー・グラントだって?!ケーリー・グラントを使えるのか?!」


ヒッチコックは多分、小躍りして喜んだはずである。


なんせ、ケーリー・グラントは、この映画に出るまでに、とっくの昔に大スターになっていたのだ。


マレーネ・デートリッヒやキャサリン・ヘプバーンなど有名女優たちと、次々共演して、いずれも成功をおさめている。


ハワード・ホークスやジョージ・キューカーなど、名だたる監督たちにも愛されていたケーリー・グラント。


こんな映画の筋書きでも、俄然ヒッチコックも張りきるというものである。(「ヨッシャー!やったるわい!」てなところか)



撮影がはじまると、『ジョニー』を嬉々として演じはじめるケーリー・グラント

こんな最低な男の役でも、グラントが演じると、どこか愛嬌があって、妙な可笑しみが出てくるから不思議である。


やっと結婚して、妻のリナに真面目に働くように言われると、


「働くの?このボクが?!」なんて言いながら、おどけた表情をするグラントには、嫌な感じはまるで受けないし、むしろ笑ってしまう。



だが、映画も後半に入ってくると、途端にジョニーの表情が重々しく変わってくる。


『リナ』(ジョーン・フォンティン)が、


「夫の行動がおかしい……もしかして夫は殺人犯かもしれない……」と疑いだして恐怖しはじめると、ケーリー・グラントの芝居も、それまでの陽気さは影を潜めて、険しい表情に様変わりしていくのだ。


目線は全く動かなくなり、首から上は一切動かなくなる。


実は演技派の人なのだ!このケーリー・グラントって人は!



寝室に閉じ籠っているリナに、夜半ミルクを持って階段を上がっていく『ジョニー』(ケーリー・グラント)は、まぁ、恐ろしいことよ。(このミルクに「毒が入っているのでは…?」と観ている人は思うはずだが、実際に入っているのは、ミルクを際立たせる為の《豆電球》。ヒッチコックの演出が冴え渡ります)


こんなリナは、とうとう「しばらく実家に帰りたいの」と言いだす。


それを、ジョニーは「実家まで自分が送っていく!」と一歩も譲らない。(リナにしたら、「あなたが怖いから帰りたいのに、放っといて!」なのだが、恐ろしい表情のジョニーに逆らえるはずもない)


嫌々、ジョニーの運転する車の助手席に座らされたリナは、もうガタガタ震えっぱなし。


ジョニーは、アクセル全開で猛スピードで車を走らせていく。


そして、車はタイトルでもある『断崖』の場所へとさしかかってくる。


車が走り抜けていく、すぐ側の真下を見れば、高い断崖絶壁の崖なのだ。


(もう、これ以上は耐えられない!!)

隙をみて、車の助手席から飛び出たリナ。


その腕を掴むジョニー。


「イヤアーーーッ!離してー!!」


リナの絶叫が響き渡る…………………



と、この映画が優れているのは、ここまで。

残り数分でとんでもない展開を迎えるのだ。



「いい加減にしてくれ!ぼくの顔を見れば震えて!君はぼくが殺そうとしてるとでも思っているのか?!」


えっ?どういう事?!

全てが私の勘違いだったの?!


ジョニーから事情を聞けば、身近で起きた友人の死は全くジョニーとは関係なかったらしい。


ジョニーはリナを実家に送り届けた後に、自殺しようと考えていたらしいのだ。(借金の為に)


全てが私の勘違い………(私はこの人をまだ愛しているんだわ!)と一瞬で悟ったリナ。


「もう一度やり直しましょう、最初から!二人なら出来るわ!!」

リナの呼び掛けに、車は実家に向かう道路をUターンして、また元の二人の家へと帰っていくのであった。


めでたし、めでたし……で、映画は終わるのだが………



何じゃコリャ?!舐めとんのかー!💢


今まで散々、気を持たせておいて、ハラハラさせといて、全てが、《馬鹿な女の勘違い》だったー?!


ふざけるなーーー!💢金返せーーー!!(金なんか、もともと払ってないけど (笑) )


初めて、この映画を観た時は、こんな感想を持ったものだった。


「『断崖』は駄作だ!もう一生観ることはないだろう」の気持ちは、しばらく続いていた。



でも、後に、こんな裏事情を知ってしまうと、この怒りも徐々にトーン・ダウンしていく。


全ては、《ケーリー・グラントが大スター過ぎた》からだったのだ。


上層部がクレームを入れて、急遽結末は変えられたのである。


「プレイボーイの役でもいいが、大スターのケーリー・グラントを殺人犯なんかに出来るか!」が、その理由である。(だったら、最初からこんな役に当てがわなきゃいいのに)


こんな帳尻会わせの、違和感アリアリの結末は、その為である。



スター・システムが健在だった時代、仕方ないっちゃ、仕方ないんだけど……。



でも、おかげで、ジョーン・フォンティンが演じたリナは、一挙に《世間知らずで思い込みの激しい、馬鹿な女》に成り下がってしまったのでした。


こんな仕上がりになってしまった『断崖』だったが、ケーリー・グラントやジョーン・フォンティンの人気で、当時は、そこそこプチ・ヒットする。



でも、こんな副産物までついてくるのはいかがなものだろうか?

