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2020年9月2日水曜日

映画 「恐怖のメロディ」

1971年 アメリカ。





「《ミスティ》をかけてちょうだい……」


ラジオの人気DJ『デイブ』(クリント・イーストウッド)の元に、またもやかかくってくる電話。


何度も、何度も、飽きもせずに同じ曲のリクエスト。


だが、デイブは嫌がりもせずにかけてやった。(朝まで5時間の生番組、時間はたっぷりあるしね)




仕事が終わって馴染みのbarにくると、マスター(何と!ドン・シーゲル監督が友情出演)が、気持ちよくむかえてくれた。



離れたところに、ちょこんと座っている女が一人。

「へ~、なかなか美人じゃないか」

「ありゃ、ダメだね。誰が声をかけても空振りさ」


どうにか『イブリン』(ジェシカ・ウォルター)の気を引こうとするデイブ。


だが、意外にも、イブリンはあっさりデイブの誘いにのってきた。




家まで送っていくと、その場のノリでベッドインした二人。


イブリンこそが、デイブのラジオに『ミスティ』をリクエストしている本人だったのだ。


(偶然か?……まぁ、お互い大人なんだし、一夜限りの後腐れない関係だと割りきって………)


こんなデイブの想いとは逆に、イブリンは火がついたように次の日もやって来た。



何とか、夜イブリンを送り出すデイブだが、二人の話し声に近所のオッサンが、「うるさいぞ!」と文句を言うと、イブリンの顔つきが途端に豹変。



車のクラクションを鳴らして、激しい口調で、
「くたばっちまえ!!」の悪態で罵りはじめた。


デイブは呆気に取られる。

だが、こんなのはまだ、まだ序の口。


すっかりデイブにのぼせたイブリンの暴走は、次の日から、どんどん過熱していくのだった…………。





まだ、《ストーカー》なんて言葉すらなかった時代。



クリント・イーストウッドが監督として最初に選んだのが、この『恐怖のメロディ』だった。


原題は、そのまんま、《 Play Misty for Me 》(『ミスティ』をかけて)だ。



中々、この曲良いので、この爆裂ストーカー女『イブリン』も、音楽の趣味だけは良いっところかな。



どんどんヒート・アップして刃物を振り回す『イブリン』(ジェシカ・ウォルター)も怖いことは怖いが、…………私、この映画をたまに観かえす度に、若き日のイーストウッドの気持ちに心をはせてしまう。




前にも書いたが、イーストウッドは究極のナルシスト。


もちろんカッコイイんだけど……他人が思う以上に、こんな人たちは自己評価の方が格段に高いのだ。(まぁ、俳優って職業は大概、そうだろうと思うけど。)



こんなイーストウッドの性格なので、とうとう「監督をやりたい!」と言い出しても、旧知の友ドン・シーゲルは格別驚きはしなかったと思う。


(やっぱり、そうきたか……)なんて思いながら、「よし!監督登録しようじゃないか!俺も協力しよう!」と男気溢れるドン・シーゲルは1つ返事。



本当にイーストウッドが、息子のように、可愛くて可愛くてしょうがなかったのだ。

そして、イーストウッドも、自分を理解してくれているドン・シーゲルを実の父親のように慕い続ける。




そして、選んだ監督一作目『恐怖のメロディ』。




「よし!みんな、この俺のカッコよさを存分に見てくれ!!」とばかりに、監督ばかりか、主演にまで乗り出したイーストウッド。



もう、冒頭からノリノリである。



海辺の別荘にダンディーに佇む『デイブ』(クリント・イーストウッド)の姿。

オープンカーで、風にふかれながら、海辺の道を疾走する『デイブ』。



そんな姿を撮しながら、(なぁ、俺ってカッコイイだろう?)なんていう、イーストウッドの心の声が聴こえてきそうである。




極悪ストーカー女『イブリン』(ジェシカ・ウォルター)は、登場する度に背筋が寒くなる。





それと対比的に、昔の彼女『トビー』(ドナ・ミルズ)は、優しくて思いやりに溢れている。


やがて、再会したデイブは、イブリンの嫉妬をあおりながらも、トビーとイチャイチャ。(何気に、このドナ・ミルズって女優さん、後に知り合うソンドラ・ロックに似ている気もするが………イーストウッドの好きなタイプなのかな?)




「よし!こうなったら、デイブとトビーが愛しあうシーンが必要だ!」



森で、崖下の滝が流れる水辺で、はじまっちゃう、二人のシーン。



周りからは、「こんなの本当に必要か?」と言われたらしいが、「構うもんか!」と、あくまでも強気のイーストウッド。




こんなモテモテの役、それを自分が出演して、監督して、撮影したフィルムに目をとおしながら編集にも立ちあうのでしょ。


ちょっとドン引き過ぎるくらいナルシストだと思いません?(笑)




それでも、この『恐怖のメロディ』は低予算ながら、高収益を叩きだし、監督イーストウッドとしては、幸先のいいスタートとなる。



イーストウッドも、他人の自分から見ても、もちろんカッコイイと思うんだけど、この人の場合、それがあまりにもあからさまなアピールとしてみえるというか………。




ゆえに、イーストウッドの監督と主演を兼任する映画を……なんか、いつも、ちょっと斜めに観てしまう自分。(主演だけなら、特に気にもならないんだけどね)




そんなナルシストなイーストウッドの監督人生は、これよりはじまったばかり。




ドン・シーゲルが、barのマスター役で、笑って接客しているのを見ると、「こんな奴ほど可愛くて……どうか、可愛がってくださいね。皆さん」と、精一杯フォローしているように見えてならない(笑)。

星☆☆☆。