1982年 日本。
白河酒造の当主『白河福太郎』と、その妻『球磨子(くまこ)』(桃井かおり)の乗っていた車が、深夜、猛スピードで海に飛び込んでいった。
からくも球磨子は助かったのだが ……… 夫である福太郎の方は車中に残されて、海から引き揚げた車の中で溺死。
呆気なく死んでいた。
だが、福太郎には3億円の保険金がかけられていて、受取人はもちろん妻の球磨子。
しかも球磨子には前科があって、警察にしてもマスコミにしても、真っ先に球磨子に疑いの目を向けてくる。
記者会見でも、球磨子のスタンド・プレーは止まらない。
目の前の記者(柄本明)には、
「あんたみたいなのを《ペンこ●き》っていうのよ!」
もう、言いたい放題である。(※この言葉、《こじ●》、今じゃ立派な差別用語である。)
葬儀の夜、皆が悲しむ中、そんな球磨子が、ノコノコやって来る。
年老いた福太郎の母(北林谷栄さん)が泣き叫ぶ。
「球磨子さん!!最後だから福太郎の顔をよく見てやってください!」
球磨子は棺の中の夫を覗きこむと、たまらずに、
「オエーーー!」(あんまりやろ(笑))
そんな球磨子の有り様を《毒婦》と書き立ててマスコミは、またもや大騒ぎ。
やがて、とうとう裁判にかけられてしまう球磨子。
だが、弁護士にも逃げられて、やっと引き受けてくれた国選弁護士として『佐原律子』(岩下志麻)が留置場にやってくる。
そんな状況でも、余裕をぶっかまして薄ら笑いを浮かべる『球磨子』(桃井さん)。
「嫌いだなぁ~、あんたの顔ぉ~。あたしさぁ〜弁護士要らないのぉ。一人で闘うわぁ~」
そんな球磨子に全く動じることなく、さらに下げすんだ、氷のような目を向けてくる『佐原律子』(志麻姐さん)。
「死刑になりたければ、そうすれば? あーた、アタシが嫌いなら断れば?!」
※岩下志麻姐さんは、《あなた》を《あーた》と呼ぶのが特徴。
かくして、球磨子と律子は憎み合うのか、それとも共闘する気持ちになったのか …… もはや分からないまま ……
波乱含みの裁判は始まるのである。
この時期、野村芳太郎監督は、次々と松本清張の映画化を成功させていた。
その中で自分が一番好きなのが、この『疑惑』である。
とにかく、この映画は、桃井かおりと岩下志麻が最高!
この映画の、どこか投げやりで下品な感じの桃井かおりは、今でもやってる清水ミチコのモノマネの原点じゃないのかな?
是非、比べて観てほしい(笑)。
岩下志麻も、触れると斬られるようなカミソリみたいなド迫力があった。(今は2人とも丸くなったが)
それに、この法廷に次々と証人として呼ばれる俳優人たちが、これまた豪華絢爛だ。
小沢栄太郎(鑑定人)、
森田健作(目撃者)、
鹿賀丈史(球磨子の情夫)、
三木のり平(桃屋ですよ(笑))
なかでも特に山田五十鈴(バーのマダム)は、圧巻である!
ネチネチ弁護する『律子』(岩下志麻)に、証言台にたったマダム(山田五十鈴)が、キッ!と睨みつけると、畳み掛けるように一気にまくし立てる。
「女が男をたらしこむのは当たり前だろ!
男だってそれを承知で遊びにくるんだよ。
あたしゃねぇ、30年、この商売やってるんだよ!
男と女の事なら、あんたよりもよっぽど泥水飲んでんだよ!
騙すも騙されるも《紙一重》!
そんな事も知らないで、よく弁護士なんてやってられるねぇ〜
うちに帰って、よく亭主に聞いてごらん! そんな調子じゃ逃げられちまうよ!!」
この長台詞を気っぷのいい江戸弁で、スラスラと言ってのけるのだ。
とっくに夫に離婚されていた『佐原律子』(岩下志麻)には、まるで胸をえぐるような御言葉(グサッ!ズキ!ドキッ!)。
これには、ひと言も言い返せず、もうタジタジ(-_-;)である。
事件は、法廷で様々な証人を呼びながら、淡々と進んでいくのだが、中々これといった決め手が見つからない。
だが、志麻姐さんの偶然の運転トラブルが、事件を紐解く鍵となるのである。
今観れば、オモシロ可笑しい場面の連続。(マトモじゃないよ、この裁判劇)
でも、よっぽど日本人に愛されているのか、その後、何度も実写化されております。
でも、桃井さん、岩下姐さんの黄金コンビをおびやかすようなキャスティングは、まだまだ、現れず仕舞いなのである。
星☆☆☆☆☆。