1935年 イギリス。
濡れ衣をきせられ、《間違えられた男》が、無実を証明するために奔走する。
これ以降、何度もこのテーマに挑戦してお家芸とまでなる、ヒッチコック映画では初期の作品。
ゆえに、今観れば、とんでもスパイに、とんでも警察、とツッコミどころ満載のオンパレードなのである。
ロンドンのミュージックホールでは、高らかに演奏がはじまり、大勢の観客が見守る中、舞台上には、ミスター・メモリーが颯爽と現れた。
「どんな事でも記憶しているミスター・メモリーに、どうぞ皆様、質問してください!なんでも完璧に答えます!」
客席から様々な質問が飛び交い、それがおこった年数や出来事を、次々に正確に答えるメモリー氏。
客席からは拍手喝采。
そんな余興を外交官の『リチャード・ハネイ』(ロバート・ドーナット)も楽しんでいた。
だが、そこに突然、響き渡る銃声!
観客たちは、たちまちパニックになり悲鳴や怒声が鳴り響く。
一斉に出口を求めて大勢の人々が押し寄せる。
その混乱の中、ハネイは一人の女性と一緒になった。
「お願い!私をあなたと一緒に連れていって!」
不審に思いながらもハネイは仮住まいのアパートに連れて行った。
「私はアナベラ・スミス。あの銃声は私が、わざと撃ったのよ」
女はイギリスのスパイと名乗った。(突然スパイが現れて、一般人にスパイと正体を明かしてもいいのかな?)
アナベラは、敵の組織が、イギリスの機密を極秘に盗みだし、どうにかして国外に持ち出そうとしている情報をつかんでいた。
だが、敵となる人物が、あの劇場にいて見付かり、命の危険を感じて、騒ぎをおこし、それに乗じて脱出しようとしたらしい。
《39階段》といわれている国家機密。(原題が39階段なんだから、『三十九夜』って邦題は、そもそもおかしいのだ)
それが国外に持ち出されれば、国家的危機となりかねないのだ。
そして、アナベラは敵のエージェントたちに、常につけ狙われていると言う。(女1人にこんな重要で危険な任務をさせるとは。なんて人材不足のイギリス政府なのだ)
こんな夢物語をいきなり聞かされて、ハネイは馬鹿らしく思った。
「馬鹿らしいと思うなら外を見てみなさい、通りに男がいるはずよ」
ハネイが外を見ると、確かに男が二人いてこちらを伺っている。
「振り切れなかったのね……いいわ、あなたも危険に巻き込まれる恐れがある。これから私が言うことをよく聞いてちょうだい!」
敵は警察さえも騙し、頭もきれる。
敵の組織のトップを名乗るのは、名前を幾つも持つ冷酷非情な男だ。
「どこにでもいるような風貌なの。只、1つだけ他の人と違う特徴があるわ」
「何だそれは?」
「右手の小指の先がないのよ」
アナベラは明日、スコットランドで、ある男と会う約束があるらしい、次の手がかりの為に。
(本当の話なんだろうか…スパイやら機密情報やら………彼女が話すのは、全てが何やら現実離れしているお伽噺話のように聞こえる)
居間に彼女を泊めると、ハネイはベッドにもぐり込んだ。
次の日、背中を刺されたアナベラが倒れこんできた。
虫の息で、「早く……逃げて……次はあなたの番よ……」と言うと絶命した。(同じアパートにいたハネイは、まったく無傷で殺されていない。なんでじゃ?敵は馬鹿なのか?よっぽど間抜けなのか?)
ハネイはアナベラが残した地図を見た。
スコットランドで落ち合う場所の目印がしてある。(この地図も、敵は奪わないでアナベラだけ殺して立ち去るとは……敵はよっぽどの阿呆だ)
ハネイはアナベラの代わりに、スコットランドの場所に向かうことにした。
アパートにアナベラの死体はそのままにして。(おい、おい!)
案の定、ハネイはアパートを出て、ものの数分も経たないうちに、すぐに殺人犯として指名手配となった。(状況証拠だけで、すぐに全国に指名手配になるとは…どんな警察?!)
列車に乗り込んだハネイを、すぐに追いかけてきて同じ列車に乗り込む警察。(どんな捜査をすれば、こんなに素早いのか……)
走る列車内を捜索する警察たち。
ハネイは後方から列車を調べまわっている警察の気配を気にしながら、車両を進んでいく。
そして、咄嗟に、独り座っている女性のコンパートメントに入り込んだ。
「何なの?あなた?、いきなり入ってきて?!」
女性『パメラ』(キャロル・ロンバート)は突然の来訪者に驚いた。
その時、通路に警察の気配を感じたハネイは、咄嗟の行動で、パメラに抱きつくと、いきなりキスしてきた。
パメラは振りほどこうにも、強い力で、ハネイに押し倒されて、口も塞がれていて身動きができない。(これ、もう猥褻罪じゃん!)
