2019年4月28日日曜日

映画 「要塞警察」

1976年 アメリカ。





無法者たちが集まる、カリフォルニア州のアンダーソン地区。



そこでは『グリーン・サンダー』を名乗る少年ギャングたちが、虐殺を繰り返し、その中の6人が警察によって射殺されたばかりだった。



残った残党たちは、警察への憎しみをたぎらせて復讐に燃える。

互いの腕を切りつけて、ボウルにその血を集めて『血の誓い』なる儀式で結束を固めた。(まるでカルト教団)



そんなある日、警部補に昇進した黒人警官『ビショップ』(オースティン・ストーカー)に、無線連絡が入った。


それは上司のコリンズ警部からで、

「今から、《9分署》へ行ってくれたまえ!」

との命令だった。



移転が決まった《9分署》。

残務整理をするために残ったのは数名だけ。

明日には、電気も止まり、引っ越しは完全に完了する。



ビショップに与えられた最初の仕事は、その《9分署》で、ゴードン署長と入れ替わり、一晩だけの署の警備と留守番だった。



(退屈な仕事になりそうだ……)



そう思いながらもビショップは、《9分署》に向けて車を走らせた。






時を同じくして、3人の囚人が移送車に乗せられ、別の刑務所に行くために護送されていた。


囚人には、『ナポレオン』の異名をもつ冷静なウィルソン(ダーウィン・ジョストン)。(囚人なのにハンサム)



黒人のふてぶてしい『ウェルズ』。

病気がちなのか?ずっと咳が止まらない若い『コーデル』である。



そんなコーデルの具合が護送車の中で、どんどん悪くなっていく。



「おい!ここから一番近い警察署はどこなんだ?」

護送官の『ストーカー』が運転する警察官に聞いた。


「アンダーソン地区の《9分署》だと思いますが…」

「そこへ一旦行ってくれ!囚人を医者にみせる!」


ストーカーが言うと、護送車は《9分署》に向けてハンドルをきったのだった。






またまた、時を同じくして、父親と幼い娘が、車を走らせている。

親戚の家に行く途中、道が分からなくなったようだ。



近くに電話ボックスをみつけた父親は、車を停めて電話をかけはじめた。

娘は外で待っていたが、近くにアイスクリーム売りの車を見つけると、父親に小銭を貰い、よろこんで走っていく。




その時、アイスクリーム屋の主人が、近づいてきた車の男たちに、いきなり狙撃された。



殺したのは、あの『グリーン・サンダー』の残党たちである。

アイスクリームを持った幼い娘も巻き添え。


そして、車は走り去っていった。


電話が終わった父親は、アイスクリーム屋の車のそばで倒れている娘の姿を見つける。


「あ~!なんて事だ!!どうして、どうしてこんな事に……」


「く、車の中に銃があ…る…」

アイスクリーム屋はそれだけ言うと絶命した。



父親は、アイスクリーム屋の車のダッシュボードに銃を見つけると、手に取って、すぐさま車を追いかけた。


(絶対に、絶対に殺してやる…)


