1971年 アメリカ。
「《ミスティ》をかけてちょうだい……」
ラジオの人気DJ『デイブ』(クリント・イーストウッド)の元に、またもやかかくってくる電話。
何度も、何度も、飽きもせずに同じ曲のリクエスト。
だが、デイブは嫌がりもせずにかけてやった。(朝まで5時間の生番組、時間はたっぷりあるしね)
仕事が終わって馴染みのbarにくると、マスター(何と!ドン・シーゲル監督が友情出演)が、気持ちよくむかえてくれた。
離れたところに、ちょこんと座っている女が一人。
「へ~、なかなか美人じゃないか」
「ありゃ、ダメだね。誰が声をかけても空振りさ」
どうにか『イブリン』(ジェシカ・ウォルター)の気を引こうとするデイブ。
だが、意外にも、イブリンはあっさりデイブの誘いにのってきた。
家まで送っていくと、その場のノリでベッドインした二人。
イブリンこそが、デイブのラジオに『ミスティ』をリクエストしている本人だったのだ。
(偶然か?……まぁ、お互い大人なんだし、一夜限りの後腐れない関係だと割りきって………)
こんなデイブの想いとは逆に、イブリンは火がついたように次の日もやって来た。
何とか、夜イブリンを送り出すデイブだが、二人の話し声に近所のオッサンが、「うるさいぞ!」と文句を言うと、イブリンの顔つきが途端に豹変。
車のクラクションを鳴らして、激しい口調で、
「くたばっちまえ!!」の悪態で罵りはじめた。
デイブは呆気に取られる。
だが、こんなのはまだ、まだ序の口。
すっかりデイブにのぼせたイブリンの暴走は、次の日から、どんどん過熱していくのだった…………。
まだ、《ストーカー》なんて言葉すらなかった時代。
クリント・イーストウッドが監督として最初に選んだのが、この『恐怖のメロディ』だった。
原題は、そのまんま、《 Play Misty for Me 》(『ミスティ』をかけて)だ。
中々、この曲良いので、この爆裂ストーカー女『イブリン』も、音楽の趣味だけは良いっところかな。
どんどんヒート・アップして刃物を振り回す『イブリン』(ジェシカ・ウォルター)も怖いことは怖いが、…………私、この映画をたまに観かえす度に、若き日のイーストウッドの気持ちに心をはせてしまう。
前にも書いたが、イーストウッドは究極のナルシスト。
もちろんカッコイイんだけど……他人が思う以上に、こんな人たちは自己評価の方が格段に高いのだ。(まぁ、俳優って職業は大概、そうだろうと思うけど。)
こんなイーストウッドの性格なので、とうとう「監督をやりたい!」と言い出しても、旧知の友ドン・シーゲルは格別驚きはしなかったと思う。
(やっぱり、そうきたか……)なんて思いながら、「よし!監督登録しようじゃないか!俺も協力しよう!」と男気溢れるドン・シーゲルは1つ返事。
本当にイーストウッドが、息子のように、可愛くて可愛くてしょうがなかったのだ。
そして、イーストウッドも、自分を理解してくれているドン・シーゲルを実の父親のように慕い続ける。
そして、選んだ監督一作目『恐怖のメロディ』。
「よし!みんな、この俺のカッコよさを存分に見てくれ!!」とばかりに、監督ばかりか、主演にまで乗り出したイーストウッド。
もう、冒頭からノリノリである。
海辺の別荘にダンディーに佇む『デイブ』(クリント・イーストウッド)の姿。
オープンカーで、風にふかれながら、海辺の道を疾走する『デイブ』。
そんな姿を撮しながら、(なぁ、俺ってカッコイイだろう?)なんていう、イーストウッドの心の声が聴こえてきそうである。
極悪ストーカー女『イブリン』(ジェシカ・ウォルター)は、登場する度に背筋が寒くなる。
それと対比的に、昔の彼女『トビー』(ドナ・ミルズ)は、優しくて思いやりに溢れている。
やがて、再会したデイブは、イブリンの嫉妬をあおりながらも、トビーとイチャイチャ。(何気に、このドナ・ミルズって女優さん、後に知り合うソンドラ・ロックに似ている気もするが………イーストウッドの好きなタイプなのかな?)
「よし!こうなったら、デイブとトビーが愛しあうシーンが必要だ!」
森で、崖下の滝が流れる水辺で、はじまっちゃう、二人のシーン。
周りからは、「こんなの本当に必要か?」と言われたらしいが、「構うもんか!」と、あくまでも強気のイーストウッド。
こんなモテモテの役、それを自分が出演して、監督して、撮影したフィルムに目をとおしながら編集にも立ちあうのでしょ。
ちょっとドン引き過ぎるくらいナルシストだと思いません?(笑)
それでも、この『恐怖のメロディ』は低予算ながら、高収益を叩きだし、監督イーストウッドとしては、幸先のいいスタートとなる。
イーストウッドも、他人の自分から見ても、もちろんカッコイイと思うんだけど、この人の場合、それがあまりにもあからさまなアピールとしてみえるというか………。
ゆえに、イーストウッドの監督と主演を兼任する映画を……なんか、いつも、ちょっと斜めに観てしまう自分。(主演だけなら、特に気にもならないんだけどね)
そんなナルシストなイーストウッドの監督人生は、これよりはじまったばかり。
ドン・シーゲルが、barのマスター役で、笑って接客しているのを見ると、「こんな奴ほど可愛くて……どうか、可愛がってくださいね。皆さん」と、精一杯フォローしているように見えてならない(笑)。
星☆☆☆。