2019年11月1日金曜日

映画 「トータル・リコール (1990年版)」

1990年 アメリカ。





『マーズ・アタック』にしろ、『レッド・プラネット』にしろ、アメリカ人ってのは火星にとかく惹かれるらしい。


この『トータル・リコール』もそう。




近未来、植民地化した火星では、空気が薄く、その為に奇形化したミュータントたちが、隅に追いやられて、細々と暮らしていた。



だが、そんな中でも反乱分子たちが結束して声をあげる。


「空気を、もっとよこせ!」と。


火星政府は、そんな反乱分子たちの内乱に警戒しながらも、あらゆる策を高じて応戦していた。




そんな同じ時期の遠く離れた地球。

『ダグラス・クエイド』(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、遠い空を見ながら想いをはせる。


「火星に行きたい!」と。


地球で、地味~に、コツコツと建設作業員として働くクエイド。


火星になんか、今まで行った事もないのに、ここ最近は毎晩のように火星の夢をみていたからだ。


結婚して8年も一緒に暮らしている美人妻、『ローリー』(シャロン・ストーン)からは、

「はぁ?、何を夢みたいな事、言ってるの?馬鹿馬鹿しい」と一喝されるが……。



それでも、日増しに強くなっていく火星への憧れ。



そんなある日、列車の広告が目にはいったクエイド。


『旅行の記憶を売ります』と描かれた広告は、今、話題のリコール社の宣伝広告だった。


『どんな夢でも、お客様のご希望を叶えます』


夢の中で、旅行をしたように疑似体験をさせてくれるというのだ。



「やめとけ!あんな所に行ったら頭がおかしくなって帰ってくるぞ」

同じ建設現場で働く同僚のハリーは、反対するも、クエイドの火星への憧れは、もう止められない。



(『リコール社』に行ってみよう……それで多少は満足できるかもしれない……)



リコール社を、怖々訪ねたクエイドに係員が、クエイドの希望や女性の好みを聞いてきた。


「そうだな……女性の髪はブルネットがいい」

ブロンド妻ローリーとは、まるで真逆を選択するクエイド。


秘密諜報員として、好みの女性と恋をしながら、火星を探検するコースを選ぶと、係員は、

「それでは、お客様を素晴らしい旅にご案内します」と、頭の両サイドにある、耳に当てる機械を下ろす。


腰かけているリクライニングが倒されて、クエイドに麻酔針が打たれる。


「きっとご満足されるでしょう……」


係員の声が遠くなり、クエイドは深い眠りに堕ちていった…………。




この時期、絶好調のシュワルツェネッガーの映画である。



『ターミネーター』、『コマンドー』、『プレデター』、『ツインズ』……次々、量産されて公開されるシュワルツネッガーの映画。(まったく、いつ、どんなスケジュールで撮影しているんだろう?と思うくらい矢継ぎ早だった。)



でも、そのどれも、これもが大ヒット!



たちまちシュワルツェネッガーは、マネーメイキング・スターとして全米で1位になった。



それにしても、このアーノルド・シュワルツェネッガーの魅力は何だったんだろう。



特別に技巧を凝らした演技をするわけでもないのに、ただ、真面目に演じているだけなのに、どこか『おかしみ』が溢れ漏れてくる。



実は、この『おかしみ』こそが大事で、どんなに演技の習練を積んでも会得できない天性ものなのだ。



生まれついての『スター』にだけ与えられたギフトだと思っている。


本人が無理に意識していなくても、この『おかしみ』が自然に出せる俳優たちは、全ての万人に愛されるのである。




ケーリー・グラントも、そうだったが、この『おかしみ』が出せる俳優たちは何を演じてもいい。



確実にヒットする。

映画を観るお客は、ただ、その俳優会いたさに、劇場に足を運ぶからだ。




嫌われる要素や陰口を叩かれるなんて事も、一切ない。


マスコミも好意的になり、映画関係者たちにも、この『おかしみ』は愛され続ける。


そうして、その力は見えない力となり、本人の知らないところで、上へ上へと勝手に押し上げてくれるのだ。




この『トータル・リコール』でも、もちろん、その『おかしみ』はイキイキしている。



『ダグラス』(シュワルツェネッガー)が、リコール社で、『火星にいた時の記憶』を徐々に思い出した時に、監視役で嘘の妻役を演じていた『ローリー』(シャロン・ストーン)に襲われるシーン。

シュワルツェネッガーの股間を何度も、容赦なく蹴りあげるシャロン・ストーン。



悶絶するシュワルツェネッガーが、可笑しい。




鼻から発信器を取り出しながら、悶絶する表情のシュワルツェネッガーが、『可笑しい』。




火星に着いて、オバサンの変相を解いていく(左右に割れていくオバサンの顔)の中から、ヒョイと現れるシュワルツェネッガーが『可笑しい』。




こんな『可笑しさ』を次々、スクリーンで見せるシュワルツェネッガーの前では、股間キックのシャロン・ストーン以外の登場人物たちは、全て霞んでしまう。


火星の恋人役、『メリーナ』(レイチェル・ティコティン)も凡庸で地味目。(あんまり印象にない)

ミュータントたちも、それはそれで、奇抜で目をひくが、それだけの話。





やはり、「シュワルツェネッガー、ここにあり」の映画なのである。




2012年のリメイク版もあるが、この1990年版には、足元も及ばなかったらしい。



そりゃ、そうだろう。

コリン・ファレルが、たとえ良い役者でも、天性の『おかしみ』を武器に持つシュワルツェネッガーに敵うはずがない。



『トータル・リコール』、もちろん、星☆☆☆☆☆で、あ~る。


※当時、日本でシュワルツェネッガーのやかん体操なるCMが流れていた。

ただ、やかんを振り上げてまわすのだが、こんな『おかしみ』を出せるのもシュワルツェネッガーだけである。


本当に稀有なお人だ。