1982年 1月。
『川上克次』(近藤正臣)は、銀行員務め。
明るい性格の妻『保子(やすこ)』(生田悦子)と結婚しているのだが、この保子が大金持ちの一人娘なのである。
二人は、保子の両親が住んでいる広い敷地内に家を建てて、本宅としょっちゅう行き来。
間借りするようなカタチで住んでいるのだ。(まぁ、克次としちゃ、完全に『サザエさん』のマスオさん状態である)
保子には、多少お金にだらしない兄もいたりして(カツオか?(笑))、それもあってか、両親は克次に信頼をよせている。
「克次くんはしっかりしてるなぁ~」
倹約家で仕事も真面目。書道が趣味なんていう克次は、なにかと褒めちぎられているのだ。
でも ……… 世の中、そんな品行方正な真人間がいるのか?(ムムッ)
克次には大きな《秘密》があったのだ!
銀行員という立場を利用して、顧客の預金を郵便局の口座に振り込んでは、その莫大な預金につく利息でお金を増やしていく。(いかにもバブル期のやり方だ。今や銀行も郵便局も利息なんてのは「屁!」でもない時代ですもんね)
それと並行して、土曜の昼になれば、《女》のアパートを訪ねていく。
多少の小遣いを与えながら、バーのホステス『文子』(風吹ジュン)と真っ昼間からの逢瀬、肉体関係。
そう、克次は《愛人》を囲っていたのだった!
「ねぇ〜、あんた〜、たまには店にも顔を出してよね。あたし売り上げが上がらないと困るんだからねぇ~」
「あ〜、そのうち行くよ」
こんな会話をしながらも克次は頭の隅で別の事を考えている。
銀行では来月、克次に《転勤》の話が出ているのだ。
いわゆる出世の為の《栄転》なのである。
(そうなれば、この女ともオサラバ。でも、すんなり別れてくれればいいんだが …… )
こんな克次の考えを女の勘でなんとなく察知したのか ……
文子は克次の銀行に電話をかけてきて、
「あたし、貰うもの貰わないと絶対に別れないからね。100万円頂くわ!」と逆に脅迫してきたのだった。(エスパーか?(笑))
それからも「金をよこせ!金をよこせ!」と執拗に克次を追い回してくる文子。
そんな文子に辟易しながら、たまたま目に入った《書道教室》の看板に「俺、ここに用事があるから …… 」とアタフタと逃げ込んでいく克次。(文子は「ハァ?書道教室?」ってな具合である)
こうして、成り行きで、浮かない顔の未亡人『勝村久子』(加藤治子)に必死に頼み込んで、書道を習うことになってしまった克次。
真面目に指導を受けて通う日々が始まるのだが ……
でも、この書道教室はどこか オカシイぞ?!
生徒は克次一人だけで、いつも久子とのマンツーマン授業。
オマケに、近所の古本屋の女主人(池波志乃)が中年男を連れ立ってきては、見つからないように二階の階段を駆け上がって、そそくさと消えていく。
他にも男女のアベックたちが来ては同じようにして。
外には毎日、クリーニング店の車が停まっているし ……… (女の一人住まいで、こんなに大量に洗濯物が普通でるのか?)
もしかして、ココは、書道教室とは名ばかりで、モグリの《連れ込み宿》なんじゃないのか?!
こんな変な勘繰りをしてしまう克次。
その間も、愛人文子の要求は更にエスカレートしていき、ドンドン手に負えなくなってくる始末。
一度は手切れ金50万円で承知したのに、克次の通帳に貯まっている1000万円以上の預金口座を見てしまい(ビックリ)驚愕。更に欲をかきはじめる。
「アンタ金持ちじゃん!こんなはした金じゃ納得できないわ!絶対に 500万円以上 頂くわよ!」
「これは顧客の金で、銀行に戻さなきゃならない金なんだ!無理だよ!」
仕方なくカラクリを話してもみても、文子はギャンギャンわめくばかり。全く納得する様子じゃない。
それどころか、銀行に突然現われてみたり、自宅にまで押しかけてきては、克次をハラハラさせてしまう。
(こうなったら …… あの女を殺すしかない …… でも、どうやって ……… ?)