自分には、やり過ぎにしか思えないのだが。



なんと!この作品でジョーン・フォンティンはアカデミー賞の主演女優賞を受賞してしまったのである。(えっ?何で?どういう事?!)


受賞式でオスカーを受け取るジョーン・フォンティン。



でも、難癖をつけたくないが、こんな失敗作で受賞して、本当に嬉しかったのだろうか?


何か裏で、特別な力が動いたとしか思えないような受賞である。(後にも先にもヒッチコックの映画で、主演賞を取れたのは、このジョーン・フォンティンだけだしね)



そして、この受賞は、ある人物の憎しみをメラメラと掻き立てる結果にもなってしまったのだった。


ジョーンの姉で、『風と共に去りぬ』のメラニー役で有名なオリヴィア・デ・ハヴィランドの憎悪を……🔥🔥(怖っ)

『オリヴィア・デ・ハヴィランド』》


ジョーンよりも、演技に対する情熱は人一倍のオリヴィアは、妹に先を越されてしまい、大嫉妬。


ずっと憎み続けたという。(後にオリヴィアも主演女優賞を2度も受賞するのだが、それはまだまだ先の話)



まぁ、オリヴィアの気持ちも分かるような気がする。(こんな失敗作で受賞なんて、とても納得できるはずがない)



こんなメラメラ煮えたぎる憎悪の一方で、ヒッチコックはケーリー・グラントと出会えた事を素直に喜んでいた😆💕


(いつか、またケーリー・グラントで映画を撮りたい………)と。(凄いよねぇ~、ヒッチコックでも、ビリー・ワイルダーでも、名だたる監督たちがケーリー・グラントを欲するんだから)


これが後に出来る、『汚名』、『泥棒成金』、『北北西に進路をとれ』の始まりだったのかもしれない……なんて思うと、この『断崖』自体の失敗も、少しばかり許せる気がしてくる。


ヒッチコック映画の中でも、重要な位置付けなのかもしれないしね。


長々、お粗末さま。これにて。

(やっぱり長くなった~、スイマセン)

2020年7月1日水曜日

映画 「汚名」

1946年 アメリカ。






『アリシア』(イングリッド・バーグマン)の父親はナチスのスパイだった。



裁判では有罪が確定し、父親は引っ張られていく。



「アリシアさん、今のお気持ちを!」

裁判所から出てきたアリシアに、大勢のマスコミたちが詰め寄るが、アリシアは無言で車に乗った。でも………


(こうなる事はとっくに分かっていたわ……)


死んだ母親が生粋のアメリカ人だったアリシアは、非国民の父親との争いが絶えなかった。

何度も何度も父親を説得したのに、聞く耳を持たなかった、哀れな父……。



分かっていても暗い表情のアリシア。


そんな落ち込んでいるアリシアを少しでも慰めようと、仲間たちがやってきて、どんちゃん騒ぎのパーティーが始まった。


アリシアも、(こうなりゃ、ヤケクソよ!今夜は呑んで、呑んで、呑み明かしてやるわ!!)と息巻いている。



ベロンベロンのアリシアの、うつろな目に映るのは見知らぬ顔の男。



(はて、この人誰だったっけ??……)


『デヴリン』(ケーリー・グラント)と名乗る男は、誰かの知り合いなのか、ソファーに鎮座して静かに呑んでいた。



まぁ、いいわ。他の皆は、もうとっくに酔いつぶれているし………


「ちょっとあなた!誰か知らないけど、酔いざましにドライブに付き合いなさいよ!!」



そう言うと、アリシアはデヴリンを車に引っ張っていった。

デヴリンは、別に嫌がる風でもなく、助手席に乗り込み、アリシアはハンドルを握ると、思いっきりアクセルを踏み込んだ。



メチャクチャに車を走らせながら、やがてスピード、メーターは100キロを越えている。


でも隣にいるデヴリンは、あくまでもスマした顔。


段々、腹がたってきたアリシアは無造作にハンドルをきり続ける。


そんな二人が走らせる、車の後方からはサイレンが……。




(アラアラ、もう終わりね。飲酒運転でブタ箱入り。親子揃って刑務所か……もう、どうでもいいわ……)


アリシアが車を止めると、警察官が駆け寄ったが、デヴリンが胸元から《何か》を出して警察官に見せると、とたんに態度は一変。


「失礼しました!」

警察官は最敬礼して、そのまま行ってしまった。


???


「あなた、いったい何者なのよ?!」


デヴリンの正体はFBIのエージェント。

上司に頼まれてアリシアの元へやってきたのだった。


「君にアメリカ祖国の為に働いてもらいたい」


デヴリンは、アリシアをスパイとして雇うつもりなのである。


父親がナチスのスパイで捕まったアリシアだが、こっそり盗聴をしていたFBIは、父親とは違う、アリシアの愛国心に惚れ込んだのだ。


そして、この、アリシアの今の境遇は、敵に対しても絶好の隠れ蓑となると、ふんだのである。


祖国アメリカの為に働いて、《 汚名 》を晴らす!


