1975年~1982年。
「ハードボイルドGメン´75熱い心を強い意志でつつんだ人間たち………」
芥川隆行の名調子のナレーションが耳に心地よい。
広大な滑走路を7人の刑事たちが、颯爽と歩いてくる。
主役の黒木警視(丹波哲郎)をセンターに、地面からユラユラともれてくる陽炎のような空気の中を、まるで、テレビを観ている視聴者に、これから挑戦でもするように、ずっと真正面を見ながら、つき進んでくる……。
一人、一人がズームになり、役柄が紹介されると、カメラは途端に、遠く退いた画面になる。
そして、跳び跳ねるような白地のアニメーションロゴ『Gメン´75』が黒い画面に、ひときわ映えるのだ。
OPは、確か、こんな感じだったと思う。
刑事ドラマの全盛期で、見るもの見るものが、画期的で楽しく、視聴者をくぎ付けにしていた、そんな時代。
その時、自分は小学生になったばかりくらいか。
周りの同級生たちは「太陽にほえろ!」などに夢中になっていたが、なぜか?変わり者の自分は『Gメン』を欠かさず観ていたのだった。
凶悪犯が事件をおこして、若い熱血漢の刑事が走りながら追いかけて、毎度毎度、カッコイイ殉職を繰り返す「太陽にほえろ!」は、それはそれで面白かったかもしれないが、自分にはピンとこなかった。
どのエピソードが面白かった?と聞かれても、たまにテレビの特集で流れたりする殉職シーンしか、特に印象にないのである。
ところが、『Gメン』に限っては、小学生の頃の遠い記憶でも、数十年たった今でさえ、覚えているのだから不思議である。
一般の警察組織が追えない事件を追う。
それが『Gメン』であり、警察の中の警察組織でありながら、異種的な役割を担う組織なのだ。
それゆえに、当然、扱う事件も間口が広がり、多種多様。
国内だけに収まらず、海外にまで、またがるようなスケールの大きな事件も頻繁になってくるのである。
そして、やはり印象に残っているのは、草野刑事役の倉田保昭が香港のスター、ヤン・スエと死闘を繰り広げる『香港カラテシリーズ』。
脇が、キチンとしまらないほど、盛り上がった筋肉モリモリの肩や腕。
胸筋なんて、胸にエアバックが入っているんじゃないかくらいの盛り上がり方。
それが、動けば、「キリ!キリッ!」、「バキッ!バキッ!」と変な擬音が響きわたるのである。
顔面もまるで、凶器のようなゴツい顔。
眉が薄くて、顔も筋肉で鍛えられているような、ゴツゴツした顎と頬骨、それに、ぶ厚い唇。
こんな、見た目、恐ろしい人間に出くわしたら、自分なら一目散に逃げるだろうが、倉田保昭は、それに単身ぶつかっていくのだ。(どう見ても勝てる気がしないのだが)
最後は、倉田の空中を舞う、華麗なライダーキックのような技が仕留めたような記憶がある。
バス通学の女子高生が、通り魔に殺されてしまうのだが、その女子高生と、たまたま仲の良かった刑事の藤田美保子が、被害者の遺族に、一方的に責められるなんてお話もあった。
確か、死んだ女子高生の祖父だったと思うが、加藤嘉(よし)(昔から、その老けた見た目でおじいさん役を専門にしている俳優さん)が、物凄い鬼の形相で、唾をとばしながら、藤田美保子に向かって逆恨みの言葉を発していたのを、覚えている。(そのくらい、おっかない、おじいさんとして子供心にインプットされていたのだろう。)
それと、沖縄の事件もあったっけ。
アメリカ人が、沖縄に住む人々を無惨に殺しながらも、裁かれないでいる様子に、心を痛めて、一人苦悩する響圭子刑事(藤田美保子)なんて回のお話も、なんとなく覚えている。
なんか藤田美保子といえば、言われもない事で、いつも責められていたり、追い込まれていたりして可哀想って印象だった。
それまで、単発のゲスト出演が何本かあったが、Gメンが2年目を過ぎた頃、立花警部役でレギュラーを勝ち取る。
見た目、外人みたいな彫りの深い顔に、大人の男のダンディズムを備えた若林豪は、すぐにGメンの中でも、丹波哲郎につぐNo.2の座にのしあがってしまった。
そして、立花警部といえば、島かおり演じる片桐千草や、蟹江敬三演じる望月源治を思い浮かべてしまう。
立花警部は、初登場で妻子を殺されてGメンに加入するのだが、しばらくして同僚の片桐警部の妹、片桐千草と知り合い、お互いに惹かれていくのである。
何人もの女子大生を、手斧で殺しまくる望月源治。
そんな望月源治を追い詰めた片桐警部も、彼の刃によって、やがて殺されてしまう。
同僚の立花警部は、望月の犯行を暴き、やがて一対一の決戦。
望月源治が、草むらから突然現れて、
「立花ぁぁ~!!死ねぇぇ~!!」
と手斧で襲いかかってくる。
やたら、めったら手斧を振りかざしながら、立花めがけて切りつけてくる。
それをすんでのところで、かわしながら手斧を振り払い、血だらけになりながら、なんとか手錠をかける立花。
「チクショー!チクショー!!」逮捕されても望月の狂気は治まらない。
生まれついての殺人者なのだ、この望月源治という男は……。
そして、しばらくすると、またもや、望月源治の回のお話が始まった。
護送車から脱走するのだ。
そして、一緒に脱走した仲間の囚人も、手斧を手に入れると、躊躇なく殴り殺す。(ほんと、怖い、怖い。寒気がするくらい怖いのだ)
「立花ぁぁ~!お前に復讐するまでは、絶対に生き延びてやるぅ~!!」
この『望月源治』のシリーズもしばらく続いた。
望月源治が死んだと思ったら、殺人鬼の兄が、出てきたり。
それが死んだと思ったら、望月源治の生き別れの双子がいて、そいつも殺人鬼だったりと次から次へと、続いた。
もちろん、その双子も演じるのは、若き日の蟹江敬三。
この望月源治の印象が、子供心に強烈で、恐ろしくて、恐ろしくて、夢にまで見たくらいだった。
この望月源治=蟹江敬三の印象が抜けなくて、後年、この人が、善人の役をしていても何か違和感があり、しばらくは馴染めなかった。
断崖絶壁の場所で、恋人の片桐千草役の島かおりの手をひきながら、若林豪が逃げるのだが、それを、手斧をもって殺そうと、狂気の顔で叫びながら、どこまでも追いかけてくる望月源治。
「死ねぇ~!立花ぁぁ~!!」
本当に、こうして書きながらも、あの場面が映像のように、鮮明に脳裏に甦ってくる。
あの時、小学生だった自分が、こうして40年以上たった今でも、ここまで記憶しているという事は、本当に凄いドラマだったのだなぁ、と今更ながら思うのである。
もし、機会があるのならご覧あれ。
あの時代の熱気やトラウマを封じ込めたDVDも、現代においては観ることは可能なのだから。
『Gメン´75』……星☆☆☆☆☆である。