1987年 10月(土曜ワイド劇場より)
『玉木造(いたる)』(露口茂)という男は、どこまでもいっても ツイてない男。
妻をめとり、一人息子が誕生するも、その妻は呆気なく亡くなってしまう。
そうして、しばらくして、やっと後妻に迎えいれた『美樹』(岡江久美子)と、親子3人で幸せな生活を手に入れようとするのだが ……
今度は、その息子が海水浴場で溺れ死んでしまうという大災難。
駆けつけた遺体安置所で、死んだ息子と対面した玉木は嗚咽の涙を流す。
そうして、一緒に海水浴場に行った妻の美樹に八つ当たりしはじめた玉木。(まぁ、気持ちは分かるんだけどね)
とうとう悲しみに任せて、トンデモない事を玉木は口走ってしまう。
「お前が《本当の母親じゃない》からだ!《本当の母親じゃない》から注意が足りなかったんだ!!」(アチャー)
一度相手に放った言葉は、もう取り返しがつかないもの。
二人の溝は大きくなり、案の定、しばらくすると、あっさり離婚してしまった。
それから1年後 ……
前の不動産会社まで辞めて心機一転!
玉木は、『田川』(名古屋章(なごや あきら))という男と組んで、共同経営で会社を起ち上げていた。
『田川土地住宅』という会社では、社長はもちろん田川で、玉木の肩書きは専務である。
田川土地住宅では、大きな仕事が舞い込んでいた。
上村卓という金持ちの(ボンボン)息子が厚木にある土地を売りたいと申し出てきたのだ。
厚木にある膨大な土地1000坪を、わずか坪単価100万円という安さで売りたいというのだから、買う側にとっては、こんなに幸条件はない。
すぐさま、大会社の社長である『金村辰之助』という買い主が見つかり、契約の日を向かえたのだった。
事務所で、玉木は金村の相手をしながら売り主である上村卓が来るのを待っていたのだが …… 待てど暮らせど上村卓はいっこうに現れない。
やっと事務所に現れたのは、社長の田川。
「売り主の上村卓がまだ来ないんですよ」
玉木が田川にこっそり耳打ちするも、田川の方は、まるでお気楽な様子。
「大丈夫だ!もう契約を済ませてしまおう。なぁーに、上村卓の奥さんからこうして権利証と実印を預ってきてるんだから。ハハハ!」
「そんな …… 本人不在で契約をするなんて …… 」
生真面目な玉木はどうも納得し難かったが、田川の強引さに押し切られて、金村との契約は、しこりを残しながらも、なんとかかんとか終わった。そして後日、上村卓の口座には土地代金の10億円の小切手が振り込まれたのだった。
こうして、この仕事は無事に済んだはずだった ……… のだが ………
「コレはいったいどういう事なんだぁーー!、あんたたちを訴えてやる!!」
それから15日して、『上村卓』(
京本政樹)と、その父親である『上村米蔵』(
梅津栄)が、血相を変えて事務所に怒鳴りこんできたのだ。
厚木の土地を勝手に売り買いされたと言って、上村親子は、もうカンカンに怒りまくっている!
「そんな …… だって卓さんの奥さんって人が …… 」
田川が言い訳しようものなら、上村米蔵がピシャリ!と言い放つ。
「息子はまだ学生だし、結婚なんかしとらん!」
権利証も実印も、全くの偽造だったのだ。
「そんな …… 田川さん、その女ってどんな人だったんですか?」
玉木も会ったことのない謎の女との交渉は、全て田川一人で行っていたのだ。
「どんなって …… 黒い髪を肩で切りそろえて、和服を着て、サングラスをかけた …… 」
「とにかく、その女に電話を!」
かけた電話は単なるコール・センターの秘書サービスで、既に契約をきられていた。
小切手の方は、とっくに現金化されて引き落とされた後だった。
巧妙な手口の詐欺事件 ……
上村親子をなんとか一旦なだめて返した後、田川と玉木は『大登(おおのぼり)弁護士』(鈴木瑞穂(みずほ))に相談することにした。
大登弁護士は、「あなた方も被害者だ。なんとか力になろう」と、快く引き受けてくれた。
そうして大登邸を後にしようとした時、帰り際、玉木は別れた妻『美樹』の姿を見つけて驚く。
なんと! 美樹は大登弁護士の《情婦》になっていて、同じ邸宅に住んでいたのだった!(ガ~ン!(*﹏*;))
もう、動揺を隠せない玉木。
だが、それも束の間、今度は大登弁護士が他殺死体で発見された。(まぁ、次から次に)
もちろん、第一容疑者は、情婦だった美樹。
しかも大登弁護士は殺される数日前、婚姻届を提出したばかりだったのだ。
「奥さん、あんたがやったのかね?」
警察の尋問にも、なぜか?美樹は落ち着きはらった様子であっさり自白した。
「 ……… 私が殺しました」
(違う …… 美樹が殺したんじゃない!!)