最初は反発していたアリシアだったが、徐々に気持ちは傾いていき………。






ヒッチコックのスパイ・メロドラマ。


ヒッチコックがスパイ映画を撮ると、ご都合主義の逃亡劇が、いつものパターンなのだけど、(まぁ、それはそれで面白いんだけどね)珍しくマジ~メな展開をみせる、一風変わった映画が、この『汚名』である。



イングリッド・バーグマンが、前回の『白い恐怖』から続投。


「演技派バーグマン、ここにあり!」のごとく、ケーリー・グラント演じるデヴリンに恋していく表情や、スパイとしての使命感との板挟みで揺れ動く、微妙な女心を演じている。



そして、ケーリー・グラントも、いつものお茶らけた役柄を、一切封印して、マジメ~なエージェント役。


こちらも、アリシアに恋しながらも、敵地に自ら送り込んだエージェントの使命感との間で苦悶し続ける。



ケーリー・グラントがマジメな演技をすると、まず首から上が一切動かなくなる。


目線も微動だにしない。


口元に多少の笑みを浮かべる事はあっても、それらは最後まで変わらないのだ。


たぶん、そう、意識して演技しているんだろうけど……それにしても………

「ヤッパリ、ケーリー・グラントも演技派なんだ」と改めて感心してしまった。



この映画、バーグマンとケーリー・グラントが何度も何度もキスするのばかりが、クローズ・アップされていて、『汚名』といえば、キス・シーンというくらい有名なのだけど。(当時、2秒以上のキスは許されなかったとかで、ヒッチコックが、「ならば回数を増やせばいいじゃん!」と、ばかりに何十回も二人にキスさせたらしい)



まぁ、キス・シーンも、それはそれで良いのだけどね。



でも、過剰すぎず、それでいて、さりげない、二人の名優たちの演技テクニックの方にも目を向けて頂けたらなぁ~と思う。


もちろん、ヒッチコックの演出にも。

星☆☆☆☆。




2019年8月20日火曜日

映画 「毒薬と老嬢」

1944年 アメリカ。






演劇評論家であり、独身主義の『モーティマー・ブルースター』(ケーリー・グラント)は、神父の娘『エレーン』(プリシラ・レイン)を連れて、区役所に婚姻届を出すため、列に並んでいた。(しっかりサングラスで変装して)



そこへ、「何か良いゴシップネタはないか……」と記者たちが張り込んでいる。



やっぱダメだ!



モーティマーはエレーンを引っ張って電話ボックスに隠れた。


「君とは結婚できない!」


「………そう」エレーンの潤んだ瞳。


「僕は、今まで結婚を馬鹿にして、『結婚は欺瞞』なんて本も書いてきたんだ!」


「………そう」エレーンの潤んだ瞳。




あぁ、何て顔をするんだ、エレーン……。


もう、辛抱たまらん!


モーティマーは、エレーンを抱き寄せると、思いっきり熱烈なキスをした。(欲望が主義に勝った瞬間)


モーティマーはエレーンの魅力に、到底抗えない。とうとう結婚を決意した。




ー  その頃 ー


ブルックリンでは、モーティマーの年老いた叔母姉妹が、隣に住むエレーンの父親の、『ハーパー神父』をもてなしていた。


巡回中の警官たちにも、ニッコリ!


笑顔でもてなす『マーサ』と『エディ』の叔母姉妹。

その人柄の良さで、この界隈では、二人の姉妹の評判は上場であった。



「突撃ぃー!」

バタバタと階段を駆けあがる甥の『テディ』。



中年のテディは自分を『ルーズベルト大統領』だと思い込む精神薄弱。


夜中にラッパを吹いたり、奇行を繰り返していたが、姉妹の評判がそれを上回るほどだったので、警察も町の人々も寛大に見てくれていた。




叔母姉妹には、3人の甥がいた。



ひとりは、この変わり者のテディ。


そして、冒頭で結婚を決意したモーティマー・ブルースター。


モーティマーの、不肖の兄ジョナサンは、もっか行方不明。




こんな複雑な事情を抱えた家系だったが、モーティマーはそれなりに満足していた。




そして、

(叔母たちにエレーンとの結婚を知らせよう。きっと喜んでくれる!そして新婚旅行に出発だ!)


ブルックリンに帰ってきた二人は、後で合流する約束をして、エレーンはハーパー神父の家に。

モーティマーは、叔母姉妹の家へと別れた。




扉を開けると、叔母姉妹が嬉しそうにモーティマーを出迎えた。


「結婚するよ、エレーンと!」


「まぁ、モーティマー!おめでとう!」

マーサとエディは喜んで、モーティマーに抱きついた。




「早速、お祝いの支度をしなくちゃね!」甲斐甲斐しく姉妹たちは動きだした。

喜んでくれる叔母たちにモーティマーもひと安心。



窓際の箱に腰かけると、???何やら違和感が。


…………そぅ~と、モーティマーが箱を開くと、そこにあったのは…………。


モーティマーの目がパチクリ!


