2011年 11月。
2011年のテレビ東京で放送したという、このドラマ。
私が観る事ができたのは、2020年代に入ってから、ずっと後の放送だった。
とにかく、このドラマの主人公である余 貴美子(よ きみこ)さんの《やさぐれ感》が半端なく最高(≧▽≦)過ぎて、いつしか食い入るように観てしまったのだ。
『上浜楢江(ならえ)』(余貴美子)は、精密機械メーカーの会社に勤続30年以上勤める独身OL。
もはや《恋》だの《愛》だのに、とっくに見切りもつけている御立派な年齢を迎えている。(52歳だもんね)
それなのに、時たま、田舎から出てきて見合い写真を押し付けてくる母親(佐々木すみ江)には、もうウンザリ。
「どうせ、子持ちの冴えない中年男でしょ」
そう言いながらも、一応写真を見てみると案の定。(ガックリ!やっぱりオッサンじゃん)
こんなイライラ💢する気持ちは、会社でウサばらし。
仕事の出来ないような新人たちに激しく当たり散らす楢江。(上司もそんな楢江が恐いのか、注意すら出来なくてビクビクしてる)
みんなが楢江を嫌っている。
でも、一方では、そんな楢江を《頼りにもしている》という異常な状況。
なぜなら、楢江は会社で《金貸し業》をやっているからなのだ。(非合法で)
昼食は毎日、ステンレスの弁当箱に詰めた《自家製焼きそば》だけ。
そんなモノで辛抱して、30年間楢江はコツコツ金を貯め込んできたのだ。
それを今度はどうにかして、さらに増やしていきたい。
そこで、社員相手に利子付きで《金貸し業》を始めたのだ。
こんな噂は、口コミで、あっという間に社内中に伝わり、今日もある社員が、楢江が一人きりになるタイミングを見計らっては、こっそりと近づいてくる。
「あの〜上浜さん、また少しばかり都合つけてほしいんだけど …… 今度、子供が産まれるもので …… 」
「名刺だして!」
社員が差し出した名刺の裏に、《借りた日付》、《金額》、《返済日》などを書かせる楢江。その目は射抜くように真剣そのものだ。
個人の名前が書かれた名刺は、いわば借用書がわりなのだ。
その名刺を受け取ると、代わりの金を渡す。
「ちゃんと期日には返して貰うわよ!もちろん、それなりの利子も頂くわ!!」
社員は金を受け取ると、楢江に深々と頭を下げていってしまった。
これが今の楢江の信念。
(《金》は決して私を裏切らない!信用できるのは《金》だけよ。それをもっと増やしていって、いつか郊外に私だけの夢の城(アパート)を …… )
そんな、ある日、会計課の『杉浦淳一』(田中哲司)という男がやって来て、楢江から金を借りていった。
ギャンブル狂の杉浦に金を貸したのは初めてだったが、楢江はあくまでも強気。
「ちゃんと返してよ!」
でも、返済当日が来ても杉浦の態度は、まるで呆れたもの。
「明日、本命のレースがあるんだ!今はこれだけしか返せない」
「冗談じゃないわ!約束よ!返してよ!キチンと今すぐ返しなさいよ!!」
ギャンギャン喚き散らす楢江。
そんな楢江を黙らせようと、杉浦は口を塞ぎ、抱き寄せ、慣れた手つきで、スカートの中に手をもぐり込ませてきた。
「何するのよーー!」
すんでのところで、杉浦を振り切り、やっとこさ逃げ去る楢江。
この歳で《強姦》されかかった ……
一周りも歳下の男に ……
楢江にとってはショックな出来事。
でも、この出来事が、諦めかけていた楢江の女性としての《本能》を目覚めさせ、今までの自信を徐々にグラつかせてゆく ………
こういう『楢江』のように、強気の仮面をかぶって《金》にだけ執着している女は、昔も今も存在するし、自分の間近にもいたりする。
『杉浦』のように、ギャンブル癖があり、女ったらしの男も、また然りだ。
どこにでも見かけるような登場人物たち。
そんな人物たちを上手く絡めて、物語に織り込んでいくサマは流石である。
「誰の原作か?」と思いきや、やっぱりコレもミステリー作家・松本清張さまでございました。
『鉢植えを買う女』は、1961年に発表された短編集の中のほんの一編。
こんな短編でさえ、その昔から何度も映像化されているのだという。(『鉢植えを買う女』は、コレを入れて4度目のドラマ化である)
思えば、この日本で、古今東西『ミステリー作家ナンバー1』を選ぶとするなら皆、誰を挙げるんだろうか?