娘を殺された父親は鬼の形相でハンドルを握りしめ追いかけはじめた。






夕刻、《9分署》に着いたビショップ警部補。

迎えてくれたのは事務員の女性二人、『リー』(ローリー・ジマー)と『ジュリー』だった。


ジュリーは、引っ越し先の電話対応に大わらわ。


もうひとりの女性、リーは物静かで理知的な女性だ。


「ご苦労様、コーヒーでも淹れるわね、ビショップ警部補」

ビショプをねぎらいながら、優しく応対してくれた。


ビショップが来ると、《9分署》のゴードン署長は、(これでお役御免!)とばかりに、さっさと帰っていった。





それから、しばらくすると、さっきの囚人を乗せた護送車が到着する。


「おたくの留置場を使わせてくれ!囚人が急病なんだ!ここへ医者を寄越してくれ!」


突然の来訪に、戸惑うビショップだったが、取り合えず3人の囚人たちを、空の留置場に収監した。


気障なナポレオンは余裕たっぷり。


「タバコはないか?あったらくれよ?」


なんて、ふてぶてしく言うのをビショップ警部は、知らん顔で無視する。


早速、ストーカーたちは、署の受付から、電話をかけはじめていた。

ビショップ、リー、ジュリーの3人は、その成り行きをじっと見ている。






同じ夕刻、やっと殺人犯の車に追い付いた、さっきの娘を殺された父親。

アイスクリーム屋から奪った銃で、相手を見事仕留める事ができた。



(やった!やっつけたぞ!俺はやったんだ!!)



だが、その後ろには、いつの間にか、さらに大量の『グリーン・サンダー』の集団たちが近づいてきた。


多勢に無勢。

父親は、あまりのことに恐怖して、我にかえると、夕刻の暗闇の中を逃げ出した。






そうして夢中で逃げた先が、あの《9分署》。


「た……助けてくれ!」

何とか逃げ込んできた父親。


ビショップたちは、またもやの来訪者に怪訝顔である。





こんな《9分署》に集まった様々な人間たち。


辺りは、すっかり暗闇に包まれはじめる。




そして、その周囲を『グリーン・サンダー』の集団たちが取り囲みはじめた。


警察に憎しみをたぎらせて、それぞれが銃を手に取って……。





スッゴクよく出来た映画。



こんな風に、大人数(縁もゆかりもない人間たち)を一点(9分署)に集め、それぞれの性格や人間模様を見せながらも、1本のアクション映画にまとめているなんて。


全てが計算されているのか…(これを感覚的なものだけで撮れるとは、とても思えない)


頭の良い人なのだ、このジョン・カーペンターという人は!



前回紹介した『真夜中の処刑ゲーム』と同じ籠城ものだが、こちらの方が格が違うというか……登場人物たちの性格や掘りさげ方も、1も2も上である。





この後は、もちろん激しい銃撃戦。




その中で、警部補ビショップは仲間の刑事たちを全て殺されて、刑事として孤立無援になってしまう。(護送してきたストーカーも殺されてしまうので)




そんなビショップがとった行動は、囚人のナポレオンと黒人のウェルズを解放して、一緒に闘うことだった。


「助かるためなら、囚人でも誰でもいい!こっちは猫の手も借りたいくらいなんだから!」


外から蜂の巣状態で狙撃され続ける《9分署》で、ナポレオンとウェルズに銃を渡すと、共に防戦し始める。


そんなビショップを、気障なナポレオンは、


(こいつ、警察のわりには度胸が座っていやがる)と感心しきり。


いつしかビショップと気障なナポレオンの間では、警官と囚人の垣根をこえて、奇妙な友情や連帯感が生まれだすのである。




まぁ、こんなビショップとナポレオンもカッコイイのだが、もちろん女性の方も魅力的。



女性の方も負けていない。


哀れジュリーは殺されてしまうが、あの優しくて、おだやかなリーは、片手を撃たれながらも、ギャング相手に大活躍。



目をそらさずに、冷静に銃で、一人一人仕留めていく姿は、もう一流の殺し屋か、女仕事人である。(これが『真夜中の処刑ゲーム』のバーバラならヒステリーをおこし続け泣き叫ぶだけだったのに……同じ女としても、こちらも格上だ)





ジョン・カーペンターが撮った、この映画も、やはり低予算だった。


でも工夫次第で、こんなに面白くなるのは、やはり職人技。(アメリカでは、残念ながらヒットしなかったが、イギリスではカルト的な大人気だったとか)





近年、この映画もイーサン・ホーク主演で『アサルト13 要塞警察』としてリメイクされている。



それでも、素晴らしい映画になるかは、すべて監督の手腕次第。


ジョン・カーペンターの素晴らしい才能に、ホトホト感心した一編なのでありました。

星☆☆☆☆。