こんな考えを克次がめぐらしていると、ある日、トンデモない事件がおこった。
あの、古本屋の女主人(池波志乃)が、湖で《絞殺死体》として発見されたのだ。
どうも、警察は遺体現場は湖じゃなく、どこか他の場所で殺害されて運ばれてきたと推理しているようである。
その真実を克次だけが知っている。
きっと、あの古本屋の女主人は 書道教室の二階で殺されたのだ!
おそらく痴情のもつれか、何か。
いつも一緒にいた、あの男が二階で殺した後、『久子』(加藤治子)が偶然発見したのだ。
そうして、クリーニング屋と結託して遺体の後始末を手伝わせたのだ。
モグリで《連れ込み宿》をやってるのがバレないように ……
ならば、この状況を上手く利用できないだろうか?
久子を半端強引に説得しながら、ある晩、克次は愛人の文子を連れ立ってやってきた。
そうして、二階の一室におさまった二人。
「アンタ、よくこんな場所を知ってたわね。他の誰かとよく来てるんじゃないの?」
「ハハッ、なにを馬鹿な事を …… 」
そうして文子が、油断して後ろを向いた時、浴衣の帯を両手に握りしめた克次が、そっと近づいてゆくのだった ………
このドラマの正式名称は『松本清張の書道教授 消えた死体』。
《松本清張の …… 》なんて《ワード》を見つけてしまったら、もう観ないでは済まされますか(笑)。
松本清張熱が復活している今の自分には、もってこいの作品。(たまたま見つけた)
そうして、やっぱりコレも傑作で「面白かったー!」のでした。(毎回言ってるなぁ~)
このドラマ、キャスト選びが、中々どうして、上手くいってると思う。
今や立派な役者さんになられた近藤正臣も、若い頃は、こんなにイケメンでケーハクな役がピッタリなのでした。(褒め言葉)
風吹ジュンも、今では、人の良いお婆ちゃん役なんてのをしてるが、この頃は、まだイケイケ。
しかも、いつも、《夜の女》みたいな役ばかりをしていたのを、すっかり思い出した。(なんたって、このボリューミーな髪型。まるで「欧陽菲菲か?」って感じですもんね(笑))
加藤治子さんの起用だけは、やや意外だった。
こんなサスペンス・ドラマに出ている加藤治子は、とにかく希少かも。(なんたって加藤治子さんといえば『寺内貫太郎一家』や向田邦子作品の常連役者)
「こんな品のある人の書道教室が裏では …… ゴニョゴニョ …… 」
それゆえ、このドラマでも、その加藤治子さんの異色さだけが、一人際立っているのだけどね。
池波志乃さんは、毎度安定の《殺され役》。(この人が、どんなドラマに出ていても「きっと殺されるんだろうなぁ~ …… 」と思っていたら案の定。今回も全く期待を裏切りません(笑))
他にも、明るくサッパリした性格の生田悦子さんも出てれば、後半、刑事役で佐野浅夫さんもご出演。(3代目水戸黄門様ね)
このキャストだけでも、グイグイとドラマの世界へ惹き込まれてしまう。
見事、文子の絞殺に成功して、書道教室をトンズラした克次。
(遺体の処理は久子が上手くやってくれるだろうさ …… )と、たかを括(くく)って。
そうして、予想どおり、文子の遺体は現場から消えて、書道教室は翌日閉店。久子もどこかへと引っ越してしまっていた。
全てが平和になり、元通りの生活。
ただ、克次が知らなかった事が、まだ、あの《書道教室》には隠されていたのだ!
それも克次が予想だにしないような、壮大な《秘密》が ……
運命のイタズラなのか、なんなのか …… 今度は、克次の妻・保子(生田悦子)がソレに巻き込まれてしまい ……
こうなって、あ〜なって ……
こんな風にあらすじを書きながらも、「原作者・松本清張のアタマの中はど~なってるんだろう?」と、ひたすら感心する。
まだ、まだ松本清張の作品は未見がいっぱい。
そんなモノを探して、50代のワタクシは、遅ればせながらスタート・ラインに立ったばかりである。
今回も楽しませて頂きました。星☆☆☆☆☆でございます。
※《追記》
近藤正臣と風吹ジュンの組み合わせ、ごく最近どこかで見た気がしていたが、やっと思い出した!
朝の連続テレビ小説『あさが来た』だった!
ケーハク浮気男と、殺されてしまうようなホステス女が、数十年も経てば仲良しの夫婦(めおと)役。
俳優も女優も続けていれば、こんな稀有な再会もあるのだ。
ちょいと感激したのでした。