2022年8月21日日曜日

ドラマ 「書道教授」

 1982年  1月。





『川上克次』(近藤正臣)は、銀行員務め。


明るい性格の妻『保子(やすこ)』(生田悦子)と結婚しているのだが、この保子が大金持ちの一人娘なのである。


二人は、保子の両親が住んでいる広い敷地内に家を建てて、本宅としょっちゅう行き来。

間借りするようなカタチで住んでいるのだ。(まぁ、克次としちゃ、完全に『サザエさん』のマスオさん状態である)



保子には、多少お金にだらしない兄もいたりして(カツオか?(笑))、それもあってか、両親は克次に信頼をよせている。


「克次くんはしっかりしてるなぁ~」


倹約家で仕事も真面目。書道が趣味なんていう克次は、なにかと褒めちぎられているのだ。




でも ……… 世の中、そんな品行方正な真人間がいるのか?(ムムッ)



克次には大きな秘密があったのだ!



銀行員という立場を利用して、顧客の預金を郵便局の口座に振り込んでは、その莫大な預金につく利息でお金を増やしていく。(いかにもバブル期のやり方だ。今や銀行も郵便局も利息なんてのは「屁!」でもない時代ですもんね)



それと並行して、土曜の昼になれば、《女》のアパートを訪ねていく。


多少の小遣いを与えながら、バーのホステス『文子』(風吹ジュン)と真っ昼間からの逢瀬、肉体関係。


そう、克次は愛人を囲っていたのだった!



「ねぇ〜、あんた〜、たまには店にも顔を出してよね。あたし売り上げが上がらないと困るんだからねぇ~」


「あ〜、そのうち行くよ」

こんな会話をしながらも克次は頭の隅で別の事を考えている。


銀行では来月、克次に《転勤》の話が出ているのだ。

いわゆる出世の為の《栄転》なのである。


(そうなれば、この女ともオサラバ。でも、すんなり別れてくれればいいんだが …… )




こんな克次の考えを女の勘でなんとなく察知したのか ……  


文子は克次の銀行に電話をかけてきて、

「あたし、貰うもの貰わないと絶対に別れないからね。100万円頂くわ!」と逆に脅迫してきたのだった。(エスパーか?(笑))



それからも「金をよこせ!金をよこせ!」と執拗に克次を追い回してくる文子。


そんな文子に辟易しながら、たまたま目に入った《書道教室》の看板に「俺、ここに用事があるから …… 」とアタフタと逃げ込んでいく克次。(文子は「ハァ?書道教室?」ってな具合である)


こうして、成り行きで、浮かない顔の未亡人『勝村久子』(加藤治子)に必死に頼み込んで、書道を習うことになってしまった克次。



真面目に指導を受けて通う日々が始まるのだが …… 


でも、この書道教室はどこか オカシイぞ?!



生徒は克次一人だけで、いつも久子とのマンツーマン授業。


オマケに、近所の古本屋の女主人(池波志乃)が中年男を連れ立ってきては、見つからないように二階の階段を駆け上がって、そそくさと消えていく。



他にも男女のアベックたちが来ては同じようにして。



外には毎日、クリーニング店の車が停まっているし ……… (女の一人住まいで、こんなに大量に洗濯物が普通でるのか?)



もしかして、ココは、書道教室とは名ばかりで、モグリの連れ込み宿なんじゃないのか?!


こんな変な勘繰りをしてしまう克次。



その間も、愛人文子の要求は更にエスカレートしていき、ドンドン手に負えなくなってくる始末。

一度は手切れ金50万円で承知したのに、克次の通帳に貯まっている1000万円以上の預金口座を見てしまい(ビックリ)驚愕。更に欲をかきはじめる。


「アンタ金持ちじゃん!こんなはした金じゃ納得できないわ!絶対に 500万円以上 頂くわよ!」


「これは顧客の金で、銀行に戻さなきゃならない金なんだ!無理だよ!」

仕方なくカラクリを話してもみても、文子はギャンギャンわめくばかり。全く納得する様子じゃない。


それどころか、銀行に突然現われてみたり、自宅にまで押しかけてきては、克次をハラハラさせてしまう。



(こうなったら …… あの女を殺すしかない …… でも、どうやって ……… ?)