コンパートメントのガラスには、キスしているカップルのごとく映り、それを覗きこんだ警察は、ニヤニヤしながら次の車両に行ってしまった。
「すまなかった、許してくれ。無実の罪で警察に追われているんだ」(いや、だから、お前、もう猥褻罪だって (笑) )
ハネイの釈明など聞く耳もつものか、怒りと憎しみにたぎらせたパメラの目が睨み付ける。(そりゃ、そうだろうよ)
そんな険悪な雰囲気の中、警察が再び戻ってきた。
警察はパメラに質問した。
「お嬢さん、不審な男を見かけませんでしたか?」
「見たわ、この男よ」パメラは、ためらいもなく隣のハネイを指さした。
ハネイの行動は素早かった。
掴みかかる警察をはねのけると、列車の窓から身を乗り出した。走る列車の外に出ると、壁伝いに隣の客車へと移りこんだ。慌ててドジな警察が追いかける。
警察は列車を止めた。だが、あちこち捜せど、ハネイの姿はどこにもいない。
ハネイは列車が止まった橋の柱の陰に隠れていた。
しばらくすると列車は動きだし、ドジな警察を乗せると、そのまま行ってしまった。
追っ手の警察を撒いたハネイは、目的地のスコットランドの目印の場所『アル・ナ・シェラ』へ向けて再び歩き出す………。
ごらんのように、「これでもか!これでもか!」の観ながらもツッコミを入れたくなるシーンの連続。
さすがに84年前だし無理もないか。
これ以降、このジャンルを撮り続けたヒッチコック恩大も、なんとか不自然さを打開しようと思うのだが………。
工夫して、多少は良くはなっていくものの、やはりヒッチコックがスパイものを撮ると、警察も敵もおマヌケさんになってしまう。(まぁ、それゆえ、頭カラッポにして安心して観れるのだが)
それでも、美男ロバート・ドーナットと美女キャロル・ロンバート、この二人が手錠に繋がれて逃亡する場面なんかは中々面白い。
「なんでこんな事を?!私は無関係ないのよ!」
「ハネイが逃げられないようにです。しばらく我慢してください!」と言って、ハネイとパメラを手錠で繋いでしまう、とんでもない警察。(民間人に、なんて無体なことを。マヌケを通り越して、もはや大馬鹿な警察である)
手錠に繋がられているゆえ、逃げようにも逃げられない『パメラ』(キャロル・ロンバート)。
そんなパメラを引っ張って、警察の隙をみて、逃亡の道連れにしてしまう『ハネイ』(ロバート・ドーナット)は、超強引な男である。
そんな二人が逃亡の末に、安宿に泊まる事になれば、始終くっついたまんまなので(手錠を隠して)、安宿の主人と女将は、「まぁ、なんて愛しあっている二人なのかしら~」と勘違いするのが、超可笑しい。
「ええ、ぼくら片時も離れたくないくらい愛しあっているんですよ」(調子をあわせて演技するハネイ)
そんなハネイに、(コイツ……)と、真横で苦虫をつぶしたような顔をするパメラ嬢。
知らない男に強引に唇を奪われたり、手錠に繋がれたり、パメラ嬢にしたら、まるで今日という日は、「なんて日だ!」って感じだろうか(笑)。
それでも、カッコ良い男、綺麗な女……こんな二人が、手錠に繋がられたままで安宿の部屋へチェックインなんてシチュエーションは、なんか妙にソワソワさせて、萌えてしまう場面である。(ちょっと古い映画でもドキドキもの)
小難しい映画を観るのに疲れた時には、こんな古き時代の映画もいいものですよ。
有り得ない展開に、いちいち「ナンやねん、これ!」と茶化しながら、ご覧あれ。
星☆☆☆。
※でも、原題の39階段の《階段》が、邦題では、なぜ?《夜》に変えられたんだろう? 映画内で頻繁に、国家機密名「《39階段》が…」の言葉が出てくるのに。
「39回、夜を繰り返すってこと?……つまり39日間逃亡の旅を続ける?」
映画の中では、ほんの数日の出来事のように思えるが、どうなんだろう?(これも、サッパリ意味分からん、トンチンカンな邦題である)