別れても未練があるのか ……… 玉木は頑なに美樹の無実を信じていた。
そうして、玉木は偶然知り合った女弁護士『児島夏子』(岡田茉莉子)に、美樹の弁護と詐欺事件の解決を依頼をするのだが ………
ここまでで、ドラマの冒頭30分足らず。
とにかく「これでもか!これでもか!」というくらい主人公である『玉木』(露口茂)には、次から次に災難が降り掛かってくる。(初めに書いたように本当に《ツイてない男》なのだ、玉木という男は)
原作は『赤かぶ検事奮戦記』などのシリーズで有名な作家・和久峻三(わく しゅんぞう)氏。
この『仮面法廷』は江戸川乱歩賞を受賞し、弁護士だった作者が、小説家に転身するきっかけにもなった記念碑的な作品なのだという。
たまたま、今回視聴できた、この『仮面法廷』だったが、原作を読んでないせいもあるだろうが、この先読み出来ないような物語に「こんなの、どうやって決着をつけるのか?」とハラハラしどおし。
結末まで、全く予測出来ませんでした。(名古屋章さんの役は「何となく怪しい」と疑っていたけど …… それでも、ソレの上をいくような(ビックリ)驚く結末が待っている)
それにしても、観終わってみると、この登場人物たちは、皆どこか変な人たちばかりだ。
岡江久美子さん演じる美樹という女性も、後妻業におさまったかと思えば、すぐに離婚して、即、弁護士の愛人におさまるなんて。(変わり身の早いことよ、たった1年足らずで。それにしても、どんなツテを使ったのか?(笑))
梅津栄から、イケメンの京本政樹のような息子が産まれるとは。(どんなDNAの突然変異があったの?(笑))
名古屋章さん演じる田川なんて、いくら離婚して、長年独り身とはいえ、「そっち方面にいく?」って驚きだ。(観てない人には、何のこっちゃ分からないだろうが、重要な※ネタバレになるので、ここはボカシておく)
鈴木瑞穂さん演じる大登弁護士も、70過ぎまで独り身でいて、いきなり現れた娘ほどの歳の差がある岡江久美子にとち狂うのは、ちょいと笑っちゃうかも。(殺されてしまうのは、ちと可哀想)
こうなると、一番マトモなのは、女弁護士の岡田茉莉子さんだけなのかも。
とにかく、主人公の露口茂さん演じる玉木が、一番《変》だ。
不動産会社の専務なのに、警察(平泉成)や弁護士を差し置いて、一人だけ抜群の推理力を発揮する。(全く《ツイてない男》なのに、この、いきなりの頭脳明晰さは何なんだ!いったい!(笑))
演じるのが『太陽にほえろ!』の山さんだからなのか、はたまた『シャーロック・ホームズ』だからなのか ……
最後まで観れたのも、露口茂さんの好演があったからこそ。
それに、
「謎のサングラスの女は、いったい誰なのか?!」
この最大の謎を縦軸に、全てのパズルがピタッ!とハマって分かった時の不思議な感動。
「オオッ、こんな話だったのか …… 」(これぞ、本格推理小説の醍醐味)
こんな俳優人たちと見事なストーリー展開に惹き込まれて、久しぶりに面白いドラマでございました。(そのうち原作の方も読んでみようかしらん)
※尚、タイトルが『仮面法廷』なのに、裁判所の法廷シーンなんてのは、一切無かった。
なんでだろ?
そこだけ、ちょいと気になってしまった部分でもある。