こんな考えを克次がめぐらしていると、ある日、トンデモない事件がおこった。



あの、古本屋の女主人(池波志乃)が、湖で《絞殺死体》として発見されたのだ。



どうも、警察は遺体現場は湖じゃなく、どこか他の場所で殺害されて運ばれてきたと推理しているようである。


その真実を克次だけが知っている。


きっと、あの古本屋の女主人は 書道教室の二階で殺されたのだ!


おそらく痴情のもつれか、何か。


いつも一緒にいた、あの男が二階で殺した後、『久子』(加藤治子)が偶然発見したのだ。

そうして、クリーニング屋と結託して遺体の後始末を手伝わせたのだ。


モグリで《連れ込み宿》をやってるのがバレないように ……



ならば、この状況を上手く利用できないだろうか?



久子を半端強引に説得しながら、ある晩、克次は愛人の文子を連れ立ってやってきた。



そうして、二階の一室におさまった二人。

「アンタ、よくこんな場所を知ってたわね。他の誰かとよく来てるんじゃないの?」


「ハハッ、なにを馬鹿な事を …… 」


そうして文子が、油断して後ろを向いた時、浴衣の帯を両手に握りしめた克次が、そっと近づいてゆくのだった ………





このドラマの正式名称は『松本清張の書道教授  消えた死体』。



《松本清張の …… 》なんて《ワード》を見つけてしまったら、もう観ないでは済まされますか(笑)。



松本清張熱が復活している今の自分には、もってこいの作品。(たまたま見つけた)


そうして、やっぱりコレも傑作で「面白かったー!」のでした。(毎回言ってるなぁ~)




このドラマ、キャスト選びが、中々どうして、上手くいってると思う。



今や立派な役者さんになられた近藤正臣も、若い頃は、こんなにイケメンでケーハクな役がピッタリなのでした。(褒め言葉)




風吹ジュンも、今では、人の良いお婆ちゃん役なんてのをしてるが、この頃は、まだイケイケ。


しかも、いつも、《夜の女》みたいな役ばかりをしていたのを、すっかり思い出した。(なんたって、このボリューミーな髪型。まるで「欧陽菲菲か?」って感じですもんね(笑))






加藤治子さんの起用だけは、やや意外だった。



こんなサスペンス・ドラマに出ている加藤治子は、とにかく希少かも。(なんたって加藤治子さんといえば『寺内貫太郎一家』や向田邦子作品の常連役者)


「こんな品のある人の書道教室が裏では …… ゴニョゴニョ …… 」

それゆえ、このドラマでも、その加藤治子さんの異色さだけが、一人際立っているのだけどね。



池波志乃さんは、毎度安定の《殺され役》。(この人が、どんなドラマに出ていても「きっと殺されるんだろうなぁ~ …… 」と思っていたら案の定。今回も全く期待を裏切りません(笑))




他にも、明るくサッパリした性格の生田悦子さんも出てれば、後半、刑事役で佐野浅夫さんもご出演。(3代目水戸黄門様ね)

このキャストだけでも、グイグイとドラマの世界へ惹き込まれてしまう。



見事、文子の絞殺に成功して、書道教室をトンズラした克次。

(遺体の処理は久子が上手くやってくれるだろうさ …… )と、たかを括(くく)って。


そうして、予想どおり、文子の遺体は現場から消えて、書道教室は翌日閉店。久子もどこかへと引っ越してしまっていた。


全てが平和になり、元通りの生活。


ただ、克次が知らなかった事が、まだ、あの《書道教室》には隠されていたのだ!