江戸川乱歩?横溝正史?
赤川次郎?西村京太郎?山村美紗?
それとも最近の作家じゃ東野圭吾なのか?
映像化するクリエーターたちは、もはやその答えを、とっくに出している。
この日本では、松本清張こそが、不動の『ナンバー1』なのだ。
たとえ、名探偵などのシリーズ・キャラクターを持たなくても問題なし。
長編、短編の原作関係なく、コレだけ多くの作品が、半世紀以上前から〜現在に至るまで、何度も何度も映像化されては、その都度、話題になる。
しかも、それらのほとんどが高視聴率を叩き出してる。
時代が移り変わっても、松本清張の作品だけは色褪せる事がない。
常にどの時代でも求められているのだから。
俳優や女優たちにしても、松本清張の原作ドラマに出演するともなると、他のドラマとはまるで普通とは意気込みが違うし、最初っから襟を正すような気構えである。
特に女優たちの方が、そんな想いが格別に強いように思える。
「この作品が女優としての真価をとわれる!」とか、
「これが成功すれば女優として一歩前に抜きん出る事ができる!」
なんてのをビンビンと感じさせてくる。(最近じゃ米倉涼子や武井咲なんてのが、それに当てはまるだろうか)
表向きには人当たりが良かったり強気の仮面を被っていても、裏ではドロドロしたモノや弱さを抱えていたりして、苦悩している男と女。
そんな人物たちが間近にいて、知り合ってしまうと、どうなってしまうのか?
松本清張の小説には、大がかりなトリックは無くても、そんな男女の《化学反応》的な面白さがある。
それを皆が分かっているのだ。
楢江はあれ以来、杉浦の事が気になってどうしようもない様子。
しまいには、用もないのに会計課に行っては杉浦の姿をちょくちょく探してしまう日々。
そうして、借金を返しに楢江の家を訪ねてきた杉浦に誘われ、拒まれず、とうとう関係を結んでしまうのだ。(「嫌よ嫌よも好きのうち」を地でいく楢江)
でも、その日から楢江の気持ちは180℃反転。
顧客名簿からは杉浦の名前は消されて、すっかり杉浦の彼女気分。
いきなり「淳ちゃーん♥」になってしまうのだ。(この変わり様よ(笑))
杉浦の為に尽くしはじめ、オシャレをしはじめ、ケチケチした焼きそば弁当をヤメて、多少の贅沢(会社の社員食堂で昼食)をしたりもする楢江さん。
そんな楢江に水を差すような事を言って近づいてくるのが、イヤな食堂の賄いババァ(泉ピン子)。
「あんた、あの男と付き合ってるのかい?あの男ギャンブルだけでなく、若い女にも金を注ぎ込んでいるって噂だよ」(要らぬことを)
「そんな …… 」
幸せの絶頂から、いきなり奈落へ真っ逆さま。
今度はドス黒い疑惑と嫉妬心に支配される楢江。
これぞ不可思議な男女の《化学反応》。
当然、この先、楢江と杉浦には悲惨な末路が待っているのである ……
暇な時間に面白いドラマや映画を探すなら、松本清張を頭の隅に入れておくのもいいかもしれない。
なんせ、ハズレ無し。
このドラマも印象深く残っている一編なのでございます。星☆☆☆☆。
(それにしても、泉ピン子は最後までイヤなババァだ(笑))