「し、し、《死体》じゃないかぁー!!、誰なんだぁー!?これは!!」



パニック状態で騒ぎ立てるモーティマーに、叔母たちはニコヤカに話しだす。


「まぁ、何を騒いでるの?これはホスキンズさんよ」


「な、何でそのホスキンズとやらが死んでいるんだ~!!」


「きまってるじゃない、毒入りのワインを飲んだからよ」叔母たちは平然としている。




孤独な老人たちに、安らかな死を……。


毒入りのワインを与えて殺す事を、まるで善行のように、ニコヤカに嬉しそうに話す叔母たち。



しかも地下室には、他にも11人の死体があり、狂ったテディが穴を掘って、丁寧に埋葬しているという。



モーティマーの思考回路は、ぶっとんだ。


(こ、この家は、皆、異常だ!異常な家系だったのだ!!)


結婚の夢は、ガラガラと音をたてて崩れ去った。



それでも、気をとりなおして、

(とにかく何とかしなければ……)

と考え出すモーティマー。


モーティマーの、悪夢のような現実との闘いが始まったのだった………。






『ペティコート作戦』を観て、急に、ケーリー・グラントの傑作『毒薬と老嬢』を思い出して観たくなってしまった。


観たのは20年ぶりくらいだろうか。


監督は、『或る夜の出来事』のフランク・キャプラである。



死体を見つけた『モーティマー』(ケーリー・グラント)が、ノホ~ホ~ンとしている叔母たちや狂人のテディ、それに数年ぶりに帰ってきた兄やら、他の登場人物たちを相手にしながらも、孤軍奮闘するブラック・コメディー。



まるで、即興の舞台を観ているような気になってくる。(まぁ、もともと原作が舞台の戯曲ってのもあるが)




それにしても、やっぱ上手いわ、ケーリーグラント。


動きや所作が面白いというか……、目をキョロキョロさせたり、ビックリした表情も。



この人は、同じ時代の俳優たち………クラーク・ゲーブルやゲーリー・クーパー、グレゴリー・ペックたちとは、やはり別格。



本当は、ずば抜けて演技力が高いのだ。(もっと生きているうちに評価してほしかったと思ってしまう)



『毒薬と老嬢』は、あらためて、それを再確認させてくれたのでした。



今、観るとフランク・キャプラの演出に、少しばかりの古さを感じるかな。(ちょっとバタバタしすぎ)


ケーリー・グラントの演技力に、星は☆☆☆としておきます。



それにしても、こんな家族がいるところに嫁ぐエレーンはどんなものなんだろう。

自分が親なら絶対に反対するだろうな~(笑)。

2019年8月18日日曜日

映画 「ペティコート作戦」

1959年 アメリカ。







第二次世界対戦の真っ只中、1941年。


潜水艦《シー・タイガー号》は、まだ1度も参戦したこともないのに、いきなりフィリピン沖の港に停泊中、敵の日本軍の戦闘機の奇襲攻撃をうけてしまう。


その結果、『シー・タイガー号』は、あちこち、やられまくってズタボロ。


煙まみれ、穴まみれの《シー・タイガー号》の有り様を見て、艦長の『シャーマン』(ケーリー・グラント)は、頭を抱える。



でも、すぐに立ち直るシャーマン。(だって楽天家のケーリー・グラントですもん(笑))


「必ず修理しますから、お願いします。2週間の猶予をください」と上官に懇願するシャーマン。


「よし、分かった」

上官もシャーマンの熱意に返事だけはしてくれた。



だが、軍から支援物資は、申請書をいくら出しても却下されたりして、なかなか届かない。



そんな時、ひとりの男が《シー・タイガー号》に移動してきた。



潜水艦軍務には、まるで場違いな身なりで現れた『ホールデン大尉』。(トニー・カーティス



「君、海軍や空軍の経験は?」


「ありません!軍では企画係でパレードやパーティーの準備をしてました!」


パレードやパーティーって……



やれやれ、何でこんな男を上は寄越すんだ……

シャーマン艦長の心の嘆きが聞こえたのか、ホールデンが、いきなり言い出した。


「でも、自分なら、この潜水艦に必要な物資を、直ぐに調達してみせます!」


はぁ?


