その昔、日曜洋画劇場では、淀川長治先生が、興奮して、大絶賛して解説してました。
「まぁ、怖いね、怖いね。皆さん今日は怖い映画『真夜中の処刑ゲーム』をお送りしますよ。」
(何故か?2度繰り返す淀川先生の解説に視聴者は引き込まれたものである。)
「監督はポール・ドノヴァン、ポール・ドノヴァンですよ。この監督は、映画を良く勉強してるねぇ~。偉いねぇ、偉いねぇ~。」
(カナダの無名の監督なんて、誰も知らないのに、何故か引き込まれる名解説)
「男が殺人を、殺人を目撃してアパートに逃げ込むんですよ! 逃げろ!逃げろ! そこには男女5人がいました。でもギャングたちが命を狙おうとやってくる。怖いねぇ、怖いねぇ~。」
(???)
「さぁ、皆さんご覧なさい!また後でお会いしましょうね。」
全然訳の分からないまま、始まる映画。
でも淀川先生の熱意や絶賛する気持ちが、ブラウン菅から、観ているこちら側にも伝わってくるから不思議であった。
1981年、カナダでは、警察官が賃上げストライキにはいり、町という町は無法状態と化していた。
取り締まる警官がいない町では、暴走族たちが暴れまわり、店という店も閉まっている。
町中は異様な静けさで、人っ子一人歩いていない。
だが、夜のゲイバーだけは開いていて、その手の人々が集まり慰めあっていた。(こんな時は家でじっとしてなさいよ (笑) )
そこに、こん棒を握りしめた悪い輩の団体が、突然乗り込んできた。
「俺たちは自警団だ!俺たちが、今夜から法律よ!オ●マども、思い知らせてやる!!」
笑いながら、やりたい放題で暴れまわり、男たちはバーテンダーをいたぶった。
「やめてくれ!やめてくれ!」
叫ぶバーテンに容赦などせず、獣のようにいたぶり続ける男たち。(※警察がストライキ中だからといって、いきなりこんな輩が現れて、好き勝手に暴力や破壊の限りをするなんて……どれだけ治安の悪い町なんだろう…)
やがて、ピクリとも動かなくなったバーテンダー。
裏返すと背中には、割れたグラスが突き刺さり死んでいた。
「お前ら、とんでもない事をしてくれたな……」
暴れまわった男たちの後ろから、ボスらしき男が現れる。
「こうなりゃ、ここにいる全員を口封じの為に始末するしかないな」
冷静なボスのケイブは、サイレンサー式の銃をとりだし、一人一人を縛り上げ、次々と関係のない店にいる客たちを、頭にクッションを押しあてながら殺しはじめた。(なんて極端な!)
だが、その中で一人の男が、縛りをほどき、立ち上がると、夢中で店を飛び出した。
「待てー!みんな追うんだ!!」
ギャングの自警団たちは、逃げた男、ダニエルを追って暗闇の町へ出ていく。
ダニエルは逃げた。必死で無我夢中で。
どこをどう向かって走っているのか……ダニエルはあるアパートに逃げ込んだ。
「助けてくれ!殺される!助けてくれ!!」
必死の形相でドアを叩くと、中から、一人の男が引き入れてくれた。
男の名は『ホレイショ』。
そこには、彼女の『バーバラ』(禁煙中で、いつもイライラ、ヒステリー気味)。
バーバラの弟で盲目の『パトリック』(とにかく目が見えない分、耳の感覚が優れていて、遠くの声や音も察知できる)。
パトリックの友達で、これまた盲目の太った『スティーブ』。
アパートの住人で、サバイバル術に長けた『チェスター』(この人の存在が大きい)の5人がいた。
「おい!開けろ!その男は麻薬中毒患者なんだ!」
外からは、アパートのドアをドンドン叩く音が響きわたる。
「ウソだ!頼む、開けないでくれ!開ければ、みんな殺される!」
ダニエルは、ガタガタ震えている。
ホレイショは、ダニエルを信じた。
ダニエルやバーバラたちを階段の上の部屋に行かせると、ホレイショはゆっくりドアを開けた。
ドアの外では、さっきの無法者たちが、顔首そろえて、立っている。
「さあ、早く引き渡してくれ」
男の一人が中に入ろうとすると、ホレイショが、そっとライフルを向けた。
「人を甘く見るなよ、とっとと消え失せろ!」
男たちは、鼻先にあるライフルに、後ずさりすると、「あとで吠えづらかく事になるからな……礼はたっぷりするぜ!」と言いながら出ていった。
男が出ていくと、急いで鍵をかけるホレイショ。
バーバラは、2階で電話をするが、電話口からは「警察はただいまスト中で…」のアナウンスが、淡々と流れている。
「何なの?いったい、どうすればいいのよ?」
バーバラは、突然の出来事に恐怖し、ヒステリー気味だ。
ギャングたちは、銃をかまえて、アパート全体を取り囲みはじめた。
アパートに籠城したホレイショたちと、ギャングの悪党たちの、命をかけた、長い長い夜が始まったのだった………。
映画は、ほんとに俳優たちも、監督も無名で、低予算のB級的な雰囲気プンプンである。(ゲイってだけで、殺されるってのも、あんまり酷すぎる気がする)
でも、ほんとに面白い!
敵の侵入を防ぐ為、ドアに電流を流したり、スプレーで火炎放射器をつくったり、ロケット花火を作って向かいのビルの敵に放ったりと、素人ながらも、様々なアイディアを駆使して、攻防戦を繰り広げる。
現代でも、カルト的な人気は続いていて、それも頷けるのだ。
久方ぶりに観ても、あの頃の時代や記憶が、鮮明によみがえってきた。
(ただ、大騒ぎばかりして、ヒステリーばかり起こすバーバラには辟易するが……)
後、せめて、主役のホレイショだけでも有名どころの俳優さんが、演じていたならだいぶ良かったかもしれない。(少し主人公のキャラの印象弱いかな)
まぁ、淀川先生には、申し訳ないが、面白いんだけど、さすがに星☆☆☆ってところで……。
「いかがでしたか皆さん? 怖かったね、怖かったねぇ~。今日は怖くて良い映画をたっぷりご覧になりましたね? じゃ、またお会いしましょうね。 サヨナラ…サヨナラ…サヨナラ……」
(「サヨナラ」だけは3回言う、淀川長治先生の不思議。今でもこんな声が、聞こえてくるようである)