それも克次が予想だにしないような、壮大な《秘密》が ……


運命のイタズラなのか、なんなのか …… 今度は、克次の妻・保子(生田悦子)がソレに巻き込まれてしまい ……



こうなって、あ〜なって ……

こんな風にあらすじを書きながらも、「原作者・松本清張のアタマの中はど~なってるんだろう?」と、ひたすら感心する。


まだ、まだ松本清張の作品は未見がいっぱい。

そんなモノを探して、50代のワタクシは、遅ればせながらスタート・ラインに立ったばかりである。

今回も楽しませて頂きました。星☆☆☆☆☆でございます。


※《追記》

近藤正臣風吹ジュンの組み合わせ、ごく最近どこかで見た気がしていたが、やっと思い出した!


朝の連続テレビ小説『あさが来た』だった!


ケーハク浮気男と、殺されてしまうようなホステス女が、数十年も経てば仲良しの夫婦(めおと)役。


俳優も女優も続けていれば、こんな稀有な再会もあるのだ。

ちょいと感激したのでした。

2022年8月12日金曜日

ドラマ 「殺人よ、こんにちは」

 1985年  11月。





和久峻三、松本清張ときて、今回は 赤川次郎 。(こりゃ、今月は小説家月間になりそうかな?)



昭和51年に『幽霊列車』でデビューした赤川次郎は、瞬く間に超売れっ子になっていった。


日本人なら知らない人はいないだろうし、誰もが一度は、何かしら赤川次郎の小説を手に取って、読んだことがあるんじゃないかな?


漫画しか読んだことがなくて、いざ「これから小説を読んでみようかな~」と思っている人には、その初級編として赤川次郎の小説は最適かもしれない。


なるべくの情景描写、心理描写を減らしての会話文形式。

改行の多さ、余白のとり方は、テンポが良くて読み進めやすいかも。


かくいう私もデビュー作の『幽霊列車』からはじまって、『マリオネットの罠』、『三毛猫ホームズの推理』と、次から次に読んでいった一人。



でも、昭和が終わる前、赤川次郎の小説からは簡単に卒業してしまった。


理由も分かっている。

毎月毎月、膨大な数が出版されていた赤川次郎の小説は、ある時期から明らかに変貌し始めるのだ。



これが「来る仕事拒まず」で、多作を繰り返した結果なのか ……


元々、少なかった情景描写、心理描写は極端過ぎるくらい無くなっていき、ほぼ、登場人物たちが一言二言を言い合うような会話形式の文体に様変わりしてしまうのだ。


これを読みながら、(いくらテンポの良さはあってもねぇ〜 …… )と、読後にはなんとも言えぬアッサリ感だけが残る。


毒気もなくなり、まるで《シナリオでも読まされている》風に段々と感じてきたのだ。


こんな風に思ったのが、自分以外にもいたのかもしれないが、あれだけ熱狂的だった赤川次郎ブームも昭和と共に終わってしまう ……



なんだか、最初からケチのつけどおしだけど、それでも昭和の作品に関しては、中々の良作が並んでいる赤川次郎のラインナップ。(それらは今読んでも面白い)


一時期は、映画やドラマに原作が借り出され、ジャンジャン映像化されたものである。



そんな中、1985年に鳴り物入りで始まったのが、フジテレビの『木曜ドラマストリート』なる2時間枠。


世はまさに2時間ドラマ全盛期の時代に『赤川次郎』の作品が次々にドラマ化されるというのだ。


1回目の『孤独な週末』の岸本加世子に感心して(さすが演技派)、主題歌のオフコースも印象に残った。


2回目の『払い戻した恋人』藤谷美和子にガクッ!(笑)(言わずもがな)


3回目の『明日を殺さないで』の渡辺典子で、またまた評価は急上昇。(渡辺典子さん、映画でも赤川次郎作品に主演してるしね)


4回目の『復讐はワイングラスに浮かぶ』の柏原芳恵で、またまたガックリ!(この人、演技しない方がいい(笑))


こんな風に、毎回上がったり、下がったりを繰り返しながら、ある日突然、美空ひばりのドラマ?なんかが放送されちゃう。(オイオイ!赤川次郎の原作はどこいったの?)