何を言い出すと思ったら……まぁ、いいだろう。


「よし!君を物資調達係に任命する!」


「はい!ありがとうございます!」




だが、ホールデンの物資調達は、まるで合法的なものじゃなかった。


シャーマンの部下をひきいて、軍の本部に、夜半忍びこんで、勝手に持ってくる。




そう、《泥棒》と一緒。



ワイヤーから、銅線から、配管から、はたまたトイレット・ペーパーまで。潜水艦に必要なもの全てを、だまって盗んでくる。


果ては、本部の上官室の壁までをくり貫いてまで……。



呆れるシャーマンだったが、何とか、かんとか潜水艦が動くところまで修理はできた。


「よし!出航だ!」シャーマンの呼びかけに、エンジンルームでは、スイッチを入れたが、ブスッ!ブスッ!の音と共にエンスト気味。



そこへ、


「待ってください!」

とホールデンが、今度は、変な格好の男たちを伴って連れてきた。


「この島の祈祷師たちです。これでこの潜水艦に憑いている悪霊を祓ってもらいます」


ば、バカバカしい!……


シャーマン艦長の思いなどよそに、勝手に祈祷師たちは、《シータイガー号》を槍でつつきながら、「……ナンタラ、カンタラ……」と呪文を唱え始めた。



(こんなので潜水艦が動くなら、誰も苦労しないさ……)


「艦長!エンジンがかかりました!」


な、何ぃ~?!(笑)



かくして、潜水艦《シー・タイガー号》は、まだ完全とはいえずとも、何とか港をはなれ、出航したのであった……。






この時期、絶好調のケーリー・グラント主演の潜水艦コメディー。


名前こそ、知っていたこの映画を初めて観た。
チョー面白かった。



『お熱いのがお好き』のトニー・カーティスもチョーおかしくて笑わせてくれる。


トニー・カーティスにとって、ケーリー・グラントは、伝説であり憧れの人。

オファーがあった時、「ぜひ、ぜひ、出演させてほしい!」だったとか……。




このトニー・カーティス演じるホールデンが、物資だけでなく、色々なものを調達してくる。




しまいには、男だらけの潜水艦に、女たちの集団を連れてくるのだ。




「彼女たち、島に置き去りにされたんです、どうかお願いします。艦長!」


「う、うむ……」『シャーマン』(ケーリー・グラント)も仕方なく乗船許可をだす。



でも、狭い潜水艦の中はたちまちパニック。

機管室で、洗濯物を干す女たちやら、勝手にあちこちほっつき歩く女たち。



そして、そんな女性たちに、たちまち色気づいた男どもは、介抱してほしいと、次々仮病をつかって医務室へ。


「俺、具合がわるくなった」

「俺も!」

「俺も!」


「いいかげんにしろよ、お前ら!!」シャーマンの血圧は上がりっぱなし。




そんなドタバタの時、事件はおきた。


「艦長、見てください!あの島に敵の戦闘機の姿が!」


「何だって?」さっそく潜望鏡でのぞくシャーマン。


そこへ、ミス・クランドルが近づいてきて、

「艦長、お薬持ってきましたわ」なんて呑気に言うもんだから、気が立っているシャーマンも、

「あっちへ行ってろ!」と容赦ない。



怒鳴り声に驚いたミス・クランドルは、後ろのレバーを、うっかり引いてしまう。



………それは、なんと!魚雷発射のレバー!!(ゲゲッ( ゚ロ゚)!!)


魚雷は水中を猛スピードで進んで、島のトラックに命中、そして大爆発した!!




敵は気づいて、直ちに潜水艦に向けて砲撃してくる。


逃げろや、逃げろー!(ハァ~コイツら何やっとんねん(笑))





はてさて、今度は別の島で、物資調達をするホールデン。


通りがかった農家で、豚を勝手に盗んだホールデン。(みんなのご馳走になると思って)


潜水艦に無事帰りついたホールデンだったが、島の農家は、車のタイヤ後を、ずっと追ってきて、軍の者も連れて乗り込んできた。


「ここに、私の豚がいるはずなんだ!」農家が現地の言葉でわめき散らす。


知らぬ顔を決め込むホールデンだったが、シャーマンがトイレのドアを開けると、豚が「ブー!ブー!」と挨拶する。



………そっとドアを閉めるシャーマン。



そして、

「あ~、豚はここにはいないが、代わりのものを差し上げよう。どんどん持っていってくれ!」

と、ホールデンの部屋の、隠し持ってるゴルフバックやら、テニスラケット、洋服、靴、香水やら、純金やらをホイホイ、農家に渡す。(豚の体重は90㎏あって、その分だけ)



農家は大喜び。

「あぁ、それは………えぇ?それも?………あぁ、それもですか?……」(トホホ顔のホールデン(トニー・カーティス))


「何か文句があるかね?」ジロリと睨むシャーマンだったが、楽しそうである。



農家は喜んで帰って行ったとさ、チャンチャン!(笑)。




終始こんな感じでトントン話が進んでいく『ペティコート作戦』である。


もう、オカシイったらありゃしない。

これ、大傑作じゃないですか!



