1947年 イギリス。
大学の講堂で、一人の講師(ジェームズ・メイソン)が、犯罪心理学の講義をしている。
それを学生たちも熱心に聞き入っている。
彼は、ある普通の社会的地位をもつ男が犯罪を犯すまでの話をゆっくり始めた。(全て仮名として)
その男とは……
『マイケル・ジョイス』(ジェームズ・メイソン。一人二役)は高名な脳外科医である。(あらら、お話の中の人物もジェームズ・メイソンさんです)
だが、プライベートはとっくに破綻していて別居中の妻がいる身。
そして別れたくても離婚に応じない妻をもて余す毎日なのである。(厄介な状況)
それでもマイケルは、別に気にしなかった。
忙しく仕事に打ち込む事が、プライベートのゴタゴタを思い出す暇さえ与えなかったのだ。
そう、彼女が現れるまでは……
ある日、彼女、『エマ・ライト』(ロサムンド・ジョン)がマイケルの診療所を訪ねてきた。
ひとり娘のアンが、空襲の時に目を負傷して、失明寸前だったのだ。
「視神経網に異物が入り込んでいて、放置すれば見えなくなります。私が手術をすれば助かりますが…」
マイケルが言うと、エマは蒼白になった。
「主人は地質学者で外国にいるのです。私一人の判断で決められませんわ」
「それでは、ご主人がお帰りになってからでも…」
「主人が帰国するのは7ヶ月後なんです」
その頃には病状が進み、アンは失明している。
しばし考え込んでいたエマは、とうとう決心した。
「先生、よろしくお願いいたします」
数日後、マイケルは視神経の難しい手術を成功させる。(ブラックジャック並みの技術で)
「成功です!」
「ありがとうございます」
手術が成功しても、アンはしばらく入院しなければならない。
マイケルとエマの距離は少しずつ縮まっていった。
アンが無事に退院してからも、二人は逢瀬を重ねていく。
だが、マイケルには別居しているとはいえ妻がいる身。エマにも旦那がいる。
お互いに惹かれあいながらも、不倫の恋は泣く泣く終わりをつげたのだった。(マジメ〜な二人)
それでも、しばらくは放心状態の日々が続くマイケル。
あれから数日たっても、エマの事が頭から離れない。
そんな悶々とした日々を送るマイケルに、突然訃報の知らせがきた。
「死んだ?エマが?!」
エマが自宅の2階の窓から落ちて、亡くなったのだ!
……そんな、エマが死ぬはずがない!
事故?自殺?まさか?!
とりあえず形だけの審問が開かれるという。
マイケルが傍聴するために出かけていくと、まさにその最中であった。
義妹である『ケイト・ハワード』が証言している。
(ケイト… 確か離婚して、兄のやっかいになっている女だ。派手好きな女でエマと正反対の性格。エマにも高圧的だったはずだ ……)
「夕方の6時に邸を訪ねましたが、それ以降、会っていません」
ケイトはキッパリ証言すると席に戻った。
次に一人娘のアンが証言台に呼ばれた。
「夜、自分の部屋に戻った後、それっきり会ってません」
アンは、なんとか証言したが、チラチラとケイトを見ていて、その様子を伺う様子。
(なんだか……おかしい)マイケルは違和感を感じた。
簡単な審問は終わると、皆がぞろぞろ引き上げていく。
それでも、マイケルは何かひっかかるのか ………
しばらくして、ケイトの泊まっているホテルを訊ねた。
フロントの案内係にケイトの事を尋ねてみると、「パーティーの参加者ですか?」と
逆に聞かれてきた。
逆に聞かれてきた。
「パーティー???」マイケルは二の句がつげないくらい驚いた。
エマが亡くなって、たった今、裁判所で審問をしてきたばかりなのに、自分の部屋で大勢の客を招いてパーティーをしている?!
どういう神経なんだ?
とても信じられない?!