それ以後、たま〜に赤川次郎のドラマをやっても、完全に他の原作者やオリジナルドラマに路線変更してしまった《木曜ドラマストリート》。(こういう主体性の無さや迷走ぶりは、やっぱりフジテレビって感じだ)


とうとう明石家さんまの『心はロンリー …… 』を最後に、この枠はたった1年で終了する。(赤川次郎どころか、もうミステリーでもサスペンスでもない作品で終了とは …… 呆れるやらなんやらで、トホホである)



こんなトンデモ2時間枠の『木曜ドラマストリート』だったが、とにかく良作も何本か残せた。


その中の1つが赤川次郎の原作を忠実にドラマ化できた『殺人よ、こんにちは』なのである。



このタイトルを見ればお察しの通り、作者がフランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』に影響を受けて本編を書き上げたのは明らか。

こちらも、多感な一人の少女の、忘れられない夏の日の出来事を切り取って描いている。



莫大な財産を残して、ある朝突然亡くなった父親。


母親(中村晃子)はそれでも平然としている。

それを見て13歳の一人娘『丹野有紀子』(工藤夕貴)は直感した。


(ママがパパを殺したんだ …… )と。



普通なら母親を憎むところだが、この母娘ちょっと変わってる。


母親への愛情は全く変わらない有紀子だし、それに母親の方もあっけらかんとしていて、塞ぎ込む様子でもない(?)。


二人は昔からのお手伝い『八重子』を伴い、ひと夏を過ごすため、海の見える別荘へ。


そして母親は、『金沢』という若い男と知り合って意気投合すると、早速、別荘へ呼びつけて、

「私、この人と結婚するわ!」と有紀子の前で高らかに結婚宣言。(オイオイ)


有紀子は有紀子で「へ〜え、そうなの」と、まるで動じる風でもない。


そんな別荘へ次々集まってくる人々。

有紀子の親友や、父親の弟で借金取りに追われるダメ叔父やら、その他もろもろ …… (この辺り、記憶がおぼろげ)


やがて連続殺人事件が起きて ……



なんだか一見するとリアリティーのない登場人物たちばかりなんだけど、工藤夕貴中村晃子も、まるで原作から抜け出てきたように演じていたのには、ほとほと感心した記憶がある。



特に、このドラマはラストが秀逸な出来。



フタを開けれてみれば史上最低のゲス男だった『金沢』を罠にかけようと、『有紀子』(工藤夕貴)が海の岩場におびき寄せるシーンがある。(岩の隙間に、わざと金沢の高級ライターを落として潜って取りに行かせる)


原作でもエッジが効いてる、このシーンを忠実に再現しているのには驚いた。



海から岩場の下をくぐり抜けて、やっとライターをつかんだ金沢。


でも、あっという間に満潮が近づいて海水が上がってくると、水圧におされてしまい、潜りこんでいった穴を抜けられなくなってしまう。


金沢はヒステリーをおこして、大パニック。


「助けてくれぇーー!」と岩場の間から絶叫するのだが、有紀子はあくまでもクールに振る舞う。


冷たい表情を崩さない。






こうなることを予期していたのか、淡々と金沢に話しかけている。


そして、

「死刑囚には最後の一服を与えるんでしょ?」と火のついたタバコを岩場のすき間に投げてやり、そのまま見殺しにするのだ。



自分の手を全く汚さずに、少女が仕掛けた完全殺人。

なんとも言えない残酷なラスト・シーン。


この難関なシーンを撮影する場所を「よくぞ!探してくれた」と、当時のスタッフを褒め称えたいし、工藤夕貴の演技も最高潮である。


この『殺人よ、こんにちは』は、赤川次郎の原作の忠実な映像化作品としては、今だにNo.1だと思ってる。


いつの日か、ちゃんとしたDVDで観られる日を希望して、ここに長々と書いた次第である。(主題歌オフコースの著作権料が高いのか?)


それにしても、こういうドラマを作ってやろう!って気力や労力は、もう無いのかねぇ~、今のテレビには。


なんとかしないと、益々テレビ離れが進みまっせ!

