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2019年6月22日土曜日

映画 「第十七捕虜収容所」

1953年 アメリカ。



1944年、 ドイツで捕虜として捕らえられた600人以上の外国人たち。


それらの人々は、いくつも並ぶ、簡素な小屋の兵舎に分けられ、数十人ごとに収容されていた。


そして、ここ第十七捕虜収容所、第4兵舎にも………。





三段ベットが、ギュウギュウに敷き詰められた兵舎。

夜半、皆が一斉に目を開き、パッと起き出した。



窓ガラスには、外に明かりがもれないようカーテンで閉じられている。

外をのぞくと、ドイツ兵たちが、交代で、棟の上から、眩しいサーチライトを照らして、見張りを続けている。


そんな厳重な包囲の中、今夜、二人の捕虜が脱走しようとしていた。

「俺たちはいくぜ!」

二人のアメリカ人の捕虜は、床下の板を開けると、何ヵ月もかけて、地中に掘ったトンネルに入り込んだ。

「頑張れよ!」

「成功を祈るぜ!」

皆の声援をうけて、二人は揚々と脱走していった。



だが、しばらくすると、外で響き渡る銃声の嵐。叫び声。

「脱走は失敗したのか?!」

「何故なんだ?!」

兵舎の中の捕虜たちは、外の鳴りやんだ銃声の静けさで、それを確信し、それぞれの思いを抱えながら、床についたのだった………。




次の日、にこやかな顔で、兵舎を見廻りにやってきたドイツ人、『シュルツ軍曹』(シグ・ルーマン)。

「みんな、昨日はグッスリ眠れたかね?、だいぶ騒がしい夜だったがね」


笑顔で言うシュルツに、皆が仏頂面をしている。


「あいつらも、良い奴らだったのに、本当に残念だよ」

寝ている捕虜たちを点呼の為に起こしてまわりながら、シュルツは、おどけたポーズをしてみせた。


「心にもないことを…」

「くたばっちまえ!」


罵声が飛び交うが、シュルツはどこ吹く風だ。



髭面の呑気者『アニマル』(ロバート・ストラウス)は、まだ、グースカ寝ている。


「起きろよアニマル、点呼だぞ!」ひょうきん者の『ハリー』(ハーヴェイ・レンベック)が起こすが、目を開ける様子もない。


ハリーが耳元で囁く……「アニマル様…朝食はスクランブル・エッグ?、それともベーコン?ホットケーキ?」


「また、俺をからかいやがって!」アニマルが飛び起きた。




点呼の為に、大勢の捕虜たちが庭に並べさせられた。


そこへ、ツカツカとやってくる、ここの最高責任者、『シェルバッハ』(オットー・プレミンジャー)。

「今日はクリスマスだが、第4兵舎はストーブの撤去、そして諸君らには、トンネルの埋め立て作業をして頂く!よろしいかな?!」


返事をする者は誰もいなかった。






「いったい何故、地下トンネルの事までバレているんだ?」

朝食時間、皆が疑心暗鬼になって騒いでいる。


「誰かスパイがいるんじゃないのか?」


気の荒い『デューク』(ネヴィル・ブランド)、保安部の『プライス』(ピーター・グレイヴス)の視線が、自然に、ある男に注がれている。



その視線の先には、ストーブの上に、フライパンを乗せて、悠々自適に目玉焼きを焼いている『セフトン』(ウイリアム・ホールデン)がいた。


それをヨダレを垂らしそうになりながら、物欲しそうに見ているアニマルとハリー。


「匂いだけでも嗅がせてくれ!」

「この卵の殻、もらっていいか?」(哀れなアニマルとハリーよ……)



賭け事で勝った品物を、ドイツ人相手に、物々交換したりして、手広く商売をしているセフトン。

影で色々な物を手に入れているセフトンは、仲間内では異様な存在だった。


「相手は敵なんだぞ!恥はないのか?!」なんて言う輩にもセフトンは、キッパリ言う。




「敵だろうが何だろうが、俺はしっかり儲けさせてもらうぜ。商売は商売! こんな所で生き抜くには《 ここ 》が必要よ!」と、頭を指差した。



セフトンがパクつく様子を、皆がイライラしながら見ている。



(もしかして、………こいつがスパイなのか?)


誰も彼もが、そんな疑いの眼差しで、セフトンを見つめるのであった………。






これまた、名匠ビリー・ワイルダー監督の傑作である。(ほんとにワイルダー作品に駄作なし)




この映画では、主人公セフトン(ウイリアム・ホールデン)が疑われるが、



本当の「スパイは誰なのか?」と、

はたして「脱走はうまくいくのか?」の謎とスリルが、並行して描かれていく。



それも、さすがなのだが、この映画に出てくる登場人物たちの魅力的な事よ。




抜け目のない主人公セフトンは、もちろんの事、コメディリリーフのアニマルとハリーの面白さ。


「おい、ロシア女が収容されたぜ!」

「見てみろ、たまんねぇ~!」(『アニマル』っていう名前のとおり性欲と食欲の権化である)


「アニマル、殺されるぞ!」とハリーが止めても、

「おらぁ、死んでもいい!たまんねぇ~!」とアニマル。


この二人の丁々発止のやり取りが、最高におかしくて、面白いのだ。




捕虜収容所の生活を、ただ暗く描かずに、明るく笑いにするなんて、これもビリー・ワイルダーの素晴らしい才能である。





他の出演者も豪華。


『悲しみよこんにちは』、『バニー・レイクは行方不明』などの監督オットー・プレミンジャーが、この作品の為に俳優として出ているなんて、今となっては超貴重。


後年、『スパイ大作戦』のジム・フェルプス役で成功する、若き日の白髪じゃないピーター・グレイヴスも、また珍しい。



そして、ヤッパリ、主役のウイリアム・ホールデンが格好良いねぇ~。


見事、この作品でアカデミー主演男優賞を獲得したのだった。(笑顔でオスカー像を受けとるホールデンの顔ったら、超嬉しそうである)



出演者、ストーリー、演出、どれをとっても最高!


ビリー・ワイルダーの作品にケチをつけたり、文句などを言えようか。


笑わせて、ハラハラさせて……。

満点星☆☆☆☆☆である。