昨年、巨額の興行収入をうちだし、主演のラミ・マレックがアカデミー賞主演男優賞を受賞したのは、記憶に新しい。
それくらい、この映画は世間一般に認知され、大ヒットした。
だが、この状況を自分は、いささか冷めた目で見ていたような気がする。
皆がご承知のように、ボーカルのフレディ・マーキュリーは、《ゲイ》である。
この、一見すれば性差別になりかねないデリケートな部分を映画ではどう描くのか……これをアカデミー賞にまで持ってくるには、かなり気を付けて扱わなければならない。
だが、まったく、それに触れるということもできないし、見過ごすこともできない部分なのである。
なるほど、映画では、普通の人でもあまり、嫌悪感を抱かせないように、かなりソフトにぼかして描いている。
これならアカデミー賞にノミネートされるのも納得してしまった。
ただ、同時に、この映画を観てみて、アカデミー賞作品賞を受賞できなかった理由も分かってしまった。
クイーンの曲は、若い頃に何枚かアルバムも聴いていたし、実際にフレディ・マーキュリーが歌っているライブDVDも観たことがある。
もちろん有名な曲も知っている。
タイトルの「ボヘミアン・ラプソディ」はもとより、「キラークイーン」、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」、「伝説のチャンピオン」などなど……。
映画の中で、これらの曲が流れると、盛り上がるのも分かる。
それくらい楽曲の力が強いという証拠なのだが……だが、想像してほしい。
この映画の中で、もし、曲を全て省いた場合、この映画がドラマとして面白いのか、どうかを。
何もかもが《予定調和》すぎるのだ!
フレディがバンドメンバーになるときも、少しフレーズを歌えば、即O.K.!
(だれも反対しない)
バンド名をクイーンにして、名前もマーキュリーに改名すると、曲も即、ヒット!
(下積みの苦労なんて全然ありません、あっという間に有名バンド)
メアリー・オースティンと付き合う。
(あっさり恋人になる)
6分の長い曲「ボヘミアン・ラプソディ」完成、ラジオで流すのに周囲は反対。でも強引にラジオで流すとヒットする。
(多少困難もあると思ったが、ラジオに出演したフレディが、鶴の一声で言うと、流すのもアッサリ決まる)
男にキスされる。
(ゲイに目覚める)
メアリーにゲイを告白して別れる。
(メアリーも指輪をはずして、アッサリ婚約解消、まったく恨んだりしません。「だって私は理解のある女ですもの」)
と、まぁ、最後までこんな調子で、映画は進んでいくのだから、たまったもんじゃありません。
何の葛藤もなければ、苦労もなく、トントン拍子で進みながら、間に有名な曲を挟んでいっただけで、映画は完成しているように思えた。
もちろん、ありのままを描けば、ドロドロの人間模様になるのは分かっているし、存命の人間がいる限りは、下手をすれば裁判沙汰になる危険性があるのも分かる。
『誰も不快にならないように、あたらずさわらず描かなくてはならない』、と思いながら、ビクビクして撮っている監督ブライアン・シンガーの声が聞こえてきそうである。
アカデミー賞にも、あんまり毛嫌いされずにノミネートされた!
主演男優賞もなんとか取れた!
『ホッ』と胸を撫で下ろす監督だったでしょうよ。
ただ、結果、ドラマ部分は、全くつまらない映画が完成してしまったのだった。
これが伝記映画の限界ならば、いっそ、クイーンの曲だけを使って、「マンマ・ミーア」のように、全く別の物語を作ったミュージカルにすれば良かったのに。
そうすれば、規制もあまりなく、壮大な、ワクワクするような映画になったのでは?と思えるのだがいかがなものだろうか。
残念ながら、自分の感想は、
クイーンの曲に星☆☆☆☆☆
ドラマ部分には星☆
映画よりも、クイーンのライブDVDを観る方をお勧めしたいと思います。