星☆☆☆☆。


2022年8月9日火曜日

ドラマ 「鉢植えを買う女」

 2011年  11月。





2011年のテレビ東京で放送したという、このドラマ。

私が観る事ができたのは、2020年代に入ってから、ずっと後の放送だった。


とにかく、このドラマの主人公である余 貴美子(よ きみこ)さんのやさぐれ感半端なく最高(≧▽≦)過ぎて、いつしか食い入るように観てしまったのだ。



『上浜楢江(ならえ)』(余貴美子)は、精密機械メーカーの会社に勤続30年以上勤める独身OL。

もはや《恋》だの《愛》だのに、とっくに見切りもつけている御立派な年齢を迎えている。(52歳だもんね)


それなのに、時たま、田舎から出てきて見合い写真を押し付けてくる母親(佐々木すみ江)には、もうウンザリ。


「どうせ、子持ちの冴えない中年男でしょ」

そう言いながらも、一応写真を見てみると案の定。(ガックリ!やっぱりオッサンじゃん)



こんなイライラ💢する気持ちは、会社でウサばらし。

仕事の出来ないような新人たちに激しく当たり散らす楢江。(上司もそんな楢江が恐いのか、注意すら出来なくてビクビクしてる)


みんなが楢江を嫌っている。

でも、一方では、そんな楢江を《頼りにもしている》という異常な状況。


なぜなら、楢江は会社で金貸し業をやっているからなのだ。(非合法で)


昼食は毎日、ステンレスの弁当箱に詰めた《自家製焼きそば》だけ。

そんなモノで辛抱して、30年間楢江はコツコツ金を貯め込んできたのだ。


それを今度はどうにかして、さらに増やしていきたい。

そこで、社員相手に利子付きで《金貸し業》を始めたのだ。


こんな噂は、口コミで、あっという間に社内中に伝わり、今日もある社員が、楢江が一人きりになるタイミングを見計らっては、こっそりと近づいてくる。


「あの〜上浜さん、また少しばかり都合つけてほしいんだけど …… 今度、子供が産まれるもので …… 」


「名刺だして!」



社員が差し出した名刺の裏に、《借りた日付》、《金額》、《返済日》などを書かせる楢江。その目は射抜くように真剣そのものだ。


個人の名前が書かれた名刺は、いわば借用書がわりなのだ。


その名刺を受け取ると、代わりの金を渡す。


「ちゃんと期日には返して貰うわよ!もちろん、それなりの利子も頂くわ!!」

社員は金を受け取ると、楢江に深々と頭を下げていってしまった。


これが今の楢江の信念。


(《金》は決して私を裏切らない!信用できるのは《金》だけよ。それをもっと増やしていって、いつか郊外に私だけの夢の城(アパート)を …… )


そんな、ある日、会計課の『杉浦淳一』(田中哲司)という男がやって来て、楢江から金を借りていった。

ギャンブル狂の杉浦に金を貸したのは初めてだったが、楢江はあくまでも強気。


「ちゃんと返してよ!」


でも、返済当日が来ても杉浦の態度は、まるで呆れたもの。


「明日、本命のレースがあるんだ!今はこれだけしか返せない」


「冗談じゃないわ!約束よ!返してよ!キチンと今すぐ返しなさいよ!!」

ギャンギャン喚き散らす楢江。


そんな楢江を黙らせようと、杉浦は口を塞ぎ、抱き寄せ、慣れた手つきで、スカートの中に手をもぐり込ませてきた。


「何するのよーー!」

すんでのところで、杉浦を振り切り、やっとこさ逃げ去る楢江。


この歳で《強姦》されかかった …… 

一周りも歳下の男に ……



楢江にとってはショックな出来事。

でも、この出来事が、諦めかけていた楢江の女性としての《本能》を目覚めさせ、今までの自信を徐々にグラつかせてゆく ………




こういう『楢江』のように、強気の仮面をかぶって《金》にだけ執着している女は、昔も今も存在するし、自分の間近にもいたりする。


『杉浦』のように、ギャンブル癖があり、女ったらしの男も、また然りだ。


どこにでも見かけるような登場人物たち。

そんな人物たちを上手く絡めて、物語に織り込んでいくサマは流石である。


「誰の原作か?」と思いきや、やっぱりコレもミステリー作家・松本清張さまでございました。


鉢植えを買う女』は、1961年に発表された短編集の中のほんの一編。

こんな短編でさえ、その昔から何度も映像化されているのだという。(『鉢植えを買う女』は、コレを入れて4度目のドラマ化である)



思えば、この日本で、古今東西『ミステリー作家ナンバー1』を選ぶとするなら皆、誰を挙げるんだろうか?