この後も、戦争映画なのに、クスクス笑いが絶えない。(「戦争映画なのに、こんなに不謹慎に笑っていいのだろうか?」と逆に後ろめたくなってしまった)




それにしても、何て贅沢なコメディーを撮ったのだろう。



冒頭の《シー・タイガー》が、本物の戦闘機に攻撃されて爆発するところとか、

本当に魚雷が発射されるところとか、どれだけ巨額な制作費がかかっているのか。



それに、この潜水艦《シー・タイガー号》にしても、莫大な費用を考えるとそら恐ろしくなってくる。(CGなどない時代ですぞ)



そして、これをコメディーでやるのだから……もう信じられない。



これは文句なしに、

星☆☆☆☆☆。


※こりゃ、日本、戦争に負けるわ。

笑いのセンスといい、当時のアメリカの凄さや格の違いを見せつけられた映画である。

2019年8月11日日曜日

映画 「シャレード」

1963年 アメリカ。







「わたし離婚するわ!」


スイスの観光地に、友人『シルヴィー』と、その息子『ジャン・ルイ』と共に、バカンス旅行に来ていた『レジーナ』(オードリー・ヘプバーン)は、こう、高らかに宣言した。


シルヴィーのやれやれ顔などには、目もくれずにレジーナは続けて言う。


「彼には何か秘密があるのよ …… こんな生活は堪えられないわ …… 」


そんな決心をしていたレジーナに、気軽にナンパしてくる男がひとり。


「あ~どこかで会った?」

『ピーター・ジョシュア』(いつだって軽~いケーリー・グラント)である。


「私、夫がいるの。でも、すぐ別れるつもりだけどね」(断りながらも、なんだか気をもたせるセリフである(笑))




この二人、よっぽどフィーリングがあったのか …… お互いに、パリに帰ったら連絡する約束までアッサリしてしまう。





そうして、離婚に向けていざ行かん!



パリに帰ってきたレジーナが自宅のドアを開くと ……



何も無かった。



家具も、シャンデリアも、クローゼットの中の洋服も何もかも無い。

代わりに待ち構えていたのは、パリ警視庁の『グランピエール警部』である。



夫の『チャールズ』が、何者かの手によって殺害されていたのだ。(離婚しようと思っていたのに。拍子抜け)



「奥さん、旦那さんは家財道具の一切を競売に賭けて25万ドルの現金を得ました。でも遺体からも所持品からも、それらしきものは何も出てこないんですよ。」

チャールズの所持品を、机に上にズラズラ〜と並べるグランピエール警部。




小さなバックには、手帳、櫛、歯みがき粉、万年筆、レジーナ宛の未投函の手紙などなど……本当に25万ドルには程遠い。


続けて、グランピエールは、チャールズのそれぞれ名前の違うパスポートを、次々と見せはじめた。




全部で4つ、偽名のパスポート。

もう、明らかに怪しそうな死んだ旦那の正体。



「なにか心当たりはありませんか?」

何も知らないレジーナは、大きな目を、ただパチクリさせるだけなのである。




夕刻………警察から解放されて、再び、あのガラ~ンとした邸宅に帰ってきたレジーナ。


暗闇の中から、またもや男の人影が。



「ニュースを聞いて、慌てて駆けつけたんだ」


その声はスイスで会った、あのピーターじゃないか?


伊達男ピーターは、「力になるよ」というと、優しくレジーナの肩を抱いてきた。



そうして二人は、暗い邸宅を後にしたのだった。





だが、次の日から未亡人となったレジーナの前に、見知らない男たちが近づいてくる。


メガネをかけた小男の『ギデオン』(ネッド・グラス)。


狼のように非情そうな『テックス』(ジェームズ・コバーン)。




鉤爪の義手をした、ブスッとむくれた顔のスコビー(ジョージ・ケネディ)。


「あんたの旦那は最低な野郎だ!許せねぇーー!!」


いずれもが、夫チャールズの昔の知り合いらしいのだが、どうも恨んでいる様子である。(でも、んな事、いちいち、あたしに言われてもねぇ~)




訳の分からないレジーナに、最後に近づいてきたのは、アメリカ大使館にいる『バーソロミュー』(ウォルター・マッソー)だった。



バーソロミューの説明によると、死んだチャールズと先の恨んでいる3人は、戦争中、ドイツからの金塊輸送の際、それをネコババして隠したらしいのだ。



それを、こっそり抜けがけして、一人で持ち逃げしたのが、旦那のチャールズだった。



(あ~、それであんなに恨んでいるのねぇ~納得!)


「奥さん、何としてもその無くなった『25万ドル』を探してください!それは政府のお金なんです!」


バーソロミューの懇願に、

「無理です、無理!絶対に無理!」と最初は断るレジーナだが、

「女性だって、優秀なスパイになれますよ」とおだてられると、またもや簡単に陥落。



(何だか悪い気はしないわねぇ~)なんて思いながら、またもや、いつもの軽い調子良さが出てくる。



そして、

「やってみますわ!」

レジーナは、アッサリ返事してしまう。


(今日から、私は政府の為に働く『女スパイ』よ …… )