そこに行くと確かにケイトがいた。
審問の時と同じ喪服姿で、皆と笑いながら酒を飲んでいる。
ケイトはマイケルの姿を見つけると喜び、色目をつかいながら、しなだれかかってきた。
アンの入院の時に、1度会ったマイケルに気がある様子なのだ。
(この女は私に気がある。そして この女がエマを殺したんじゃなのか?!)
その日から、マイケルはケイトと付き合いながらも証拠を探そうとする。
そうして、調べれば調べるほどケイトへの疑いは深まるばかり。
犯人はこの女だ!!間違いない!!
この女は殺さなくてはならない!
ケイトが殺されたのと同じ方法で!
かくしてマイケルは復讐を計画した。
エマの屋敷の2階にケイトをたくみに誘い込むと、同じように突き落として殺したのである ……
「これで今日の講義は終わりだ、大分長くなったが、また来週に」講師が言うと、学生たちも立ち上がり始めた。
だが、一人の生徒が質問してきた。
「マイケルは、逮捕されたのですか?」
「いや、彼が犯行を行った証拠がなくて、捕まらなかった」
「でも、講師のあなたには告白してきたんですよね?」生徒が言う。
「異常者は喋らずにいられないんだ…」その生徒は、それだけ言うと立ち去っていった。
皆が引き上げて、ガランとした講堂。
講師も帰宅の準備をしだした。
そうして夕刻、走っている車を道端に突然停める。
そこへ、慌てて、一人の女がやってきた。
それは、あの《ケイトの顔》をした女である。
意気揚々と、講師の車に乗り込んでくるケイトの顔の女。
そう、………
講師は、これから実行しようとする自分の計画を、全て名前を変えて、生徒たちに喋ってみせたのである!!
これから実行しようとする犯罪を、あえて過去形をつかって……。
(異常者は喋らずにいられない…)あの生徒の言葉は的を得ていたのだ。
講師=マイケルは、誰かに喋らずにいられなかったのである ………
初めて観た映画である。
ひと言でいうなら、本当にドヨヨ〜ンと落ち込むくらい、暗〜い話なのだ。(映画のラストも、本当に救いがない)
こりゃ、当時、観終わって映画館を出てきた観客たちなんて、皆が、お通夜の表情だったろうよ。(本当に暗い結末です。初めて観る方は、どうかお覚悟を!)
ジェームズ・メイソンの映画は、同じ1947年に、名作『邪魔者は殺せ』が公開されていて、こちらの方が超有名。(これも結末は悲惨だけど)
どちらも救いのないような悲劇を向かえるのだが、それでも自分としては、こちらの方が、ややマシかな。
それにしても、ジェームズ・メイソンが演じる、悲惨な役や非道な役の多さは、何なんだろうか?
自らが希望して出演したのだろうと思うのだが、あまりにも多すぎる。(そんな役ほど、またハマるのは分かるんだけど)
幾分、外斜視がかった目のせいなのか …… どこを見てるのか分からないような目つきは、観てる者の不安を掻き立てる。
太く響く声は、思い込んだら絶対に曲げないような意志の強さを感じさせる。
それらを上手に使いこなして、生前に出演した映画は100本以上だという。(ゲゲッ!こんなに多いの?!)
思えば、今回、この『霧の中の戦慄』の事を書きながら、これまで、自分が取り上げた映画を振り返ってみると、あちこちにジェームズ・メイソンが出てる、出てるわ。
改めてビックリしてしまった。
『シーラ号の謎』、『ザ・パッセージ』、『北北西に進路をとれ』、『夜の訪問者』、『マンディンゴ』…
来る仕事、拒まず主義だったのかしらん?
そして亡くなるまで、なに1つ、賞をとれなかった無冠の名優である。
賞がとれなくても、あちこちでメイソンが残してくれた作品に、これからも触れる機会はたくさんあるだろう。
このブログでも、まだ挙げてない映画も山ほどある事だし……
星は、取り合えず☆☆☆とさせて頂きます。
とにかく《悲惨な役どころといえば、ジェームズ・メイソン》とインプットされた。(今のとこ、悲惨率70%以上)