江戸川乱歩?横溝正史?

赤川次郎?西村京太郎?山村美紗?

それとも最近の作家じゃ東野圭吾なのか?


映像化するクリエーターたちは、もはやその答えを、とっくに出している。


この日本では、松本清張こそが、不動の『ナンバー1』なのだ。



たとえ、名探偵などのシリーズ・キャラクターを持たなくても問題なし。


長編、短編の原作関係なく、コレだけ多くの作品が、半世紀以上前から〜現在に至るまで、何度も何度も映像化されては、その都度、話題になる。

しかも、それらのほとんどが高視聴率を叩き出してる。


時代が移り変わっても、松本清張の作品だけは色褪せる事がない。

常にどの時代でも求められているのだから。



俳優や女優たちにしても、松本清張の原作ドラマに出演するともなると、他のドラマとはまるで普通とは意気込みが違うし、最初っから襟を正すような気構えである。


特に女優たちの方が、そんな想いが格別に強いように思える。


「この作品が女優としての真価をとわれる!」とか、

「これが成功すれば女優として一歩前に抜きん出る事ができる!」

なんてのをビンビンと感じさせてくる。(最近じゃ米倉涼子武井咲なんてのが、それに当てはまるだろうか)


表向きには人当たりが良かったり強気の仮面を被っていても、裏ではドロドロしたモノや弱さを抱えていたりして、苦悩している男と女。


そんな人物たちが間近にいて、知り合ってしまうと、どうなってしまうのか?


松本清張の小説には、大がかりなトリックは無くても、そんな男女の《化学反応》的な面白さがある。


それを皆が分かっているのだ。




楢江はあれ以来、杉浦の事が気になってどうしようもない様子。

しまいには、用もないのに会計課に行っては杉浦の姿をちょくちょく探してしまう日々。


そうして、借金を返しに楢江の家を訪ねてきた杉浦に誘われ、拒まれず、とうとう関係を結んでしまうのだ。(「嫌よ嫌よも好きのうち」を地でいく楢江)



でも、その日から楢江の気持ちは180℃反転。


顧客名簿からは杉浦の名前は消されて、すっかり杉浦の彼女気分。

いきなり「淳ちゃーん♥」になってしまうのだ。(この変わり様よ(笑))


杉浦の為に尽くしはじめ、オシャレをしはじめ、ケチケチした焼きそば弁当をヤメて、多少の贅沢(会社の社員食堂で昼食)をしたりもする楢江さん。


そんな楢江に水を差すような事を言って近づいてくるのが、イヤな食堂の賄いババァ(泉ピン子)。


「あんた、あの男と付き合ってるのかい?あの男ギャンブルだけでなく、若い女にも金を注ぎ込んでいるって噂だよ」(要らぬことを)


「そんな …… 」


幸せの絶頂から、いきなり奈落へ真っ逆さま。

今度はドス黒い疑惑と嫉妬心に支配される楢江。



これぞ不可思議な男女の《化学反応》。

当然、この先、楢江と杉浦には悲惨な末路が待っているのである ……



暇な時間に面白いドラマや映画を探すなら、松本清張を頭の隅に入れておくのもいいかもしれない。

なんせ、ハズレ無し。


このドラマも印象深く残っている一編なのでございます。星☆☆☆☆。

(それにしても、泉ピン子は最後までイヤなババァだ(笑))


2022年8月2日火曜日

ドラマ 「仮面法廷」

 1987年  10月(土曜ワイド劇場より)