ドキドキ、ワクワク。


こうして、レジーナの素人スパイ活動が始まったのである。




60年代になると、様々なスパイ映画が作られはじめた。



いずれもが、007のヒットに便乗した亜流の映画であったが、この『シャレード』は、大ヒットした。




大きな瞳とスラリとした手足。

少女漫画から抜け出してきたような姿のオードリー。


50年代は、その姿で、恋愛映画の主演をしてきたオードリーも、60年代がせまってくると、別の活路を見いださなくてはならなくなってくる。



そして、見つけたのがミュージカルとサスペンスの分野。


ミュージカルでは、『パリの恋人』、『パリで一緒に』、『マイフェア・レディー』。


サスペンスでは、『おしゃれ泥棒』、『シャレード』、『暗くなるまで待って』。




それらは、いずれも有名だが、オードリーが興業的にも一番成功したのは、実は、この『シャレード』なのである。





ここで、はっきり言い切ってしまおう。




オードリー・へプバーンの演技は、あんまり上手くはない(笑)。




生前、淀川長治先生は、オードリーの事をケチョンケチョンにけなしていたくらいである。

(まぁ、そこまで言わなくてもいいのでは …… )と、逆にフォローしたくなるけど。



「この映画のヒットの要因は何だろう?」と考えた時、ヤッパリ、真っ先に浮かんでくるのが、相手役のケーリー・グラントの《演技の上手さ》だ。



さりげなく、でも飄々としていて、要所要所でキチンと笑わせてくれる。



ケーリー・グラントがクソ真面目な顔をしたり、おかしな事をする度に笑い転げるオードリー。



映画の中で、オードリーが笑っているのは、ほとんど《素》の笑顔なのだ。



そんなオードリーの演技を上手に引き出しているケーリー・グラントこそは、やっぱり名優中の名優なのである。(アカデミー賞を生前、授与しとけばよかったのに)



そんな場面を、名匠スタンリー・ドーネン監督が、手堅く映像におさめている。



ヘンリー・マンシーニの音楽も、さまざまなバージョンで効果をあげる。


全てが、うまいぐあいに重なりあって、この映画はヒットにつながっている。




だからこそ、つくづくオードリー・へプバーンって女優は、運に恵まれていたんだなぁ~と思わずにはいられない。


運も才能の内とは、まさに、この人を指す言葉じゃないだろうか。



これも繰り返し、たま〜に観たくなる映画。(《消えた25万ドル》のありかを知った後でも、充分に面白いよ)


星☆☆☆☆。

それにしても、オードリーもケーリー・グラントも、芝居を越えて本当に楽しそうだ。


2019年2月22日金曜日

映画 「北北西に進路をとれ」

1959年 アメリカ。






広告代理店の社長『ロジャー・ソーンヒル』(ケーリー・グラント)は、偶然立ち寄ったホテルで、不審な2人組に銃口を突きつけられた。



「ジョージ・キャプランだな?一緒に来てもらおうか」


どうも『キャプラン』なる人物と間違われたロジャー、………それにしても、いきなり銃口を突きつけてくるとは…。




不審な二人組は、ロジャーに有無も言わせず車に押し込めると、そのまま車は、どこかへと向かって走りだした。



そして着いたのは豪華な邸宅。


邸宅の主人は『レスター・タウンゼント』(ジェームズ・メイソン)。


ドジな部下が連れてきたロジャーを疑いもせずに、はなから『キャプラン』だと決めてかかっている。



「キャプラン君、我々の計画に協力してほしいのだよ」

面識のない男から、訳の分からない提案をされても、当のロジャーには、「???」なのだ。


(もう、勝手にどうにでもしてくれ!)


ヤケクソ気味のロジャーの気持ちを、協力に否定的だと勘違いしたタウンゼントは、


「君も強情な男だね、キャプラン君」

と、言い捨てると部屋から出ていった。





タウンゼントと入れ替わりに、さっきの2人組が戻ってくる。

そして、ロジャーを押さえつけると、今度はしこたま酒を口に流し込んできた。



必死に抵抗するも、大量の酒に朦朧としてくるロジャー。



気がつくとロジャーは、泥酔しながら車を運転していたのだった。



運転する車は、断崖絶壁の道路をフラフラと進んでいく。(どうも飲酒運転による事故死を狙ったようだが、相手のやり口が、なんだか、とことんマヌケいうか……)


案の定、ロジャーは助かり警察に無事に保護された。(それ見たことか!)





次の日、母親が身元引き受け人になって罰金を払うと、なんとか釈放されたロジャー。


「畜生!昨日はあんな目に合わせやがって!文句の1つも言わなきゃ気がすまない!」



母親を伴い、昨日のタウンゼント邸やって来ると、出迎えたのはタウンゼントの妻を名乗る女性だった。


「どなた?主人は国連本部へ出掛けてますけど……」



家に入れてもらうと、昨日、棚にあった大量の酒は、全部本棚に変わっている。





狐につままれたような顔のロジャーに、一緒についてきた母親も困惑している。(この子、本当に大丈夫かしら?)




