1976年 日本。
昭和22年……まだまだ、戦争の後の傷跡が生々しい日本。
信州の大財閥にして犬神家の当主、『犬神佐兵衛』(三國連太郎)が、今、まさに死にかけている。
死ぬまで正妻をもたず、それぞれ母親の違う姉妹、『松子』(高峰三枝子)、『竹子』(三条美紀)、『梅子』(草笛光子)(こんな安直な名前は嫌だったろうに)には、悲しむ様子すらない。
「お父様、遺言状は?!」
長女の松子が叫ぶと、佐兵衛はそばにいる弁護士、『古館』(小沢栄太郎)を指差して、そのまま事切れた。
遺言状は、松子の息子、『佐清』(すけきよ)が戦地から復員した後に公開されることなった。
犬神家の顧問弁護士、古館の元で、働く若林は、ただならぬ気配を感じ、金田一耕助に調査を依頼する。
そして、やってきた『金田一耕助』(石坂浩二)。
滞在先の那須ホテルで迎え入れた女中の『はる』(坂口良子)は、眉をひそめる。
金田一が頭をかく度に、落ちる頭のフケに。(汚ねぇ~)
通されたホテルの2階の部屋からは、蒼く広がる那須湖畔が、絶景とばかりに見渡せた。
双眼鏡で、何気に金田一が覗くと、湖の真ん中に、ボートに乗った女性が一人。
だが、何か様子がおかしい……。
「大変だ!ボートが転覆しそうなんだ!」
急いで別のボートを漕いで駆けつけた金田一のそばで、異変に気づいた女性の召し使い、『猿蔵』が、先に湖に飛び込み女性のボートに泳いで追いついていた。
「さぁ、こっちのボートに移りなさい!」
「ありがとうございます…」
びしょ濡れになり、息絶え絶えの女性、『野々宮珠世』(島田陽子)は何とか助け出された。
珠世は、先程亡くなった犬神佐兵衛が、生前お世話になり、恩義がある野々宮神官の孫娘で、現在は犬神家に身を寄せていた。
そんな珠世がなぜ……命を狙われたのか?
ボートの底には故意に空けたような穴があった。
(これも犬神家の遺産相続に関係のある事件だろうか……)
珠世や猿蔵と別れ、那須ホテルに帰ってきた金田一。
そこで女中のはるを探そうとすると、奥から、「ギャアアー!」と叫ぶ、はるの絶叫が聞こえた。
奥の部屋では、金田一と入れ違いにやって来て、帰宅を待っていた若林がいた。
だが、何かの毒をあおって、既に死んでいたのだ。
たちまち、ホテルには警察が大勢駆けつけてきて騒然としはじめた。
若林の死に関係あり!と、決めつける警察の事情聴取に、金田一も徹底的にしぼられた。
疲れはてて、やっと解放されると、そこには古舘の姿が。
「金田一さん、頼みます!若林に代わって事件の捜査をお願いします!」
渡りに船、金田一に断る理由はない。
「いやぁ~、助かるなぁ~。ここの宿代どうしようと考えてたんで」
やがて遺言の公開日。
犬神家の大広間に集められた面々。
そこに古舘弁護士の希望で金田一も同席した。
松子、
竹子夫妻、その息子佐竹(すけたけ)、その妹小夜子、
梅子夫妻、息子の佐智(すけとも)、
そして、犬神佐兵衛の恩人の孫娘、野々宮珠世の姿まである。
重々しい雰囲気の中、「まだ、佐清(すけきよ)さんが来てないわ!」と誰かが騒ぎ立てた。
そこへ、現れた一人の男。
恐ろしいゴムマスクをかぶった男の、突然の出現に、皆が息を止めたのだった……。
もはや、全国民が知っている金田一耕助の『犬神家の一族』である。
今では当たり前だが、公開された当初は、「初めて、原作どおりの袴をはいた金田一が現れた!」と大絶賛された。(それまでは背広姿ばかりのパリッ!とした2枚目風の金田一だった)
この映画が、それ以降、次々と映画化やドラマ化されて、現代まで脈々と続く金田一モノの『型』を作ったと言い切っても過言じゃない。
監督の市川崑の不気味なおどろおどろしい演出もあり、大ヒットし、センセーションを巻き起こす。
そして、次々と、横溝正史の作品が映画化が、されはじめた。
映画化だけに収まらず、ドラマ化、漫画化、果てはパロディーコントなどなど…それぐらいすごい影響を与えた作品だったのだ。
陰惨で、凝りに凝った殺人も人々を震え上がらせたが、
それよりも、あの夢にまででてきそうな、恐ろしく気味の悪いゴムマスク。(演じてるのが、あの、『あしたのジョー』の声優、あおい輝彦)
もう、トラウマものである。
オマケに、あの潰れたような、しゃがれ声。
その声で、
「俺は誓ったんだ!犬神家に復讐してやると!! カ、カ、カッ!!」(笑い声)
なんて、喋りだすのだから、たまったものではありゃしませんがな。
子供の頃、もう恐くて恐くて、なんで、あんなに怖かったのか?(今でも怖いけど)
テレビなんかで、たまに放映された日には、夜、寝床に入って眼をつぶっても脳には残像がちらついて眠れなくて、次の朝は寝不足でフラフラ学校行ってたっけ。
今の子供がみたらヒキツケおこすんじゃなかろうか?
今じゃ、とてもじゃないが放送倫理にひっかかって放映できる代物じゃないはずだ。
それと同時に思い出すのは、よく夏になると、ドリフが、パロディーでやってたコント。
金田一に扮した志村けんが、脅かされて「し…ょ…ー…ち…ょ…ー…さぁぁんーー!」ってビビって、舞台の下から、子供たちが「志村ぁ、うしろ!うしろ!」って叫び続ける。
そのぐらい、この映画は、影響大だった。
あれがいい時代だったのか、悪かったのか………。
極端に恐怖すれば、極端に笑い転げる日々。
あれで感情の振り幅を広げられて成長させられてきたような気もするような……今日この頃なのでございます。
星☆☆☆☆。