『玉木造(いたる)』(露口茂)という男は、どこまでもいっても ツイてない男


妻をめとり、一人息子が誕生するも、その妻は呆気なく亡くなってしまう。


そうして、しばらくして、やっと後妻に迎えいれた『美樹』(岡江久美子)と、親子3人で幸せな生活を手に入れようとするのだが ……


今度は、その息子が海水浴場で溺れ死んでしまうという大災難。


駆けつけた遺体安置所で、死んだ息子と対面した玉木は嗚咽の涙を流す。



そうして、一緒に海水浴場に行った妻の美樹に八つ当たりしはじめた玉木。(まぁ、気持ちは分かるんだけどね)

とうとう悲しみに任せて、トンデモない事を玉木は口走ってしまう。


「お前が《本当の母親じゃない》からだ!《本当の母親じゃない》から注意が足りなかったんだ!!」(アチャー)


一度相手に放った言葉は、もう取り返しがつかないもの。


二人の溝は大きくなり、案の定、しばらくすると、あっさり離婚してしまった。



それから1年後 ……


前の不動産会社まで辞めて心機一転!

玉木は、『田川』(名古屋章(なごや あきら))という男と組んで、共同経営で会社を起ち上げていた。


『田川土地住宅』という会社では、社長はもちろん田川で、玉木の肩書きは専務である。


田川土地住宅では、大きな仕事が舞い込んでいた。

上村卓という金持ちの(ボンボン)息子が厚木にある土地を売りたいと申し出てきたのだ。


厚木にある膨大な土地1000坪を、わずか坪単価100万円という安さで売りたいというのだから、買う側にとっては、こんなに幸条件はない。


すぐさま、大会社の社長である『金村辰之助』という買い主が見つかり、契約の日を向かえたのだった。


事務所で、玉木は金村の相手をしながら売り主である上村卓が来るのを待っていたのだが …… 待てど暮らせど上村卓はいっこうに現れない。


やっと事務所に現れたのは、社長の田川。


「売り主の上村卓がまだ来ないんですよ」

玉木が田川にこっそり耳打ちするも、田川の方は、まるでお気楽な様子。


「大丈夫だ!もう契約を済ませてしまおう。なぁーに、上村卓の奥さんからこうして権利証と実印を預ってきてるんだから。ハハハ!」


「そんな …… 本人不在で契約をするなんて …… 」

生真面目な玉木はどうも納得し難かったが、田川の強引さに押し切られて、金村との契約は、しこりを残しながらも、なんとかかんとか終わった。そして後日、上村卓の口座には土地代金の10億円の小切手が振り込まれたのだった。


こうして、この仕事は無事に済んだはずだった ……… のだが ………


「コレはいったいどういう事なんだぁーー!、あんたたちを訴えてやる!!」


それから15日して、『上村卓』(京本政樹)と、その父親である『上村米蔵』(梅津栄)が、血相を変えて事務所に怒鳴りこんできたのだ。


厚木の土地を勝手に売り買いされたと言って、上村親子は、もうカンカンに怒りまくっている!


「そんな …… だって卓さんの奥さんって人が …… 」


田川が言い訳しようものなら、上村米蔵がピシャリ!と言い放つ。

「息子はまだ学生だし、結婚なんかしとらん!」

権利証も実印も、全くの偽造だったのだ。



「そんな …… 田川さん、その女ってどんな人だったんですか?」

玉木も会ったことのない謎の女との交渉は、全て田川一人で行っていたのだ。


「どんなって …… 黒い髪を肩で切りそろえて、和服を着て、サングラスをかけた …… 」

「とにかく、その女に電話を!」


かけた電話は単なるコール・センターの秘書サービスで、既に契約をきられていた。

小切手の方は、とっくに現金化されて引き落とされた後だった。



巧妙な手口の詐欺事件 …… 


上村親子をなんとか一旦なだめて返した後、田川と玉木は『大登(おおのぼり)弁護士』(鈴木瑞穂(みずほ))に相談することにした。



大登弁護士は、「あなた方も被害者だ。なんとか力になろう」と、快く引き受けてくれた。



そうして大登邸を後にしようとした時、帰り際、玉木は別れた妻『美樹』の姿を見つけて驚く。

なんと! 美樹は大登弁護士の《情婦》になっていて、同じ邸宅に住んでいたのだった!(ガ~ン!(*﹏*;))


もう、動揺を隠せない玉木。

だが、それも束の間、今度は大登弁護士が他殺死体で発見された。(まぁ、次から次に)




もちろん、第一容疑者は、情婦だった美樹。


しかも大登弁護士は殺される数日前、婚姻届を提出したばかりだったのだ。



「奥さん、あんたがやったのかね?」

警察の尋問にも、なぜか?美樹は落ち着きはらった様子であっさり自白した。

「 ……… 私が殺しました」



(違う …… 美樹が殺したんじゃない!!)