それでも、諦めきれないロジャーは、今度は、昨日、勘違いされたホテルへとやってきた。



「『ジョージ・キャプラン』だが、部屋の鍵をくれないか?」

受付の女性はロジャーを疑いもせずに、「どうぞ、キャプラン様」と鍵を渡してくれた。




(なるほど、『ジョージ・キャプラン』なる人物は、本当に実在していて部屋を借りていたようだ……)



エレベーターで上がると、キャプランなる人物が借りていた部屋へと入ってみる。


閑散とした部屋のクローゼットには、キャプランの物かと思われるスーツが掛けられている。


ズボンをあててみると、だいぶ裾が短い。



「こんなチンチクリンの小男に、自分は間違えられたのか………トホホ……」


おもわず「プッ!」と、吹き出してしまう母親。



(いったいジョージ・キャプランとは何者なのだ……?)



あきらめて、部屋を後にしたロジャーと母親は、エレベーターに乗り込んだ。



そこへ、昨日の拉致した、あの2人組が、他の客たちと一緒に乗り込んできたのだった。

他の客たちの手前、さすがの2人組も馬鹿な事ができないのか、じっとした様子である。



ロジャーは隣の母親に、ボソボソ声でそれを教えると、



「あなたがた、ほんとうに息子を殺しにきたの?」と声に出してしまう母親。


殺し屋たちが笑い出した。

他の客たちも笑い出した。



母親も笑い出した。(困った時は、「とりあえず笑って誤魔化せ!」ってのは万国共通なのか)



「この馬鹿笑いの隙に……」エレベーターの扉が開くとロジャーは飛び出した。母親には後で電話すると言い残して。



ロジャーはタクシーを拾うと、今度は『国連本部へ』と運転手に命じた。





―  そして国連本部。


その場所に、レスター・タウンゼントはいた。


だが、目の前の男は、昨日の男とは似ても似つかない男で、「誰?」ってな具合、全くの別人であった。


「あの~失礼ですが、本当にタウンゼントさんですか? 奥さんに聞いてやってきたのですが…」


「何を言ってるのかね君は? 私には妻はいないが」


「そんな……」唖然とするロジャー。



その時、物陰からタウンゼントの背中めがけて飛んできたナイフ。


タウンゼントは絶命して倒れこみ、それを支えながら、おもわずナイフを引き抜いてしまったロジャー。




異変に気がついたホールの人々が、叫び声をあげた。


「キャアアーーー!!」


ホールにいたカメラマンたちが、ナイフを手に取るロジャーに向けて、一斉にシャッターをきる。



つくづく、間の悪い男、ロジャー。(厄年なのか?)



こうして殺人の汚名をかぶり、ロジャーはその場から、スタコラサッサ。


逃亡犯となるのだが…………





《間違えられた男》が身に覚えのない罪をきせられて、逃亡しながらも自身の潔白をはらすために奔走する。



よほど、このテーマが好きなんでしょうね~

何度も何度も、この手の映画を作っています。




そして、この『北北西に進路をとれ』は、その集大成。

上映時間も2時間を越える137分という長さだ。




でも、最初に言っておくが、この映画には真面目さなんてものを求めちゃいけません。





場面展開が、とにかくクルクル変わり早いので、それを楽しむ事。


ケーリー・グラント演じるロジャーの気持ちになって、逃亡の旅を素直に楽しみましょう!




この後も、

国連本部の逃亡から→列車→トウモロコシ畑を複葉機で追われる→南ダコタ・ラピットシティの大統領の巨大な顔の彫刻………なんて感じで、次々と場面が変わっていく。



まるで、観光案内のような映画なのである。




ただ、当の主人公ケーリー・グラントは大変だったらしいが。


めまぐるしく変わる場面、もう気持ちが追い付かずに、映画中盤まで訳が分からず演じていたというのだから。(それでも、ちゃんと演じてるんだからエライよ、あんた!)





列車で出会う美女は、エヴァ・マリー・セイント


こんな汚名をきせられて、あたふたしていても、美女とは余裕で恋愛しちゃうロジャー。(現実では、こんな夢みたいな事がおきるはずもない。逃亡犯と恋愛する美女なんてね)



敵役には、名優ジェームズ・メイソンマーティン・ランドー


敵としては、だいぶ、おマヌケな悪党たち。(ヒッチコックがスパイ映画を撮ると、敵は、ど~しても《お馬鹿さん》になってしまうのは、もはや定石。ご愛敬として観てやってください)




ロジャーは危険な目にあっても死なないし、全く怪我なんてのもしない。


ちゃんと逃げ道が用意されてるし、安心して観ていられます。



冒頭に少し書いてみたモノを読んでもお分かりのように、これは、ある意味、本当にご都合主義だらけの映画なのである。




でも、それでいいのだ。


これは夢物語。

ヒッチコックが思い描く夢なのだから。




いつだってヒーローは、最後には無罪を勝ち取り、美女の愛も手に入れる。



観る側は、ただ、それを思う存分、茶化して楽しめばいいのだ。



贅沢な娯楽に徹した、現実ではありえないような物語。

私は、それなりに楽しめました。


オマケして、星☆☆☆☆。(これでも褒めてるんですよ(笑))