別れても未練があるのか ……… 玉木は頑なに美樹の無実を信じていた。



そうして、玉木は偶然知り合った女弁護士『児島夏子』(岡田茉莉子)に、美樹の弁護と詐欺事件の解決を依頼をするのだが ………




ここまでで、ドラマの冒頭30分足らず。


とにかく「これでもか!これでもか!」というくらい主人公である『玉木』(露口茂)には、次から次に災難が降り掛かってくる。(初めに書いたように本当に《ツイてない男》なのだ、玉木という男は)



原作は『赤かぶ検事奮戦記』などのシリーズで有名な作家・和久峻三(わく しゅんぞう)氏。


この『仮面法廷』は江戸川乱歩賞を受賞し、弁護士だった作者が、小説家に転身するきっかけにもなった記念碑的な作品なのだという。



たまたま、今回視聴できた、この『仮面法廷』だったが、原作を読んでないせいもあるだろうが、この先読み出来ないような物語に「こんなの、どうやって決着をつけるのか?」とハラハラしどおし。


結末まで、全く予測出来ませんでした。(名古屋章さんの役は「何となく怪しい」と疑っていたけど …… それでも、ソレの上をいくような(ビックリ)驚く結末が待っている)




それにしても、観終わってみると、この登場人物たちは、皆どこかな人たちばかりだ。



岡江久美子さん演じる美樹という女性も、後妻業におさまったかと思えば、すぐに離婚して、即、弁護士の愛人におさまるなんて。(変わり身の早いことよ、たった1年足らずで。それにしても、どんなツテを使ったのか?(笑))



梅津栄から、イケメンの京本政樹のような息子が産まれるとは。(どんなDNAの突然変異があったの?(笑))



名古屋章さん演じる田川なんて、いくら離婚して、長年独り身とはいえ、「そっち方面にいく?」って驚きだ。(観てない人には、何のこっちゃ分からないだろうが、重要な※ネタバレになるので、ここはボカシておく)



鈴木瑞穂さん演じる大登弁護士も、70過ぎまで独り身でいて、いきなり現れた娘ほどの歳の差がある岡江久美子にとち狂うのは、ちょいと笑っちゃうかも。(殺されてしまうのは、ちと可哀想)




こうなると、一番マトモなのは、女弁護士の岡田茉莉子さんだけなのかも。




とにかく、主人公の露口茂さん演じる玉木が、一番《変》だ。



不動産会社の専務なのに、警察(平泉成)や弁護士を差し置いて、一人だけ抜群の推理力を発揮する。(全く《ツイてない男》なのに、この、いきなりの頭脳明晰さは何なんだ!いったい!(笑))



演じるのが『太陽にほえろ!』の山さんだからなのか、はたまた『シャーロック・ホームズ』だからなのか ……



最後まで観れたのも、露口茂さんの好演があったからこそ。



それに、


謎のサングラスの女は、いったい誰なのか?!


この最大の謎を縦軸に、全てのパズルがピタッ!とハマって分かった時の不思議な感動。

「オオッ、こんな話だったのか …… 」(これぞ、本格推理小説の醍醐味)



こんな俳優人たちと見事なストーリー展開に惹き込まれて、久しぶりに面白いドラマでございました。(そのうち原作の方も読んでみようかしらん)




※尚、タイトルが『仮面法廷』なのに、裁判所の法廷シーンなんてのは、一切無かった。


なんでだろ?

そこだけ、ちょいと気になってしまった部分でもある。